第32話 「転機」
大変お待たせしました
第32話お届けします
「……なぁ、四ノ宮」
「なによ」
俺の少し前を歩く四ノ宮は、棘のある口調で応じてきた。
こっちには振り向きもしないから、彼女が今どんな顔をしているのかは分からない。
けどきっと、ムスッとしてるんだろうなぁ……。
支部からの呼び出しがあった後、俺達はすぐに鞄を引っ掴んで学校を出た。
文研部の連中には急用が出来たと言ってきたが、きっとあやしんでいるだろう。
明日予想されるであろう質問に、どう応じるのか考えるだけで気が滅入る。
だって男女が同時に急用で抜け出したんだ。
しかも同棲中、というオマケ付きで。
何かあると思う方が自然だろう。
ただでさえ四ノ宮はゲームをしそびれたせいで凄く不機嫌なのだ。
俺の胃はストレスによって捩れ切れてしまいそうだった。
学校を出てからずっと、俺は必死に四ノ宮の機嫌をとろうとしてた。
だが、こっちから話を振っても、今のように邪険に扱われて終わってしまう。
もちろん四ノ宮から話しかけてくることなど一度も無い。
こっちに見向きもしてくれないので、さらに俺のメンタルは磨り減るばかりだ。
結局、なんの糸口も見つけられ無いまま、支部の最寄り駅までついてしまった。
「その……残念だったな、王様ゲーム」
「だからどうしたっていうのよ。要件はなに?」
「あ、うん……それで、明日また仕切り直しでもいいか?」
「好きにすれば」
「はい……」
……どうしよう。
ちっとも機嫌が直らない。
普通の女子との会話スキルなど無いに等しい俺のコミュ力では、今どうすれば彼女の機嫌が良くなるのかさっぱり分からない。
四ノ宮の態度もそっけないので、会話が全く続かなかった。
初日の事故の後でもここまで不機嫌になることは無かったのに。
多少態度がピリ辛だったくらいだ。
そんなに楽しみだったのだろうか、王様ゲーム。
だとしたら悪いことしたな……。
そうこうしているうちに、支部は目前に迫っていた。
200mほど先に、すっかり見慣れたゲートが見えてきている。
四ノ宮の歩みに躊躇はないし、敷地に入ってしまえばもう話せる機会などないだろう。
ここで決められなければ、全部あやふやになって手遅れになってしまう。
つまり、ここが最後のチャンスというわけだ。
………なら、覚悟を決めよう。
「四ノ宮!」
「うるさいわね、そんな大声出さなくても聞こえるわよ。
あなたバカなの?
少しは近所迷惑ってものを考えなさいよ」
………。
泣いても良いかな……。
俺の覚悟を踏みにじるかのような、四ノ宮の冷たい台詞が心に刺さる。
殴られるのを覚悟して正面から突撃していったというのに、初手から爆死してしまった。
せっかくなけなしの勇気を振り絞ったというのに空回りもいいとこだ。
四ノ宮はというと、呆れた様な声で、
「……で、何の要?」
「あっはい、あのですね。
ここ最近の俺の行動について謝罪したくてですね、はい」
すっかり気圧された俺は、そんなしどろもどろな言い方しか出来ない。
だってしょうがないじゃない。
怖いんだもの。
「まわりくどい言い方はやめなさいよ。
はっきりいったらどうなの?」
「着替え覗いたり、スカートめくったり、ゲームなかなか始めなくてごめんなさい」
我ながら情けない謝り方だと思う。
逆に四ノ宮は、なんだか楽しそうだ。
「許すと思う?」
「いえ、思いません」
「なら、誠意ってものがあるわよね?」
「はい、あります」
まるでステレオみたいな受け答えだ。
四ノ宮の口調からは見えない圧力のようなものを感じる。
衝動的に彼女の言葉を肯定してしまう自分が情けない。
しかし……誠意か。
……なんだろう、なにをすればいいのだろう。
さっぱりわからない……。
まさか責任をとれという意味では無いだろう。
こんなシチュエーションでいきなり求婚なんてできるわけじゃない。
付き合っているわけでもあるまいし。
そんなことしたら100%殴り殺される自信がある。
第一そんな度胸は俺に無いからな。
誠意……誠意か……。
むぅ……。
…………あ。
そういえば昔、姉さんがこう言ってたな。
〈優真、女の子に誠意を見せるときはね、とりあえずなにか買ってあげるといいんだよ。
大抵の女の子はお金で攻略できるからね。
もちろん、ケチったり渋ったりしちゃだめだよ。
そういうときは太っ腹を見せてやるのさ!〉
……姉さん、あんた小学生の弟になに吹き込んでんだよ。
変なこと覚えたらどうすんだ。
………。
………まぁそれは置いといて、だ。
そうか、なにかを奢るのがいいのか。
確かにそういう態度を見せたほうが効果的かも知れない。
含蓄ある姉の言葉だしな。
……あんま信用できないけど。
それでも無策よりはマシだ。
よし、さっそくやってみよう!
