ノクターンの願い
あれから一ヶ月が経っただろうか? 市場に行っても果物屋の前は、決して通らなかった。まだ大丈夫。まだ冒険者でいられる…。まだ三人と一緒にいられるよ…ね?
買い物から帰りると庭の洗濯物が乾いたか確認して家に入る。
ガシャン? 地面に顔が当たるかと思ったら、天井が見える? あれ? ドンっ! 1回転させられたのだろうか? ごほっ!! 背中から床に落ちた…。苦しい息が出来ない。背中の衝撃と首に極太の腕が絡んでいた。
「ほう…。確かに、クラリス様に似ているな…。デファーニア、それでは息が出来んだろう? もう少し腕の力を緩めなさい」
デファーニアと呼ばれた40後半の女性は、「暴れたり騒いだら殺すぞ。それと俺に命令するなチェバリコ」と言って解放し、床に刺さっている両手剣を持ち上げた。
チェバリコ? 剣と盾の騎士のことか? 白髪のオールバックでダンディなおじいさんだ。
「ほら、早くしなよ、誰か来るかもよ?」入り口を見張るのは、若い大人の女性だ。武器は腰にぶら下げた短剣だろう。二刀流の短剣使いかな。
「ライゼーナ、ウィルボーが遅れてくるから、脅かすなよ? 騒がしくなる」
「さて、エミリア様、私の名は、オール・グランと申します」
言葉を発したのは、一般的な商人服なのだが、仕立ての良い嫌味の少ない装飾品で飾られた服を着こなす白髪の老人だった。
「エミリア様の存在は、西の血族ギルドの宴の噂話で知りました。半信半疑で調査を行いましたが、あなた様はノクターンの若きクラリス様の生き写しのようだ」
またクラリス? 正直、聞いてことが無い名前だ。
「クラリスと私の関係は?」
「まぁ、遠い血縁関係です。しかしクラリス様と関係の深い魔導の母が3つ杖の1つ水のバレード様のご子息と偶然にも出会い食したこと。宴での振る舞い。その指輪を受け継いでいること…。すべてが運命としか思えません」
「は、話が見えないのですが?」慎重に言葉を選ぶ。
「はい。エミリア様には、クラリス様の後を引き継いでノクターンを復活させて頂きたい」
「あの…クラリスはどうしたの?」
その質問にオール・グランと名乗った自分の表情が一変した。殺気に満ちた目で「私たちに力が足りぬばかりに、自らを犠牲にしてノクターンを守りました」
「ならば、復活させたところで、またノクターンは潰されるのではなくて?」
「言わせておけば!!」
気がつけば、デファーニアの両手剣がチェバリコの盾に受け止められていた。まったく二人の動作が見えなかった。
「痛いところを突きますな。確かに私たちは何もしなかった。いえ、出来なかったのです。クラリス様のご命令で遠くの地で仕事をしていましたから…。いいえ、わざと遠くへ行かされていたのでしょう…」




