第21話 「対策会議」
第21話、お届けします
在原、染谷、沓城、佐渡、四ノ宮、そして俺。
今、会議室のホロボードの前に立っている面々だ。
その俺達の前には、第四支部に所属するIG部隊の隊員達がひしめいている。
小隊数にして8、総勢37人がさほど広くない会議室に所狭しと並んでいるのだ。
質素な部屋には、すでに熱気が立ちこめていた。
「傾注!」
染谷の一喝が入り、ざわざわとしていた集団が静かになる。
37人の視線が俺達の元へ注がれる。
じんわりと汗ばんでいるのは熱気のせいではないだろう。
俺は昔から集団の前に立つのが苦手なのだ。
「これより、《エネミス》に関する緊急対策会議を始める。
総員、休め!」
ザッという揃った足音。
完全に一致した動作で隊員達が休めの姿勢をとった。
ーーー
「あー…、それではまず報告から。
先日の第六小隊による強襲任務については皆知っていると思う。
小笠原諸島の甥島で発見された《エネミス》の拠点にて、新型の《エネミス》が発見された」
会議室に在原の声が響き渡る。
隊員の間ににわかにざわめきが広がった。
一応、こないだの任務の内容と、黒い《エネミス》が発見されたことは、既に支部内に知れ渡っている。
恐らく本部の方にも報告がいっているだろう。
「この新型―以後これを上位種型と呼称する―の特徴としては、脅威的な出力だ。
なにしろ〔ヴァイツ〕が力負けしたほどだからな」
さらにざわめきが大きくなった。
ここにいる全員が〔ヴァイツ〕のパワーがどれ程か知っている。
驚くのも当然だろう。
「そしてもう一つ、奴には特異点がある」
少し在原の声が大きくなった。
ざわめきが収まり、彼の言葉に耳が向けられる。
「それについては実際に戦った者から訊いたほうがいいだろう。
私もまだ実感が持てないのでな……木崎特務一尉!」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれた。
びっくりして裏返った声が出てしまった。
在原は気にした様子も無く、ずっと無表情だ。
「説明を頼む」
「りょ、了解です!」
あの戦闘について思い返してみる。
漆黒の怪物が、脳裏に浮かんできた。
屈辱の記憶が蘇る。
機体を襲った衝撃。
振り上げられた腕。
そして、絶望と恐怖。
全身に不快感と嫌悪感が広がるが、それらをなんとか抑えつける。
気持ちは切り替えたつもりだったのだが、どうやら俺は相当参っているようだ。
まだしばらくは、この感覚に苛まれそうだ。
敗北の記憶というのは、想像以上に根が深い。
だが、無理やり思考を切り替えて考察を伝える。
「……あの黒いエネミス―ガープは、右腕に何らかの強力な兵器を備えていると思われます」
「ほう、その兵器とは?」
「恐らく、振動兵器かと」
触れただけで、IGの強固な複合装甲を粉々に砕き、さらにフレームまで破壊するなど、超音波を用いた振動兵器しか考えられない。
それに、空間を超高周波で揺らすタイプのものならば、カゲロウの榴弾を着弾前に防ぐことも可能だ。
ついでに、これはホープが導き出した答えでもある。
アイツの高度な演算能力でも保証されているのだから、ほぼ確実だろう。
「有効範囲は恐らく掌から1mほどです。
ギリギリまで接近しなきゃいけないから、基本的に防御手段として用いられると思います」
「つまり、接近されなければ脅威ではないと?」
「はい。
ただし、遠距離から銃撃を食らわせるとしても、榴弾は奴に通用しません。
もしかしたら徹甲弾も…」
「そうか……」
質問をしてきた在原は、そこでいちど考え込んだ。
「ふむ……左にはその兵器が搭載されているのか?」
「いいえ、それはないと思います。
腕の形状がまず違いましたから」
「翼などには?」
「散々マシンガンやライフルを食らわせましたが、一度も使うことはありませんでした。
形も通常型と変わりませんでしたし、ないと思います」
「絶対防御を持っているわけではないということか。
なら、奇襲は成立するな」
ここで、初めて在原は表情を変えた。
今まで無表情だったのが、悪戯を思いついた少年のような笑みに変わる。
今彼の脳内では、きっと幾つもの作戦が組み立てられているのだろう。
伊達に最古参の古強者と言われている訳ではないということか。
しばらくすると、彼が口を開いた。
「……そうだな。
木崎特務一尉、昨日君と四ノ宮特務二尉が考えていた案を述べたまえ」
唐突にそんなことを命じてきた。
本当に唐突だった。
というより……
「えっ……?なんで知ってるんですか!?」
彼がそれを知っていることのほうが驚きだった。
なぜだ。
確かに結構な時間話し合っていたけど、外に人の気配は感じられなかった。
一体どうやって知ったんだ?
