表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第二章 波乱到来編
17/51

第16話 「任務の日」

大変お待たせしました

第16話、お届けします

あと、(たしか)過去最長の文字数です

 




 これは、とある日の任務の話。

 初任務から三日ほど経った日のこと。

 俺の元に、二度目の出撃命令が下った。




 ーーーーーー

 ーーー

 ー




 今回の任務で、この校舎の屋上にやって来たのは〔ホーンドアウル〕では無く常用の小型ヘリだった。

 今日は遠方での救援任務なので、個別ではなく揃って出撃するため、支部に集合してから大型IG輸送機に乗り込んで出撃するのだ。


 お馴染みの水戸さんが状況を伝えてくれる。

 操縦は機長である水戸さんでは無く、副操縦士の方が行っている。


「救援は、東京の江東区深川地区の方からの要請だ。

 第一支部の連中が対応してたんだが、生憎整備中だったり出撃中だったりと手が回らないようなんだ」

「避難は?」

「完了済みだ。

 それと、今回は《エネミス》を新豊洲地区に入れないように対応するっていう追加条件がある」


 新豊洲には本部があるせいか。

 そりゃ、組織の中枢には被害を出したくないだろうしな。

 当然の条件だろう。


「出撃準備はどれくらい進んでる?」

「もう機体の格納が始まってる。

 着いたらすぐに乗ることになるから、今の内に着替えておけ」

「分かった」


 ヘリの機内は高さが無いから身をかがめながら、モゾモゾとパイロットスーツに着替える。


 白地に濃紺のラインが入った最新式のパイロットスーツだ。

 耐G緩和機能、耐熱調節機能、耐衝撃緩和機能…etc、とパイロットの体を過酷な機体の戦闘機動から守ってくれる。

 しかも密着型で着用者の体型に合わせて伸縮してくれる為、誰でも着れるという優れ物だ。

 腰には収納ポーチが付属していて、中にある止血キットなどの医療品や携行食品、弾薬などを取り出せるようになっている。

 脆い首を衝撃から守る為に分厚くなっている首元には、パイロットヘルメットを装着するための接続口があり、そこから圧縮酸素タンクなどの生命維持装置と繋がっている。

 これだけで、地球上の大半の環境に耐えられるようになるのだ。


 最後に首上まで二重チャックを締めて、しっかりとロックする。

 荷物と着ていた制服は、預かってもらい任務が終了したら受け取る手筈になっている。

 到着までの時間、俺は座席に備え付けてあったドリンクボトルに手を伸ばしつつ、耳にかけたBluetoothイヤホンの再生ボタンを押す。

 どうしても緊張する出撃前には、気分が紛れることをしながらリラックスするのが大事なのだ。

 初陣のコクピットの中で俺はそれを嫌と言うほど学んだ。


 すると、そんな俺に水戸さんが話しかけてきた。


「何聴いてるんだ?」

「ジョニー・ブラッディの『Roar of revolution』」

「『革命の咆哮』か、いい曲じゃねぇか」


 この『Roar of revolution』という曲は、50年ほど前に流行ったジャズテイストの名曲だ。

 当時は〈最後のジャズ〉と呼ばれるほどの人気を誇り、今でもテレビ番組のBGMとかでよく聴いたりする。

 リズムは速いが重厚感溢れる曲調で、野性的なのだがどこか洗練された、魂の奥が震えるような絶妙な起伏が、体から活力を湧き上がらせてくれる。

 俺は大抵なにかの勝負や賭けに挑む前は、こうしてこの曲を聴きながら気分を奮い立たせるのだ。


 そうして5分ほど経った後、


「木崎、そろそろ着くぞ!」

「了解!」

「滑走路に直接降りるから、3番レーンに向かえ!

