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神璽の魔法使いたち  作者: トータカロク
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四章ー2




 いなほが水銀を素早く付けて、魔法を放つ。強烈な閃光と共に雷が迸ると同時に黎人が森に向かって走った。


「おやおや、目の前で話している人間を置き去りにするとはね。お前達、その女の契印章は早い者勝ちだ、ついでに女も好きにしていい」


 向地は黎人を追って走り出した。


「追わせるわけないでしょ!」


 いなほは向地に向かって雷を放ったが、向地は空中押印をして雷を防ぎ森に入って行った。


「ちっ、リーダーだけあって結構強力な契印章を持ってたか。ま、そのくらい黎人がどうにかするでしょ。さて私は私の役割をこなしましょうか! 『貫く雷』」


 いなほはとりあえず、目の前の男に雷を放った。

 いなほと男は数メートル離れていたが、一瞬で雷は男を貫いて男は地面に倒れた。


「まぁ、殺しはしないから心配しなくていいわ」


 倒れた男にかまだ増え続けている男達に、それとも両方に言ったのか定かではないが、いなほはそう言う。

 いなほの魔法を見て男達は懐から判子をとりだして、空中押印した。

 いなほが見える範囲だけだが、すべて劣契判に見える。


「劣契判ごときで私の契印章に勝てると思ってるの! 『薙ぎの雷』」


 いなほが空中押印して契印章を横に動かすと視界に入る全ての男達に向かって雷が迸った。

 この攻撃で多数の男達が倒れるが、まだ森から途切れなく出来る。

 いなほは後ろから来る気配に素早く『貫く雷』を放って倒すが、敵の数が一向に減る気配が無い、むしろ増えてきている。


「どんだけ、部下つれて来てるのよ。あーもう、きりが無い!」


 劣契判を使った関節攻撃をかわしながら、いなほは先程切った親指の血を契印章に付ける。


「範囲はこれぐらいでいいかな。黎人に汐さんもし攻撃があったっても文句言わないでね『鎖縛する雷』」


 地面に押印したいなほを中心に波紋のように雷が拡がって行き、森の中へと消えていった。

 拡がる雷に当たった男達は静電気のような痺れはあったが、それ以外には何の変化も無かった。

 男達が劣契判で間接攻撃をする前に、いなほは血を付けて空中押印する。


「『連鎖する雷』」


 雷がいなほに近い男に当たり気絶させると、そのまま消えることなく次に近い男に飛んだ。

 男達を次々に気絶させながら雷は移動していく、残像と連続の雷鳴でまるで雷の龍が獲物を狩っているようだった。


「『鎖縛する雷』をくらった人間を追尾する『連鎖する雷』の音速を超える速度からは誰も逃れないわよ。まぁ――」


 いなほは素早く血を付けて振り向き様に空中押印した。


「『連鎖する雷』をくらう前に私を倒そうとする奴とかいるんだけどね、実際には防げないわけでもないし。もう一個『連鎖する雷』」


 いなほが振り向き様放った『連鎖する雷』を受けた男が吹き飛ばされた。


「さて、全滅させたら汐さんの所に行こうかな」


 森の中を飛び巡る二匹の龍に見える雷を見ていなほは言った。




 炎の球が汐の後ろからすぐ真横を擦り抜けて行った。


「諦めろ、小娘お前の姿はこちらから見えてるんだぞ!」


 後ろから火村の声が響いてくる。


「はぁ、はぁ」


 汐は一瞬止まって振り向き空中押印で氷の杭を打ち出して、すぐ振り返って走り出した。


「悪あがきを!」


 飛んできた氷の杭を炎で掻き消した。

 汐は走り際に幾つかの木に押印していく。すると氷の壁が出来て火村の行く手を阻んだ。

 少しでも逃げる時間を稼ぐ為に、水銀を付けながら片っ端から木に押印して氷の壁を作っていくが、火村の一回の押印で殆溶かした。

 それでも、汐は氷の壁を作りながら走る。


「いい加減面倒だな」


 火村は空に向かって空中押印をすると、小さな炎の球が数個現れて汐の真上に飛んで行ったかと思うと、分裂して数を増やして汐に降り注いだ。


「きゃっ!」


 魔法で身を護ることも忘れて汐はその場に頭を抱えて立ち竦むが、炎の球が降り終わると頼りない足どりで動き出す。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩で息をする汐は、火村の足音が近付いてくるのを聞いて、空中押印で大きな氷を放ち更に水銀を付けず連続して木に押印して氷の壁を作った。

