ある日の午後
どうやら貴族社会の間のしきたりでは、敵対していた者同士が、新たなる同盟を結ぶ際に、少々面倒な手順が必要らしいのだ。そして、その手順を実行するために、私が人柱に選ばれた。
「秘匿事項ですが、オーゼスフェスタ大公の指示です。この国では抗えるものはいません。しかし、ノクターンの主である…あなたならば或いは…」
「お気遣いには感謝しますが、表舞台での私は…ただの少女であり、リフィーネお母様の娘です。何も気にする必要はございません。半年後に北西の領地へ旅に出かけるのが、今となった程度の話です」
「あなたが行く必要はないのですよ。イブレオ男爵の三女エルダリスは、既にこの商業都市オハロに向かっています。到着は二週間後ぐらいかしら?」
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リフィーネお母様との昼食会がお開きになると、その足でノクターンの地下屋敷に出向いた。そして政略結婚のことをオール・グランに相談する。
「とは言ったものの、正直、邪魔でしか無いわね」
個人としては弓や魔法の強化と裏ギルドの個人ランクのアップ。そしてギルドのランクアップなど、いくら時間があっても足りないぐらいなのに、余計な少女の面倒まで見るのかと、憂鬱になってしまった。
「それに…お母様たちは、エルダリスの出迎えをどう考えているのでしょうかね?」
どうも話し方からすると、勝手に向かってきているだけで、歓迎する様子もなく、出迎えを向かわせる気もなさそうだ。しかし、それで良いのであろうか?
「他の領地で盗賊にでも襲われれば…全部無かったことになるのでしょうけど、この南の領地内で暗殺などされたりしたら、面倒な火の粉が降り注ぐイメージしか湧かないわよね?」
相談相手のオール・グランは、何も言わずにジッとエミリアの考えがまとまるのを待っていた。
「そうですね。そもそも…オール・グラン。イブレオ男爵とギュレン伯爵の現在の関係状況、イブレオ男爵の素性と思惑、三女エルダリスの人間性の調査はどうなっていますか?」
勿論、そんなこと知っているはずだと、エミリアは、オール・グランの報告を待つ。
「はい。国内の鉱山資源を牛耳るイブレオ男爵の評価は、正直言って、特に目新しくないためか、過小評価であり、正当なものとは言えません。これはギュレン伯爵だけでなく、オーゼスフェスタ派の評価も同様です。しかし、デリマリート家フィルン侯爵の評価は違います。なにせ南の領地は、工業と商業が主流の領地、鉱山資源は欠かせないものです。誰よりも高くイブレオ男爵の安定した鉱石の供給を評価しているのです。
またイブレオ男爵からしてみても、落ち目のギュレン派から、一刻も早く抜け出したいと考えるのは当然で、直接、オーゼスフェスタに鞍替え出来ぬとしても、現在、一番勢いのあるフィルン侯爵と手を結ぶのは、最良の最良と言えましょう。
このことからも想像できますが、イブレオという男は、思慮に欠け、目先の利益を優先する愚かな男であり、周囲への配慮も幼稚で…かなり敵が多いと噂されています。
最後にエルダリスですが、特筆するべき能力はございませんが、温厚で人柄も良く、領地民へ数々の支援活動を率先して行っており、誰からの評価も高い人物でございます」
「立場の危うい…領主か…。ならば、裏からノクターンが支配できそうですね。どうでしょうか? オール・グラン。面白そうじゃない?」
エミリアとオール・グランは、地下屋敷の薄暗いラウンジで、ノクターンが支配する領地と混乱の火種について、思いを馳せるのであった。




