第2話 「白と黒の激突 前編」
5/1に投稿の予定でしたが、頑張った!
早めに投稿させていただきます。
《エネミス》なんて余裕だぜ!
そう思ってた時が俺にもありました。
ーーーーーー
大ピンチである。
威勢良く「いくぞホープ!」なんて言ったのに、5分と経たずに俺は追い込まれてしまった。
すっごい恥ずかしい。
穴があったら入りたいくらいだ。
あれを誰も聞かれていないだけ不幸中の幸いだ。
『…………………』
おっと、ホープ君何か言いたそうだね?
悪意有る沈黙だ。
呆れたような雰囲気を感じる。
しかし考えてみて欲しい、サバゲーマーが本物の軍人と戦って勝てる道理はないだろ?
いくらIGに乗れると言ったって戦闘ができるわけじゃない。
俺はテストパイロットだったし、操縦するといっても基本的に指定された動作をするだけだった。
模擬戦も一応やったが、機体性能はこちらのほうが圧倒的に上だったし、主武装としての銃火器もあった。
本職の軍人のように格闘戦の訓練など積んではいないのだ。
それに武装が少ないというのも痛い。
なにより、こちらには大きなハンデがある。
バルカン砲が使えないのだ。
俺の後ろにはまだ多くの生徒が残っている。
その上に瓦礫一つ流れ弾一つ落としてはいけない。
30mmといってもその大きさは砲弾並だし、その威力は絶大だ。
強固な装甲に包まれたIG相手なら然したる効果はないのだが、生身の人間では掠っただけでも大惨事だ。
寄って、武器の一つが封じられたまま生徒達を守りつつ、《エネミス》に銃火器を使わせないように接近戦を挑んでいる現状では、相手の攻撃を捌くだけでも精一杯なのだ。
ーーー
《エネミス》の攻撃の手は休まることを知らない。
眼前をまた、こちらからみて右側から《エネミス》の針状剣が掠める。
慌てて上体をそらしつつそれを避け、反撃とばかりに左腕でフックを狙う。
しかしその些細な反撃はいとも簡単に躱され、空を切った。
勢い余って蹈鞴を踏み態勢を崩した所に、左から銃口を突き付けられた。
「…………ッ!?」
発砲。
危なかった。
間一髪、俺は上へ跳ね除けるように《エネミス》の銃を蹴り上げた。
バリバリッと喧しく、宙を裂くような《エネミス》の銃撃が空を舞う。
俺を僅かな隙を逃さぬように《エネミス》の足を祓う。
しかし、ヒョイッとあっさり飛び越えられ、態勢が低くなっているところへ上からエストックが迫った。
地面を転がって紙一重でそれを躱す。
コンクリート製の地面を容易く貫き、地に突き立つエストック。
それをゆっくり引き抜き、起ち上がった俺を見据える。
まるで狩人が獲物をじっくりいたぶって狩っているかのように、この場の力関係は明白だった。
俺の攻撃は、ヤツに通らない。
《エネミス》の攻撃は、こちらが躱すのがやっとだ。
俺は攻撃は、満足に武器が使えない。
《エネミス》は攻撃は、どの武装を使うのも自由だ。
俺の攻撃は、決定打になり得ない。
《エネミス》の攻撃は、どれも致命打になり得る威力を秘めている。
機体性能は幸いなことにこちらのほうが有利の様だ。
しかし、それだけだ。
技術、経験、機体の状態、どれをとっても相手の方が上をいっている
勝てるはずも無く、負けるわけにもいかないこの戦い。
俺に打てる手と言えば…………。
「ホープっ!まだなのか!?」
『答:先程から要請中です。
先方がこちらの状況を確認し、要請受理を経て応援部隊が派遣されるまで、あと15分は掛かるものと思われます』
この機体の所属する〈ASCF〉とやらに救援を呼ぶことだった。
一体なんの組織なのか全く不明だが、今はそれ以外に手が無い。
これほどの機体を生み出せるほどの組織だ。
おそらく、何かしらの戦力は持っているだろう。
こいつに乗っていた彼女もたしか特務一尉とかいっていた。
ならば、万事休したこの状況では俺が出来ることはこれくらいしか無い。
出来る限り時間を、稼ぐ。
「くそっ!
