↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の付与術師は静かに暮らしたい ~リンネ小物店のひみつ事情~  作者: 隅乃 けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/65

第55話 旅立ちの朝

秋の朝。

ラウノの街は、いつもと変わらないようでいて、どこか少しだけ特別な空気に包まれていた。


リンネ小物店の前には、一台の馬車が停まっている。

中央騎士団が用意した二頭立ての馬車。

荷台にはリンネの荷物が積まれ、御者が出発の準備を整えていた。


店先ではリンネが何度も荷物を確認している。


「着替え……ある。」

「香油もある。」

「工具も……」


一つひとつ確認しながらも、不安そうに眉を寄せる。


「忘れ物、ないよね……?」


その横でマロが青白い光を揺らしながら元気いっぱいに飛び回っていた。


「おうと! おうと!」

「たのしみ!」

「あるじ、はやく!」


「マロは元気だねぇ……」


リンネは苦笑した。


そこへルークが姿を現す。

制服姿ではなく、旅装束だった。


「準備はできましたか?」


「う、うん。」

「……たぶん。」


その「たぶん」にルークは思わず笑ってしまう。


「まだ心配ですか?」


「だって王都だよ?」


リンネは小さく肩をすくめる。


「私なんかが行って大丈夫なのかなって。」


ルークは静かに答えた。


「だからこそ、お連れするんです。」

「王都にも、リンネさんを必要としている人がいます。」


馬車に乗ろうとした、その時。

旅立ちの知らせは、昨日のうちに街中へ広まっていたらしい。

聞き慣れた声が響くとともに、オルガを先頭に市場の人たちが次々と集まってきた。


パン屋。

八百屋。

鍛冶屋。

宿屋の主人。

診療所の先生。


いつもの顔ぶれだった。


「これ、道中で食べな!」


焼き立てのパン。


「干し果物も持って行きなさい。」

「薬草茶も。」

「困ったら飲むんだよ。」


気が付けば荷物がどんどん増えていく。


「えっ、えっ?」

「こんなに?」


リンネは目を白黒させた。


オルガが腕を組む。


「王都だからって気負うんじゃないよ。」

「いつものリンネで十分さ。」


宿屋の主人も笑う。


「向こうで偉い人に会っても、変にかしこまるなよ。」

「そうそう。」

「リンネちゃんはそのままでいい。」


次々とかけられる言葉。

リンネは何度も頷くことしかできなかった。


その様子を少し離れた場所からルークが眺めていた。


(本当に愛されている。)


騎士として様々な街を見てきた。

けれど、これほど自然に人が集まり、一人を送り出す光景は滅多にない。

リンネは自分では気付いていない。

困っている人へ差し伸べてきた手が、今、自分へ返ってきていることを。


やがて御者が声をかける。


「そろそろ出発のお時間です。」


リンネは街のみんなを見渡した。

いつもの市場。

いつもの店。

毎日見てきた景色。

ほんの数日離れるだけなのに、不思議と胸が熱くなる。


「……行ってきます。」


その一言に、


「行ってらっしゃい!」


たくさんの声が重なった。


リンネの肩の上では、誰にも見えないマロが青白い光を揺らしながら、小さく手を振っている。


「いってきまーす!」


もちろん、その声はリンネとルークにしか届かない。

リンネは思わず吹き出しそうになり、小さく肩を震わせた。


「ふふっ……マロもちゃんと挨拶したんだね。」


「うん!」


マロは得意そうに胸を張る。

ルークはそんな一人と一匹を見て、静かに微笑んだ。


馬車がゆっくりと動き始める。

車輪が石畳を転がる音が、秋空へ響いた。

リンネは窓から身を乗り出し、見えなくなるまで何度も手を振る。

ラウノの人々も、いつまでも手を振り返していた。


街を抜けると、黄金色に色づいた街道がまっすぐ王都へと続いていく。


少しだけ深呼吸をする。

振り返れば、ラウノの街はもう小さく見えていた。

あの街があるから、前へ進める。

リンネは静かに前を向く。


その旅の先には、まだ知らない出会いが待っている。

そして、その出会いが――リンネの世界を少しずつ広げていくことになるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。