第80話 だから、言っているだろ? 所詮、子供だましだと
「ワハハッ! 大賢者もこんなモノか!」
今居が狂気な表情で、串刺しのダグラスを見て笑った。
「アナタがこの世界に召喚されたというニュースを聞いて、小躍りしたくなりましたよ。アナタをこの手で殺すことができるのですからね! 百三十年、忘れもしない。この恨み、ついに晴らしたぞ!」
それまでの今居とはまったくの別人だった。その顔、その発言、何かが吹っ切れたように、喜びを露わにしていた。しかし――
「なんだ? もう勝ったつもりでいるのか?」
「――なっ!」
串刺しにされたダグラスが今居に笑いかけた。それを驚愕の表情で見返す。
「な、なぜだ!?」
「だから、言っているだろ? 所詮、子供だましだと」
「黙れ!」
今度は大きな黒い円錐が、ダグラスの顔を吹っ飛ばず!
「何度やってもムダだ!」
顔のないダグラスが喋った!
「いったい、どういうことだ? はっ!?」
次の瞬間、無傷のダグラスが今居の前に立っていた。今居は相手に対して恐怖を感じてしまう。得体の知れない相手と闘っているという恐怖を――
「闇属性は相手に『思い込ませる』だけの幻影魔法だ。それができなければ、現実にならない。なぜ、勇者が魔族の天敵と言われているか知っているか? 勇者と呼ばれる者は誰にも屈しない強固なメンタリティがあったからだ。だから勇者には闇魔法が効かない。その原理さえ理解すれば、魔族など怖くない」
「くっ!」
今居は苦し紛れに、火属性の上級魔法『フレイム』を放つ。その炎はダグラスのカラダを一時的に包むが、次の瞬間、パッと消し去った。
「闇属性がダメなら、物理魔法か? そんなモノがオレに効かないことくらい知っているだろう? 今度はオレの番だ」
ダグラスが今居に向けて右手を伸ばすと、今居のカラダを包むように光る輪が現れ、今居を拘束した。
「な、なんなんだ、これは! こんな魔法を見たことがない!」
慌てる今居に、ダグラスは説明する。
「オマエが『死んで』からオレが開発した光属性の魔法だ。百三十年、オレだって成長しているんだぞ」
「く、くそ!」
一瞬、悔しそうな表情を見せた今居だが、何かに気づき、「フフ……」と笑みを見せた。
「どうやら、私が勝ったようですね?」
「――?」
今居がそう言うのと同時に、ダグラスも何かの気配に気づく。
「……盛? いつの間に?」
清蓮学園の制服を着た女子生徒。長い金髪で、先がピンクに染まった少女がダグラスの背後に立っていたのだ。
「ハッハッハッ! ビックリしだでしょ? 自分の教え子の中に敵が紛れ込んでいたなんて思わなかったのではないですか?」
「――ああ、そうだな」
ダグラスが無感情に応えると、今居は喜びに満ちた表情となった。
「ですがね、驚くのはまだ早いですよ。どうして、彼女が結界の中に入ってきたと思います?」
「簡単なクイズだ。この結界を作ったのが、オマエでなく、盛だった――そういうことだろ?」
今居――この世界に転生したアルベルトは、「さすが大賢者、察しの良いことで」とおどける。
「そのとおり! 《《それ》》がこの結界を作ったのですよ。どうです? この見事な結界。空間操作魔法が得意な魔族ならではでしょ? つまり、アナタのうしろにいる《《それ》》こそが私が召喚した悪魔なんですよ!」
まるで自分の言葉に陶酔しているような言い方に、ダグラスは「アルベルトよ」とうんざりしたような声で問いかける。
「……なんですか?」
「オマエは昔からムダ口が多すぎる。この百年、何を学んできたんだ?」
「なっ!」
そんなことを言われて、怒りの表情を見せるのだが、すぐに笑みを見せて――
「そっちこそ、余裕を見せているのも今のうちです。さあ、私を解放しなさい。さもなければ、アナタの可愛い生徒がアナタの首を切り落としますよ」
そんな脅しを言うのだが、ダグラスは黙ったままだ。
それで、今居はイライラしたのか――
「ああ、そうですか。いいでしょう。なら、死んでください。おい、ソイツの首を刎ねろ」