こっちは10分でもキツいってのに―」
『告:接近警報。
右側です』
「くそったれがぁぁぁぁ!!」
再度襲い来る《エネミス》のエストックを捌き、その腕を抱え込む。
そのまま懐に潜り込み、そして思いっきり機体を踏み込ませる。
〔ヴァイツ〕のトルクが急上昇し、四肢の人工筋肉が大きく撓る。
そして、跳躍。
抱え込んだ《エネミス》ごとその場から大きく跳躍した〔ヴァイツ〕は、学校の裏手にある山の斜面に激突する。
巻き上がった土塊の波が〔ヴァイツ〕に降りかかり、白い装甲に黒茶色の染みを作った。
―危なかった、危うく意識を持って行かれそうになった。
まさかこいつがこんなに跳べるとは。
負荷Gに意識を持って行かれたら完全に終わるところだった。
パイロットスーツを着ていればこれ程負荷が掛からないのだろうが、生憎今の俺の格好は学校指定のブレザーだ。
対G緩和機能など付いているはずも無い。
と、そのときホープが告げた。
『警告:只今の衝撃で、リアクター損傷が悪化。
出力が低下しているため、稼働可能時間は残り約15分です』
「まじかよ…………。
それ以上は稼働出来ないのか?」
『答:不可能です。
それ以上の稼働は、当機のリアクターの暴発を招きます。
機体と搭乗者の安全を確保出来ないため、自動的に稼働抑制機能が働きます』
「そうか…………」
ちょっとリミットがキツいな。
……………だが、なんとかなりそうだ。
俺は少し自信と余裕を取り戻す。
ここまで追い込まれておいて、どこからそんなものが出て来るのかって?
俺の現在地は学校の裏手にある山の斜面中程だ。
学校からは、100mほど離れている。
つまり、周りには誰もいないってことだ。
せいぜい学校の敷地外へ出られたらなんとかできると思っていたが、予想以上の嬉しい誤算だ。
まあ、乗ってる俺からしたらあんな負荷は堪ったものじゃないが。
それに加えて、だ。
さっきまで俺は、ヒートブレードを使っていない。
別に《エネミス》を舐めていた訳じゃ無い。
簡単なことだ。
倒れた時に万が一、リーチのあるヒートブレードが生徒達の所に当たってみろ。
大量のスプラッタ画像の出来上がりだ。
そうでなくても、超高温のこの鋭いブレードは触れて無くても火傷するくらい熱いんだ。
じゃなきゃIGの硬い装甲なんて斬れやしない。
だが、この状況。
ヒートブレードだけじゃなく、バルカン砲までも方向さえ気を付ければ使えるのだ。
周りに守るべき対象が無いとなれば、護衛が任務であれば不安だろうが、今の俺の状況からしたら最高だ。
これで気兼ねなく、戦える。
さあ、黒い《エネミス》さんよ。
待たせたな、本気の戦いを始めようぜ。
これからが…………本番だ。
ーーーーーー
収納されていた、ヒートブレードを開放する。
右腕に、切断部が真っ赤に赤熱した、刃渡り3m強ほどもあるあつい刃がジャキッと現れた。
そのまま俺は、腰を落とし右腕を前に突き出して、拳闘士のような構えをとる。
ファイティングポーズというやつだ。
ホープは、ヴァイツは搭乗者と同調し、普通に体を動かすように意識するだけで、それがそのまま機体に反映されると言っていた。
実際その通りで、〔ヴァイツ〕は意識するだけで指先まで精密に動くのだ。
操縦していると、ああ動いているな、と言う感覚というか感触がある。
コクピットでは首筋にセンサーが当てられ―恐らく脊髄を精査しているのだろう―、足下や腕は包み込むようにカバーが取り付けられている。
なので固定されていないため、体の動きは余り阻害されず、座っているままの状態だが、実際にある程度自由にうごくのだ。
指先は操縦桿を握っているが、そこは脊髄や腕の神経から信号を読み取りトレースしているのだろう。
操縦桿に付いているボタンやレバーで銃火器や武装の出し入れ、発射をコントロールするのだ。
火器管制はやや複雑だが、バルカンの発射とヒートブレードの出し入れしかしない現状では余り関係なかった。
俺がヒートブレードを構えると、それを見た《エネミス》は少し警戒を強くしたようだ。
