第30話 「歓迎会」
大変お待たせいたしました
第30話、お届けします
何かしら起こると思っていた歓迎会だったが……
予想外に滞りなく進んでいた。
「なぁ秋津、対戦やろうぜ!」
「ほう……私に挑むなんて良い度胸だね。
いいよ、コテンパンにしてあげる」
「なになに~?次はなにやるの~?」
「……ウチらも交ぜるです」
怖いくらいに問題も騒ぎもない。
至って普通にゲームして遊んでいるだけだ
こう何も無いとなにか企んでいるんじゃないかと、思わず疑ってしまう。
いや、もちろん俺も楽しんでいるさ。
皆でパーティーゲームに興じたり、対戦ゲーをしたり。
少し……いや、とても楽しい時間だ。
だが、今まででは考えられないほどの平穏は、逆に俺の不安をかき立てる。
だって文研部だぞ?
なにかと問題と爆発と気絶者を出す、あの文研部だぞ?
こんな普通に部活しているほうが驚きだ。
だって保健室のお世話になりすぎて、どこになにがあるか分かるくらいなんだからな。
それが今日は……
工は試作品を暴走させず、
拓真がアホなことを言い出すことも無く、
甘月は下ネタなど言う素振りすら見せず、
華月が中二病を顕現させることも無い。
……考えられないよな。
本当、なぜなのだろう。
不思議でしょうが無い。
そして、怪しい。
やはりなにか企んでいるのでは………?
「ここだ!
くらえ、マ◯オファイナル!」
「なにぃぃぃ!?」
「……凄いです、拓真!
………本当に◯リオでユリリンを倒しちゃうとは……!」
「へへーん、どうよ。
マリ◯扱わせたら俺は最強よ!」
「なんてこと……。
このわたしが、ヒゲごときに後れをとるなんて……」
「ねぇ雪ちゃん、ユリリンってそんなに強いの?」
「こないだこれのネット対戦の世界大会で21位だったって言ってたよ。
ちなみに私は9位だけどね」
「へぇ~……って9位!?」
だが、そうした邪推も彼らの笑顔を見ていたら、瞬く間に消えてしまう。
いや……事実こうして平和なのだ。
細かく無粋な突っ込みは野暮というものだろう。
皆楽しい、俺も楽しい。
それでいいじゃないか。
なにもないのは良いことだ。
「木崎なにやってるのよ、あんたも来なさいよ~」
「おーう、今行く!」
今更疑っても仕方あるまい。
こうなったらとことんまで楽しもうじゃないか
そうして俺も、笑顔で彼らのもとへ歩み寄った―――
なんて……そうなると思った?
残念!
これはただの俺の願望だ。
現実はそう甘くないのさ。
さて、それでは本当の部室へと戻ろうか………。
狂乱の文研部にウェェェルカァァァム!!
ーーーーーー
ーーー
ー
その前に、今まで唯一説明をしなかった部員について話そう。
そう、秋津百合だ。
電子情報学科に通う二年生。
背が高く、眼鏡をかけているのが特徴の女の子。
普段は大人しいほうで、大抵テレビの前にいる。
この部では古株で、初期メンバーである俺、拓真、工に続いて四人目の部員となる。
彼女の研究分野はアニメ。
もはやテレビ前は彼女の定位置と化している。
学校では昔の作品を鑑賞しているが、家では最近のものを見ることが多いらしい。
他にも、イベントに参加したり、CD・サントラを買い漁ったりなど、一般的なアニメの楽しみ方をしている。
ごく普通のアニヲタ、というわけだ。
ここだけだと、色モノ揃いの我が文研部の中でも常識的な方に聞こえる。
たしかに普段はそうだ。
一心不乱にアニメを見てるし、元の性格がオタクっぽいからな。
どちらかというと、彼女は騒ぐ側ではなく巻き添えを食らう側だ。
……だが、そんな彼女にも、やはり暴走を始めるスイッチがある。
むしろその中身が中身なだけに、一度暴走をはじめたら他の奴らよりもたちが悪い。
そのスイッチとは……
「ジークガァァァル!!」
彼女が真正の女の子好きだということだ。
「落ち着け秋津!
四ノ宮をいきなり襲おうとするな!」
「は、はなせ!
