第78話 私に考えがあるの
「ちょっと、試合が始まるというのに、ダグラスはどこに行ったのよ!」
コート横で試合開始を待つ清蓮学園のメンバー。亜紀が落ち着かないという顔で、そう声にする。
「仕方ない。自分たちで作戦を考えよ」
メグミがそう言う。
「だからといって、あんな相手どうするのよ?」
というのも、ナタリアと横浜羽鳥の試合、全学年でナタリアの圧勝だった。魔力が違い過ぎる。メジャーリーグとリトルリーグが対戦しているような状況。つまり、試合になっていなかった。清蓮と横浜羽鳥の試合で盛り上がっていた観客も、ナタリアの試合を見たことによりすっかり意気消沈してしまう。もはや、通夜のように静けさだ。
「いつも、ダグラスが言っているでしょ?『考えろ』って。魔力で負けていても、他に対抗できる方法は必ずあるわ」
「そんなことを言っても、もう試合よ」
「私に考えがあるの」
メグミは亜紀と美咲に顔を近づけるよう、手で合図する。
「――そんなことで、本当に大丈夫なの?」
「まあ、理論的には……」
苦笑いのメグミに、亜紀はため息を吐く。
「いまさら、どうこう言っても仕方ないわね」
やってみるしかない――そう、ハラをくくる。
「美咲はどう?」
「はい、イメージはできました」
「よし! じゃあ、行くよ!」
三人は右手を出し、重ねると「オーッ!」と声を出して、コートへ向かった。
試合前、選手たちがセンターラインに集まり一礼する。亜紀の前に手稲アサミがいた。
「亜紀、前の試合を観ていたのでしょ?」
アサミからそう声をかけられる。
「わかったでしょ? 今からでもナタリアに編入しない? 亜紀なら必ずスゴい魔法使いになるよ」
そんな誘いに、亜紀は「アサミこそ、これでいいの?」と尋ねた。
「これでいい? どいう意味?」
「別に……」
亜紀はそれだけ言って、アサミから離れて行った。
ピーッ!
試合開始の笛が鳴り響いたあと、メグミは左右の二人にそれぞれ視線を送る。
二人がうなずくのを確認して、メグミはセンターラインを越えた。すぐに三方から炎が飛んでくる! ナタリアの選手は魔力差で相手の防御魔法を破壊し、ヒットアウトを狙ってきた。横浜羽鳥の試合と同じ手だ。
(もはや、競技になってないわね)
チカラ任せの攻撃に、観客は興ざめしていた。
(でもね、魔法はパワーだけでないの。ダグラスはそう教えてくれたわ)
メグミたちはマジックシールドを展開する。ファイアボールがそれに当たると、上方向へ射線が変化した!
「オオーッ!」
歓声のあと、ドンッという音が天井から響く。魔法が当たった音だ。つまるところ、シールドの展開を相手の魔法に対して垂直ではなく、四十五度上方に傾けたのだ。そうすることで攻撃を『止める』のではなく、『射線を変える』ことになった。それであればパワー差があってもシールドは破壊されることなく、相手の攻撃を躱すことができる。
「メグミ! やったね、狙い通りよ!」
亜紀の声がしたが、今はインプレイ。メグミはそのまま、杖をゴールボードへ向けた。
「インパクト!」
風属性の魔法を放った。相手はすぐに対応し、ゴールボードの前にシールドを展開する。
しかし、パンッ! という破裂音がしてナタリアの選手が展開したマジックシールドが破壊されると、ゴールボードがパーンッ! という音と同時に砕け散った。
「私たちの防御魔法が破壊された!?」
ナタリアの選手が驚くのも当然だった。今まで一度も破壊されていなかった自分たちの防御魔法が、三枚、一気に破壊されたのだ!
(うーん。チートで無双したい気持ち、わかったような気がするな……)
苦笑いするメグミに、相手も味方も唖然とした。
メグミの魔力も異常レベルだが、それに加え、魔法制御力もある。「魔法は一点に集中すればするほど、威力が大きくなる」、ダグラスにそう教えてもらった。集中力を上げて、魔法を一点に絞れば、桁外れの破壊力を得られるのだ。
「な、なんだ! あれは!?」
ナタリア女学院側のコーチからそんな声が漏れた。自分たちの生徒は『魔法薬』によって、魔力を大幅に向上させている。だが、相手はそれを上回る破壊力。もはや、想像の域を超えていた。
それからは、一進一退の攻防を繰り返す。同点のまま、前半も終了間際になっていた。