 時間稼ぎにもならないことは分かっているが、それでも汐は時間を稼ごうとする。しかし、汐は助けは来ないと悟っていた。

 それは、黎人といなほが負けるというわけではなく、自分が殺されるには間に合わないだろうということだ。

 ならば、なんのための時間稼ぎだろうか。

 後ろから炎が迫ってくるのを汐は感じて、走る速さを上げて森を駆け抜けると、少し開けた場所に出た。

 汐は走りながら振り向き空中押印をして氷の球を放つ、氷の球は炎に負けて蒸発してしまったが、勢いが弱まり汐は横ステップでかわした。

 そして、汐は開けた場所と森の境目の手前まで走って止まった。


「どうした、鬼ごっこは終わりか?」


 火村が森から出てきて、汐を見て言った。


「ええ、そうよ」

「仲間が助けに来ないとやっと理解したか」

「ええ、理解したわ。このまま逃げ続けて最後に殺されるまでには二人は間に合わないって」

「ほう」

「だから、私が貴方を倒せばいいことだわ」


 汐がそう言った瞬間火村は声を上げて笑った。


「なるほどな! 逃げ続けていれば死、なら返り討ちにすればいい分かりやすい考えだ。しかし、本当に俺に勝てるとでも思っているのか?」

「当たり前でしょう」


 汐の返事に火村は獰猛な笑みを浮かべた。


「小娘、俺たちの仲間にならんか?」


 唐突な火村の誘いに汐は少しだけ目を見開いた。


「なるといって済むとは思えないのだけど」

「少しは上司に意見を通せるからな、あの二人は口止めをすれば大丈夫だろう。お前の契印章を失わずに二人も死なずに一揆両得だと思うが?」

「それを信じると?」

「いざとなったら二、三回抱れたら、良いだろうよ」

「……そういう考えは嫌いなのよね」

「俺もだが、命には代えられんだろ」


 火村が言った瞬間、汐は氷の杭を放つが火村は難なく氷の杭を蒸発させた。


「お返しだ」


 炎の球が打ち出され汐に迫る。

 汐はとっさに空中押印をしたが何も起きず、汐は素早く二度目の空中押印で氷の球を出してぶつけたが炎の球の威力には勝てず、炎の球の勢いを少し殺しただけですぐに蒸発した。

 勢いを殺せれたおかけで、汐は辛うじて避けるがバランスを崩して倒れる。


「どうした、俺は少しも本気は出していないぞ」


 火村が空中押印すると大きな炎の球が現れ汐に迫る。汐は同じ大きさの氷の球を作り出して炎の球目掛けて飛ばすと、ぶつかる手前で炎の球が三つに分裂した。

 驚きながらも汐は、自分に一番近い炎の球に氷の球を当て、次に近い炎の球を避けて三つ目の炎の球に氷の球を放った。

 どうにか分裂した炎の球をしのいだが、土煙と水蒸気で火村の姿が見えなくなった。

 この中で、移動されていたらどこにいるか分からないが汐は空中押印する。

 すると、汐の視界を埋めるように氷の杭が幾つも現れると同時に飛んで行った。

 この攻撃で勝てるとは思わない汐は、さっき受けた頭上からの攻撃と後ろに注意をしていたが、変化は前から来た。

 突然目の前が赤くなったかと思うと、幾本もあった氷の杭が一瞬にして蒸発した。

 氷の杭を溶かした炎は、蛇のような動きで汐に向かって来た。汐は炎に向かって空中押印をするが、何の変化も見ることが出来ず辛うじて避けると、後ろにあった木々が燃え始める。


「さっきから、何回か魔法が不発で終わっているようだな。いや全て不完全な魔法だ」

「全て……?」

「長年魔法具を使っていると、魔術師の素質が無くても魔法を使う気配が感じるようになってな、お前を追っていた時もそうだったが、不完全な魔法の気配しか感じなかった」

「……そういう風に感じれるようにもなれるのね。

 それで、私の魔法が不発に終わっているとして何か不都合でもあるのかしら」

「何にも無いな。ただ未熟な魔法具使いの相手をずっとしていられるほど暇ではないな。本気でやらせてもらうぞ。

 あの小僧ともう一度戦ってみたいから、これ以上時間をかけると小僧が殺されてしまう」


 火村は懐からもう一つ契印章を取り出した。


「今まで使っていたのが火蜥蜴の契印章で、こっちが俺本来の契印章の火竜の契印章だ。

 まぁ本気を出すと言っても、火竜の契印章の半分の力でも充分だ」

「契約主を誰にも言うなと私は教えてもらったのだけど、簡単に言っていいのかしら?」

「知られて不味いのは次があるからだ。知った者の次が無ければ知られても問題あるまい」

「ああ、なるほどね」

「一応聞くが、仲間になるか?」


 火村が最後通告をしてくる。

 汐は仲間になる気など無いが、この場を切り抜ける打開策が見えてこない。せめて、不完全といわれた魔法を完全な魔法にすることが出来れば打開策の糸口が見える気がするのだが。自分に何が足りないのかを考える。

