第31話 「女王様ゲーム」
お待たせいたしました
第31話、お届けします
部室の真ん中にある、ちゃぶ台にて。
「全員命令書は書き終わったな。
回収するぞ」
全員が自分たちの命令を考え終わったのを確認し、回収を始める。
ちゃぶ台を囲む部員たちから、命令が書かれた紙切れが差し出された。
どれも中身が見えないように、丁寧に折り畳まれている。
これのまとめ進行役は俺が務めることになっていた。
集められた紙切れの内容を、他の連中に見えないようにザッと眺めた。
今回のゲームでは、命令をその場で言うのでは無く、
最初に紙に書いて中身が見えないように集め、王様がその中から一つを選ぶという方式にした。
誰が実行するのかは王様が選ぶが、命令の内容は直前まで分からないようにするのだ。
命令を引くまでは、どんなことをするのか誰にもわからないので、よりスリルを味わうことができる。
書く命令の数は一人三つ。
もちろん王様の命令は絶対なので、必ず実行しなければならない。
このようにした理由は、建前上はよりゲームを面白くするためだが……本当の目的は別にある。
このバカ共が、無茶な命令を出すのを防ぐためだ。
コイツらがよく考えずに思いついた命令を言い出せば、どんなことが起きるのかは目に見えてるからな。
起きるとわかる事故を回避しないほど、俺はバカじゃない。
だからこうして、最初にフィルターをかけておくのだ。
もちろん立場を悪用して、自分が有利になるようなことはしないぞ。
あくまで俺は客観的に判断するというスタンスだ。
それに、ある程度まではいやらしいこともOKすることにしている。
あんまり基準を厳しくしてもつまらないしな。
「(さーて、どんな命令があるのかなーっと)」
三つ折りにされた紙切れを開き、中身を確認する。
「(お、この字は華月のだな。
なになに……好きなアニメキャラの台詞を全力再現、か。
オタクらしいアイデアだな)」
華月の命令は、どれも文研部らしいオタクなものだった。
なかなかにやるのが恥ずかしいものもあるから盛り上がりそうだ。
これならば問題ないだろう。
「(これは、工かな。
逆立ちで廊下を一往復……って自分が指名されたらどうするんだろうな)」
工も特に問題はない。
問題児筆頭のようなコイツだが、先程言っていたことはホントだったようだ。
これは意外だった。
工のことだからまた変な命令を出すと思っていたが、これといって無茶難題は無い。
強いて言うなら、工自身がやることになった場合に出来なさそうなものばかりというところか。
まぁ、それは別に良いや。
よし、次行こう。
「(四ノ宮は……やっぱり王道を行くか。
相手とキスとか、ベタすぎるだろ)」
きっと王様ゲームなどやったことがないのだろう。
四ノ宮は、漫画などでよくあるものばかりを書いていた。
ある意味個性的だ。
これが、相手が美少女ならドキドキしたりもするが、生憎この部活にいるのは色モノばかりだ。
最悪、拓真とやらされる羽目になれば、俺もう生きていけないかもしれない。
……だが待てよ?
逆に、これはこれで面白いかもしれない。
普通は空気を読んでやらないことも、この部には普通なんて通用しないし。
むしろ四ノ宮と接近できるチャンスかも……!
よし、採用だ。
「なんでサムズアップしているのかわからないけど、その笑顔はなんかムカつくわね」
「酷い!」
発案者に爽やかな笑顔を送ったら、そんな風に返された。
なんだよ、人の顔をムカつく呼ばわりしやがって。
真顔でそんなこと言われたら地味に傷付くじゃねぇか。
もういい、次に行ってやる。
「(んで、残り二人は、っと……)」
再び手元の命令書へと目を向ける。
残っているのは
「(うーん、このきったない字は絶対拓真だな。
…ったく、読みにくいんだよ。
もっと丁寧に書けよな……)」
それで、肝心の内容はというと……。
「(おおう……これはキツいな)」
思わずそう唸ってしまうほどのものだった。
雑に畳まれた紙切れには汚い字で、
『後日、HRで先生を間違えてパパ(又はママ)と呼ぶ。
わざとらしかったらもう一回追加』
と殴り書きにされていた。
地味だが、なかなか面白い命令だ。
高校生にもなってこれをやるのは相当恥ずかしいだろう。
是非とも当たりたくないものだ。
……だが、一つだけ問題がある。
「拓真」
「ん?」
「これはちょっと却下だな」
「ええっ!?な、なんでだよ。
別に悪いとこなんてないだろ?」
「うーん、命令自体はわるくないんだが……」
そう、命令自体は別に何にも問題はない。
命令を考える前に言っておいた基準にも引っかかってはいない。
しょぼっちい気もするが、それが悪いわけでもない。
ただ、そうではなく……問題があったのは台詞だ。
「俺の家のことはお前も知ってるだろ?
悪いけど、それは遠慮してくれないか?」
「あっ……!
