ナンパ撃退
三
そんな日常の中、私の体質が別の形で役立つこともある。
ある日の放課後、花奏とほよりと三人で駅前を歩きながら帰っている時のことだった。
「それでさー、この間駅前に新しくできたケーキ屋さん、すっごい行列だったんだけど……」
「あ、あの……! わ、わたしも、そこのお店、気になってて……いつか、行きたいなって……」
「えっ、じゃあ今から行ってみる!? 青奈も行くでしょ?」
「私は何でもいいよ。メガ盛りのメニューがあるなら付き合う」
そんな他愛のない会話をしながら歩いていると、路地裏から出てきた複数の男たちに行く手を塞がれた。見るからにガラの悪い、筋骨隆々とした屈強そうな男が三人。ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてこちらを見ている。
「おいおい、可愛いJKが三人でこんなとこ歩いてんのかよ。今から暇? 俺らと遊ばない?」
先頭に立っていた男が、馴れ馴れしく花奏の肩に手を伸ばしてきた。
「えっ……ちょっと、やめてください。私たち、今から予定あるんで」
「離してっ……!」
「ひっ……!」
花奏が強気に言い放ち、恐怖のあまり震えるほよりを背中に庇う。
しかし男たちは退くどころか、さらに下品な笑いを深めた。
「いいじゃんかよー、今話してた、ケーキ奢ってやるって。それとももっといいもん食わせてやろうか?」
「ひっ……! か、花奏ちゃん……青奈ちゃん……」
ほよりが私の袖をきつく握りしめ、ガタガタと震えている。
私は、小さくため息をつく。
花奏の前に歩み出た。
「聞こえなかった? 予定があるって言ってるんだけど」
花奏に触れようとした男の手首を、私は〈そっと〉掴んだ。
「あぁ? なんだお前、生意気な……痛えっ!?」
男が凄もうとした瞬間、私はほんの少しだけ、本当にミリ単位の力加減で、男の手首を握り込んだ。人間の骨など、私にとってはポテトチップスよりも脆い。うっかり力を入れすぎれば、手首の骨全てを粉砕してしまう。 相手の骨を砕いてしまわないように、薄皮の卵を割らないようにするほどの細心の注意を払い、神経を集中させて〈手加減〉をする。
「おい、離せよ! 何だこの女、力強え……!」
「触らないでくれるかな。友達が嫌がってる」
手を離すと同時に、男はバランスを崩して後ずさった。
「てめえ、ふざけんな!」
逆上した別の男が、顔面に向かって右の拳を振りかぶってきた。
大振りの拳。
遅い。
常人なら怯むところだろうが、私から見ればスローモーションに等しい。異常発達した眼筋が、動体視力を極限まで高めているのだ。
その拳を左手で軽く払い落とし、同時に男の胸板を人差し指と中指の二本だけで軽く小突いた。
「がはっ……!?」
たったそれだけの衝撃で、男の巨体はボールのように数メートル後方へ吹き飛び、路地裏の壁に激突して崩れ落ちた。もちろん、内臓が破裂しないように力加減を行っている。
「なっ、なんだテメェ!」
仲間が突然倒れたのを見て、もうひとりが怒声を上げて殴りかかってくる。
ほよりと花奏を背後にかばいながら、向かってきた男の腹部に向けて、指先で軽く弾くようなモーションを取った。普通の人間ならデコピン程度の力だが、私の密度と筋力ならそれだけで十分すぎる。
ドスッ、という鈍い音が響き、男は白目を剥いて「あにゃーん……」と奇声を上げながらその場にうずくまった。
内臓を破裂させないよう、表面だけに衝撃を留めるのは神経をすり減らす作業だ。
「ひぃっ!? ば、化け物……!」
残った最後の男が、信じられないものを見る目で私を指差す。
「軽く押しただけだけど。まだやる? 次はもう少し力が入っちゃうかもしれないけど」
「ひぃっ……! ば、化け物っ……! ご、ごめんなさぁぁぁい!!」
男は壁にぶつかった仲間たちを引きずり起こすと、すたこらと逃げていった。全く、普通の人間は簡単に壊れてしまうのだから、手加減のしすぎで逆に疲れる。
私は服の埃を手で払い、振り返る。
「怪我、ない?」
「あ、青奈ぁー! かっこよすぎるよぉー!」
花奏が涙目で私に抱きついてきた。勢いよくぶつかってきた彼女を受け止め、よしよしと頭を撫でる。
「青奈ちゃん……ありがとう……」
震えるほよりに目を配り、
「ほよりは大丈夫だった?」
「う、うん……! 青奈ちゃん、本当に……強くて、素敵だったよ……! わ、わたし、男の人、すっごく怖かったけど……青奈ちゃんがいれば、無敵……だねっ」
「まあ、普通の人間相手なら壊さないように気を使う方が疲れるけどね。じゃあ、早くケーキ屋行こっか。今少し体動かしたから疲れた。花奏、助けてあげたお礼に奢ってくれないかな。ケーキ三つくらい食べないと割に合わないかも。三人いたし」
「あははっ! 青奈なら十個でもいけるっしょ! 分かったよ、今日は私のおごりね!」




