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神璽の魔法使いたち  作者: トータカロク
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二章ー3



 三日目の朝は、護衛の為に泊まったいなほの分を合わせて三人分の朝食を作って、その後は地下室に行きなんとしても空中押印を習得するといって汐は練習を始める。


「そういえば、いなほちゃん」

「なんです?」


 練習をボーとしながら眺めているいなほに汐は声をかけた。


「お礼と言っては何だけど、午後はいなほちゃんの宿題でも見てあげようかと」

「そういえば、昨日私の契約のことを話すって約束してましたよね!」

「ええ……そうね……」


 いなほの反応に大体察した汐は宿題のことはこれ以上言わなかった。


「それほど長くなる話でもないんですけど、契約の試練は精神世界で行うんです。私の契印章の契約主は私の試練に雷の収集を命じたんです」

「雷の、収集?」

「私の契印章は雷を操るんですけどね。精神世界を縦横無尽に飛び回る雷を契約主が渡してきた玉に集めるっていう内容だったんです。

 雷鳴や稲光が凄くて、移動速度は音速超えていたから、途方にくれたんですけどある切っ掛けで集める糸口が見えたんですよ。

 まぁどっち道集めるのは大変だったんですけど」

「ある切っ掛けって、何?」

「最初は馬鹿正直に雷に向かって行ったんですが、当然追いつけませんよね。

 だからどうしたらいいかと方法を考えるのに集中していたら、雷が集まってきたんです」

「雷を集めるために必要なものは集中することだったのね」

「そういうことです。雷は膨大なエネルギーだから集中力が切れて思いもしないことが起きないように、契約者の集中力を試していたんです。

 だから発動条件は集中力で、儀式で集めた雷だけ使えるという契約でした」

「なるほどね。ところで契約主って誰なの?」

「ああ、契約主は誰にも言っては駄目です。

 超常の連中って結構弱点を持っているのがいるんで、契印章の能力も結構影響されるんですよ。

 もしある神様がいて弱点を突かれるじゃないですか、神話では弱点を突かれて神様は死なないでも、使うのは人間だからちょっとした隙を突かれて……」


 その先は言われなくても汐は理解した。

 昼頃になって、そろそろ昼食を作ろうかと汐が地下室から出てくると、作業部屋から黎人が出てきた。


「あら、今日は一緒に昼食をとるの?」

「いえ、これから儀式の用意をしてきます、ここの敷地じゃ狭いんで。

 夕方過ぎた頃に帰ってきます。あと今日は徹夜になるんで今のうちに寝ていてください。

 じゃいってきます」

「いってらっしゃい」


 汐が質問する隙を与えず黎人は出て行った。


「黎人は準備に行ったんですか?」


 汐のあとから地下室から出てきたいなほが聞いた。


「ええ、ここじゃ狭いからって」

「魔法使いでも魔術師でもない人間が魔法具を作ろうとしたら大きい魔方陣と大量の魔力が必要ですから」

「そうなの、徹夜になるから睡眠を充分とるように言われたけど、そんなに時間が掛かるものなの?」

「試練を乗り越える人しだいですね。まぁ黎人は自分が契約に使った場所でやるつもりだろうから、ここから結構遠いんですよ」

「なら一緒に行った方が良かったんじゃ、すぐ契約の儀式も出来たでしょうし」

「一応そこには人がいるし出来るだけ人が近付かない時間帯にしたいんですよ」

「ちなみに私の知っている場所?」

「知ってますよ、ここいらの人なら誰でも。皿蔵山の麓の森に開けた場所があるじゃないですか、あそこです」

「ああ、あそこね。保育園の時から遠足といえばあそこだったわね」


 汐は中学まで遠足で行っていた広場のことを思い出した。


「そこです。寝とけって言われたんなら今から寝ます?」

「そうね。昼食を食べてからいつでも行ける準備をしてから仮眠を取りましょうか」

「ちゃんと用意をするところは、さすが生徒会長ですね」

「ええ、一応褒め言葉と取っておくわ」


 人を凍らせるような微笑を湛えた汐がいうと、いなほは愛想笑いを浮かべて後ずさった。

 昼食を食べ終えて片付けて、準備を終えた二人はすぐに仮眠を取る。

 十七時少し前に起きた汐は、いなほがまだ寝ているのを見てからシャワーを浴びにお風呂場に行く。


「わしの判子は元気の出る魔法の判子じゃ、か……。まさか本当に魔法の判子だったなんてね。まぁ本物とは知らなかったでしょうけど」


 服を脱ぎながら昔のことを思い出して、汐は呟く。


「おじいちゃんみたいな使い方は出来ないけど、出来れば見守っていて」


 汐はまるで禊をする巫女のような面持ちで、浴室に入った。

 汐が髪を乾かせいると、シャワーを浴びたいなほが戻ってきた。


「おかえり、夕食は何を食べる?」

「えぇーと、何でもいいです」

「未莱さんが買ってきた食材はあと何があったかしらね」


 ドライヤーを置いて台所に向かおうとする汐の手を、いなほは握って引き止めた。


「そういえば、来てからずっと聞きたいことが一つあったんですけど、聞いて良いですか?」

「どうぞ」

「黎人は見付からないように細工して行くつもりだろうけど、私は十中八九連中に見付かると思ってます」

「この店には来てないようだけど?」

「それは、私と黎人の契印章の力で隠しているからです」

「いなほちゃんの契印章は雷と聞いたけど、もう一つ持っているの?」

