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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第一章 起動編
2/51

第1話 「〔ヴァイツ〕起動〕」

次回の投稿は5/1の予定です

 



 《エネミス》、という謎の襲撃者が現れるようになったのはいつ頃からだったか。

 灰褐色の怪物のような形をした、謎の機械軍団。

 大抵3~5機くらいで上空から現れては、見境無く辺りを攻撃していく恐怖の訪人。

 大抵、自衛隊や駐在米国軍によって撃退されるが、時には街一つが壊滅してしまうほどの被害が起こることもある。


 それ程の力を持つ物が、一体どこで生まれたのか、どこから来ているのか。

 そもそも人が生み出した物なのか。

 その正体は未だに分からない。

 曰く、宇宙からの侵略者。

 曰く、国際テロ組織の秘密部隊。

 その正体について憶測は憶測を呼び、論議は絶えない。

 それ専門のまとめサイトまで開設されているほどだ。


 彼らは大都市や観光地など、人が多く集まる場所に現れることが多い。

 ニュースや情報サイトなどで被害状況がよく報じられている。

 しかし、ここ最近は都市郊外の開発区や湾岸部にも出没しているらしい。

 そして………………とうとう



 エネミス(奴ら)は、この街にもやってきた。




 ーーーーーー




『今日は一日中雲が晴れることは無いでしょう。しかし、雨等は降ることは恐らくありません』

 今朝の天気予報では確かにこう言っていたはずだ。

 テレビでそう言っていたのを覚えている。

 だというのに………




 空から、なにかが落ちてきた。




 膨大な質量と落下エネルギーを伴った()()は、校舎と離れた体育館の真上に激突する。

 崩れる体育棟のドーム型の屋根。

 轟音と共に巻き起こる粉塵。

 コンクリート製の壁はひび割れ、砕けちった瓦礫の山へと変わっていく。


「え………?」

「なにが起こったの?」

「この世の終わりや…………」


 ぞろぞろと列になって避難していた生徒の群れに驚愕と困惑のざわめきが広がる。

 突然の出来事に周囲の視線は当然()()へと向けられる。

 やがて粉塵が晴れてくると、少しずつ来襲者の姿が見えてきた。

 巨大な機械のようだ。

 それも人型っぽいな。

 粉塵に隠れて、部品なのか機体なのかわからないから、壊れているのかすらわからない。

 壊れているなら衝撃で爆発するから避難した方がいいのだが…………。


 その姿がもう少し詳しく見えてくると、驚愕の声は疑問へと変わっていった。


「なんの機械だろ」

「アームっぽいのあるから作業系統じゃない?

 大きいし、搭乗式の現場踏み込みタイプのやつ」

「それにしてはいくらなんでも大きすぎじゃねぇか?」

「大型建造物用だったらあのサイズもあり得るだろ」


 慌てて逃げ出す者は少ない。

 むしろ皆極めて真面目に侵入者について考察している。

 普段から変わりばえしない退屈な日常を過ごしている生徒達にとって、このような非日常な状況はむしろ好ましいものでさえ有るのかも知れない。

 中にはパシャパシャと携帯端末のカメラを向ける者や、それをさっそくSNSに投稿する者までいた。

 肝っ玉の据わっている強者たちである。


 と、拓真がヒョコヒョコと隣に寄ってきた。


「優真、あれ何なんだろうな。

 貨物機から落っこちてきたGワーカーかねぇ?」

「たまたま《エネミス》の襲撃に居合わせちまったってのか。

 いくら何でも熱源探知機能で気付くんじゃ無いのか?」

「どうだろうな」

「それより避難した方がいいと思うんだがな、俺は。

 警報はまだなってるんだし」

「それがよぅ、瓦礫でシェルターに続く通路が塞がれちまったみたいなんだよ。

 いま先生達がGワーカー使って瓦礫撤去中なんだってさ」

「ふーん」


 実習用の道具って意外と便利なんだな。

 そうこうしている間にも巻き上がった粉塵はゆっくりと収まっていった。

 やがて土煙が晴れ、その全容があらわになる。

 その巨大な機械は屋根に埋もれるような体勢のまま、沈黙していた。


「……………」


 俺も呆気にとられてそれを見つめた。

 そのあまりの偉容に度肝を抜かれたからだ。



 崩れた体育棟にもたれ掛かった大きな()

 複雑に組まれている装甲に包まれた()