「なんでもなにも……ここは私の基地だぞ?
どこだろうが、執務室からは丸見えだ」
納得。
そりゃそうだ。
彼はここの長なのだ。
支部内のことは大体把握していて当然だった。
もちろん、俺達がどこでなにをしていようと筒抜けだろう。
妙に恥ずかしい。
誰も見てないと思って、四ノ宮とは開けっ広げに話していたのに……。
これはあれか。
放課後教室で一人で熱唱してたら、先生が入ってきちゃったみたいな心情か。
「どうした、特務一尉?」
黙り込んだ俺に在原が促してくる。
しまった、案を訊かれてたんだった。
「は、はい。
では……」
少々しどろもどろになりながら、俺は説明を始めた。
ーーー
「……という感じです」
「そうか、ありがとう」
俺が説明を終えると、在原は再び熟考しはじめる。
目線を中空の一点に定めながら、ずっと沈黙している。
やがてしばらくすると、視線を前に戻し、今度は染谷に話しかける。
「貴之、どうだ?」
「は、特に問題は無いかと」
「彼では不安とは思わんのか?」
「失礼ながら、恐らく単独で奴と渡り合えるのは、この支部では木崎しかいないと思っております。
もちろん〔ヴァイツ〕を含めて、ですが」
「そうか、ではその案でいこう」
へ?
「え、俺の案でいくってことですか?」
「そうだ。
実際君か四ノ宮特務二尉以外に奴とは戦えんだろう」
「は、はい。ありがとうございます!」
「というわけだ諸君!
もしガープと遭遇した場合、彼の手順通りに行動しろ。
もちろん、危険の無い範囲でな。
無理だと思えば即座に撤退して構わん、いいな?」
「「「了解!!」」」
在原の言葉に隊員達は威勢良く応じる。
「それでは解散だ。
総員、それぞれの仕事に戻りたまえ」
在原の号令で解散になる。
随分とあっさり、緊急会議は終わってしまった。
ーーーーーー
ーーー
ー
「よう、ホープ。元気か?」
『GS-001〔ヴァイツ〕は現在大規模改修中です』
場所はブリーフィングルーム。
俺は、端末にアクセスしているホープと話していた。
暇があれば、俺はよくこうしてホープと会話をする。
AIだろうがなんだろうが、コイツには何度か助けられた…いわば戦友だ。
たとえ感情がなくても、コミュニケーションはとりたかった。
まぁ、コイツの学習結果を蓄積させるという目論みもあるのだが。
そんな俺の問いかけに、ホープは言外に「元気なわけあるか」というニュアンスを含めて返してきた。
いや、そんなニュアンスが含まれているのかどうかは判らないが。
「大規模改修?
