第76話 レディの荷物を物色するのは気が引けるが……
二人から離れたダグラスは、選手たちの控え室になっていた講堂へ移動した。ナタリア女学院が試合中の今なら、荷物の周りに人が少ないだろう――という考えだ。案の定、ナタリア側の控えエリアには、数人しかいない。
「レディの荷物を物色するのは気が引けるが……」
そんなことをつぶやきながら、ダグラスは自分に気配遮断の魔法をかけて、ナタリア側のエリアに侵入した。数人の生徒がいたが、ダグラスに気づく者はいない。
(――薬物らしきモノは見当たらないな)
一通り見回したあと、他にめぼしいモノはないか細かく確認する。すると――
「ねえ、そろそろ一年生の試合が終わるわよ。飲み物を用意して」
ナタリアの教師らしき女性からの指示で、女子生徒が「ハイ!」と返事をする。そのまま講堂の出口へ向かった。
(なるほど、そういうことか……)
ダグラスは気配遮断を続けたまま、その生徒のあとをついて行く。
向かったのは校舎裏手にある倉庫。生徒は入り口脇にある小さな装置に指をかざした。
ピッ!
短い電子音が鳴ったあと、入り口の扉からカチッという音がする。生徒は扉を開けて中に入った。ダグラスは扉が閉まる直前にカラダねじ込み、中に侵入する。
倉庫内はヒンヤリとしており、生徒は設置された大型の冷蔵庫を開ける。すると、中身の入ったペットボトルを取り出した。
「あっ、今日は『競技会用』の表示があるモノだっけ?」
そんな独り言のあと、手にしていたボトルを戻して、別のボトルを三本取り出す。
(――競技会用?)
生徒はボトルを手にしたまま、冷蔵庫を絞めた。そして、倉庫から出て行く。数秒後、倉庫を照らしていたライトが自動で消灯した。
「――ライト」
ダグラスがそうつぶやくと、彼の左人差し指がポウッと明るくなり、辺りを照らした。出口のノブを回してみたが、動かない。どうやら、自動ロックのようだ。冷蔵庫以外だと、空きボトルが壁側のケースに収納されていた。それ以外に置かれているモノはない。
「飲み物を保管する倉庫の割には、ずいぶんと厳重な管理だな」
冷蔵庫を開けると、ペットボトルがずらりと並んでいた。一つを取って、それを見る。ラベルは貼られているが、文字は書かれていない。ただし、色の種類がいくつかある。ぱっと見ただけでも白と黄色、緑があった。
「――中身はスポーツドリンクのようだが、魔力を感じる。魔法薬を薄めて飲ましているようだな」
どのような魔法薬かは持ち帰って調べる必要がありそうだ――そんなことを考える。
「そういえば、競技会用――とか言っていたな」
冷蔵庫を見回すと、『競技会用』というシールの貼った、黄色いラベルのボトルが数十本あった。
「これは――」
手にしただけで、感じられる魔力の量が違っている。キャップを外して、飲んでみると――
「やはり、これには魔力強化と筋力強化、二つの魔法薬が入っている」
二つともダグラスのいた世界ではポピュラーな魔法薬である。主に冒険者や騎士団が利用していた。だが、両方を同時に摂取することはあまりない。なぜなら、魔力強化は魔導士、筋力強化は騎士など近接攻撃主体の職種が使用するからだ。つまり、両方を同時に強化する職種は滅多にないのである。
魔力強化ならまだしも、なぜ筋力強化まで?
どうやら、試合に戻ったほうがよさそうだ――そう考える。
「しかし、その前に――そろそろ、出できたらどうだ?」