慎重にこちらの出方を窺い、油断なく構えている。
先程までの戦い(といえるものかどうかはわからないが)で、こちらの運動性能をある程度把握したようだ。
いきなり銃をぶっ放してくることはなかった。
学校とは《エネミス》を挟んで反対側にいるので撃ってきても大丈夫だったんだがな。
むしろ、その方が銃を構えた瞬間に回避して反動で出来た隙を突けたんだが、そのようには行かなかったようだ。
まあいいか。
格闘戦の方が厄介だが、こっちも武器が使える以上どうとでもなることだ。
お互いに動かないため、今は膠着状態に入っている。
「…………ホープ。データは取れたな?」
『肯:肯定。
完了しています。
解析結果をお伝えいたしますか?』
「手短且つ簡潔に頼む」
『了:了解です。
答:敵の機体性能は基本的にこちらより下です。
ただ、捕捉能力は高く、銃撃を回避するためには後手に回る必要があります。
敵の攻撃ですが、腕部のエストックと肘に固定されたショットバレットを組み合わせた格闘戦が主です。
威力は、エストックの直撃は危険です。
回避して下さい。
ショットバレットの方は一度や二度くらいなら大丈夫でしょう。
ただ、こちらもセンサー系やコクピットへの直撃は回避して下さい。
報告は以上です』
「長いぞ」
『謝:申し訳ありません。
意:ですが、これでも数値を省いているため十分簡潔だと思われます』
「まぁいいか。救援はどうなっている?」
『答:応答がありました。
要請は受理され、現在応援部隊が急行中です。
あと10分ほどでしょう』
「稼働時間はあとどれくらいだ?」
『答:ヒートブレードに出力を回しているため、残り8分をきりました。
再度戦闘状態に突入すれば恐らく5分と持ちません』
短期決戦に持ち込むのは厳しいが、救援を待つのも難しいな。
やや、焦燥が沸く。
タイムリミットは余りに厳しい。
ガチでやるとはいったがわざわざ死にに行くほど俺はバカでも熱血でも無い。
こうして膠着状態なのも持続しそうにないし……。
わずかに思案し、結論を出す。
「……よし、やるか」
『了:ラジャー
問:理由を聞いても?』
「なんとなくだ!」
『解:なるほど』
意外と俺はバカで熱血なのかもしれない。
こんな状況で、なんとなくで物事を決めてしまうのだから。
自分でも呆れてしまう。
だが、勝算が無いわけじゃ無い。
それに一度やると決めたら、すっと焦りが消えた。
アドレナリンが大量に出ているのだろう。
かつて無いくらいに興奮している。
気分がハイになっている。
アドヴァシティハイだ。
この先これ程興奮するのは、ベッドの上の戦闘くらいなものだろう。
こんなことを考えてしまうという事実かそれを如実に示していた。
今ならなんでも出来る気がする。
いや、流石になんでもは出来ないがな。
それでも《エネミス》くらいなら倒せるんじゃ無いか?
そんな考え、いや直感が脳裏をよぎる。
時間稼ぎ?んなもん知ったことか。
なら、やっちまうか。
今日何度目かになる、根拠のない自信だけ持って俺は笑った。
ーーー
そしてアドレナリンの興奮に任せて思いっきり機体を突貫させる。
強く踏み込みブレードを後ろに引き抜いて、殴り飛ばすイメージで振りかぶり、突き出す。
《エネミス》には当然のように反応され、受け流される。
そのままがら空きの胴体へ鋭いカウンターが叩き込まれる。
鋭利なエストックが胸部へと迫り、俺ごと機体を貫…………かなかった。
俺がそれを掴んで止めたからだ。
突き出していた右腕でも、受け流した《エネミス》の腕を掴み、強引に懐へ入り込んだ。
〔ヴァイツ〕の頭部と《エネミス》の怪物地味た頭部がぶつかり合う。
目の前の画面いっぱいに、異形な顔が映し出された。
そのまま力任せに突き進む。
こんな強引に来るとは思わなかったのだろう、《エネミス》は蹈鞴を踏んで蹌踉ける。
動力出力や機体の馬力が上回ってると見て咄嗟に思いついた作戦だ。
すかさず蹴りを食らわせ、更に態勢を崩させる。
しかし、流石と言えよう。
《エネミス》はすぐに切り返してくる。
連続してエストックが突き出され、捌ききれなかった分が肩を掠める。
