それでも身体はやわらかく……
二
だが、この体質は日常生活でも役に立っている。
例えば体育の授業では、意識して手加減をしているにも関わらず、あらゆる競技で無双している。短距離走を走れば風を置き去りにし、球技をやればボールの空気が破裂しないように気を使うのが一番の難関になるほどだ。
そんな私だが、周囲から最も不思議がられるのが身体の柔らかさだ。あれは体育祭が終わり、更衣室で着替えをしていた時のことだった。
「いやー、今日の青奈もマジで半端なかったね! リレーでごぼう抜きした時のあの走り、ほとんど残像しか見えなかったよ!」
明るく元気な声を放つ親友の枕出花奏が、体操着から制服に着替えながらテンション高くそう言ってきた。
「あ、あんなに速く走れるのに……青奈ちゃん、全然息切れてないし、汗もかいてなくて……本当に、すごい……」
もう一人の親友、コミュ障気味でいつもおどおどしている紫崎ほよりが、感嘆の吐息を漏らしながら同意する。私はブラウスのボタンを留めながら、小さく息を吐いた。
「あれでもだいぶ手加減したんだけどね。全力でトラックを蹴ったら、校庭の土が抉れて跡がクレーターみたいに残っちゃうから」
「出たよ青奈の規格外エピソード! いやほんと、体重百キロ超えてるなんて見た目じゃ全く分かんないよね。こんなにスラッとしててモデルさんみたいなのに。というか、ずっと気になってたんだけどさ……」
花奏がじりじりと距離を詰めてきて、私の胸元に熱い視線を送ってきた。自分で言うのもなんだが、私はかなり胸が大きく、いわゆる巨乳の部類に入るし、服の上からでもその起伏ははっきりと分かる。
「青奈って筋肉の密度四十八倍なんでしょ? ってことは、そのすっごい大きいおっぱいも、やっぱり筋肉の塊でカッチカチなの? 防弾チョッキみたいになってるとか?」
「なってるわけないでしょ。胸は脂肪分の方が多いし」
「ええー? でも土台の大胸筋とかヤバそうじゃん! ねえねえ、ちょっと触ってみてもいい!? 確かめさせてよ!」
「……別に減るもんじゃないし、構わないけど」
「やったあ! ほらほよりちゃんも一緒にもみもみしよう!」
「えっ、あ、わ、わたしはそんな、恐れ多いというか……、青奈ちゃんの、その、神聖な場所に触れるなんて……!」
顔を真っ赤にして両手を振るほよりをよそに、むにっ、と。花奏は後ろから、遠慮なく私の胸を両手で鷲掴みにした。そして、数秒間その感触を確かめるように揉みしだき、目を丸くして叫んだ。
「うわあっ、すっごい柔らかい! ええっ、なんで!? もっとガッチガチの岩とか、硬いゴムまりみたいになってるかと思ったのに、すっごいぷるんぷるんだよ! 指が沈み込んでく!」
「だから言ったでしょ。胸筋で硬いなんてことはないって。普通に柔らかいでしょうが」
「普通っていうか、これ最高級の感触だよ! しっかりした張りと弾力もあるし……うわぁ、めっちゃ気持ちいい……」
うっとりとした顔で揉み続ける花奏。私の体の中には鋼鉄をも上回る強度の筋繊維が詰まっているというのに、この身体は女としての柔らかさを維持しているらしい。私自身、不思議に思うことはあるが、そういう体質なのだから仕方がない。
「ほよりちゃんも早く早く! これ触らないと人生半分損してるよ!」
「え、えええ……。そ、そんなに言うなら……ちょっとだけ……」
花奏に急かされ、ほよりも恐る恐る手を伸ばしてきた。そして、震える指先が私の胸に触れた瞬間、彼女の肩がビクッと跳ねた。
「……ふ、ふぁぁ……」
「どう? すごいでしょ?」
「は、はい……。す、すごく柔らかくて……あったかくて……まるで、つきたてのお餅か、雲を触ってるみたい……。青奈ちゃん、こんなに力が強くてかっこいいのに、こんなに柔らかいなんて……なんだか、反則……」
ほよりは限界まで顔を赤くしながら、それでも手を離そうとせず、優しく感触を確かめ続けていた。自分の特異体質がこんなところで驚かれるのは少し滑稽だが、二人が楽しそうなので放置しておくことにした。親友たちがいちいち驚く反応を見るのは、嫌いじゃない。