そうか、お前はそうだったな……すまねぇ」
俺の両親は既に亡くなっている。
だというのに他人を父や母と呼ぶのは不謹慎ではなかろうか。
それが本気でなくとも、余り良い心地はしない。
俺の親は、世界でたった二人だけなのだ。
たとえ罰ゲームだとしても、他の人を親とは呼びたくなかった。
……それに、四ノ宮のこともある。
彼女は少し前まで一人暮らしをしていたと聞いている。
これはあくまで勝手な想像だが、彼女の両親ももしかしたらそうなのかもしれない。
でなければ、四ノ宮みたいな子が普通〈ASCF〉に入ることなどないだろう。
まさか彼女の前にも〔ヴァイツ〕が落っこちてきたわけじゃないだろうし。
そういうわけで、身勝手な理由だがこれはちょっと譲れないな。
すまないが、拓真には別の命令を考えるか、少し変えるかしてもらうしかない。
「気にすんな。
ちょっと変えてくれればそれでいいよ」
「おう」
結局この命令は、先生をおじいちゃんorおばあちゃんと呼ぶことになった。
それはそれで先生に怒られそうだが……まあいっか。
よし、拓真のも採用だ。
「(で、最後は……とうとう甘月か……)」
そして机の上に残ったのは、ラスボスともいうべき変態、甘月雪菜のものだった。
ーーー
ちゃぶ台を囲む面々は、少し暇になってきたようで、思い思いにだらけていた。
華月は持ってきた小説を開き、工は工具を広げてなにやら作業を始めている。
一番ワクワクしていた四ノ宮も、やや退屈そうな表情だ。
無理もない。
何かが始まる前というのは、短い時間でも長く感じてしまうものだ。
それが楽しみであれば余計にな。
実際には命令書を回収してからまだ五分も経っていないのだが、その間ただボケーッと待つのはやはり焦れったかったかもしれない。
対して俺は、今は少し緊張し身構えていた。
作業をしているのだから集中するのは当然だが、理由はそれだけではない。
これまでの命令は、予想外にまともなものばかりだった。
思いの外あっさりと進んだため、拍子抜けした感じだ。
しかし、最後の三枚は恐らくこれまでと違うだろう。
なぜなら、これを書いたのが甘月だからだ。
拓真はバカだが、頭が悪いわけではない。
出来ることと出来ないことはよくわきまえている。
しかし甘月はそうはいかない。
冗談でとんでもないことを口走るのが甘月という女だ。
いつもはほんわかしているくせに、エロいことに思考が繋がると無茶苦茶を平然とやったりする。
だから俺は、こんなに肩を強張らせているのだ。
予想されるストレスに、耐え抜くために……。
恐る恐る手元の紙を開く。
『全裸で―』
そこまで見えた時点で、俺は紙を破り捨てていた。
「ええっ!?ちょっ、木崎くん!?
君、いきなりなにをするのさ!」
「それはこっちの台詞だバカ!
俺は、エロはほどほどに、といったんだ!
全裸をほどほどのエロだと言うヤツが、一体どこにいる!」
やはりとんでもないやつだ、甘月雪菜。
まさか全裸をほどほどだと考えていたとは。
度を超えた変態具合に戦慄する。
―――しかし、変態《甘月》の暴走はまだまだこんなものではなかった―――
「えええっ!?」
「なんで驚く!?」
おい、どこに驚く要素があったんだ。
もしやお前以外にそんな変態がいるとでも?
だとしたら俺の方がびっくりだよ。
「だ、だって……こないだ木崎くんいってたじゃない――」
はぁ?
なにをいってんだコイツ。
俺が知っているなかで、甘月並に変態なやつなんていな――
「全裸よりも服着てるほうがそそるって小林くんと……」
「おーっと、そこまでだ!
俺は何も聞いてないし言ってない!
ついでにそんな記憶も存在しない!!」
なんてこといいやがるんだ。
そんなこといったら、周りが変な反応しちゃうだろ。
「「………」」
俺に注がれる視線が一気に冷たいものに変わったのが分かった。
四ノ宮と工がスススッと俺から距離をとる。
華月も呆れ顔で苦笑していた。
ほらやっぱり!
ドン引きされてるじゃないか。
というか、二人ともやめて!
その反応は地味に傷付くから……。
「ちょっ、待て!
俺はそんなこと言った覚えはない!」
「えっ?でもその前も、
心を開く前にまず股を開いて欲しい、とかよくわからないこといってたよ」
「んなっ……!?」
それはいっちゃアカンやつや。
一気に背中から冷や汗が吹き出してきた。
殺気のようなものを感じ、恐る恐る女子二人の方へ振り返る。
案の定、四ノ宮と工が底冷えするような声で、
「最ッッ低……!」
「………です!」
冷たく俺に吐き捨てた。
俺に投げかける視線が、雨上がりのふやけたミミズを見るような冷ややかなものに変わる。
気持ち悪くて排除したいが近づきたくない、そんな目だ。
「や、やだなぁ二人とも。
俺がそんなこというわけな……」
「うるさい前科持ち。
私の着替え覗いたりスカートめくったりしたのもきっとわざとなんでしょ?」
「誤解だぁぁーっ!!」
まだ根に持ってたのか。
女子の恨みというのはマリアナ海溝より深いと姉さんがいっていたが、
あれはあながち冗談でも無かったらしい。
「……光咲ちゃんの着替えを覗いた……?