 そこに離陸待機中の〔グローブマスター〕がある筈だ!」


 そして見えてきた第四支部の滑走路。

 広い敷地を持つ第四支部には計四本の航空機用発着場がある。

 待機してる輸送機があるのは3番レーンだから……


「あそこか!」


 低空飛行していたヘリが、航空機の飛行コースを避けて横から滑走路に侵入する。

 Hマークのヘリポートに着陸すると同時に扉を開け、待機中の軍用重輸送貨物機、C-21M〔グローブマスターⅦ〕へと駆け出す。

 人員室ではなく貨物室のほうに繋がる階段を上り、広い格納庫へと乗り込む。

 どうやら最後は俺だったのだろう、乗り込んだらすぐに分厚い扉は閉められ、機内に離陸状態に入るアナウンスがかかった。


『各搭乗員に告ぐ。

 これより当便は離陸状態に移行する。

 ただちに指定の席、IG要員はコクピットに搭乗せよ。

 繰り返す。

 ただちに指定の席、IG要員はコクピットに搭乗せよ』


 格納庫の中を見渡し、射出トレインに固定された〔ヴァイツ〕を見つけると、急いでそこに向かう。

 仰向けに寝かされた機体によじ登り、コクピットの中に潜り込んでハッチ閉鎖レバーを引く。

 上下二層式のやや前面に突き出たハッチが閉じたと同時に、〔グローブマスターⅦ〕が動き始めた。

 ゴウンゴウンと、重い音を響かせながらゆっくり機体が発射位置へと移動する。

 機体が発射位置に着くと、航空管制室からの離陸へのカウントダウンダウンが始まる。


 3…2…1…発進(TAKE OFF)


 約1キロほどの滑走路を一気に駆け抜けて、俺達を積んだ輸送機が離陸した。



 ぐんぐんと〔グローブマスター〕は上昇していく。

 東京までは直線距離でも僅か50キロと少し。

 時速890キロで巡航する〔グローブマスター〕では10分とかからずに到着してしまう。

 今の内に急いで起動シークエンスを終わらせないと。

 ホープに呼びかける。


「ホープ、起きてるか?」

肯定です(アファーマティブ)木崎特務一尉(ルテナント)

「よし、起動シークエンスを省略してやれ」

『了解。省略版起動シークエンス、開始。

 操縦権限を木崎優真特務一尉に返還します。

 機体状態の詳細を多機能ディスプレイ(MFD)に表示します』


 機体の操縦権限が俺に戻され、機体システムの起動と共に内界センサーが精査した機体状態が、左右の操縦桿の間、正面のディスプレイに表示される。

 ざっと見渡し、問題が無いことを確認すると、今度は機体の駆動部のロックを解除する。


「アイハブコントロール、レディ。

 よし、機体の関節部ロックを解除しろ」

『関節部ロック解除、省略版起動シークエンス、完了(コンプリート)

