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解体屋 鉄治  作者: MiYA
14/25

大人の事情


… そして、夜が明けた …



ピピピッ…ピピピッ!



「はぁ~朝か… 起きるとするか…」



鉄治は躰を起こそうと掛布団を(メク)ると、玉五郎は隣で



ズッピッ~スーズッピッ~



寝息を立てて寝ていたので、起こさないように静かにベッドから這い出した。


洗面所へ向かい顔を洗い身仕度を整え、玉五郎のトレーを見ると全て綺麗に無くなっていた、鉄治は直ぐに玉五郎のトレーを昨日と同じように、猫缶、キャットフード、水、牛乳を乗せ床に置いた…



鉄治は思った …



もし、俺が仕事で留守の間に玉五郎の水が足りなくなったら可哀想だな …



鉄治は想像した…



仕事を終え家に戻ると、砂漠で行き倒れた旅人のように倒れている玉五郎の姿を…



「たっ…玉五郎ーっ!」



感極まり鉄治はラーメンどんぶりを食器棚から取り出し水を溢れる程入れトレーに乗せた。



どんぶりデカイし、これで玉五郎が行き倒れる事はない! これで解決だ!



そう思った鉄治だが…



別の不安が心を襲う…



あっ… そう言えば玉五郎、便所はどうすんだ ? まぁ…部屋でしちまったら片付ければいいけど…



鉄治は心配し玉五郎を見つめた…


玉五郎は…




煩ェニャン、マッタク…


そう思いながらも …




「俺ハ便所デ済マセテ流セル、便所ノマナ ーハ紳士ノ嗜ミニャン♪ムニャン…」




鉄治に心配させまいと寝言を装い応えた。



「たっ玉五郎… ?」



鉄治が声を掛けたが玉五郎は相変わらず



ズッピッ~スーズッピッ~スー



眠っていたので



「寝言なのか… それにしちゃ的確な返事だな …まぁ… 大丈夫だろう…玉五郎はああ言ったし、確りしてるからなっ」



鉄治は玉五郎の頭を撫で



「玉五郎行ってくるぜ…」



玄関を出て部屋の鍵を閉めた。


玉五郎は耳をピクピク動かし鉄治の足音が遠ざかると、ムックリ起き上がりベッドを抜けだした。



「アイツ本当ハ俺ニ聴コエテイルッテ、知 ッテンジャネェカ?」



そう呟き首を傾げた



「サテ … 出掛ケルカ…」



玉五郎は昨夜、鉄治に背から降ろして貰った 、赤いバンダナを爪先を引っ掛け器用に広げた。



器用に蛇革の首輪を外すと、今度は、ブルド ックが首に付けているようなスタッズ付きの首輪に変えた。


玉五郎は部屋の端から助走をつけ、バルコニーへ向かい走り



「ホップ、ステップ、ニャンプゥ~」



バルコニーの窓の鍵に飛び付いた



カチャッ…



「ニャヒッ!」



鍵開けを成功させニヤッと笑い、それから窓をガラガラと開けバルコニーへ出ると 、きっちり窓を閉めて鉄治を追った。



鉄治はテクテク歩き、何時ものように会社へ向かい、角のコンビニを曲がり会社の前に着くと、冴木の姿が見えたので



「おはよう御座います、今日から宜しくお願いします!」



鉄治が挨拶をすると



「おう!おはよう、宜しくな!」



冴木は笑顔で応えた。




キキキキキッーッ!



「うわっ何?」


「何だぁ?」



鉄治と冴木は車のブレーキ音に驚き、音を鳴らした車を見ると、黒いランクル車が会社の前に止まった。



冴木が車に近づき



「おはようでっす社長、お早い御出勤ですね…」



車の窓がウィーンンと開き



「おはよう!ガハハ!冴木、今日は重機無し、3人で現場行くから、御浄め、御浄め、 依頼主の多田さんも呼んだ…2人とも乗ってくれ…」



玉五郎が鉄虎に着くと、鉄治が黒いランクル車の後ろのドアを開け、冴木と自分の荷物を乗せようとしていた。



アレニャンネ… 余裕、余裕…



玉五郎は息を止め、流石は猫科だと言いたくなるような華麗な走りで車に近づくと玉五郎の姿は既に見えなくなっていた。玉五郎はヒョイッとランクルのバックステップに飛び乗り、悠々と鉄治の横を通り荷物の上に座った。