……木崎、お前ちょっと歯を食いしばるです!」
「それは本当なの?……いくら私でもそれは許さないよ?」
そしてここにも反応するやつが二人。
指を鳴らしながら怖いことを言ってくる。
って……!?
「うわぁ、秋津!?
どうやって戻ってきた!?」
「ふっ……愛の力は不可能を可能にするのさ」
なにそれ怖っ!
てか、それ答えになってねぇよ。
一体どうやって……。
確かに縛っといたはずなのに。
俺が心底不思議がっていると、秋津はあっさり種を明かす。
「……まぁ、普通にほどいただけなんだけどね」
「なんだよ、びっくりさせやがって」
単純に結び目が甘かっただけか。
てっきり、マジで愛の力とやらで金属縄を引き千切ったのかと思ったわ。
証拠に、秋津は縄を取り出しプランプランと振ってみせた。
あっ本当だ。
普通にほどけてる。
………。
「今だ!」
「甘い!」
ちっ、気付かれたか……。
縄を奪い返そうとした手は空を切り、秋津はヒョヒョイと逃げてしまう。
「………」
「………」
一瞬、互いに静止し、睨み合う。
俺も秋津も、既に動き出す体勢に入っていた。
少しのきっかけでもあれば、即逃走と追撃が始まるだろう。
緊迫の数秒が過ぎ、そして……
「待ちやがれ秋津!
大人しく縛られろ!」
「ちょっと、その言い方は犯罪臭がするよ!?」
ちゃぶ台まわりを逃げ回る秋津を追い回す。
くそっ、なかなかすばしっこくて追いつけない。
ほっとくとまた暴れだすから繋いでおかないといけないのに。
ぐるぐると何度も、追って追われてを繰り返す。
そして、とうとう……
「……二人ともいい加減にしなさい!」
「いてっ……!」
「ぐはぁっ!?」
待ちくたびれた四ノ宮の雷が落ちた。
凄い形相をした四ノ宮の両腕が、あっさりと俺と秋津を捕まえる。
そして それぞれに、四ノ宮のチョップと蹴りが叩き込まれた。
……って不平等じゃない!?
なんで秋津はチョップだけなのに、俺は鳩尾入れられなきゃならないんだよ!
「いてっ」と「ぐはぁっ」じゃ、威力の度合い全く違うだろ!?
「黙っていれば、いつまで経っても始めないで……!
私はいつまで待ってなきゃいけないのよ!」
「す、すみません……」
ずっと待ちぼうけを食らった四ノ宮は、とうとう我慢の限界へと到達し、そのイライラを爆発させた。
い、痛い!
ちょっと四ノ宮さん!?
なんでわざわざ攻撃追加するの!?
鳩尾を入れられて悶絶する俺を、更に踏みにじる四ノ宮。
鍛えられたその脚から繰り出される蹴りは意外に強力だ。
さ、最近四ノ宮さん、キャラ変わってません?
前はこんなんじゃ無かったよね?
せめて顔を赤らめるとかして欲しい。
じゃなきゃ、本気で嫌われてるんじゃないかと心配になってくる。
いや、ホントに嫌われてるのかもしれない……
だって、目が真剣なんだもん。
だがそんな俺の心配も、彼女は気にも止めていないようで……。
ゲシゲシと俺を足蹴にしながら、女王様の勅命が下る。
「もう命令なんてなんでもいいわ!
さっさと始めるわよ!」
「「「「「イエス、マム!」」」」」
命令が下った途端、素早く準備を進める部員たち。
その動きは完全に同期していた。
……あ、あれぇ?
ねぇ、俺は?
俺のことはスルーなの?
完全に足蹴にされている俺のことは無視である。
見向きすらしなかった。
そろそろ部員たちにまで嫌われてるんじゃないかと、少し心配になってきた。
と、その時。
『『リリリリリリッ!!』』
突然、俺と四ノ宮が腕に付けていた時計型通信端末が同時に鳴り出した。
緊迫感を煽る感じの甲高い合成音が、部室内にうるさく響く。
何事かと驚いた感じで、皆が俺達の方を見た。
俺も四ノ宮も、弾かれたように画面を覗きこむ。
そこには……
『緊急招集:木崎優真特務一尉、四ノ宮光咲特務二尉は現在進行中の任務を放棄し、直ちに第四支部会議室へと急行せよ』
の、文字が光っていた。
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