第17話 「任務の日 飛翔」
お待たせしました、第17話お届けします。
今日中にもう1話投稿する(予定)です。
これは、とある日の任務の話。
初任務から数回の任務・作戦をこなした頃。
休日、俺が基地にいた時のことだ。
ーーーーーー
ーーー
ー
『出動要請。第六小隊各位は至急格納庫にて出撃待機せよ』
四ノ宮と楽しく談笑しながら昼食を共にしていた時、突然空気を読めない司令が下った。
ちぇっ、せっかく良い雰囲気だったのに。
女子との触れ合いが少ない俺にとって,四ノ宮と過ごす時間はとても貴重なものなのだ。
―文研部の工や甘月達は違うのかって?
冗談言うなよ。
あんな連中は、女子とは言わないんだ。
あ、でも華月だけは……いやアイツは男だった。チッ―
内心舌打ちしつつも、急いで昼食のトレーを片付け、格納庫へと向かう。
任務内容はコクピット内で通信によって伝えられる。
なのでパイロットは、なによりも早く格納庫へと集合しなければならない。
上層階にある食堂からエレベーターホールまで突っ走り、パーソナルカードキーを読み込ませてエレベーターを優先的に回してもらう。
三階下の格納庫階に到着し、扉が開くと同時に通路へと走り出す。
最短ルートを駆け抜けてIG達が待機する格納庫へと足を踏み入れると、そこには既に他の隊員達が待っていた。
疾走後に息をつく間も無く、染谷の朗々たる声に告げられる。
「揃ったな。
点呼は省略するぞ、総員出動!」
「「「「はい!」」」」
俺達が来たのを確認した隊長の号令で、それぞれの愛機のもとに向かい、走り出した。
ーーー
俺の相棒は、第六小隊の機体の中で一番端に鎮座しているため、俺が乗り込んだのが最後になった。
整備橋を渡り、そこから開放されているコクピットハッチをくぐり抜ける。
操縦席に腰掛けてハッチ閉鎖レバーを引きハッチを閉じる。
プシュッという密封音が響き、コクピットにある全ての液晶画面が明るくなった。
「ホープ、起動シークエンスだ」
『了解。起動シークエンス、スタンバイ』
中央に大きく広がった外部画面に、〔WEIβ〕の文字が浮き上がった。
もうすっかり聞き慣れた起動手順を開始するホープの合成音声を聞きながら、手早く機体の確認を済ませる。
MFDに映る〔ヴァイツ〕を模したシルエットの、各部の状態を示すカーソルをざっと眺め、その全てがグリーンであることを確かめる。
コクピットの上部にあるスイッチを立てて接続をオンラインにし、通信機器や電子兵装、センサー系を待機状態から任務巡航モードに切り替える。
今日も〔ヴァイツ〕は万全だ。
起動シークエンスが終了したのを確認すると、小隊用のオープンチャンネルを開く。
中央画面に五つの小窓が現れ、それぞれに隊員の顔が映った。
『……それでは本作戦について説明を行う』
小隊のメンバーとは違うチャンネルに、壮年の男が映る。
この任務の作戦指揮官である、第四支部支部長の在原雅喜特務上将だ。
〈ASCF〉創設に立ち会った最古参のメンバーの一人で、既に50代半ばにさしかかっているはずだが、その眼光は曇ることを知らず、その引き締まった容姿は年齢を感じさせない。
これぞまさしく、戦士の顔というものだろう。
『本作戦は、機甲小隊による突入任務だ。
昨日、監視衛星が小笠原諸島近海の無人島で《エネミス》らしき物体の存在を感知した。
その後数度かの偵察任務によって、その島に《エネミス》が潜伏していることが判明している。
諸君らにはこれを強襲、撃破してもらいたい』
なるほど、《エネミス》の潜伏場所か。
もしかしたら奴らの本拠地かも知れないから、威力偵察も兼ねてまず一個小隊を送り込もうというわけだ。
万が一ここが本拠地で小隊が壊滅しても、素早く大軍を投入して《エネミス》との戦いにケリを付ければ良いし、ただの休息場所なら〔ヴァイツ〕含め優良な部隊の第六小隊が敗れる筈がない、ということだろう。
凄い信頼だ。
『……そしてもし可能ならば、研究対象の鹵獲を第三優先目的として設定してもらいたい。
これを遂行できるのは恐らく、我が支部では諸君たちだけだ』
もしそこが奴らの拠点ならば、稼働前の《エネミス》もいるはずだからな。
どのような構造をしているのか判れば、今後の戦闘も格段にやりやすくなる。
未だに判明していない奴らの正体について、わかるかも知れない。
『無論、これは可能な限りで構わない。
諸君らの誰か一人でも欠けるような事態が起こりそうであれば、任務を放棄し速やかに撤退せよ。
全員健良な状態で帰還する、これが第一優先だ。
以上。諸君らの働きに期待する』
『『『『『「了解!」』』』』』
支部長はそう告げるとチャンネルを閉じた。
それと同時に、MFDに電子文書受信の通知が現れる。
『伝:作戦の詳細を受信しました。
解凍完了、中央画面に表示します』
ホープが機密情報である作戦指令書の凍結封印を解凍し、中央の大画面に映し出した。
任務の目的から始まり、移動経路や作戦終了後の機体回収手段などが細かく記載されている。
『全員指令書は来ているな?