「今回の兵装は?」


 粗方機体の起動手順を省略して済ませ、兵装について確認しておく。

 今のところ装備に関しては、まだそれぞれ慣らしている段階だ。

 なので、現在は今までの戦闘を元にホープや整備班が考案した兵装の組み合わせで出撃している。


『主兵装は、〈ボフォースMk.6〉・〈カゲロウ〉・〈アストレア〉です。

 また補助兵装として、〈マテリアルシールド〉・〈65mm腕部ショットキャノン〉を装備しています。

 詳細はMFDの装備一覧をご確認ください』

「分かった」


 簡略化した機体の起動手順を済ませ、あとは降下を待つばかりだ。


 しかしその前に訊きたいことがあった。



「ホープ、四ノ宮との回線開けるか?」

『了解。

 チャンネル接続中、応答を確認しました。

 中央画面に表示します』


 外部を映す三枚の大画面の内、正面の画面に小窓が現れ、そこかに四ノ宮の顔が映る。


『ミーティング?』


 回線が開いて開口一番、四ノ宮が尋ねてきた。


「うん、今回の任務について訊きたくてさ」

『いいよ、降下まであと5分くらいだから手短にね』

「わかった。

 それで、今回の任務なんだけど……」


 輸送機に乗ったとき覚えた疑問について尋ねてみる。


「……もしかして、俺達だけ?」


 そう。

 この輸送機には、俺と四ノ宮の機体しか無かったのだ。

 他の染谷や沓城、佐渡の機体は見当たらなかった。

 通信回線の候補にも、三人の名前はない。

 まさかとは思うが……


『そうよ。今回の任務は私と木崎だけ』


 んな、バカな。

 いくら救援任務でも流石に少なすぎるだろう。


「さ、流石に二人だけじゃキツくないか?」

『それが……これは本部からの命令らしいよ。

 隊長たちは他の任務に駆り出されたみたいだし』


 Oh……そいつは無茶が過ぎるぜ代表。


 確かに、こないだとは違って市街地戦だから四ノ宮も本来の実力を出せるだろうし、救援として向かう以上現場にも別の隊が出動しているはずだが……。

 だからといって、いくらなんでも二機だけっていうのは無理があるだろう。


「四ノ宮はなにか説明受けてる?」

『二人一組で行動しろ、とだけ言われたわ』

「戦況とかは?」

『同時襲来らしいよ。

 深川地区の他には銀座地区と石神井地区が襲撃を受けてるみたい。

 数はそれぞれ10機前後だって』

「まじか!?」


 大攻勢じゃないか。


 戦死者無しで確実に仕留めるための戦力差目安は、《エネミス》2に対してIG小隊1(5機前後)が望ましいとされている。

 それを忠実に守ろうとすると、今の東京には最低でも60機以上のIGが必要だ。

 それに対して第一支部には、五十機くらいしか無いし、その中でも整備中の機体を考慮すれば全然足りない。


『いえ、でも深川地区の方は後から来たみたい。

 最初は第一支部が銀座と石神井のほうを対応してたけど、そこに深川のほうにも来たから、手が回らなくて救援を呼んだらしいわ』

「あぁなるほど、そういうことか」


 それなら納得だ。

 恐らく銀座と石神井のほうはだいぶ鎮火されているのだろう。


『それと、今回は高高度降下低高度開傘(HALO降下)での降下になるからね』

「HALOか」


 HALO降下とはその名の通り、視認外である10,000mほどの高高度から機体を射出し、300mほどの低高度で開傘する降下のことだ。

 開傘する高度が低いため、潜入任務や急襲作戦によく用いられる手法だ。


 実際にはIGの場合、もっと高い高度で開傘するのだが、そこら辺はホープ達サポートAIが自動で調整してくれるので、搭乗者は余り気にしなくていい。

 IGの運用は、機体に搭載されている高性能AIに頼るところが大きいのだ。


 すると、四ノ宮がふと思い出したように……


『あ、そうだ木崎。

 実は……』

『小隊ユニット各位、あと30秒で到着するぞ!