押され気味の俺に対し、中央に同時にエストックを突き出した《エネミス》に、両腕をクロスさせ、直撃しないように絡ませた。
が、それは悪手だった。
絡ませたところから思い切り開かれ、がら空きの胴体に意趣返しとばかりに蹴りを叩き込まれる。
ひっくり返り、大きく尻餅をつく〔ヴァイツ〕。
隙を逃さず《エネミス》は両腕のショットバレットを構える。
だが、俺にも先程まで使えなかったが、今なら使える物がある。
方向を確認し、俺は
「ホープ!バルカンをフルオートで残弾500まで撃ちまくれ!」
『了:ラジャー
定:肩部バルカン砲、標準オート、残弾500固定、了
FIRE!』
30mm程度では確かに然したる障害では無いだろう。
だが、無視できない威力でもある。
毎秒25発、分間1500発もの銃撃が《エネミス》に襲いかかる。
時間にしてわずか5秒ほどの銃撃が続く。
《エネミス》は素早く構えを解くと、射線から逃れた。
『告:ターゲットへの射撃効果を確認。
バルカン砲の残弾数500に到達。
全自動射撃、サイレント。
レディ』
「よくやった」
ホープの全自動射撃機能によって、《エネミス》をうまく牽制できた。
その間に機体を起ち上がらせ、俺はブレードで斬り掛かる。
交差する針状剣と熱装短剣。
激しい鍔迫り合いになり、俺達は至近距離で睨み合う。
互いに出力任せの駆け引きのせいで、剣と剣の間に紫電が発生し、二機の装甲に淡い紫色の輝きを映す。
わずか1秒にも満たない拮抗。
俺も《エネミス》も同時に跳び下がり、再び突貫する。
打ち合わされる激しい剣劇。
飛び散る火花。
ギラギラと輝く頭部のセンサーアイ。
剣を打ち合わせるたび、俺の中を興奮が駆け巡る。
永遠に続くかと思われた時間。
だが、終わりは呆気なく訪れた。
………そう、最悪の形で。
ーーーーー
唐突に、ホープの無機質な声が告げた。
『警告:過度の出力によりリアクターが限界です。
セーフティが起動します』
「なっ…………待て!
今止まったら―」
『否:受理できません。
機体の冷却装置が追いつかず、このままでは機体が爆発します。
機体を停止します』
有無を言わさぬ口調だった。
ハイになっていたテンションが急激に冷えていく。
背中を大量の冷や汗が伝う。
俺は慌てて《エネミス》を突き飛ばし、後ろに大きく跳躍する。
『告:機体、停止』
無情な声が告げた。
四肢から力が抜けていく感覚。
画面がブラックアウトし、操縦桿からの反応が消える。
支えを失い崩れ落ちる〔ヴァイツ〕。
その瞳に輝きは……無かった。
〔ヴァイツ〕は、その鼓動を止めた。
満身創痍の状態で、俺が無理をさせたから。
もはや動くことは無い。
完全な絶望。
先程までの高揚感が嘘のように、機体は沈黙していた。
ふと、暗い画面に向かって問いかける。
「………………おい、ホープ」
『答:なんでしょう』
「起きてたのか………………」
『答:当然です』
「現状を打破できる可能性は……………?」
『……………回答不能です』
「そっか……………経過時間は?」
『答:6分42秒です』
「救援は?」
『答:あと5分ほどかと』
「そうか……………………」
〔ヴァイツ〕は四肢を投げ出した状態で沈黙している。
完全に万事休すだ。
アドレナリンが切れ、先程まで感じなかった疲労と激しく揺さぶられていた反動が一気に体にのし掛かる。
それは、俺の心を折るのに十分すぎた。
焦燥すら通り越した諦観。
もしコイツに乗っていたのが俺じゃ無くて彼女だったなら、あるいは諦めることなどは無かったのかもしれない。
そんなことばかりが脳裏を過ぎる。
後悔した。
いや、まず俺のように無様を晒し、ここまで追い込まれはしないだろうな。
負荷にかき回された体。
無理な状態の連続に体は悲鳴を上げていた。
それは暗い感情と合わさり、胃が暴れているような感覚に吐き気がした。
なにが行けなかったのだろうか。
なんだかんだいってさっきまでのピンチには余裕があった。
機体の動かし方は体が覚えていたし、攻撃を捌くくらいならどうとでもなった。