「四ノ宮」
「なに?」
「その……お詫びといったら難なんだが、
街からちょっと離れた海岸沿いに、いい雰囲気の喫茶店があるんだ。
そこでこんど奢るからさ……一緒にどうだ?
それで今回のことは手打ちってことに……」
「………ふーん」
……あ、あれ?
なんか反応薄いぞ。
この手はダメだったのか?
あっ、そっぽ向いちゃった。
どうしよう、俺マズったかなぁ。
「……ブツブツ。
……そう、喫茶店ね……海岸沿いの……」
「あ、あの…四ノ宮?
どうしたんだ……?」
「ひゃっ……!?
……な、なによ、びっくりするじゃない!」
「え、えぇ……?」
今度は怒られた。
なぜか顔を真っ赤にして激怒してる。
そんな怒ることしたかなぁ……?
彼女の思考がいまいち読めない。
その前にボソボソ言ってたこともよく聞き取れなかったし。
「………で、」
「で?」
「そこにはいつ行くのよ」
?
予想外の言葉が飛び出してきた。
てっきり、次は「人が考えてる時に話しかけるとか、常識外れなんじゃないの?」とか言われると思ってたのに。
「へ?お、怒ってないの……?」
「?、なんで私が怒らなきゃいけないのよ」
え?
でもさっきあんなに赤い顔して……
「いいから、行くの?
それとも行かないの?」
「行くよ!もちろん行きますとも」
「ならよし。
私土曜日空いてるけどその日でいい?」
「あ、うんいいよ。その日なら俺も空いてる」
「じゃ、決定ね」
戸惑っているうちに、テキパキと予定を入れられてしまった。
うーん……。
彼女の心がさっぱり読めない……。
怒ったり怒らなかったり、どんな基準で動いているのだろう。
……あぁ、そういえば。どっかの誰かが言ってたな。
女心とは、この世界の謎が全て解き明かされたあとに残る謎だ、って。
あれはこういうことか。
つまり俺には一生かかっても理解できない、というわけだ。
一方四ノ宮は、世界の謎について考えている俺をおいて、スタスタと先を歩いていた。
慌てて、置いてかれないように俺も追いかけようとする。
と、思ったら……
「……木崎、あなたずっと悩んでんでしょ?」
「なにが?」
「私のことよ」
四ノ宮は途中でこちらを振り返ってそう訊いてきた。
自覚あったのか。
分かってたならもう少し態度を柔らかくして欲しかった…。
まぁ、悪いのは完全に俺なんだけど。
そんな俺を見ながら、四ノ宮は「ふーん……そうなんだ」とかよくわからない独り言を呟いている。
なにを考えているのだろう。
すると、突然。
少し先にいた四ノ宮が吹き出し大声で笑い出した。
「なっ、どうしたんだ!?」
「い、いえ。なんでも……ぷっ、あははははっ!」
ツボにはまったように、笑い転げる四ノ宮。
戸惑う俺を気に止めず、お腹を押さえながら苦しそうにずっと笑っている。
それはとても魅力的な笑顔なのだが、突然のことに俺の中では驚きの方が勝っていた。
しばらくして、四ノ宮はひとしきり笑い終わると、まだ口元を緩めながらも顔を上げた。
「い、いきなりごめんね」
「い、いやそれはいいんだが……一体どうしたんだ?」
「わからない?」
「おう、さっぱり……」
「そっか」
そういうと、四ノ宮はクスッと笑い、
「やっぱ、木崎はバカね」
といって再び歩き出してしまった。
??