「んっ? 玉五郎?」



鉄治は気配を察し辺りを見回したが玉五郎は勿論居ない…



「気のせいか… 」



「鉄治、まだか?」



不思議そうに首を傾げる鉄治に、冴木が声を掛けた。



「はっはい、今乗ります!」



鉄治は慌てて後部座席に乗り込んだ。




車は社長がそのまま運転し助手席には冴木 、鉄治は後部座席に座り、そして荷物の上には玉五郎を乗せ多田家へと向かった。



玉五郎は車が走り出すと、息を止めるのを止め呼吸を元に戻した。




ヘヘッ上手クイッタゼ…




ニンマリと笑った。



車が走り出し暫くすると冴木が社長に



「社長、重機持って行かないで浄めの後は何すんですか?まさか手バラシだけなんて洒落た事言わんでしょうね…」



「ガハハ!俺にも解らんっ!ガハハ!」



「はぁ?」


「えっーっ!」



冴木も鉄治も驚き、冴木は社長を二度見した。



「朝の、おはおはニュースの占いでよ、今日は怪我に注意してね♪身の危険を感じたら直ぐに撤収よっ♪って、なっちーなが言 ってたからよ、重機持って行って大事故になんてなったら大変だろうと思ってよ、ガハハ!」



冴木は目を細め …



「なっちーなってのは誰だ… 」



車内は一瞬にして緊迫ムードに変わる…



まっ、不味い … 冴木さんが…キレそう…



鉄治は緊張しゴクリと生唾を飲んだ …



「えっ?冴木、なっちーな知らないの?アナウンサーだ、女子アナ!なかなか愛嬌のある可愛い感じの子でな、早稲田大卒でな 、身長162㎝、体重は秘密♪…」



「おい、その何とかってのプロフィール聞いてんじゃねぇよ… 全部聴かなきゃ駄目なのか… 」



冴木は眉をピクッと動かした



「何とかじゃなく、なっちーなだっ!」



社長はドデカイ声で返した



ぎゃ… 逆ギレ… ?



鉄治はハラハラしながら、冴木の後頭部を見つめた…



冴木はフッと笑い



「その何とかって女子アナも、局の上司と不倫してるか、番組に立つのにスポンサーと枕してんじゃねぇか?まぁ、何でもいいけどよ、 そんな小娘に熱上げんなよ…みっともねぇなぁ…そんなに抱きたきゃ相場聴いてやるぜ…」



まっ、不味い…



鉄治は冷や汗を流しながら、冴木と社長の後頭部をガン見していた…



「はぁ~冴木、お前は何でそうなのかね… お前、所で、まだ何かバイトしてんのか ? お前こそ、もう年なんだから程々にしろよ … バイト辞めたらどうだ?」



社長は溜め息混じりに話した



「嫌だね、バイトは趣味だ、世の為、人の為だ… 」



冴木はそう応えた …



俺、非常に居心地が悪いんですけど …



鉄治は心の中で呟いていた …





…暫し… 沈黙…の…時が…流れ …





麻野の住宅街が見えて来ると、社長は車を道路脇に止め…



「あのな、二人とも聴いてくれ、あの多田 さん家の事調べたんだけどな… 近所の人が言うには、消息不明の依頼人の弟の家族が 住み始めて直ぐから近所付き合いは殆ど無かったらしいんだ、引っ越して来た弟夫婦が菓子を持って近所に挨拶周りをしたらしいんだがな、その菓子が其処らじゃ買えないような高級菓子でな、それ食ったら躰や心の様子が変わったって人が現れてな…」