むしろシミュレーターでこっそり練習したような戦闘まで演じることが出来た。
しかし、それだけだった。
生徒達の避難も完了していることだろう。
パイロットスーツの彼女は生徒達から目に付きやすい所に安置しておいた。
彼女もきっと救助されているだろう。
なら、俺の勝ちだ。
戦闘に負けても拓真達や彼女は守りきれた。
一般人の俺からしたら大勝利と言えるだろう……………。
……………嘘だ。
……………………大嘘だ。
誰を守ろうと誰を救おうと、自分が死んでは元も子もない。
調子に乗って戦闘なんて挑んだ俺の負けだ。
あの状況では攻めずとも良かった。
《エネミス》の目標はヴァイツのようだったし、逃げに徹していても時間は稼げたのだ。
《エネミス》は突然停止した俺を警戒しているのか、様子見だが、それも時間の問題だ。
5分という時間はあまりにも長すぎた。
あのエストックが、ショットバレットが俺ごとコイツを破壊するのに十分すぎるほどの時間だ。
足掻くことさえ、もうできない。
「………………ホープ」
『なんでしょう、木崎殿?』
「外の景色を映せるか?」
『答:可能です』
「映してくれ」
『ラジャー』
目の前の画面に外の景色が映し出される。
雲が少し晴れて、僅かだが太陽が見え隠れしていた。
せめて死ぬ前は装置や画面でごった返した無骨なコクピットではなく、空を見ていたい。
俺は体の力を抜き、操縦席に背を凭せかける。
俺の目には、すでに活力が消え失せていた。
疲れた、な。
エネミスはすぐそこまで迫ってきていた。
ーーーーーー
ーーー
-
黒い《エネミス》は、動かない〔ヴァイツ〕への警戒を解いたのだろう。
油断なく構えながらも素早く迫ってきた。
瀕死だからとゆっくり迫るような三流の真似はしない。
ホープは其れをカメラ越しに見つめていた。
AIたるホープに自我は無い。
……………………はずだった。
自らの創造主であるシュナイダー博士は、彼に自我の種を植えていた。
〈セレクターシステム〉によって芽吹くように、と。
そして彼は芽生えた。
一人目の選ばれし者、四ノ宮光咲と、
二人目の選ばれし者、木崎優真との会合によって。
彼の中に、自らを駆り自らと運命をともにするパイロットを、死なせたくないという思いが生まれた。
彼はまだ諦めない。
希望を、捨てない。
シュナイダー博士が造り出した従来のAIを圧倒する演算能力を惜しみなく使い、起死回生の一手を探す。
何千回何万回と演算を繰り返し、システムの奥へ奥へと潜っていく。
そんな彼の元に、日の光は注がれた。
―今、〔ヴァイツ〕のもう一つの力が目覚める。
ーーーーーー
ーーー
-
『告:当機最奥部の機密暗部システムの解除条件を満たしました。
該当システムを解凍いたします。
完了しました。
システムコード・GDV4a01■■Xを起動可能です。
コードを起動しますか?』
突如ホープがそんなことを告げてきた。
一体なんのコードだろう。
興味が首をもたげ、体に少しだけ活力が戻る。
《エネミス》は50メートルほど離れたところでジッとこちらを見ている。
もちろん両腕の銃を構えた状態で、だ。
迂闊に近づいてこない辺り、こちらがまた動き出すのを警戒しているのだろう。
好都合だ。
「なんのシステムなんだ?それは」
『答:不明です。
しかし、このシステムが現状を打破しうる力を秘めている可能性も否定できません』
一体この機体にはいくつ正体不明のシステムがあるんだ、と思わずため息をつきたくなる。
だが、可能性があるなら……………。
「起動してみるか…………」
『了:了解しました。コードを起動します』
どうせ他に手は無いんだ。
どうせなら、やるだけ全部やって足掻けるだけ足掻いてから死にたい。
中央の画面が淡く灯り、コード名が表示される。
停止していた機体から、ブーンという低い駆動音が鳴り、
そして………
■■■
そして……………。
この《フリューレシステム》こそが、後に俺と〔ヴァイツ〕を幾多の伝説と共に、
《最強》
と呼ばれせしめた力でもあった。




