お泊り、その笑顔は。
その人物を見て、僕はすぐさまドアを叩き閉めようとした。
「待って待って!!なんで閉めようとするの!!!」
ギリギリのところでドアに食らいつき、怨念まみれたゾンビよろしくこじ開けようとしながらその人物は絞り出すように唸った。
「自分の普段の行いに聞いてください。それと人ん家に入り浸るのもいい加減……て、あ、ちょ!!」
ドアを狭間に行われた押し問答の一瞬のスキをついて、彼女は家の中に転がり込んだ。
「ふー……勝った!!」
満足げに額の汗を拭く。
僕は仕方なしに溜息をつく。玄関のドアを閉め、改めてその人に向き直る。
「で、今度は何の用ですか、美人さん」
美人さんは嬉しそうに言うのであった。
「お泊り、しにきたの!!」
◯
ポムと美人さんの関係が露呈したあの一件依頼、彼女は幾度となく家に遊びにくるようになった。
始めの内はまだ良かったが、こう何度も顔を見合わせている(正確にはポムとじゃれている様子を見ている)と、彼女について大体のことが分かってくる。
正直に言うと、彼女は顔は良いが他はあまり褒められたものではない残念系美人なのである。
顔以外は全部ダメ、というと少し語弊があるか。
彼女は勉強はできる。いつ勉強しているか分からないくせに単位は落としてはいないみたいだし、社交性にも優れている。おまけに顔もいいときたもんだから大学では知らない人がいないというレベルの認知度と人気を誇る。
しかしそんなことは今更だ。
問題は彼女の私生活面での態度にある。
学業にステータスを全部振り分けたせいなのか、美人さんは絶望的なまでに自炊能力がない。と、いうか生活スキルがない。
よく生きてこられたと言うほどに一人暮らしに向いていなく、洗濯もできなければ料理もできない。掃除はもちろん、布団の干し方さえ分からない。向いてはいないが、一応は一人暮らしをしているらしく、毎日の食事はどうしているのかと聞いてみるともっぱらコンビニ弁当か外食だそうだ。
大学での顔を表とするならば、僕に見せる裏の顔との違いがひどすぎる。
理由のない自身に満ち溢れ、何事も頑張ればなんとかなると思ってるからことさら厄介なのだ。
そのくせに、大体の場合は面倒臭がりで頑張ろうとすらしない。いっそやらないならやらないでいて欲しいものだが、いらない時に中途半端にやろうとするから、後始末が面倒になる。
ようするに、彼女が僕の家に泊まりに来たといった時、頭に浮かんだのは歓喜でも年頃の女性と過ごす気恥ずかしさでもない。
面倒臭いとしか言いようがないのである。
◯
美人さんはお構いなしにずかずかと入り込んできた。
部屋の真ん中にどかっと座り込んで一息ついている。
最早定位置だ。
と、彼女は顔に少し違和感を浮かべながらきょろきょろと辺りを見回した。
理由は大体分かってる。
「ねぇ」彼女は僕に予想通りの質問を投げかけた。「ポムは?」
それもそのはず。美人さんがくると真っ先に飛びつくのはポムだからだ。
これでも美人さんはポムの前の飼い主で、自身に関しては壊滅的でも、ポムにはしっかりとご飯をあげていたらしく、ポムともかなり仲が良い。
だから、美人が家に訪れるとポムはその気配だけで迎えに出るので、僕も「また来たか」と訪問に備えることができるのである。
しかし今日は様子が違っていた。
と、いうより、ポム自身はこの数日間ずっと様子がおかしい。
「ベランダに出てると思うよ」
とりあえず美人さんの質問に答えて、窓の外を指さす。
そこには、丸い背中をさらに丸めて、じっと空を見上げる白い毛玉の姿があった。
ガラガラ、と窓をあけ、「ポム」と美人さんが呼ぶと、ポムはやっとその存在に気が付いたように大袈裟に美人さんに飛びついた。
いつものように戯れる美人さんとポム。
だけど、僕の目にはどうしてもポムが、嬉しそうな顔を取り繕っているように見えて仕方がなかった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
ポムに一体何がきたのか。それは多分、次回で分かると思います。
どうか次も読んでいただけたらと思います。ぜひ。