鉄治はゴクンッと生唾を飲んだ…



「何が、どう変わったんだ 」



冴木は社長にキレ気味で聞いた



社長は頷き話しを続けた …



「躰がとにかくダルくてな、熱が出て丸1日寝込んだそうなんだ… 次の日には常時ヒ ャックリしているみたいになって、その人の家族も心配したんだけど、本人は全く自覚がないんだって言うんだ… ヒャックリしてるとは思ってないって事だ …それでも、 変だってんで旦那さんが… あぁ…菓子食っちまったのは、その家の奥さんなんだがな 、病院に連れて行こうとしたら、突然ピョンピョン跳ね上がったかと思ったら地べたに(カガ)んで、犬みたいに歯剥き出してガルルルッ!って旦那さんを威嚇したって言うんだ … それがな、その家だけじゃなくてよ、あの家では子供達が…あっちの家じ ゃ爺さん婆さんがってんで、この辺りの住人達は騒然としたらしいんだ… それでな、近所の住人は、あの家の住人とは距離を置いていたらしいんだ …」



「で… その変になった奴等は、皆、精神病院行きか? 」



冴木が危ない突っ込みをする…



鉄治の背中に冷や汗が流れる…



冴木の突っ込みが危な過ぎて…

俺が逝ってしまいそうだと鉄治は思っていた…



社長は首を横に振り



「否、それがな… 不思議な話しなんだがな … 麻野街に山伏が現れてな… (ホボ)全員治したって言うんだ…その山伏は憑きものを落とすと言ったらしくてな… 全員無償で治したって言うんだよな… 金を取らなかった ってんだ…」



鉄治は怯えたが、冴木はやはり…



「フッ、で ? 代わりに家の権利書取られたか? それとも… 何処かに集められて壺でも 買わされたか?数百万する壺… 荒手の宗教勧誘か?その略ってのは?治らなかった奴等は?」



「あぁ… 治らなかった人は、その山伏に会おうとしなかった人らしい… 家族を治して貰った人達は皆で、行けば治してくれるからと誘ったんだが行かなかったらしいんだ … その家があの角の家でな… 多田家族とず っと親しくと言うより、言いなりだったと近所の人達は言っていた… 他の治らなかった数人は家族と引っ越して行ったそうだ…その、山伏は3日間だけ麻野街に現れて名も名乗らずに消えたらしい … その後は一度も現れていないとの話しだ… 」




「へぇ~そりゃ英雄だ慈善事業の鏡だな! 金取れって団体からバッシングされるぜ ! 」



かっ…過激過ぎる …



鉄治は冴木の過激な発言に、アホになりそうだと思いながらも聴き耳を立てた…



社長は更に話しを続ける…



「でな…何でこんな話しするかって言うとだな… 鉄治、お前此処で多田さんに会った時よ、ジュース1箱貰っただろ?」



「へっ? あぁ…はいっ、貰いました… 」



「あん時、車イカレて整備工場持って行っただろ、そん時、書類の入った封筒とジ ュ ース 乗せたままでな、整備工場から電話入 って 書類は持って来たんだが、ジュースは皆さんでって俺が置いて来たんだ、そしたら、そのジュース飲んだ整備工場の人達がおかしくなったって電話があってな… 整備工場の社長が、祈祷師呼んで祈祷して貰って、昨日の内に全員治ったらしいけどな、整備工場の社長笑って、鉄虎!お前変な気遣いすんな、俺の工場潰す気か?って言われたぜ 、だからな、食い物、飲み物、贈り物、 絶対に手つけるな!二人とも頼むぜ… 」



鉄虎は真剣な顔をして、冴木と鉄治に忠告をした。



「あぁ、解った… 併し、あの整備工場のタコ社長、災難だったな~ハハッ! たまには 刺激になって髪生えんじゃねぇか?」



さっ、冴木さん… そりゃ同性としてタブーだろう …



「そのうち、髪伸び過ぎてよ、オサゲ髪に万札吊るすんじゃねぇか?ガハハ!何時も上乗せしてボッタクリやがってよ~ガハハ ッ!」



しゃっ、社長まで …



鉄治は、社長も冴木も整備工場のタコと呼ばれる社長を、良く思っていないのだと言う大人の事情を知 った…




話しを終えると社長は、再び車を走らせ多田家の前に車を停めた。




「まだ、来てねぇみたいだから待つか… 」





三人と玉五郎は車の中で、御浄め関係者達の訪れを待った …




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