第45話 「レグルスの実力」
久しぶりの投稿、お待たせしました
今日中にあともう一話投稿する予定です
「よし木崎、行くぞ」
「えっ、あ、はい」
いきなりそう言われ、思わず頷いてしまったのが運の尽きだった。
返事を言い終わる時には既に大和は俺の腕をがっちり掴んでいて、そのままズルズルと引っ張り始めていた。
その行き先は格納庫。
俺はめちゃくちゃスリリングなジェットコースターに乗る直前のような感覚を覚えつつ、引きずられるがままに彼の後をついていく。
大和は格納庫に着くやいなや大声で整備員たちに呼びかける。
「木崎特務一尉の機体を準備してくれ!
あ、もちろん俺のもな!」
返事の代わりに返ってきたのは整備員たちの疲れたため息。
見れば彼は皆一様にやつれた表情をしている。
「あの・・大和さん」
「大和でいいぞ、なんだ」
「もしかして、今から模擬戦やるんですか・・・?」
「それ以外にやることなんてあるか?」
さも当然といった具合でこちらを見返す大和。
やっぱりか・・・。
心の中でそっと嘆息する。
この人ずっと搭乗服着てたし染谷たちや四ノ宮のぐったりした姿からだいぶ予想はしていたが、俺はこれから戦わないといけないらしい。
「・・・日向さん、俺の機体はすぐ出れる?」
「あ、ああ、出れるぞ」
「ありがと、6番ハンガーでいいんだよね」
「そうだ」
いまさらグダグダ言ってもしょうがない。
多分、大和は人の言うことを聞かない系の人だ。
さっさと覚悟を決めてしまおう。
「じゃあ、先に待機してます」
「おう!」
大和に断りをいれて、機体のもとに向かう。
彼の機体は今整備中だそうだ。
そりゃ四戦連続で模擬戦なんてやれば機体が持つわけないよな。
まして相手は四ノ宮たちなんだし。
6番ハンガーに格納されている九十二式の、艶消しの灰色のコクピットハッチをあけ中に乗り込む。
「よいしょ、と……。ホープ、元気か?」
『答:当機の整備状態は良好です』
「ならよし、機体を起動させてくれ」
『了解。起動シークエンスを開始します』
ホープが読み上げる起動時の通知を聞きながら、もぞもぞと搭乗服に袖を通す。
聞きなれた無機質な合成音声から異常がないことを確かめつつ、俺は整備用端末からとあるページを開いていた。
確認事項を読み終えたホープが尋ねてくる。
『問:何を見ているのですか、特務一尉殿?』
「ASCFの人事ファイルだ……お、あったあった!」
俺が調べていたのはあの男、大和に関する戦闘記録だ。
ASCFでは参考資料にするためにある程度戦闘時の記録が公開されるようになっている。
流石に個人情報などは控えられるが、カメラの映像くらいなら残っているので戦う前に予習しようというわけだ。
……が、しかし
「……だめだこりゃ」
全く参考にならない。
いくつかの映像を見比べたのだが、なにがどうなっているのかさっぱりわからなかった。
なぜか―――それはレベルが違いすぎるからだろう。
まず100%画面に集中している俺よりも敵を補足するのが速いのだ。
気づいた時にはすでに撃ち始めている印象だった。
コンマ数秒の違いだが、実戦でのこの差は大きい。
これはもはやセンスの領域だ。ちょっとやそっとの小細工で埋まるものではない。
クリアリングを徹底するくらいしかできることはあるまい。
他にもブーストの吹かしかたが上手かったり、ターゲットの外し方が上手かったりなど技術面でも流石としか言いようのないレベルだ。
けれどまぁ、そこはまだいい。
それだけなら四ノ宮にも言えることだ。
問題は別にあった。
それは・・・
『待たせたな木崎!さぁ移動するとしよう』
その時通信に大和の声が割り込んできた。
整備が終わったようだ。
いよいよか―――
パンパンっと頬をはたいて気合を入れ、訓練場へと向かう大和に俺も続いた。
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『準備はいいか、木崎!』
「いつでも大丈夫です」
『よし、それじゃ……作戦開始』
大和の号令を引き金に、俺はその場から素早く跳躍した。
近くのビルに着地し、そのまま建物伝いに移動する。
先ほど見た映像資料では大和は主に〈ボフォースMk.6〉を使用していた。
ブルパップ式に限らず、銃器というのは撃ち下ろすよりも撃ち上げるほうがやりにくい。
当然より高所を取る方が有利になるのだ。
もちろん身をさらすことになってしまうが、周りを見渡せるという利点もある。
それに、出会いがしらの撃ち合いでは確実にこちらが負けるだろう。
断然相手のほうが格上なんだから、少しでも場面を有利に進めなければならない。
CEDを欺瞞展開しながら、屋上から屋上へ跳躍移動を繰り返す。
その時だった。
『補足警報、10時方こ――』
ホープが警告を言い切るよりも早く左斜め前に閃光が散った。
「やば……っ!?」
慌てて機体をひねりながら弾線を躱す。
仮想徹甲弾が頭部すれすれをかすめて後方に逸れていく。
そのせいで細い路地に降りてしまったが、この際仕方あるまい。
「っ!……ホープ、位置の割り出し!」
『了解、完了。10時方向2050mの座標からの攻撃です』
「ちっ、流石に捕捉が速いな」
そこまで身を晒していたわけではないのに、画面の僅かな動きにも敏感に反応してくる。
正面から攻めるのはやはり困難だ。
これは裏を取れないと厳しいか……。
手近な低めの建物に飛び乗り、今度は慎重に移動する。
影に隠れる、ネズミ戦法だ。
俺の戦闘スタイルなら相手に位置をつかませなければその時点で勝ちなのだ。
しかし、大和はそう甘い相手ではなかった。
『警報、手榴弾』
「なっ……!?」
俺に向かって正確にIG用グレネードが投げ込まれる。
「くっ……なんでバレてるんだッ!」
毒づきながらその場から大きく跳躍して、爆発の範囲から逃れる。
――それが失敗だった。
突然機体に衝撃が走り、遥か先に吹っ飛ばされる。
な、なにが起こった!?
痛みをこらえつつ急いで身を起こす。
謎の衝撃の原因を探るべく、辺りを見渡した。
俺が先ほどまでいた建物。
その先には――!
そこで俺の記憶は途絶えている。
そして現在に至る。