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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第二章 波乱到来編
38/51

第37話 「弱さ」

お待たせしました

第37話、お届けします

 





『もし、ヴァイツが存在しなかったら』



 ……時々、そんなことを考える。


 もしそうだったら……まず俺はこうしてIGに乗っていることなど有り得なかっただろう。

 俺は普通に学校へ通っているだろうし、引っ越すことなども無く姉さんと優吾と三人で暮らしていただろう。

 パイロットになるための苦しい訓練だって、することは無かったはずだ。

 もしかしたらあの日、エネミスの襲撃も無かったかもしれない。


 ………そして、四ノ宮と出会うことも無かった。


 それだけじゃない。

 睦戸や阿多野、染谷や沓城に佐渡、水戸さんや日向さん達〈ASCF〉の人々とも出会えなかったのだ。




 そう考えると、ヴァイツが居たからこそ、今の俺はあるのだとも言える。

 パイロットとしても、今までの活躍はヴァイツありきのことなのだ。

 俺の実力など、大したものではない。

 吹けば飛ぶような、そんな些細な力しか持っていないんだ……俺は。

 つまりヴァイツが無ければ……俺はただの凡庸なパイロットでしかない。

 これまでも……そして今現在も。





 ―――だから俺は、強くならなきゃいけないんだ。





 ーーーーーー

 ーーー

 ー




 奇襲の成功はこの一撃にかかっている。


『照準完了』

「食らえッ!」


 高速道路へと飛び降りながら、双翼を広げるエネミスに向けて引き金を引く。

 銃口から吐き出された57mmAP(徹甲)弾が、吸い込まれるようにエネミスへと降りかかる。

 画面の端に映る銃口からマズルフラッシュが散る。

 連射の反動で照準器が激しく震えた。


 しかし至近距離で放ったにも関わらず、反応速度はエネミスの方が上だった。

 灰褐色の怪物は急制動を掛けると、広げていた翼を体に巻き付けるように折り畳み、〈ボフォースMk.6〉の攻撃を全て弾いてしまう。


 エネミスはそのまま距離をとり、両腕を構えた。

 あれは戦闘態勢だ。


 ヤツに気付かれ、攻撃も防がれた。

 奇襲失敗か……


『接近警報!』


 と、エネミスが刃を突き出しながら吶喊してきた。

 その動きは、鋭く素早い。


「くッ……!」


 左腕のシールドを引き寄せ、なんとか刃を受け流す。

 無防備なその横っ腹目がけて〈ボフォースMk.6〉を撃つと、エネミスは再び跳び下がり距離をとった。


 そして、また突っ込んでくる。


 盾で防ぎつつ反撃するが、そのまえに反応され後退されてしまう。

 何度か同じような攻防が続いた。

 エネミスはそのヒットアンドバックを繰り返してきている。

 一方俺は、エネミスの動きに機体が着いていけず、一方的にやられるがままの状態だった。

 切りのない悪循環だ。


 九十二式の反応速度より、エネミスのそれの方が上なのだ。

 ヴァイツならばもっと違う戦い方も出来るのだが、性能が劣る九十二式ではエネミスのヒットアンドバックに対応しきれない。


「くそッ……!

 ホープ、スモークだッ!」

『了解』


 不本意ながら、一旦後退して仕切り直すしかない……。


 スモークグレネードで煙幕を張り、アスファルトを蹴る。

 眼前に広がった白煙から目を離さずに、主武装のリロードも済ませる。

 プルバック式のマシンガンから弾倉が切り離され、すぐさま腰から取り出した新しい弾倉に取り替える。

 そのまま初弾を装填し、煙幕へと構えた。


『接近警報!』


 煙の中を割って飛び出してきたエネミスへと連射する。

 だが、やはりそれらはヤツの翼によって弾かれてしまう。


 流石にそこまで迂闊では無いか……。


 〈カゲロウ〉を装備していない今の手持ちの火力では、あの翼をへし折るには及ばない。

 ヴァイツで使っていた火器は反動が強すぎて九十二式には装備出来ないのだ。

 今の俺は、標準的な武器しか携行していない。

 集団で連携して戦う分には何ら問題ないが、単機ではやはり火力不足は否めない。


 舌打ちしつつ、武装を〈ボフォースMk.6〉から高周波チェインソードへと持ち替える。

 まだ接近戦のほうが勝ち目がある。

 そう考え故の判断だ。

 そしてシールドを構えながら、突進してくるエネミスとかち合った。


 ガキィィィン!!