 これより射出態勢に入る!』


 タイミング悪くアナウンスが入った。

 それを聞いた四ノ宮は、


『じゃあ、これは後でね』


 といって通信を切ってしまった。

 なんだよ、気になるじゃないか……。

 喉の奥に小骨が引っかかったようなもどかしさを感じながらも、俺も射出のための準備をする。


 射出ポイントが近付いている。

 MFDの横にあるアナログの高度計は上空11,000mを指していた。

 俺は機体の最終確認を行う。



 機体反応、良し。

 各種センサー感度、良し。

 各種計器、狂い無し。

 FCS(火器管制システム)、良し。

 各種兵装及び接続状態、良し。

 機体各部接続状態、良し。

 トルク制御、良し。

 ASMCS(自立立体動作制御システム)、良し。

 HISDS反応、良し。



 操縦桿を握り締めた途端、〔ヴァイツ〕と繋がる感覚。


 機体の全身に張り巡らされた流体信号回路集積群が、俺の神経を機体に同調させる。

 この集積群が俺の神経回路を模倣した形状に変化することで、俺は第二の体としてこの〔ヴァイツ〕を自由自在に操れるようになるのだ。


 〔グローブマスター〕の操縦室から射出合図が送られてきた。

 機体の尾部に当たるカーゴハッチが開き、射出トレインのレールが繋がる。

 射出レールの先には豪風が吹き荒び、さらにその下から雲の海が覗いていた。

 そして、射出タイミングのカウントダウンが始まった。


『3…2…1…射出する!』


 カウントがゼロになると同時に震えるような振動がコクピットに走った。

 そして、レーンに沿って発射位置にいた〔ヴァイツ〕が、一気に押し出される。

 直後トレインごと勢いよく、機体が輸送機から射出された。



 ーーー



 トレインが機体から分離し、四肢が自由になる。

 途端、支えのない高速落下によってコクピットの中が振動し、計器や画面がガタガタと騒がしい合唱を奏でた。

 機体がきりもみし、姿勢状態を示すジャイロ計器が目まぐるしく動く。


 姿勢異常を検出したASMCSが自動で、慣性を利用しながら機体のバランスを制御し、足を下に突き出した降下姿勢を取らせる。

 画面の端では、同様に降下姿勢を取る四ノ宮の〔九十二式〕が見えた。


 高度計の針は凄まじい勢いで下がり続けた。

 幾つもの雲塊を貫いて、〔ヴァイツ〕は白き流星となる。



 高度8000m……7000……6000……5000……



 巨大な羊のような高積雲を群れを一直線に降下する。

 胸部や脚部にある取り付け式のスラスターが、時折機体を姿勢を保つために点火された。



 4000……3000……2000……



 高度2000mをきったあたりで雲海を抜けた。


 急に開ける視界。

 眼下には東京の高層ビルの群れと、昼間だというのに眩しいほどの街明かりが占めている。



 1000…900…800…700…600…500…



『告:開傘高度に到達。

 パラシュート展開』


 ガクンと急ブレーキがかかったせいで、慣性に逆らえず前につんのめり、MFDに頭突きしそうになる。

 開傘したパラシュートによって高度計の針の動きがやや緩慢になった。


 地上がどんどん近づいてくるにつれて、戦闘の銃閃も見えてくる。

 〔ヴァイツ〕の高性能索敵センサーが戦闘の状況を敏感に関知し、MFDのマップに僚機と敵機の大まかな位置を重ねた。


『伝:着地予定進路を表示します』


 周辺マップに着地位置が赤い点で表示され、中央画面には進路を示した侵入コースが映された。

 〔ヴァイツ〕は忠実にそれに沿って降下していく。


 地上まで100mをきった地点で、機体に取り付けられたスラスターが全力で稼働した。

 一気に減速する〔ヴァイツ〕。

 高度計の動きがさらに緩やかになる。

 二段階目の急ブレーキで押し上げられたせいで、腹の中で胃袋が暴れ回った。


 10秒ほどの全力噴射で燃料を使い果たしたスラスターを切り離し、最終着地シークエンスに突入する。

 機体の耐衝撃吸収機構が作動し、接地面と脚部を繋ぐ関節にサスペンションが接続された。

 これにより、〔ヴァイツ〕の脚部は数十センチほど伸びている。


 着地姿勢を取りながら、シールドを引き寄せつつ後ろ腰にマウントしていた〈ボフォースMk.6〉を取り出す。

 全てのFCSがオンラインになり、火器使用のセーフティが解除された。

 同時に機体の稼働システムが巡航モードから戦闘機動モードに移行し、着地後すぐに戦闘状態に突入できるようになる。


 そして、地上は眼前まで迫っていた。


 残り……10m


『告:パラシュート分離。

 地上まで、3……2……1――着地します』



 ーーー



 ―――衝撃。



 サスペンションと衝撃吸収機構によって減らされてなお、着地の衝撃で強く機体が揺れた。