「一個しか待ってません。やり方は後で教えますがそういう風にも使えるんです。

 それより、私の聞きたいことは、エリオンを持っていただけの一般人の汐さんが危険なことを承知で契約の儀式をする気ですか?」

「そんなこと今頃言われてもね。私が言えることは、今ほうり投げるぐらいなら最初に襲われた時にとっくに男に渡して逃げ出していたわ」

「今この時はそう思っていても、いざとなって逃げ出されると私達の身の危険があるんで、汐さんの本気が――」

「見たいの?」


 いなほに返していなかった氷の劣契判を持った汐は素早く水銀につけて空中に押印す。

 すると、いなほを無数の氷の杭が包む、だが一瞬で全ての氷の杭は消える。


「まぁ、無様に逃げ出さないように努力するわ」

「……分かりました」

「あ、劣契判返しておくわね」


 汐から劣契判を受け取るいなほは、シャワーに浴びてきたばかりだというのに全身が寒さに似た感覚に包まれていた。

 夕食は汐が簡単に食べられるうどんにするといって何故か鍋焼きうどんを作って、シャワーを浴びたばかりなのに汗を出しながら、二人で食べていると黎人が帰ってきた。


「何か美味しそうな物食べてますね」

「ちょっと待ってね、今から作るから」

「いえ、俺は外でパン買って食べたのでいいです。それより食べ終わったら出発しましょう」

「ええ、分かったわ。それより見付からないで行く方法はあるの?」

「この前使ったステルス魔法を使って」

「あら、この前のような凡ミスはやめてね」

「は、はい……気をつけます」


 食べ終わった二人は準備していたバッグを持った。


「用意いいですね……」

「出かけるのが分かっていて何も用意していないはずないでしょう?」


 そう言って汐は黎人に手を差し出した。


「じゃ、クロ君判子を押して」

「いえ今回はちょっと違うやり方でします」

「……そう」


 汐は出した手を見てそう呟いた。

 黎人は握り拳三つ分の長さの銀色の棒を出した。

 銀色の棒の先に水銀をつけた黎人は、ステルス魔法に使った劣契判に彫られていたものと同じマークが描かれた紙に押印する。


「これで大丈夫なはずです。いなほは自分で出来るだろ」

「言われなくてもするわよ。誰かさんみたいなミスはしないからね」


 いなほも黎人と同じく紙に押印した。


「じゃあ、出発しましょう」


 三人は人目に付かない路地裏を抜けていき、バスに乗る。

 しばらく、バスに揺られながらバス停に着くともう当たりは真っ暗になっていた。


「暗いんで足元に気をつけてくださいね」

「ええ、ありがとう」


 黎人は汐の手を取って逸れないようにする。


「黎人は年上の女の子には優しいのね」

「馬鹿いうな、俺等と違って汐先輩のような普通の人が夜の森を中を歩けるわけないだろ」

「はいはい、そういうことにしといてあげるわ」

「ったく。もうすぐ着きます、汐先輩」


 そう言っているうちに森を抜け開けた場所に出た。

 高校のグラウンドほどあるだろうか、その隅に大きな魔方陣が描かれていた。


「人がいる前でこれを描いたの?」

「いえ、そんなことをしたら目立ち過ぎるんで、人避けと姿を消す魔法を使って描きました。魔方陣の中心に行って、これを置いてから親指を切って血を押し付けてください」


 黎人が魔方陣の真ん中を指差しながら、汐に紅い塊を渡した。

 それはレモン型だったエリオンを正方形にして汐が考えたマークが彫られた汐の石だった。


「見事に印章らしくなったわね」

「……まぁ印章と判子を使う魔法ですから」

「出来るだけ削らないで加工してありがとうね」

「いや、俺はまだ未熟で陰刻でしか彫れなかっただけです」

「それでもありがとう。じゃちょっと契約の儀式をしてくるわね」


 汐は指差されていた魔方陣の中心に行き、印章を置いた。


「この魔法って定期的に傷を作ることになるから、傷が残りそうなのよね。……んっ」


 血が滴る親指を印章に押し付けた。

 すると、印章は紅く輝き始めて中心から拡がるように魔方陣も紅く輝き始める。

 宝石の輝きのような紅い光に汐は気をとられていると、斬撃音がした。


「ちっ、気付かれない自信は結構あったんだがな」

「黎人は爪が甘いから、見付かったんじゃないの?」

「うるさい!」


 互いに悪態をつきながら二人は飛んでくる攻撃を、それぞれの契印章の魔法で打ち落としていく。


「二人とも!」

「汐さんは儀式に集中して、この程度は毎度のことだか」

「汐先輩、また後で会いましょう」


 その瞬間、魔方陣が一際輝きを増して光のドームを作り出した。


「ふむ……、この場所は最も注意して監視していたんだが、一足遅かったか。まぁいい一般人に契約の試練など乗り越えられんだろう。その時に奪えばいい」


 二人の前に中年の男が現れた。


「その時まで、ゆっくりと待たせてもらえるかな? ガキ共」


 中年がそう言うと、二人は契印章を構える。


「先輩が儀式を終えるまでに、追い返すに決まってるだろ!」

「そうよ、あの人はただの一般人といえないし」


 黎人といなほがそう言うと、中年の男は口を尖らせて悪そうな笑みを浮かべた。


「ま、暇つぶしは欲しいからな……やれ」


 男がそういうと、森から次々と部下と見られる男達が出てきた。


「暇つぶしね……」

「……それは俺らの台詞だ!」


 黎人の声と共に二人は、男達に向かって行った。




 

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