 厚くせり出した()

 コンクリートの残骸に埋もれた細い()

 そして、カクンと項垂れたような…………()



 ……………………巨大な鋼鉄の人型機械(巨人)



 簡易な装甲のGワーカーではあり得ない。

 落下の衝撃に耐えきれず着地と同時に爆散し、あれ程までに完全な形では残らないからだ。

 なら、あれは………………



「まさか、軍用機甲人形(アイロンガーディアン)……………?」



 ーーー



 軍用機甲人形(アイロンガーディアン)

 高い機動性能と運動性を兼ね備えた、人型の機動兵器。

 対応できる環境の広さはさることながら、圧倒的なサイズを持ち、歩兵火器では傷一つつかないほどの装甲硬度を誇る。


 現代において〈最強〉の名をほしいままにする兵器たち。


 それ程の兵器がこの世に誕生したのは………僅か20年ほど前だ。

 大きな戦争や紛争など滅多に起きることが無い、平和な現代に置いて、それは異常な早さと言えよう。

 これらが産み出された当時、専門家たちは口を揃えて、


「わざわざ人型にするなど非効率だ」

「動作の負荷に搭乗者が耐えられるわけが無い」

「予算と資源の無駄遣いだ」

「的を量産して何になる」


 とこき下ろした 。

 そして彼らはアイロンガーディアンの戦果を目の当たりにして、大恥を搔くことになる。

 歩兵など言わずもがな、塹壕は意味をなさず、地雷は踏み潰された。

 戦車ですら相手にならなかった。

 速度、機動性、運動性、携行火力、捕捉性能、装甲硬度……………。

 全てに置いてアイロンガーディアンの方が上回っているのだ。

 戦闘機などですら、近づく前に撃ち落とされた。

 駆動部の柔軟性が桁違いなのだ。

 アイロンガーディアンが台頭してくる前まで最強と言われていた戦闘ヘリ(VTOL機)も、最初の方こそやや苦戦するだけであったのに、今では数機でやっと抑えるだけが精一杯というのが現況なのだ。



 それにしても初めて見るタイプだ………。

 姉さんのパソコンの、見させてもらった(こっそり盗み見た)データベースにはこれと同じような機体は無かった。

 日本で広く配備されている〔九十一式〕にやや似ている。

 たしかに肩や脚部はがっしりとしているし、前腕部ウェポンラックになっているのだろうか、太くなっている。

 だが、全体的にずんぐりとした〔九十一式〕に比べて腰部や二の腕は引き締まっている。

 何よりその顔が違う。

 前が開いた兜を着けたような顔。

 そして、その輝きは失せているが、()()()()があるのだ。

 現代のアイロンガーディアンは大きな一つ目(モノアイカメラ)が主流だ。

 前頭部にはアンテナのような鋭い角が一本。

 髷のようなサブセンサーの上に乗る形で屹立している。

 姿だけ見るならば、身軽そうだ。

 シャープな全体は細身のロングソードを思い起こさせる。

 強固そうな装甲はこれだけの衝撃を受けて尚、傷だらけではあるものの、大きく破壊されていない。



 地に伏して尚、その威厳ある姿は、まさしく《最強》に相応しい。



 一方で、主装備が見当たらない。

 首元には牽制砲だろうか、二門のバルカン砲を備え、右腕に固定式のブレードがある。

 だが、一目見て分かる武装はそれだけしか無い。

 《エネミス》と戦っていた割には武装が少ない。

 普通は種類は問わないが、大なり小なり重火器を持っているはずだ(圧倒的な大きさを誇るアイロンガーディアンが持つ火器は砲台並みの口径とサイズを持つため、歩兵の小銃に当たる物でも重火器に類される)。

 あれでは火力不足だろう………。

 見た感じ空戦専用機というわけでもなさそうだが………。

 試験中だったのだろうか…………?。


 と、よく見るとコクピットハッチが開いている。

 落下の衝撃の反動だろうか?

 大きく前にせり出している胸部のコクピットは、上下二層式のようで大きく前面に開いている。


 ふと気づいた。

 粉塵に隠れてよく見えないが、コクピットの中から黒い塊のようなのがもたれ掛かるようにはみ出だしているようだ。



 そう、まるで人のシルエットみたいな…………


「あっ、おい優真待てよ!」


 次の瞬間、拓真の静止を無視して俺は走り出していた。




 ーーーーーー

 ーーー

 ー



『……………四ノ宮特尉ご無事ですか?…………四ノ宮特尉ご無事ですか?』


 サポートAI(ホープ)の無機質な声が聞こえた。

 意識は朦朧としている。

 だが、激しい痛みがあるものの、感覚が活きている。


 ………………私、まだ生きてる………の?