 30tもの鋼鉄の塊が着地したせいで、機体の足下のアスファルトがひび割れ陥没していた。

 2秒ほど時間を空けて、すぐ脇に四ノ宮も危なげなく着地する。


 そして、四ノ宮から通信回線を繋いできた。


『索敵結果は出てるわね?』

「もちろんだ」

『取り敢えず、近くのこの一体を撃破するわよ』

「了解!」


 四ノ宮の口調がドS状態に入っていた。

 今の彼女は敵に回せば恐ろしいが、味方であればこれ以上ないほど心強い。


 四ノ宮が、表示されている索敵結果の中から最も近い一体を示し、その方へと駆けだした。

 電撃作戦を仕掛けるつもりなのだろう。

 〔ヴァイツ〕の索敵によれば、現在俺達がいる地点の半径2キロ以内に、四機の《エネミス》が確認されている。

 一番近いものは俺達から400mほど離れた大通りにいた。

 ならば、感づかれて包囲されるより早く、一体ずつ奇襲を掛けて潰していくのが得策だと、一瞬で判断したのだ。


 先行する四ノ宮の後ろに追従する。

 どんな環境下でも、時速100キロを越える速度で走ることができるIGにとって、400mなどあってないようなものだ。


 次の交差点を右に曲がれば、エネミス(獲物)のすぐ後ろにでるというところで俺は四ノ宮をPCI(対集音妨害)通信で呼び止めた。


「四ノ宮!」

『!……わかった』


 僅かそれだけのやり取りだけで意志疎通を終える。

 俺の意図をしっかり汲み取ったのだろう、四ノ宮が交差点の前で立ち止まる。

 その横を通り過ぎ、交差点に出た俺は素早く《エネミス》に銃口を向けた。

 大通りに躍り出た俺に気付いた《エネミス》が振り返り、慌てたように背中から生える蝙蝠のような双翼でその身を包んだ。


 構わず発砲。

 57mm徹甲弾が次々と〈ボフォースMk.6〉の銃口から吐き出され、《エネミス》へと襲いかかる。

 しかし、それらは全て《エネミス》の翼によって弾かれてしまう。

 徐々にダメージが蓄積されているようだが、謎の材質によって造られている《エネミス》の双翼を破るには、今の手持ちの弾薬ではいささか足りない。



 だが、俺の狙いはそこでは無かった。


 もし分間1200発もの57mm砲弾の銃撃を、直接その身に受ければたとえ《エネミス》だろうと〔ヴァイツ〕だろうとただでは済まない。

 つまり、今の《エネミス》は、防御姿勢を解くことが出来ない。


『木崎!』

「了解!」


 四ノ宮の合図を受けて、〈ボフォースMk.6〉の射撃を止める。

 同時に、銃撃が止んだことで動きだそうとした《エネミス》に向かって、腰のウェポンソケットからグレネードを投げつけた。

 再び翼を畳む《エネミス》に、指向性の爆風が降りかかった。


 爆風が止んだ後にそこに居たのは、翼を畳んだ《エネミス》ではなく……


『対象の排除を確認したわ。

 次に行くわよ』


 様になる仕草で刀を振り払う四ノ宮だった。

 その足下には一刀両断にされた《エネミス》の残骸が転がっている。


 俺が目標を足止めし、その間に四ノ宮が後ろに回り込んで、一撃の下に敵を斬り捨てる。

 単純且つ有効な連携作戦だ。


 これを可能にするためには、四ノ宮が敵に感づかれずに移動する必要がある。


 そこで、〔九十二式〕に搭載されている、ある電子兵装が効果を発揮する。

 それは、CED(完全電子領域)という、1年ほど前にやっと開発された、ECM(電子対抗手段)の上位互換的な装備だ。

 日本の主力IGである〔九十一式〕とその改良型である〔九十二式〕には、機体的な性能差はあまり無い。

 この二つの間にある決定的な違いは、CEDを搭載しているか否かだ。


 CEDは、通信妨害、欺瞞妨害、索敵妨害などを目的に攻守関係なく用いられる。

 そのおかげで〔九十二式〕はセンサーやレーダーの探知システムを掻い潜って目標に忍び寄ることができるのだ。

 完全と銘打っているだけあって、その効果は強力だ。

 最大で機体の半径5キロ以内を優勢領域で覆うことが出来る。


 四ノ宮はCEDを一時停止して、次の目標へと駆け出す。

 CEDは電力消費が激しいからあまり長時間は使えないのだ。


 その時、ホープが通告してきた。


『告:敵機反応、α2、α3、α4が同時に移動を開始しました。

 それぞれの進行ルートから、予想目的地を表示します』


 そう言って、ホープが広域マップに予想地点を表示した。

 この場所は……


「四ノ宮、待て!

 連中、一点に集中するつもりだぞ」


 すると四ノ宮は立ち止まり、こちらを振り返った。

 PCI通信で尋ねてくる。


『どこ?』

「ここだ」


 俺が示したのは、木場公園という広い公園だ。

 現在の位置からは1キロほど離れている。

 住宅に被害を出しにくい分、戦いやすいだろう。


 ……しかし、一つ問題があった。


『美術館?

