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神璽の魔法使いたち  作者: トータカロク
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三章ー1




「ヴぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 黎人は不気味な声を上げながら、机にぶっ倒れていた。

 三日間で五時間しか寝ていない上に、集中力がいる細かい作業と戦闘までこなしているのだ。寝込まないまでも、疲労困憊でこうなっても仕方が無い。

 午前中の授業から昼休みまでずっとこの状態だったが、お腹が減るのは耐えられないのか鞄から弁当箱を取り出して食べ始める。

 夜の森道を、色々と注意しながら帰ったので普段の倍ほどの時間とバスで来た分を歩いて帰ったので、店に帰り着いたのは朝方に近い時間だった。

 帰りついて全員倒れるように寝たのだが、黎人が起きると汐が先に起きていて三人分の弁当を作っていた。

 朝食と弁当を両方作る時間には起きることが出来なかったから、弁当を作るほうを取ったと言って弁当を作っていたが、食卓には軽い朝食にとおにぎりが置いてあった。


「どんだけ元気な人なんだ、あの人は……」


 黎人は疲れで頭が働いていないので気付かずいたが、周りがざわついているような気がする。

 黎人は何かあったのかと、後ろを向いていると思ってもいない人がいた。


「どう? お弁当はお口にあってるかしら」


 汐が目の前にいた。


「は、はい……」

「店に泊まっていた時は、感想が聞けなかったから聞けてよかったわ。私は今から昼食なのご一緒いいかしら?」


 前の席の椅子を動かして向かい合うように座る。


「あ、はいどう―― じゃないくて飯食うなら他の場所に行きましょう」

「別にここでいいじゃない?」


 汐は何も気にしていなかったが、黎人は周りの視線が痛かった。

 生徒会長が来ているのだ、生徒会長じゃなくても三年生が二年生の教室に来ていつというのは、それだけで異質だ。

 何より今の汐は生徒会長モード―― 黎人が命名した人を凍らせるような表情や声色を使っている時―― ではなく普通の生徒状態だ。

 汐は生徒会長の時は人を凍らせるような言動からコールドビューティと陰で呼ばれているが、普通の状態だとクールビューティにしか見えない。そのせいで男子連中の視線が痛い、それならまだしも何故か女子の視線が怖い、汐に近付いてんじゃないどこの野郎という思いがひしひしと伝わってくる。


「まぁ、ゆっくり話したいじゃないですか」

「別に聞かれても拙いような話はするつもりはないけど?」


 そう言いつつ汐は弁当を開ける。


「クロ君座って。いただきます」


 汐はお構い無しに食べ始めるのを見て、黎人は諦めて一緒に食べる。

 会話らしい会話もなく黙々と二人は食べていると、男子の一人が来た。


「あの! 生徒会長は石川とはどういう関係ですか?」


 じゃんけんで負けたのか、男子が特攻してきた。


「クロ君との関係? まだ知り合って四日しかたっていないけど、私に刺激と初めての体験をさせてくれた人よ」


 黎人の血の気が引いた。


「ちょ、まっ!」

「あら、嘘は言ってないと思うけど」


 しれっ、と言う汐に、黎人は言い返せなかった。


「じゃあ、家に泊まったんすか?」

「お店の方にだけどね」


 周りのざわめきが大きくなる。

 嘘は言ってないので黎人は否定することが出来ないし本当のことも言うことも出来ない、現状をどうにか打破出来ないかと悩んでいると突き刺さるような視線を受ける。

 全身から冷や汗が出ると共に嫌な予感がしながらも、視線の方向を見ると未莱がいた。


(俺が何をした……、今日は厄日か……)