なんでいきなり俺はバカ呼ばわりされなきゃいけなんだ?
思わず首をかしげる。
きっと今の俺の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんで見えるだろう。
だが、不思議に思っていても、四ノ宮は待ってくれない。
もともと足が長いから歩くスピードが速いのだ。
すこし小走りして、彼女の隣に並ぶ。
………と、ふと気付いた。
「(あれ、口調が元に戻ってる?)」
四ノ宮の口調が、心なしか柔らかくなったように思える。
表情も、以前のような爽やかさが戻ってる気がするし……。
ほんと、女子の心ってよくわからん……。
ーーーーーー
ーーー
ー
「お待ちしておりました」
支部のフロントで俺達を出迎えてくれたのは、
阿多野の秘書、瀬場ステラだった。
セミロングに切り揃えられた、その透き通るような金髪を後ろで丁寧に束ね、上質なスーツを乱れ一つなく着こなしている。
相変わらず見惚れるような佇まいだ。
「会議室までご案内いたします」
「ありがとうございます」
ステラはそういって、遅すぎず速すぎない丁度いい歩調で歩き出した。
歩いていても、スッと伸びた背筋が歪むことはない。
きっと、そういった訓練を施されているのだろう。
最初にあったときは、この完璧に整った立ち振る舞いに緊張したが、知り合った今はそこまで気負わずにいられた。
ステラのハイヒールがコツコツという音を立てる。
途中特に会話も無く、通路には三人分の足音だけが響いていた。
やがて会議室への短い道のりを終える。
会議室の前に着くと、ステラがスッと扉を開けた。
……ん、待てよ?
ステラがいるってことは……
「やぁ、二人とも。
調子はどうだい?」
やっぱり阿多野も居た。
そりゃそうか。
だってステラは阿多野の秘書なんだし。
ヤツがいるところに彼女がいるのは当たり前だろう。
余りに自然に案内されていたので気付かなかった。
そして、驚いたことにその後ろにいたのは、
「「代表!?」」
〈ASCF〉のトップ、睦戸義和だった。
「……うむ、久しいな。
二人とも、元気そうでなによりだ」
響き渡るようなバリトンボイスで睦戸が軽く挨拶する。
今日の睦戸は、以前のようなスーツ姿ではなく、黒い隊服を着ている。
戦闘服の用途も兼ねている隊服は、鍛え抜かれた肉体を持つ睦戸によく似合っていた。
鋭い眼光を放つその姿は、歴然の勇士ですら思わず身構えてしまうほどの威圧感を持っている。
ちなみに今日はウィッグは付けていないようだ。
少し安心したのは内緒である。
「でも、なんで代表がここに?」
「……睦戸で構わんよ。
今日の用事は、指令と伝達と……あと事情聴取だな」
「「事情聴取……?」」
俺達は同時に首を傾げる。
何の事情聴取だろう。
代表自ら出向くほどの重要案件……。
……うーん、わからん。
「これは主に君に関することだ、木崎特務一尉」
「えっ、俺!?」
いや、まったく身に覚えないんだが。
だが、結局睦戸は教えてくれなかった。
「……まぁ、それは後で説明しよう。
信栄、先に他の要件を」
「承知しました。
じゃあ二人はこっちに座ってくれたまえ」
勧められるままに、睦戸と阿多野の正面に腰掛ける。
睦戸が筋骨隆々なせいで目立たないが、阿多野も以外と筋肉質な体をしていた。
元の目つきの鋭さも相まって、威圧感が凄い。
そんな二人がこうして並んでいると、貫禄というのかなんというのか凄く迫力を感じる。
初対面ツインテールと普段のおちゃらけ具合で忘れかけていたが、この人達もまたエネミス相手に長年戦い続けてきた強者達なのだ。
「単刀直入に言おう………」
すると、阿多野がそう切り出した。
その声の鋭さに、思わず緊張し背筋を伸ばす。
「このたび君たちの、別部隊への配属が決定した」
それが、俺達に下された指令だった―――
久しぶりのシリアス回突入です
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