ミーティングを始めるぞ』
『了解ッス』
『はーい』
『どうぞ』
一通り指令書に目を通して記憶した後、通信でのミーティングが始まる。
予想される侵入経路、現場の状況、それに合わせた連携や行動などを決めるのだ。
現場での指揮は、基本的に現地に赴く部隊のトップ―この場合は小隊の隊長である染谷―が摂る。
後方から情報として状況を見ている者では無く、実際の光景を見ている当事者が指揮した方が確実だからだ。
故に部隊を束ねる者は、そうした状況把握力や指揮する力が求められているのだ。
作戦について討論が始まる。
全員がそれぞれの状態を含めて意見を交わす。
そうして互いのことを把握し、確実な任務遂行を行うのだ。
もちろんその間にも、染谷を先頭に小隊は格納庫から滑走路へ移動している。
『――それと、今回の任務ではフライトユニットでポイント〈グレイ〉に向かうことになるそうだ』
ポイント〈グレイ〉とは、例の無人島のことだ。
フライトユニットを使う?
ということは……
「空中戦の可能性もあるってことですか?」
『そうだ。
地上を堂々と闊歩する個体も確認されているからな。
〔グローブマスター〕からの降下では無防備だし目立ちすぎる。
かといって、〔ホーンドアウル〕では近づく前に撃ち落とされる危険があるからな』
〔ホーンドアウル〕にもセンサー妨害機能はあるが、ローター音までは隠せない。
音源を辿って位置がバレてしまうだろう。
そして捕捉されてしまえば、戦闘能力の低い輸送VTOL機では抵抗出来ずに撃ち落とされてしまう。
その点フライトユニットを装備したIGならば、空中戦が可能だし小回りも利く。
『では、他に質問はあるか?』
「『『『『無し』』』』」
『なら行くぞ』
「『『『『おう!』』』』」
そして、武装の搭載ドックに着く。
ここで外部装備、つまり主兵装を渡されるのだ。
それぞれのドックに進入し、定位置で機体を停止する。
『告:武器選択を行って下さい』
ホープがそう言うと、MFDに装備の選択画面が現れた。
機体のシルエットがあり、武装一覧から装備をタップして機体の装着部に付けていく方式だ。
ざっと眺め、選択していく。
「……空中戦だと、〈ボフォースMk.6〉の方が良いな……脇下のラックに載せるか。
主兵装は……〈187式〉かな。
大型のシールドは空じゃ取り回しが悪いから除外して……
お!〈カゲロウ〉は折り畳めば装備できるのか!
あー、でも接近戦の対策は……そういえば腕部のショットキャノン、あれはよかったな。
じゃあ接近戦はそれとショートブレードでいっか。
足回りにも予備兵装を、と……よし」
選択を終えて確認ボタンを押す。
するとホープが通告してきた。
『警告:積載限界量を超えています。
一部の装備を除外してください』
なんと。
フライトユニットを装備した状態では積載可能量が少なくなることを忘れていた。
前の画面に戻り、ささっと不必要な装備を外す。
今回の装備はこんな感じだ。
主兵装として、右腕に〈187式〉ライフル。
補助兵装として、左腕に小型のシールド。
空中戦対策として、脇下のウェポンアームに〈ボフォースMk.6〉マシンガン。
右腰にグレネードなど投擲武装。
左腰に単分子ショートブレード。
背中のウェポンラックには〈カゲロウ〉200mm滑腔砲。
左腕に装備していたショットキャノンを外し、代わりに小型の補助シールドを付けた。
足回りに付けていた地上戦用の武装は全て外してある。
〈カゲロウ〉は外さない。
俺が気に入っている武装だからだ。
今のところ一番使用頻度が高いのは銃撃戦なら〈カゲロウ〉か接近戦なら〈アストレア〉だ。
確認ボタンを押すと、今度は大丈夫なようだ。
ドック内に設置されている遠隔操作型のアームが、武装を取り出し、機体の各部に取り付けていく。
最後に大きなフライトユニットを装備し、しっかりとロックすれば完了だ。
ドックからでると、すぐに滑走路が見えてくる。
IGの射出は五番レーンという、航空機とは別の滑走路が用いられる。
いや正確には滑走路では無く、カタパルトだ。
やや角度がついた、電磁誘導式のレールカタパルト。
30tもの鉄の塊を空へと飛ばすには、蒸気カタパルトでは出力不足なので、IGの射出にはこうして電磁カタパルトが用いられるのだ。