肩パーツを取り替えるだけじゃなかったのか?」
『否:内部破損が多かったため、これを期に総点検を行うようです』
「そうだった、な……」
そういえばリアクターが破損とか言ってたな……。
夢中だったから聞き流していたが、とんでもないことをしたものだ。
「悪かったな、ホープ。
機体ぶっ壊しちまって……」
『答:あなたが気にすることではありません。
不運と不運が重なっただけの、ただの事故です』
AIに気遣われてしまった。
まったく、情けないな。
「じゃあ……いつも通り装備企画造るか?」
『了解』
この会話の一番の目的は、俺にあった装備のセットを作ることだ。
出来たセットを基本として、任務に合わせて装備を決めるのだ。
今のところ、〈カゲロウ〉をメインとした銃撃戦目的の装備編成を考えているのだが……。
「じゃあ、これなんてどうだ?」
『評価します……完了。
適性率53%です』
「これもダメか……」
なかなか上手くいっていない。
目標値は90%以上なのだが、大抵60にも満たないことが多い。
すると、ホープが意見を述べてきた。
『告:木崎殿、まず多すぎます。
装備過多は機動性と運用性を欠きます』
「けどなぁ……ヴァイツの出力ならいけるんじゃないのか?」
『その考えはあまり肯定できません。
コードネーム《ガープ》に敗北した一因は、この装備過多にもあると思われます』
うっ……それを言われると苦しい。
『〈カゲロウ〉を主兵装とするのであれば、その他の兵装は〈アストレア〉のみにしたほうが良いでしょう』
「銃撃戦は?」
『不安であれば〈ボフォースMk.6〉、ですが腕部ショットキャノンのみでも十分です。
機体の機動性を活かすためには、これ以上の積載は機体性能を殺すことになります』
なるほど、そういう考えもあるのか。
今まで俺はずっと、武器の種類で戦おうとしていた。
だが、確かにそれは性能を殺すことになるのかもしれない。
多く載せられるからって、常にMAXで載せればいいってものでもないしな。
ヴァイツの強みは素体性能の高さでもあるのだし。
そうだな、次は武装を少なめにしてみるか。
そうしてホープの意見も取り入れて構成を考えていると、突然ブリーフィングルームの扉が勢いよく開け放たれた。
びっくりしてそちらの方を見ると、そこには
「木崎聞いたよ!やるじゃない!」
沓城が立っていた。
走ってきたのだろう、はぁはぁと荒い息をついている。
ど、どうしたのだろう……?
「舞さん、どうしたんですか?」
「ありゃ、光咲ちゃんから聞いてないの?」
??
「なにをです?」
四ノ宮?
全く身に覚えはないが。
そう尋ねると、沓城はニヤ~ッと笑い、
「そっかぁ~聞いてないのか~」
と楽しそうにいう。
一体なにがあったのだろうか。
気になってしょうがない。
「何なんですか?」
「いや~実はね―――」
だが、沓城がその先を続けようとしたとき……
「舞さぁぁぁん!!」
彼女の言葉はもう一人の乱入者によって妨げられた。
ブリーフィングルームのスライドドアが、再び勢い開け放たれる。
そして、その長く綺麗な黒髪を振り乱しながら、話題の中心人物が現れた。
「あちゃー、追い付かれちゃったかぁ~」
「あちゃー、じゃありませんよ!悪ふざけはやめてください!」
「でも光咲ちゃん、顔真っ赤だよ?」
「走ってきたからですよ!」
焦ったような四ノ宮に対して、沓城は心底楽しそうだ。
のほほんとして、四ノ宮をからかっている。
四ノ宮は割と余裕が無さそうだ。
よっぽど大事なことでもバレたのだろうか。
「とにかくっ!私とアイツはそんな関係じゃありませんから!」
「ホントにぃ~?」
「本当ですって!」
一体何の話をしているのだろうか。
さっぱり話の流れが見えない。
「なんの話をしてるんだ?」
「木崎はいいの!」
「あっ、ちょっと光咲ちゃん!」
そうこうしているうちに、四ノ宮は沓城の腕を引き部屋を出てしまった。
本当に唐突であっという間の出来事だった。
と思ったら、
「本当になんでもないんだからね!
気にしちゃダメだからね!!」
扉から顔だけ出した四ノ宮が、そう強く念押ししまた出て行った。
ホント、なんだったんだろうか……
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ーーー
ー
その答えは翌日の月曜日に、判明した。
間話です




