第83話 オマエたちほど厄介な弟子はいなかった
控えエリアとして選手、コーチ、関係者に開放されている講堂。その中に清蓮学園の一年生が集まっていた。
「……ここは?」
意識が戻ると、メグミはぼんやりとした記憶から、自分がどうしてここにいるのか疑問に思う。
「メグちゃん、大丈夫?」
「マナミ?」
童顔、ツインテールの藍川マナミがメグミの顔を心配そうにのぞき込んでいた。彼女は競技会の選手ではない。なのに、メグミと一緒にいるということは――
「ハッ! 試合は!? 試合はどうなったの!?」
カラダを起こしたメグミは、ここが競技場でないことを理解する。
「試合は棄権した。オレたちの負けだ」
「ちょっと! どうして!?」
「あのままでは、オマエも、競技場にいる全員にも危険がおよぶと判断した」
「なっ――」
メグミは思い出していた。亜紀がケガさせられたうえに、ナタリアのコーチが発する暴言。コーチに言い寄った後、激しい怒りが込み上げてきて、そのあとの記憶が飛んでいた。
「わたしの……せい?」
メグミは時々、自分が怖くなる。魔法を使うようになってからというもの、怒りが抑えられなくなると魔力が暴走し、我を忘れる。その度に、ダグラスが助けてくれるのだが、彼はその理由について教えようとしない。
「オマエのせいじゃない。オレの監督不行き届きだ」
今日もそれだけしか言わなかった。
メグミが立ち上がれるようになると、ダグラスはクラス全員を集めた。
「みんな、この三か月、よく頑張った。オレは三百年間、さまざまな弟子を持ったが、はっきり言って、オマエたちほど厄介な弟子はいなかったぞ」
「なによそれ――」亜紀が言うと、みんなが笑った。
「だけどな、オマエたちほど教えがいのある弟子はいなかったし、魅力的な弟子もいなかった。なによりオレ自身、まだまだ学ばなければならないことがたくさんある――そう気づかせてくれたのもオマエたちだ。ありがとう」
彼は深々と頭を下げる。
「これからも幾多の試練がオマエたちに待ち構えていると思うが、オレのしごきに耐えてきたオマエたちなら必ず乗り越えられる。なにより、オマエたちには魔法がある!」
この世界に魔法の素晴らしさを教えてほしい――そうダグラスは言う。
「それじゃ、がんばれよ」
彼は教え子たちに背を向けた。
「マグリン、本当に辞めちゃうの?」
「まあな――それに、どうやらオレがこの世界でやらなければならないことは、思っていたよりいろいろとあるらしい」
この世界にやること? それって?
「ダグラス! 私にも手伝わせて!」
そう叫んだのはメグミだった。彼にはやりとげなければならない何かがある。もし、自分にもチカラがあるなら、彼の役に立ちたい――そう考えた。
だが、ダグラスは右手を上げるだけで、メグミの思いに応えることはなかった。
「――これで終わるつもりですか?」
そう声をかけたのは、清蓮学園校長の清野蓮だった。
「ああ、約束だからな」
この競技会、一年生が優勝できないのであれば、自分は清蓮を辞める――という約束。そして、ナタリア戦を棄権したことで、優勝はかなわなかった。
蓮は「そうですか……」とだけ声にする。
「アイツらのために、なんらかの方法で魔法の勉強が続けられるようにしてほしい。頼むな」
蓮の肩を叩いて、ダグラスが立ち去ろうとした時――
「そうそう、言い忘れていたことがありました」と、清野蓮が生徒たちにも聞こえるように声を張り上げる。
「ナタリアの選手たちが、魔法薬を使用していたことをマスコミに証言したうえで、公正な試合ではなかったと自分たちの試合結果を全部取り消すように訴えてきたそうです」
「――えっ?」
「それで、三校の話し合いにより彼女たちの主張を認め、本日行われたナタリア女学院の全試合が無効になりました」
「そ、それじゃ、私たちは……?」
「横浜羽鳥に勝ったことで、今日の競技会、優勝ですよ」
「ワーッ!」と生徒から歓声が上がった。互いに抱き合う愛弟子たちをダグラスは笑みを浮かべて見守った。
「これで、魔法科を存続させられます――こちらこそ、ありがとうございます。大賢者、ダグラス・マグナマル」
あらためて頭を下げる清野に、ダグラスは「ああ、よかったな」と声をかけた。
安堵の笑みを見せたダグラスは、歓喜の輪に入ることなく、彼女たちから離れて行くのだった。