 絶望のどん底に落とされた黎人はもう何も考える気が無かった。


「古海さんがお弁当作ってくれたのね、兄さん」

「あ……、ああ」

「ならこのお弁当は今日の夕食で良いね、捨てるのもったいなから。あと温めると電気代掛かるから冷たいままで食べてね」


 未莱に言われて黎人はうな垂れた。


「未莱さんも一緒にどう? 自分のお弁当持ってきているんでしょう」


 未莱は頷いて近くの席から椅子を借りて三人で食べ始めた。

 気まずい雰囲気が教室内を包む。


「未莱さんはよく学校に来ているの?」

「はい、兄さんがよく忘れ物をするのでそれを届けに」

「なるほどね」


 会話が止まる。クラス全員の視線が黎人にどうにかしろと訴えかけている。

 むしろ助けて欲しいのは黎人の方だが、適任者は黎人しかいないのも事実だ。

 しかし、何も打開策は見付からず気まずいまま昼休みが終わる。


「クロ君、今日お店に寄るから」

「兄さん、三日ぶりに家に帰ってきてね。あ、私も今日お店い行くね」


 二人はそう言って帰って行った。


「とうとうお前も妹離れしたか、未莱ちゃんのことは俺に任せろ」


 クラスメイトの一人がそう言うと、黎人はラリアットをくらせる。


「まず、俺を倒せるようになってから言え」

「このシスコン……」


 ラリアットをくらったクラスメイトはそう言って崩れ落ちていった。




 放課後、黎人は店の前で立ち止まっていた。

 未莱がいるのだろうが、昼間のことを思うと汐が来た時のことを考えて、気が重いくなかなか入る気になれないのだ。


「クロ君そこで何しているの?」


 後ろから汐の声がした。


「汐先輩来るの早いですね。生徒会の仕事は?」

「ええ、いつもは皆に合わせて仕事しているけど、今日は自分のペースでしたから、ちゃんと終わらせてきているわ。会議も無かったしね」

「あと変な奴はいませんでしたか?」

「いなかったと思うけど、一応念の為に姿を消す劣契判を使ってきたから大丈夫だとは思うけど」

「なら、大丈夫ですね」

「兄さん」


 黎人の声が聞こえて出迎えにきた未莱と鉢合わせになる。


「古海さんと一緒に来たんだ?」


 ジト目で見てくる未莱に、黎人は焦る。


「いや、丁度店の前で会ったんだ!」

「へぇ。とりあえず、入ったら?」

「ああ……」


 黎人は未莱に促されて店に入る。


「ようこそ古海さん」

「お邪魔するわね、未莱さん」


 とりあえず、今に三人集まってお茶を啜る。


「で、今日来た用は何ですか、汐先輩」

「折角、契印章造ったのだから使い方を教えてもらおうと思って」

「なるほど、でも使いこなせていたじゃないですか」

「アレはただの火事場の馬鹿力みたいなものよ。私は全然使いこなせていないわ。それに練習する場所もないし」

「確か地下室でいなほに劣契判を教えてもらったんでしたっけ。分かりました、練習場として地下室を使って良いですよ。簡単な基礎も教えます」


 未莱は夕食の用意があるとからと、黎人と汐の二人で地下室に来る。


「えっと……冬の体操服ですか」

「制服が汚れると嫌だから」


 汐の言うことは当たり前のことなのだが黎人はちょっとやるせなさを感じた。


「じゃあ、印判魔法の基礎を教えますね」

「よろしく、お願いね」

「はい。まぁでも大体のことは未莱やいなほに聞いていますよね?」

「そうね、成り立ちとかどういう風に発現するとかは教えてもらったわ」

「基本は押印をすることによって魔法を出すことです。通常の空中押印に、固定押印、そして武具押印があります」


 指を三本立てて黎人は言った。


「空中押印は全ての印判魔法の基本動作です」


 黎人は自分の契印章に水銀をつけて空中に押印すると、空中に印影が付いくと、火が飛び出した。


「固定押印は、押した状態で魔法を出すやり方で、自信の魔力がある限り威力を上げていることが出来ます。その代わりその場からは動けません」