 流石にそこは壊したら大変ね』


 そう、敷地内に美術館があるのだ。


 価値のあるものが保管されている可能性が高いので、迂闊に手が出せない。

 もちろん銃火器なんて使えない。

 〈カゲロウ〉なんて以ての外だ。


 なので近接戦闘で仕留めるしかないだろう。

 問題はそこまで接近できるかどうかなのだが……。


『……うん、大丈夫。

 問題ないわ』

「え?」

『そのまま行くわよ。

 ただし、ルートはSk-04方面から』

「……あ、そういうことか。

 了解した、行こう」


 再び駆けだした四ノ宮に追従する。

 彼女の言いたいことは理解した。


 美術館は壊してはいけないから、火器は使えない。

 状況は3対2で、しかも開けた公園では接近戦はやりにくい。


 なら、どうすればいいか。

 簡単だ。



 ()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()




 ーーー




『準備は良いわね?』

「大丈夫だ、いつでも来い」

『よし、カウント開始』


 四ノ宮とのPCI通信を切り、中央画面に映し出されたスコープの照準を合わせる。


 俺は今、20階建ての高層オフィスビルの屋上にいた。

 比較的新しいこのビルの屋上は、30tのIGが射撃体勢をとっても崩れることは無かった。

 遮るものの無いここからなら、公園の全体を見渡すことが出来る。


 四ノ宮が告げるカウントを聴きながら、俺は〈()()()()〉の照準を合わせた。

 200mm滑腔砲に備え付けられた高精度照準器から、直接ケーブルで繋がれているため、画面には高倍率で拡大された

 スコープの中には、散開してキョロキョロと辺りを見渡す《エネミス》が、三体。

 その内の一体に照準を定め、ホープに自動追従させた。


 そして、四ノ宮のカウントがゼロになる。


 途端に、三体の動きが一瞬止まり、そしてジリジリと後退した。

 四ノ宮が索敵妨害のジャミングを、()()()()()()()()()()()()()稼働させたからだ。

 三者三様に、互いに背を向けて公園の外部を警戒していたため、後退すると一点に固まることになる。


「ホープ、やれ!」

了解(ラジャー)

 DE(指向性炸裂)弾、FIRE!』


 〈カゲロウ〉から残忍な閃光が迸った。

 IGだろうが《エネミス》だろうが関係なしに等しく爆砕する〈カゲロウ〉の200mm榴弾が、一瞬の内に彼我の距離を突き進んだ。

 直後、密集する三体の内の一体を、指向性炸裂弾が粉微塵に吹き飛ばす。

 ジャミングのせいで潜伏する俺の存在に気付けず、抵抗することも出来ずに名も知らぬ《エネミス》は灰燼へと帰した。


 いきなり爆散した仲間に驚いた《エネミス》が、慌ててその場から飛び縋る。

 ……だが、そこにも脅威は存在した。


 俺が《エネミス》を吹き飛ばしたのとほぼ同時に、CEDを解いた四ノ宮が後退した一体へと躍りかかった。

 愛刀を振りかざし、四ノ宮は鬼神の如く《エネミス》を追い立てる。

 その猛攻を受けた獲物は、反撃することも出来ずに滅多打ちにされる。


 だが、《エネミス》はまだ残っている。

 俺はビルから飛び降りて、そのまま公園へと駆け出す。

 丁度〔ヴァイツ〕の跳躍力で越えられそうな所まで来ると、機体をグッと屈めさせ、引き放った弓のように脚部を蹴り出し、大きく跳躍した。

 100mほどを一気に跳び越え、〔ヴァイツ〕も参戦する。


 着地と同時に取り出しておいた〈ボフォースMk.6〉を腰だめに構え、空いている《エネミス》へと発砲する。

 四ノ宮に襲われている味方を助けようとしていた《エネミス》は、俺に気が付くとやむなく応対した。

 片翼で身を守りつつ、腕に付属した銃口を向けてくる。


 しかし、攻撃を仕掛けた時点でこの勝負の主導権は俺のものだ。


 撃たせる隙を与えぬように、上手く銃撃を浴びせる。

 怯んだように一歩後退した《エネミス》。

 全く対応出来ていない。

 まるで素人の動きだ。


 トドメを刺すべく、固定武装のグレネードランチャーを展開させた。

 脇下のウェポンラックが少し開き、丁度バルカンとラックの間からスモークグレネードが撃ち出される。

 任意起動により《エネミス》の眼前で炸裂したグレネードが、朦々と白煙を撒き散らし《エネミス》を覆い尽くす。


 隙が、出来た。


 機会を逃さないように、俺は一瞬で彼我の距離を詰め、スモークを切り開いて《エネミス》にシールドを打ち付ける。

 そのまま吶喊しつつ〈ボフォースMk.6〉を《エネミス》の胸部に突き付けた。


 発砲(トリガ)