汚らわしい男子め、私の邪魔をするな!」
四ノ宮が自己紹介した途端、襲いかかろうとした(もちろん性的な意味で)秋津を羽交い締めにする。
俺が四ノ宮をこの部に入れまいとした理由の大本はこれだ。
秋津が彼女を見たら興奮して手が付けられなくなるのは明らかだったからな。
四 ノ宮は清楚系の容姿をしている。
最近は俺の中でそのイメージが崩れつつあるが、外見はまごう事なき美少女なのだ。
秋津がこうなるのも無理は無い。
俺に捕まりながらも、秋津は息を荒くしながら四ノ宮へと話しかける。
「ハァ……ハァ……ねぇ、四ノ宮さん!
ちょっと私と下行かない?
前からマークしてたホテルがあるんだけど!」
「うぇぇぇ!?」
突然のことに四ノ宮がドン引きしている。
そりゃそうだ。
だれだって初対面でこんな情熱的な告白されたら、こういう反応をする。
ちなみに下というのは富津市内のことだ。
学校が丘の上にあるからな。
「あっ、くそこいつ!
暴れるな!」
「ふんがぁぁぁ!!」
……その顔と叫び声は女子がやっちゃダメだと思う。
ガチで目が血走ってるからよけい怖い。
激しく藻掻く秋津相手に悪戦苦闘していると、
「木崎、縄いるか?」
「おお、助かる!」
そう拓真が尋ねてきた。
これはラッキーだ。
縛っておけば、この暴れ馬も四ノ宮へと突進していくことはできないだろう。
拓真の提案に一も二も無く承諾する。
なんで拓真がそんなものを持っているのかは、この際気にしてはいけない。
「荒縄と金属縄しかないが、どっちがいい?」
「金属縄で。
荒縄じゃこいつは引き千切りそうだ」
「了解だ」
「なんで二人ともそんなに手際良いのよ……」
甘月がため息交じりにそういうが、スルーしておこう。
「拓真は体を押さえてくれ。
顔には気をつけろよ。噛みついてくるかもしれない」
「合点承知!」
「うがぁぁぁ!四ノ宮さぁぁぁん!!」
拓真の手助けもあって、愛欲の魔獣と化した秋津を、なんとか捕縛することに成功する。
まったく、手こずらせやがって。
頭が冷えるまで、廊下にでも捨てておこうか。
「ちくしょー!ジークガァァァル!!!……」
断末魔の悲鳴をあげる秋津を、ポイッと廊下に放り出す。
まだ懲りずに暴れ続けてるみたいだが、もう無視しておこう。
「ふぅ……任務完了」
「お疲れさま、木崎くん」
汗を拭う俺に、華月が冷えたコーラのボトルを渡してくれる。
その無邪気な笑顔が目に眩しい。
気が利くものを持ってにっこりと微笑む姿は、まるで天使のようだ。
あぁ……癒されるなぁ。
「なぁ、華月」
「ん?なに?」
「下のホテル行こうか」
「ふぇぇぇ!?」
おっと、思わず衝動的に言ってしまった。
華月は顔を真っ赤にして驚いている。
なかなか反応がピュアで可愛らしい。
「その……木崎くん。
ボクは……男、なんだよ?」
「「な、なにぃぃぃ!?」」
「いまさら!?
木崎くんはボクのことをなんだと思ってたの!?
ていうかなんで小林くんまで……」
しまった、見た目が美少女だから完全に忘れてたぜ。
意識してないとうっかり彼を彼女だと思ってしまう。
……それにしても。
そうか……
華月は男、か……。
「ねぇ、なんで二人ともそんな残念そうな顔をするの?
なんでボクを見てため息をつくの?」
「……気のせいだ」
「そうそう、気のせいさ………ハァ」
「やっぱりついてるじゃんか!」
そんな俺達に、華月は頬を膨らませる。
しかし、元の素材が良すぎるせいで、イマイチ迫力に欠けていた。
むしろ可愛らしさが増している。
華月は俺達がそう思っているのに気付いていないのか、プンスカと拗ねている。
この美少…年は、どんな顔をしても魅力的なのだから、まったく困ったものだ。
「まぁ……それは置いといて。
それよりせっかくの歓迎会なんだ、ゲームでもしようぜ。
な、四ノ宮?」
「へっ?