 空中に押し付けた状態で魔法が出る炎が徐々に勢いを増して、最後に契印章を話すと飛んでいった。


「最後に武具押印です。これは魔法を武器状にする方法で、例えば印影を鞘と仮定して、そこから剣を取り出すイメージで契印章を引くんです」


 黎人は言った通りのやり方で、黒い刃を現した。


「これはいつもクロ君がやっているやり方ね」

「はい。でもこのやり方は汐先輩は滅多にしないと思いますよ。大体このやり方をするのは武器を能力にしている奴だけです」

「無理に接近して戦うことをしなくてもいいからか、クロ君は剣が能力なの?」

「正確には違いますが、剣と炎を使ってます」


 剣を構えて剣身から炎を出した。


「そういえば、いなほちゃんが能力以外の使い方があるって言ってだのだけど」

「ああ、重承押印ですね。まぁ契印章を使えるとあまり使うことも無いんですが、紙に描かれた水のマークがあるとして」


 黎人はポケットから、水と書かれている紙を取り出して汐に見せる。


「それに契印章で押印するんですが、このときにマークに魔力を流し込むイメージで押印すると」


 押印した紙から水が溢れ落ちた。


「このやり方は契印章を使っているとはいえ、格段に力が落ちます。劣契判のような弱点はありませんけどね。

 ちなみに劣契判では空中押印しか出来ません。

 これは応用編なので基本が出来るようになったら教えます」

「なるほどね」

「大体これで全部ですが。そうですね、汐先輩にはあまり関係ないかも知れませんが印面の彫り方でスピード重視か安定性重視かが分かります」

「彫り方で?」

「はい俺は陽刻で魔法の発動が早いタイプで、汐先輩は陰刻で安定性重視で耐久力などが高いです。

 まぁようは、マークの周りが掘られているか、マーク自体が彫られているかの違いです」


 汐は黎人と自分の印面の違いを確認する。


「どうして私は陰刻にしたの?」

「篆刻の失敗の可能性が少ないほうにしたんです」

「ああ、そういうことね」

「じゃあ、説明も終わりましたし今から練習をしてもらいますが、この部屋は特別で魔法を出すのに必要な周囲の魔力を部屋の描かれた魔方陣で制御してます。

 もし発動するに必要な魔力を余計に取ろうとする場合と、設定以上の魔力を使う魔法の魔力を遮断するようになってます」

「どうして、魔力を遮断する魔方陣を描いているの?」

「印判魔法は自分の魔力を元に神様の力を持ってきて周りの自然の魔力で制御して放つんですが、未熟な者は契約主の力か周りの魔力に引っ張られて魔力を制御出来なくなることがあるんです。

 契約主の力に引っ張られることは殆どないんですが、自然の魔力の場合はよくあるんで、いきなり疲労や脱力感があったらその魔法はやめてください、そのまま発動しようとすると最悪死にますから」


 死ぬという言葉に流石の汐も表情がこわばる。


「まぁそれほど人間の体はやわに出来てませんから、命の危険があると体のリミッターが働いて気を失います。

 とりあえず、当分は必要魔力量の感覚と空中押印を自由に使えるように練習してください。何か質問はありますか?」

「じゃあ一つだけ、私が望んだ能力とは別の能力を出すことが出来るの? 重承押印以外に」

「ありますよ、もしかして特殊能力があるんですか?」


 黎人は驚きながら聞き返す。


「多分だけど」

「なら相性が良かったんですね。特殊能力は契約主の影響を受ける状態です。

 いなほか未莱から契約主を教えたらいけないって聞いてませんか?」

「いなほちゃんがそんなこと言っていたわ」

「それも特殊能力に分類されます。

 例えばいなほの場合は雷が主能力ですが、雷を扱うことに長けている神様と契約しているので、雷の威力は倍以上になってます。逆に火の神様なのに水の能力をつけると威力は半減されてしまいます。