 撃ち放たれた57mm徹甲弾は……しかし目標を貫ききることは無かった。


『警告:主武装、残弾数0』

「ちっ……!」


 勢いを緩めずに、空になったマシンガンをその場に放り捨てる。

 弾数の確認を怠っていた。

 これはやってはいけないミスだ。


 ――さて、どうするか。


 高速回転する脳で思案した。

 画面の動きがやけにゆっくりと見える。


 アストレアは抜けないな。

 カゲロウもグレネードも無理だ。

 距離を詰めすぎたから、こっちまで巻き添えを食らってしまう。

 まいったな……どうするか。


 脳内で装備されている武装を羅列する。

 と、そこでふと思い出した。


 そうだ、そういえば……!


 俺はマシンガンを投げ捨てた右腕を持ち上げさせ、《エネミス》の胸部へと差し込んだ。


 ――発射。


 そして腕部に取り付けられていた、65mm腕部滑路式ショットキャノンの引き金を引く。

 至近距離で炸裂する65mm徹甲弾が、何発も凹んだ《エネミス》の装甲を、打ち付け、食い破り、そして爆砕した。


 レールスライド式のこのショットキャノンは、発射と同時に反動を利用して空薬莢の排出と弾倉から給弾を行うオートマチックタイプの装備だ。

 リロードアクションを必要とせず、発射時の反動もレールスライドによって軽減されるため、取り回しも良く扱いやすい。

 弱点といえば、バレルが短いため照準がブレやすいのと、威力が低いことくらいか。


 たが、こうして至近距離で何発も撃ち込んでやれば……


『告:対象の撃破を確認』


 こうして《エネミス》の胸部を潰裂させ、トドメを刺すことができる。

 糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちる《エネミス》。

 そこに俺は鋭く踏み込み、回し蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした。

 〔ヴァイツ〕のアクチュエータから生み出される強靱な膂力が、事切れた《エネミス》を鞠のように弾ませる。


 自爆に巻き込まれないために、零距離で《エネミス》を始末したら自分が離れるか、こうして蹴り飛ばすのは基本手順だ。

 同じように四ノ宮も、〈アマテラス〉で刺し貫いた《エネミス》を蹴り飛ばした。

 丁度、二体の残骸は同じ所に重なり合う。

 俺と四ノ宮は同時にそこへグレネードを放り込み、完全に破壊した。


「ホープ、広域索敵モードで警戒しろ」

『了解。広域索敵モード、レディ』


機体を警戒モードにさせ、奇襲に備える。

支部に戻る最後まで、気を抜くことは無い。

しかし、それは必要なかったようだ。


『伝:HQより各ユニットへ伝令。

「全ての敵勢力の排除を確認。

状況終了、速やかに帰還せよ」とのことです』


ホープがそう告げてきた。


戦いは静寂へ、そして日常と戻っていく。



ーーーーーー

ーーー




四ノ宮が小隊用オープンチャンネルに切り替えて通信を繋いでくる。

コクピット内のスピーカーから、彼女が息をついた音が聞こえた。


『ふぅ……お疲れさま』

「ああ、お疲れ」


四ノ宮の口調が普段通りに戻っていた。

さっきまでの強気な口調も結構好きなんだけどな……。

ちょっと残念。


『それじゃあ、撤退しよっか。

ポイント(ベータ)3に向かうよ』

「了解」


軽く応じ、指定の回収ポイントへと機体の足を向ける。

戦後の処理は自衛隊や政府の仕事だ。

気を抜いた様子でも、まだ俺達の心のどこかでは警戒は解いていない。

多分、今目の前に《エネミス》が現れても、俺達は驚きこそすれ動揺はしないだろう。



そういえば学校を出たのが5限目だったから、今からだともう間に合わないな。

疲れているし、戻っても寝るだけになりそうだ。

よし先生に連絡だけいれて、今日の所は帰ろう。



そうして、東京のビル群の中を俺と四ノ宮は並んで歩いた。




ーーー

説明臭い文章で申し訳ない

次話はなるべくはやく投稿したいなぁ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