 ホープの声がまた響く。

 無機質だが落ち着いた男性の声だ。


『搭乗者の生存を確認。

 状態は深刻と判断。

 告:緊急搭乗者離脱シークエンス、モード3を実行します。

 速やかに離脱してください。

 繰り返します。

 緊急搭乗者離脱シークエンス、モード3を実行します。

 速やかに離脱してください。

 繰り返します……………』


 ぼやける視界。

 すると、前面が大きく開かれ、操縦席が前に押し出された。

 意識が混濁していて、どうなっているのかが分からない。

 コクピットが開かれたのだろうか。

 押し出された反動に体を支えきれず、私は前のめりに倒れる。

 離脱のためにシートベルトや、固定装置は外されていた。

 頬が、冷たい。


『告:搭乗者離脱に伴い、機密保持のため戦闘データの削除を行います。

 完了しました。

 当機はこれより待機サイレントモードに移行します。

 ………………特尉殿、ご無事で』


 健気にもプログラムを忠実に実行するホープ。

 それきり、黙り込んでしまった。


 私はもう、動けない。


 あの絶望的な状況下で私はよく戦ったと思う。

 試験運用中に突如奇襲され、追い詰められたが、3機は撃墜したのだ。

 最後の1機は桁が違ったが…………。


 と、その時揺れ動く視界の端にこちらに駆けてくる人影を見つけた。 


 ああ、待って。

 来ちゃいけない。

 だって《エネミス》はまだ1機残って…………。


 慣れた様子で人影が昇ってくる。


「……………おい、しっかりしろ………おい!」


 力強い腕。

 優しく抱き留められている。



 …………温かい。



 ()()()とは違う、人の温もり。



「………お願い…………この子を……〔ヴァイツ〕を…………お願い……」



 無意識にそんな事を口走っていた。


 無責任なことを………。

 こんな、争いとはほど遠い青年に人生を壊すようなことを言うなんて。

 年は同じくらいか。

 平和な日々を送っていたというのに、私のせいで。

 激しい後悔が襲う。

 自責の念が心を強く締め付ける。


 お願い、無理だと言って…………。

 私のことなんて放って置いていいから。


 衰弱した少女にそんなことを言われて断れる男なんてそうそういないのに、混濁した意識ではそれに気付けない。

 自分で巻き込もうとしておいてほんと勝手なものだ。

 やはり、青年は優しく言った。


「…………分かった、だからもう休んでろ。

 すぐに戻るから………」


 その時、初めて私の体を抱き留めている人の顔が見えた。

 整った顔だ。

 決して美形というわけでは無いが、優しそうなそれでいて強い意志を感じる顔。

 私を覗きこむ瞳は不安げに揺れているが、その奥に揺らがぬ決意が見えた。


 この人なら…………任せてもいい、かな?