 たまに盾の能力なのに石化能力も付属されるというレアケースもあります」

「話を聞く限りもしかして、能力を決めるのって結構賭けだったりするの?」

「……はい」


 黎人は目を逸らしながら、頷く。


「そういうことはマークを考える時に言って欲しいのだけど。

 過ぎたことはもういいけど、そもそも彫る前に誰の血か分からないのかしら?」

「彫る前に儀式を済ませばいいだけなんですが。

 でもその場合は熟練の篆刻師でも、彫るのは難しくなるんです。

 血と言っても神様と繋がっていないから加工できるんであって、繋がると神様の一部になりますから人間の力じゃ加工するのは至難の業になるんです。

 それに契約をしないで神様だけ見て途中で抜け出すと、まず契約をしてくれません」

「私の契約主も、再挑戦させないって言ってたわね」

「まぁ、そういうことです。ところで汐先輩の特殊能力ってなんですか?」

「いなほちゃんが言ってた通り最低限の最低限しか教えてくれないクロ君には、正解するまで秘密よ」


 黎人は特殊能力が何か気になって質問すると、汐は意味深な笑顔を作って言った。

 黎人は他に聞くことは無いか聞いたが、汐はとりあえずないと答えたので空中押印の練習を始めた。

 やること自体は契印章を押すだけの動作なので黎人は教えることが無い。部屋の魔方陣があるから、大丈夫だと思うが万が一のために控えてはいるのだが、ずっと汐を眺めているだけになるので、することが無いのだ。

 三十分ほど経つと、たまに魔法が出ない時があるが、劣契判の使い方を教えてもらっているだけあって殆ど使いこなしていた。

 黎人は何でも出来る人だなぁと思う。

 黎人が初めて汐を見たのは生徒会長選の期間中に校門演説をしている姿だった。だが、現在とは違ってその時は、外見はいいけど暗いという印象を受けた。

 印象の変化は見た目が変わったわけではなく、対立候補の女生徒が明るすぎてそんな風な印象になったのだ。それに噂によると、この時はまだ生徒会長をする気が無かったと聞いた。

 人材としては汐も女生徒も問題がなく、能力的には少し汐の方が上といった程度で殆ど差が無かったらしい、強いて言うなら女生徒の方が見た目が華やかだったぐらいだ。

 では何故汐が出たのか、それは対抗候補の女生徒が自分のことを鼻にかける所があり、女生徒を気に入らない女子グループが対抗馬としてぶつけたということだ。

 だが、そんなことで出馬させられた汐はやる気をだせる訳もなく、汐自身対抗候補に不満があるわけでは無かったので、形だけの活動をしていたのだが、生徒会長投票日の全校集会の演説の時に印象をがらりと変えて現れた。

 見た目は三つ編みから普通のストレートに変わった以外には変化は無ったが、何というかやる気というか内面的な変化が外面に現れている感じがした。

 この時に、初めて生徒会長モードになり、普通ならクールビューティと言われてもおかしくない外見だったのだが、言動がまるで人を凍らせるようなものだったのでコールドビューティと評価されるようになった。

 この演説の印象が強烈過ぎて汐の後に演説をした女生徒の影が無くなり、汐が生徒会長になった。

 しかし、汐が直前になってやる気になったのは色々と憶測を呼んだが結局は噂なので誰にも真相は分からなかった。

 そこまで考えて、本人に聞いてみればいいのだと気付いた。


「クロ君?」

「はい?」


 考え事をしていてつい上の空になっていた黎人は声をかけられ少し焦りながら汐の方を見ると、お互いの鼻先が当たりそうなほど汐の顔を近付いていた。

 黎人の頭は真っ白になり顔が紅くなる。


「やっぱり、眠ってた? 三日間クロ君は大変だったからね。私もほとんど徹夜だから今日はもう練習は止めようと思うのだけど」

「そ、そうですね! 今日は止めにしましょう」

「じゃあ、少し汗掻いたからシャワーを借りるわね」


 汐はそう言って先に上に行き、黎人は火照った顔を冷えるまで地下室から出なかった。




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