ドッグから出たのは、またも俺が最後だった。
他のメンバーはもう準備が完了している。
俺がカタパルトデッキに入ると、既に射出態勢に入っている染谷が、
『全員揃ったか。
それでは行くぞ……ベガ4、発進する!』
といってカタパルトを起動させた。
レールに僅かに紫電が走った、と思った瞬間。
凄まじい速度で染谷の〔九十二式〕がレール上を駆け抜けた。
100mほどの距離を一気に突破し、大空へ飛び立つ〔九十二式〕。
すぐに他のメンバーも発進していく。
目の前にいた四ノ宮が発進した後、俺も射出態勢に入る。
機体を前傾姿勢にして、手を伸ばし前にあるハンドルを掴む。
バイクに跨がる感じだ。
うかうかしていると置いてかれてしまうので、素早く発進する。
「レグルス9、出ます!」
直後、凄いGが体にかかった。
舌を噛まないように歯を食いしばる。
そして浮遊感。
機体が空へと飛び上がったのだ。
〔ヴァイツ〕の背中から伸びる四枚の翼が、揚力を生み出し機体を上空へといざなう。
背中と後ろ腰に取り付けられた計四機のジェットエンジンが、体を前へ前へと押し出す。
旅客機とは全く違う感覚だ。
高度計の針がどんどん上がっていく。
そして大体1600mほどで停止した。
空は雲一つ無い快晴で、視界は良好だ。
やがて前方に隊列を組む小隊が見えてくる。
俺は機体をさらに加速させ、その隊列に加わった。
五機の巨人たちがどこまでも続く海の上を、一直線に飛び越していく。
ーーーーーー
ーーー
ー
『告:ポイント〈グレイ〉を視認しました。
あと120秒ほどで到着します』
水平線の彼方にポツポツと島影が見え始めた。
父島、兄島、弟島……そして離れたところに、今回の目的地であるポイント〈グレイ〉――甥島がある。
支部からおよそ1000kmほど離れた小笠原諸島に、90年ほど前に新たに生まれた島、それが甥島だ。
兄島、弟島と同じくらいの面積を持ち、一時期調査のために人も立ち入ったが様々な要因が合わさって、今は放置された無人島だ。
たしか、その時の建物なども残っていたはずだ。
恐らく《エネミス》共は、その当時の施設などを再利用しているのだろう。
さらに人里からも離れているため人目に付きにくく、東京などの主要都市も十分射程に入る。
潜伏するにはもってこいの場所だ。
島が並ぶ辺りを迂回しながら、ポイント〈グレイ〉へと向かう。
「ホープ、広域索敵モード。
それと武装のセーフティーを解除、オンラインにしろ」
『了解。広域索敵モード、レディ。
各種武装、オンライン』
機体の警戒レベルを上げ、突然の奇襲に備える。
ここからはもう、敵の領域だ。
脳の知覚を研ぎ澄まし、神経を尖らせる。
そして、あと5000mほどで到着する辺りでホープが警鐘を鳴らした。
『接近警報:正面、距離5000、数2。
ポイント〈グレイ〉より2体の《エネミス》を確認、こちらに気付いたようです。
島の方にも索敵反応、数1,2…計4体です』
「……いよいよお出ましか!」
中央の染谷からも通信で指示が飛ぶ。
『小隊各位、戦闘態勢に入れ!』
互いに向かい合うように猛スピードで突き進んでいるため、数秒で射程圏内にはいる。
『……来るぞ、散開!』
一直線に迫ってきた2体の《エネミス》が発砲してきた。
散開し、牽制射を躱す。
外れた弾閃が機体の後方へと逸れていった。
『手筈通りに行くぞ!』
『『『『「了解!」』』』』
染谷、沓城、佐渡の三人はそのまま直進し、俺と四ノ宮が応対する。
四ノ宮は元航空部隊の出身だし、〔ヴァイツ〕の方が〔九十二式〕よりも空中での戦闘力は(数値の上では)高いので、こういう配置となった。
空中では俺と四ノ宮が足止め、撃墜し、その間に染谷たちが道を開き、地上で合流するという手筈だ。
『レグルス9、準備はいい?』
「いつでもいいぞ!」
『それじゃあ行くわよ!』
「おう!」
フライトユニットが機動戦用の形態へ変形する。
翼が縮小し、各部のサブジェットエンジンが点火された。
これで、空中でも細かい機動が可能となる。
そして……戦闘開始だ。
というわけで次話に続きます。
尚、(調べた限りでは)甥島という島は存在しません。
今後生まれるのかどうかも判りません。
作中に出てくる甥島は想像上の架空の島です。