 何故かそう思えた。

 久しく感じたことのない安心感が心を満たす。


 …………温かい。


 再びそう思った。



 そして、私の意識は落ちていった。



 ーーーーーー

 ーーー

 ー



 それきりパイロットの女の子は気絶してしまった。

 俺は揺らさぬ様に優しく地面に下りた。

 適当に安全そうな場所を見つけ、横に寝かせてやる。


 …………こんな時に思うのも難だが、めっちゃ美少女だなこの子。


 さらさらとした長い黒髪。

 スッと通った鼻梁。

 ふっくらした桜色の唇。

 まさしく可憐と言うべき端麗な容姿は、衰弱して直美しさが損なわれていない。

 目を覚まして笑ったらさぞかし綺麗なんだろう。


 …………実はさっき運び出すときに、手が尻に当たったんだがあれはヤバかった。

 ヤバいとしか言い様がなかった。

 特に弾力が………


 ―これ以上ここにいると大変なことになりそうだ。

 俺は変態じゃない。

 抵抗出来ない美少女を襲うようなクズではないのだ。

 さっきのは不可抗力だ、仕方が無い。

 俺は変態なんかじゃないんだ。

 そう言い聞かせ俺はその場を後にした。


 傍らに立ち、俺は機体を見上げる。

 彼女はこの機体を〔ヴァイツ〕と言っていた。


 〔(ヴァイツ)〕か。

 ………………俺が嘗て乗らせてもらってた機体とは真逆の名前だな。


 ふと思い出した。


 しかし、やはりどこか()()()()と似た感じがする。

 あれも試験機とか言ってたから後続機か何かだろうか。

 なんとなく面影を感じた。



 その時、周りが騒々しくなった。

 悲鳴や驚愕の声が響く。

 同時に辺りにブーンという虫の羽音のような不快音が響き渡った。



 そう、恐怖が舞い降りてきた。



 ーーーーーー



『告:敵機接近を確認』


 停止していた〔ヴァイツ〕のコクピットから警報が鳴った。


「ちっ、もう来たのか」


 舌打ちしつつ、俺は急いで機体によじ登る。

 乗らなくなって結構経つが、体はまだ覚えていたらしい。

 素早くコクピットまで辿り着き、操縦席に腰掛ける。

 〔ヴァイツ〕は俺が座ったのを察知したのか、自動で俺ごと操縦席を内部に格納した。

 コクピットハッチが閉ざされる。


『新規搭乗者を確認。

 名前とパーソナルIDをお答え下さい』

「木崎優真。N23517」

「了:データ照合中。

 完了。

 搭乗者(パーソナル)データ、木崎優真を確認。

 システムを起動します。

 レディ』


 低い稼動音と共に機体が起動する。

 と、その時知らない通知が入った。


『告:機体起動に伴いパイロット選定検査を行います。

 〈セレクターシステム〉スタンバイ』


 パイロットの選定?

 どういうことだ?

 それに、聞き慣れぬ単語が聞こえた。

 〈セレクターシステム〉?

 なんだそれ。


「セレクターシステムとはなんだ?」

『否:機密です。

 あなたの権限では回答することができません』

「マスターコード。

 ■■■■■■。

 回答を要請する」

『否:コマンド系統外です。

 要請は受理できません』


 なに?

 マスターコードが使えないとは、余程の機密なのか。


「起動にはシステムの承認は必須条件か?」

『答:必須です」

「その検査とやらに合格出来なければどうなる?」

『答:機体を起動させることは出来ません』

「緊急事態で省略することは出来ないのか?」

『答:不可能です』


 そうか…………。

 用はこの事態を乗り切るためには合格するしかないってことか。

 既に《エネミス》はすぐそこまで迫っている。

 まだ生徒達は事態を呑み込めてないようだ。

 先生も含め大多数が校舎の周りに残っている。

 ここで全員を救えるのは……………俺だけだ。

 逃げることは―出来ない

 なら…………



 やるしか無いな。



 ーーーーーー



『告:〈セレクターシステム〉による搭乗者選定を開始いたします。

 レディ?』 


 やると決めても、やはり緊張するな。

 生き延びるために仕方ないこととはいえ、未知に対する本能的な恐怖はなかなか消せる物じゃない。

 背筋を冷や汗が伝う。

 鼓動が加速する。

 生唾をゴクリと呑み込み、俺は応じた。


「…………OKだ、始めてくれ」

『了承。

 実行します』


 通告と同時に目の前の画面に

 〈GRAND SELECTOR〉

 の文字が表示された。

 足首、腿、腰、背中、肩、前腕、そしてうなじに冷たいセンサーが押しつけられた。

 冷たいものを押しつけられ、一瞬ビクッとする。

 こらえるように、自然と俺は歯を食いしばった。


 そして、静かな駆動音だけがコクピットに木霊すること数十秒後。


『告:完了いたしました』


 あっさり終わった。


「へ?」

『問:検査結果の精密データを確認いたしますか?』

「い、いや、それより判定は?