 まともに衝突した硬質の物体同士が、不快な金属音を奏でた。

 アクチュエータの出力に任せて、エネミスと九十二式がせめぎ合う。

 フレームや装甲が軋みをあげ、吸気口は喘ぐように外気を求める。

 力の逃げ場所を失った衝突の威力がアスファルトをひび割り陥没させていく。

 排熱機構が全力で稼働し、二体の巨人を包む空間が蜻蛉を立ち上らせた。


「ぐうぅぅぅ……!!」


 自然と操縦桿を握る手にも力が入っていた。

 歯を食いしばり、エネミス(眼前の敵)を睨み付ける。


 そして……


 ふっ…と俺は機体の力を抜いた。


 《!?》


 急に支えを失ったエネミスが大きく体勢を崩す。

 流れるように横にずれてやると、エネミスは勢い余って前へとつんのめり、無防備な背中を晒した。


 そこに手にした高周波チェインブレードを叩き付けてやる。

 超高速回転するブレードが金切り声を上げながら、艶やめいたエネミスの装甲へと迫った。

 そして刃と装甲が触れ合った途端、金切り声が更に大きくなる。

 超振動する刃が分子結合を分断させ、エネミスの背中を切り裂いた。


 しかし……


「(浅いッ……!)」


 それすらもエネミスに反応されてしまう。


 エネミスは翼を大きく羽ばたかせて俺を突き飛ばすと、また距離をとってしまった。

 ヴァイツの出力と装備ならば今ので仕留められたのだが、いかんせん補助兵装の軽いブレードでは完全にトドメを刺すことは出来なかったようだ。


 ちっ……。

 また振り出しに戻ったか……。


 思わず舌打ちを鳴らす。

 上手くいかない戦闘に、心がざわつき始めていた。


 さて、どうする……?

 いかんせん武器が弱いから、決定打が打てない……。

 狙い目はさっき斬りつけた背中だが、流石にそう易々とやらせてはくれないだろう。


 ……参った、策が無い。


 もともと〔九十二式〕とエネミスでは、性能差があるのだ。

 出力も機動性も、こちらに分が悪い。

 特別何かを持ってきているわけではないので、まともにやりあえば負けるのは恐らくこちらだ。


 どうするか……。


 どう仕留めるのがいいか、次なる一手を考えていると、


『捕捉警報!』

「………ッ!?」


 いつの間にか、エネミスが目前まで迫っていた。


「しまっ………!?」


 注意が逸れていたせいで、咄嗟の反応ができない。

 戦闘時にあるまじき、最悪のミスだ。

 既にエネミスは攻撃態勢に入っている。

 逆に俺はブレードもシールドも掲げるに間に合わない位置にある。


 この一撃は……防げない。



 振り上げられる刃が残虐な光を放つ。

 殺意と狂気に満ちた、命を奪うための光。

 俺の視線からその輝きが、やけに痛烈に映って離れなかった。


 あれは、俺を殺そうとしている………!


 稲妻のように全身を奔る嫌悪感。

 それは内臓の奥底から髪の毛の先端までくまなく俺の体を支配し、喉から引き攣った叫びを漏れさせた。


「う、うわっ…………!」




 刃が、振り下ろされた。




 ーーー




「木崎、大丈夫……?」


 心配そうな四ノ宮の声。

 その優しい目を、俺は見ることができなかった。


 あの後、結局俺は助かった。

 ギリギリで間に合った四ノ宮によって、エネミスが倒されたのだ。

 ほとんど一瞬のことだった。

 エネミスの刃が俺に到達する直前、横合いから彼女が駆る〔九十二式〕が飛び出してきた。

 注意が完全にこちらに向いていたエネミスは、四ノ宮の操るアマテラスに為す術無く一刀両断された。

 俺があれだけ苦戦した相手が、あっさりと一撃で。


 そのことが俺の心に重くのしかかる。

 淀んだ心が晴れることはなく、楽天的だと自負する俺でも落ち込まずにはいられない。


 これで二度目だ、敗北は……。


 ヴァイツが無ければなにもできないと、思い知らされた瞬間だった。




 気を遣ってくれたのか、四ノ宮はその日の家事を一人でやってしまった。

 その間、俺はずっと茫然自失としている。


 なにもしたくなかった。

 なにも考えたくなかった。


 食卓でも会話が起こることなく、機械的に食事を口に運ぶ。

 いつもならとても美味しいその料理も、今日はまったく味がしない。




 結局、その日はそのままベッドへと入った。

 四ノ宮が呟いた「おやすみ」ということが、やけに空虚な響きを持っていた。

 きっと、失望させてしまっただろう。

 ただの通常型エネミスに、ああも一方的にやられたのだ。

 見放されても仕方が無い。


 そんな感情がぐるぐると渦巻き、何度目かわからないため息が漏れる。

 俺の存在意義を、俺が見失っていた。

 あの刃を見詰めた瞬間を思い出すたび、全身が震え嫌悪感が再び湧き上がる。

 毛布を頭まで被っても、俺は寝れなかった。




 ………そうして、朝が来た





やっと物語が進んできました

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