 黎人もいなほも未莱からも不完全だとは言われていないことは確かだ。火村の感覚的な物だろうと汐は考えるが、不完全な物をあの三人が見切れないとは思えないでいた。

 つまり、黎人たち第三者が見てもおかしい点が無いということだ。

 なら何故不完全なのか、汐は教えられた劣契判と同じやり方で契印章から魔法を出せている。

 汐は何か手掛かりが無いかと、初めて襲われてからのことを思い出す。


「返答は無しか」


 火村は契印章に水銀を付けた。

 汐は焦る自分を押さえつけて、詳細に思い出していく。


「二人は後で必ず送ってやる」


 火村は汐に向けて空中に契印章を押し付ける。

 汐はその様子を見ながら、思い出しているとふといなほの言葉を思い出す。

 ――それは契約した時に契約主に聞いてください。

 いなほがそう言ったことを思い出した。

 あの時いなほは魔法を出すには条件が必要だと言っていた。しかし、汐はポリアフから条件を教えてもらっていない。

 他に何かヒントがないかと、思い出しているといなほが試練をクリアするための条件と発動条件が一緒だと気が付いた。

 火村が契印章を引くと空中に印影が残り、汐の身長の一・五倍の大きさの炎の球が印影から現れた。

 炎の球のスピードは速く、汐に深く考える余裕は無かった。

 汐は精神を生徒会長モードにして、自分が試練をクリアするためにしたやり方で空中に押し付けると、汐は今までの空中押印で感じなかった手応えを感じた。

 一瞬戸惑うが、今の状態を崩さないようにして引いた。

 印影から氷の杭が現れる。

 しかし今までの氷の杭とは違っていた。見た目の変化は無く何が変わったのか分からないが、密度が変わった感覚が汐にはあった。

 氷の杭は炎の球に向かってぶつかり、せめぎあった後一回り小さくなりながらも炎の球を貫いた。


「何!」


 驚きの声を上げながらも火村は氷の杭を蒸発させて、蛇のような動きをする炎は放った。

 汐はさっきと同じように空中押印をするが何も起きず、とっさに地面に押印して氷の壁を作り防ぐが、半分以上溶けた。


「さっきのはまぐれか、少しは面白くなると思ったんだがな」


 火村は自身の二倍の炎の球を作る。

 汐は何故さっき魔法が発動しなかったのか次々と理由を考えるが思い浮かばず、とにかく目の前の炎の球を防ごうと水銀を契印章に付けた時、ふいに背後に気配を感じた。


『自力で発動条件まで見付けたから、特別に教えてあげるわ。折角の契約者が死んでも面白くないしね』


 聞こえてきた声はポリアフの声だった。


「もっと早く出てきて欲しかったのだけど……」

『なんでもかんでも教えてもらわないと動けない人は嫌いなのよ。もしシオが条件に辿り着けなかったら、助けたりしなかったわ』


 ポリアフの台詞に汐は背中がヒヤリとした。


『そんなことより、目の前のことに集中しましょうか。

 シオの魔法が上手くいかないのはイメージが下手なのよ。

 まぁ普通なら先程程度のイメージでもいいんだけど、あの男のほうが精神力も魔力の錬り方も格上よ。

 貴女の魔法は精神力か魔力のどちらかが上にならないと効果はないわ』

「それじゃこの状況はどうしようもないですよね」

『だから、切り抜ける方法を教えてあげようというのよ。

 それはより明確なイメージをするの、現実に魔法と同じ効果しようとするにはどういう風にすれば良いのかをイメージするの。

 さぁシオならこの程度の助言で出来るはずよ』


 そう言うポリアフに対して、無責任だと思うが汐は言われた通りのイメージをする。

 炎の球が放たれた。

 汐は気分を落ち着かせて感情を無くし体から力を抜き体に入ってくる情報を極力なくして、魔法の結果を現実的に再現するイメージをして、空中押印した。

 手に伝わってくる確かな手応えと今までにない魔力の流れを感じながら汐は魔法を放った。

 火村は汐が魔法を使う気配を感じた、それも完全な状態のだ。

 しかし、何も起きた様子も無くまた不発かと思ったとき何かが引っかかったが、すぐに分かった。

 汐に向けて放った炎の球が、汐が魔法を使った直後の位置で止まっているのだ。


「どいうことだ……?」

「どうにもこうにも魔法を使っただけよ」