 どうなった!?」

『答:合格です。

 セレクターシステムの判定により当機との適合率が、前任者四ノ宮光咲特務一等尉を上回る結果となっております。 

 よって当機はコードN23517・木崎優真を新規搭乗者に設定し、機体操作権限を全面譲渡いたします。

 よろしくお願いいたします、木崎優真殿』


 こうして、俺は呆気なく〔ヴァイツ〕のパイロットとなった。




 ーーーーーーー



『告:起動シークエンスを開始いたします』

「始めてくれ」

『ラジャー』


 機体の起動シークエンスが開始され、全ての画面に光が灯った。

 電磁式駆動部の静かな稼働音がコクピットまで心地よく響く。

 それはまるで鼓動のように、規則正しく力強く胎動していた。


 これがヴァイツ(こいつ)の鼓動か………………。

 いい音だ。

 こいつに秘められた力の強さを感じさせてくれる。


 座席に背を凭せかけて、〔ヴァイツ〕の暴れ狂うような胎動に身を任せる。

 と、そのときシステムAIが告げた。


『機体チェックを開始いたします。

 伝:損傷状態 81%

 出力状態 96%

 動作制御システム(Aバランサー) 良好

 火器管制システム 良好

 外界センサー 良好

 内部センサー 良好

 動力炉(リアクター)稼働状態 損傷有り

 機体同調率 91%

 燃料状態 22%

 各部接続状態 損傷有り


 警告:着地時の衝撃によりリアクターが破損、出力が低下しています。

 長時間の戦闘継続は不可能です。

 また機体の主燃料庫の損傷を確認。

 現在対処シークエンスを実行中、完了しました。

 サブバッテリーを使用いたします。

 これにより稼働時間は、戦闘態勢で15分ほど増加しました。

 加えて各部との接続状態に問題あり。

 0.32秒ほどのタイムラグが発生しています。

 こちらは対処不能です。

 至急、精密な整備点検が必要です。


 報告は以上です』


 なるほど。

 外から見ただけではわからないものなんだな。

 重ねて俺はきいた。


「武装はどうなっている?」

『答:現在使用可能な武装は

 ・30mm肩部ショットバルカン砲 

 ・右腕部ヒートブレード

 のみです。

 バルカン砲の残弾数は左右合わせて627発です』


 たったそれだけか…………。

 はっきりいって絶望的だな。

 だが、やるしかないんだ。

 コクピットの中央の画面に映し出された《エネミス》はゆっくりだが、着実に近づいてきている。


「…………現状でこの状況を打破できる可能性は?」

「答:かなり低いでしょう。

 ですが―』


 〔ヴァイツ〕のAIは落ち着いた声で続けた。


『―確率論に0と100と言う数値はあり得ません。

 希望を無くさなかった者が勝利するのです』


 少し唖然としてしまった。

 そして、腹の奥から笑いが込み上げてくる。


「……………ぷっ、ははははは!

 AIが希望なんて不確定的な表現を使うなんて、面白いやつだな」

『肯:私もそう思います』

「……………………いいぜ、やってやるよ。

 あの鉄屑には喧嘩を売った相手がわるかったと思い知らせてやるぞ!」

『了:作戦行動を開始いたします

 行きましょう、搭乗者(パーソナル)木崎殿!』



 やがて、目の前で黒い《エネミス》が地に降り立つ。

 そして、ほぼ同時に積もった瓦礫をはね除けて。



 白き守護者(ヴァイツ)は起ち上がった。




 ーーーーーー



 中央演算機構(MBI)から、骨格フレームを通じて人工筋肉に命令が飛ぶ。

 再び目覚めろ、と。

 眼前の(エネミス)をぶっ潰せ!と。

 動力炉から出力が各部に伝達され、アクチュエータが唸りをあげる。

 各部に力が漲り、ゆっくりと立ち上がった〔ヴァイツ〕。

 排出口から大量の蒸気が立ち上り、〔ヴァイツ〕の白い体を包み込んだ。

 そして光を失っていたその両目(ツインアイ)に輝きが戻った。

 蒸気の中から二つの輝きがしっかりと《エネミス》を見据えてる。 


 黒い《エネミス》と、

 白い〔ヴァイツ〕が応対する。

 構える両者。


 ……………良い機体だな、こいつは。

 動作の一つ一つから、従来のIGアイロンガーディアンとは比べものにならないほどの力強さを感じる。


 ふと俺は一つ聞いていないことを思い出した。


「ああ、そういやお前なんて名前だ?」

『答:GS-001 〔ヴァイツ〕です』

「いや、そっちじゃない。

 AIの方だ」

『了:了解しました。

 答:機体制御補助プログラム、個体名称〔ホープ〕です」


 そうか、希望(ホープ)か。

 なかなかユーモアのあるいいネーミングをしているじゃないか。

 俺は眼前の黒い《エネミス》を睨み付け、操縦桿を握る手に力を込めた。


「そうか、じゃあいくぞホープ!」

『アイ・サー』




 こうして、戦いの火蓋は切られた。







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