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第81話 オマエ、魔族契約を従属契約と勘違いしているだろ?

 勝ちほこったように今居は言う。しかし、ダグラスの後方にいる盛サナエも動かない。


「どうした? さっさとやれ!」

「アルベルトよ。まだ、わからないのか?」


 ダグラスの問いかけに、顔をしかめる今居だったが、突然、「はっ……」と声を出す。


「ま、まさか、いや、そんなはずは……魔族との契約は絶対のはずだ。上書きなんかできるはずもない」


 そんなことをつぶやく相手に、ダグラスは「ハ、ハ、ハ!」と大笑いする。


「な、何がおかしい⁉」


 すると、ダグラスは「いやなに……」とニヤけたまま――


「アルベルトよ、そもそも魔族契約がなんたるか知っているのか?」

「……何が言いたい?」


 苛立ちを見せる今居――アルベルト。ダグラスは「なら、オマエにもわかるように簡単な言葉で説明してやる」


 あえて、相手を挑発するような言い方をした。


「いいから、サッサと話せ」

「オマエ、魔族契約を従属契約と勘違いしているだろ? 魔族契約は主従契約だ」

「……なんだと? どういう意味だ」


 ダグラスは「クスッ」と笑ったあと、こう説明する。


 従属契約は魔獣など知能の低い相手とする契約。この場合、契約主が相手よりチカラが下、つまり腕力や魔力が上回っていなくても従わせることができる。

 しかし、魔族は知能が高い。その場合主従契約となる。

 その契約は純粋にチカラの上下関係だけで主従が決まる。

 魔族と契約した人間は望みが叶えられる――そう古代より伝えられてきたが、それは魔族を従えたからではない。その逆で、魔族は従者である人間に、報酬としていくばくかの望みを叶えてやっているだけなのだ。


「魔族はそもそも自尊心が高い。そして、オマエよりも強い。そんな魔族がオマエと主従契約した場合、どちらが主人で、どちらが従者になるか? オマエでも理解できるだろ?」


 ダグラスの説明に、今居は驚愕の表情を浮かべた。


「ま、まさか! そんなはずは……それじゃ、いままで、私の指示に従っていたのは――?」

「契約だからではない。そういうフリをして楽しんでいただけだ。なあ盛? そうだろ?」


 ダグラスの後ろにいた、金髪の女子高生は「フフフ……」と含み笑いをするだけだった。


「ウ、ウソだ。おい! 冗談はやめて、ダグラスを殺せ!」


 あらためて指示する今居だが、やはり金髪の少女、盛サナエはなにもしない。


「この場に及んでも、理解できないか。アルベルト、どうやら、オレはオマエを買い被りしすぎたようだ」

「な、なんだと?」

「盛、仕方ないからわからせてやれ」


 ダグラスがそういうと、サナエは「ハイハイ……」と面倒くさそうに返事したあと――


「今居壮、自分で自分の首を絞めなさい」

 そう、口にする。すると――


「な、なんだ? 手が勝手に――」


 今居の手が自分の首を絞め始めた。


「う、ううっ……や、めてく……れ」


「おいおい、本当に殺さないでくれよ。ソイツにはいろいろ聞きたいことがある。それまで――」


 そのとき、強い殺気が向けられた気がして、ダグラスは後方へ飛び跳ねる。


「なんだ?」


 ダグラスが考える間もなく、結界内に激しい爆発が発生した。


「マズい――盛!」


 爆発の光が満ちあふれると、ダグラスとサナエの姿が消える。ハレーションを起こして、見えなくなったわけではない。結界の外へ回避したのだ。


「さすがに、あの爆発に巻き込まれていたら危なかった。盛よ、ありがとうな」


 金髪の少女は「どういたしまして」と答える。


「それより、今の魔力は――」

「ああ。どうやら、盛以外にもアルベルトは悪魔を召喚していたようだな」


 ほんの一瞬だったが、巨大な魔力を感じだ――ドラゴンのそれさえ、はるかに超越する巨大な魔力を――


「――そのようね」

「盛は知っていたのか?」

「ぜんぜん。おそらく、最近、召喚したのでしょうね? だけど厄介よ」

「――厄介?」


 サナエはピンクに染まった毛先を触りながら――


「今の魔力は、私のそれ以上。あれは魔王よ」

「…………」


 つまり、今居壮、アルベルトは魔王とも契約していた――そういうことなのか?


「私と今居の契約も強制解除されたわ。残念だけど、今居からそれを聞き出すことはもうムリね」

「……そうか」

「……それより、私をどうして放置しているの?」

「放置?」

「私のことに気づいて、どうして何もしないの?」


 実のところ、首藤リナが大ケガを負った事件で、盛サナエが絡んでいるとダグラスは気づいたのである。

 あのとき、競技場に仕掛けられた魔道具は誰かが操作しないと発動しないタイプだった。つまり、競技場内に術者がいたことになる。そして、操作するのにもっともよい場所――コート内にいたサナエを疑ったのだ。

 自分もケガすることで、ダグラスの推理を撹乱しようとしたのだが、逆に《《都合が良すぎるケガ》》と気づかせてしまったのである。


「別に……盛は今までどおり、オレの生徒だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 ダグラスの言い訳に、サナエは「ふーん」とつぶやく。


「盛はどうなんだ? アルベルトとの契約がなくなったのだから、清蓮にいる理由もないのだろ?」

「……そうね。でも、先生と一緒のほうが楽しめそうだから清蓮に残るわ」

 そんなサナエの勝手な言いぶんに、ダグラスは「……そうか」とだけ応える。


「それとも、今度は先生と契約しようかしら?」

 サナエの提案に、ダグラスは「やめてくれ」と即座に拒否した。


「オレがまったく見破れないほど、完璧な人化をしてみせる魔族だ。契約したら、オレはオマエの言いなりになってしまうだろ?」

「どうかしら? 私より先生のほうが強いと思うんだけどな。ダグラス先生?」

「……ふん、その手には乗らない」


 ダグラスは「さっさと戻るぞ」とサナエに言う。


「もう、試合が始まっているはずだ」

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