「貴様の能力は氷のはず、まさか特殊能力か」

「いえ、違うわ。氷の方が特殊能力よ。私の契印章の本当の能力は停止、なかなかコツが掴めなくて苦労したわ」

「まさか……俺との戦いを魔法の練習に使っていたのか!」


 火村の怒りが篭った問いに、汐は微笑みで答えた。


『虚勢をはってかっこつけているけど、まだまだよ。

 炎の球を氷の中に閉じ込めて動きを停止させるイメージは良いけど、この程度で満足されたら困るわ』


 ポリアフが釘を刺した。


「でも、停止の効果はこれが限界じゃないですか?」

『何を言ってるのよ。本来なら炎は霧散させられるはずよ。

 シオが思っているよりこの力は強力だと知りなさい。

 その気にならば時を停め、さらには世界を壊せる力よ。まぁ魔力を上手く錬れない今のシオがしようとすれば心臓を止めるぐらいしないと無理だけど。

 だから今以上に精進することね』

「分かりました」


 汐がポリアフと話していると今までの二倍はある炎の球が飛んで来た。

 汐は慌てず空中押印すると、炎の球は止まった。


「しばらくは霧散させるイメージが出来ないかしらね」


 汐は二回空中押印をして二つの氷の球を出してそれぞれ当て相殺させて炎の球を消した。


「名前は存じませんが、習得に付き合ってくれてありがとうございます。

 相性的にも私の方が分がありますし、このまま引いてくれませんか?」

「なめるな! 小娘相手に本気を出すまでも無いと手加減していた程度の力で、俺に勝ったつもりでいるのかっ!」


 火村は地面に向けて空中押印すると空に飛んだ。


「俺の特殊能力は飛行、そして本能力は溶岩だ!」


 そう言って火村は押印し火が汐の後ろに落ちると一瞬で火の海になった。


「お前が障害物にもなって隠れやすい森の中じゃなく、ここを選んだのは周りを火と煙に囲まれることを恐れたからだろう? しかしこれで逃げ場もなくなった!

 溶岩に燃やされ潰されろ!」


 火村は空中押印をするとバス程の直径の溶岩の塊を発現させた。


「凄く熱そうね。

 でも、私の雪の女神様は火山の女神様の溶岩すら凍らせたのよ? 火竜程度の溶岩で倒せるとは思わないでね」


 まぁ聞こえていないだろうけど、と思いながら汐は溶岩の塊に向かって押印する。

 契印章に魔力が集まってくる気配を感じる。このまま魔法を放てば強力な魔法が出るだろうが、汐は更に魔力を集める。何故なら火村も同じように魔力を集めているからだ。

 二人は固定押印をしようとしていた。

 先に魔力の集中を切った方が負ける、汐はそう考えていた。

 固定押印は魔法を放った後でも魔力を集めて威力を上げることができるが、放つ一瞬だけ途切れてしまう。その瞬間をつかれて魔力量に差をつけられれば、魔力総量で負けてしまう。

 しかし、火村はそうは考えてはいなかった。


「燃え尽きろ! 『火竜の溶炎』」


 まるで竜の咆哮のような轟音を響かせて、溶岩の塊が迫ってきた。

 汐はその様子を見ながら、静かに冷静に深々と感情を無くして停止と氷の魔法を放った。

 火村はいくら停止の魔法だろうが、自分の方が全てにおいて勝っていると考えていた。だが、一瞬でその考えは打ち砕かれた。

 汐が魔法を放った瞬間、溶岩の塊と火村は動かなくなり、溶岩の塊は瞬時に凍りつき火村が驚く暇すらあたえず氷が覆い柱が出来た。

 火村と溶岩の塊を覆った氷の柱を作った余波で周りを囲っていた炎も消えた。


『思い切った攻撃をしたけど、中の人間は大丈夫なのかしら?』


 氷の柱を眺めているような気配を放ちながらポリアフは聞いた。


「あの人を覆っている氷の冷気は殆ど感じなくなっているはずですけど、自信はありません。

 まぁ呼吸困難で意識が飛んだ後ぐらいに、氷の柱はなくなると思います」


 ならいいかと、ポリアフは頷いた。


『そんなことはどうでもいいけど、あの少年に助けてもらえなくて残念と思っているんじゃないの?』

「なっ……んのことですか? そんなことよりさっきの広場まで戻りましょう」


 そう言って汐はもと来た道を歩き出した。


 

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