あ…う、うん」
まだ秋津からのショックを受けていた四ノ宮は、咄嗟の反応ができず、素っ頓狂な声をあげた。
びっくりしたせいか、彼女の口調が以前に戻っている。
再びここにも美少女発見だな。
まぁ、こっちの美少女はもともと見つけていたのだが。
ここ数日はどっかに隠れてしまっていたようだ。
久しぶりのご対面だ。
相変わらず親しみやすい爽やかな感じをしている。
気の強い彼女もいいが、やはりこっちの方が俺的には好みだ。
ドS四ノ宮だといろいろ危険だしな。
……主に俺の命が。
「ど、どんなゲームをするの?」
「そうだな……」
いってはみたものの、特に何も考えてなかった。
皆で出来て、盛り上がれるもの……うーん……。
「皆はなんかやりたいものあるか?」
「「ツイスターゲーム」」
「お前らは少し自重しろ」
拓真も甘月もロクなこと考えてないな。
絶対エロ方面で思いついたゲームだろ。
負ける気はしないが、仮に四ノ宮と対戦することになったら、多分俺の命は無い。
ラッキースケベは赦されない、それが現実だ。
「王道に人生ゲームなんてどうかな?」
今度は華月が提案してきた。
たしかに王道なゲームだが、盛り上がるな。
「それいいな、流石は俺のお嫁さんだ」
「む、婿の間違いでしょ?」
「……ツッコみませんよ。
……ウチは知ってるですよ、それが二人がこないだ読んでた小説のネタってこと」
ちっ、バレたか。
「どうした工。
いつもはバカなくせに今日は冴えてるじゃないか」
「……木崎はウチをなんだと思ってるんですか?」
「ロリマッドサイエンティスト」
「……光咲ちゃんにチクるですッ」
やめて!
それをされたら俺の命が無くなっちゃう!
「……せっかくの光咲ちゃんの歓迎会なんです。
……ウチだって少しは大人しくするですよ」
………。
なんと……。
「……ホントにどうしたんだ?
熱でもあるんじゃないのか?」
「……この野郎!ぶっ飛ばしてやるです!」
怒った工が両腕を振り回しながら突進してくる。
しかし、いかんせん身長差があるせいで、止めてやると手が届かなくて宙を切っていた。
なかなか微笑ましい光景だ。
しばらくすると工は疲れたのか、息を切らしながらへたり込んでしまった。
そのまま拗ねたようにそっぽを向く。
陰キャ故の運動不足だな。
容姿も相まって子供みたいだ。
「それで、結局どうするんだ。
人生ゲームにするのか?」
「……それならこないだ、小物が無くなってたから捨てといたです」
「あー……そういやそうだったな」
「そういえばオセロとかも駒が足りなくなってたよ」
「乾電池も残り少なくなってきてたぞ」
「そろそろ備品揃えないといけないかもな」
「ゴムとかもね」
「何のためにだよ……」
「知りたい?」
「結構だ!」
「ねぇ……ゲームは?」
おっと、話が逸れてしまった。
やるものを決めないと。
「うーん、どうするか……」
「なぁ優真、もう王様ゲームでいいんじゃないか?」
「王様ゲームか……」
誰もが知ってるパーティーゲーム、それが王様ゲーム。
ルールは簡単、王様が命令を下すだけ。
「たしかにそれなら準備に大して時間は要らないし、確実に盛り上がれるな……。
お前らはどうおもう?」
「いいんじゃない?」
「うん、いいと思うよ」
「……ウチも同じです」
他の三人は、賛成のようだ。
肝心の四ノ宮はというと、
「王様ゲーム!?
やりたい!」
すごい食いつき様だった。
この反応なら、やってもいいだろう。
かくいう俺も結構ワクワクしている。
「なら、やるか。
準備するから少し待っててくれ」
「「「「「はーい」」」」」
こうして、俺達は王様ゲームをすることになった。
そしてそのころ、廊下にいる秋津はとういうと………
「………」
完全に放置されていた。
GII、30話目に到達!
読んで下さり、ありがとうございます!




