第75話 勝ってこい!
ナタリアの選手が見せる異常なほどのパフォーマンス。
ダグラスはそれを「魔法薬を使用している」と考えた。
魔法薬はダグラスのいた世界に存在していた。言い換えれば、ダグラスのいた世界の人間しか知り得ない物である。
つまり、ナタリア側にそれを知っている者がいる――かもしれないということだ。
だとしても、もはやそれを疑っている場合ではない。
「そんなのを競技会で使用するなんて卑怯でしょ!」
亜紀じゃなくてもそう思う。ドーピングはアマチュア競技でも反則だ。もちろん、現時点で魔法薬はドーピング薬リストに含まれていないだろう。しかし、公正な競技運用に支障があるモノであったと明らかになれば、事後でも違反になることだってある。
「馳川の言うとおりだ。だが、問題はそれだけでない。今、手稲という生徒が放った魔法は、オレの知っている魔法薬の効果をはるかに超えている」
異世界の大魔導士、ダグラスでさえ知らない強化魔法薬――
「つまり、それって――」
「ああ、馳川から見せてもらったレポートに書かれていた『薬物』をすでに使用されていると考えるべきだ」
メグミはレポートの考察を思い出す。『薬物投与によって、魔法の軍事利用が可能――』、そして、「十代からの投与が効果的――」これが、実際に行われていた?
「そんな……高校生の競技会なのに、そこまでしてナタリアは勝ちたいの?」
「いや、勝ち負けだけなら、そこまでやる必要はない」
ここまで圧倒的な魔力を見せつけるのは別の理由があるからだ――と、ダグラスは言う。
「別の理由? それって――」
「観客の中に、防衛省情報部員やCIAがいる」
「――えっ?」
「それだけじゃない。ロシアや中国の諜報部員もどこかで見ているだろう」
ダグラスがこの世界に召喚されて二か月。その間に、この国の情勢や他国との関係を調べた。ネットや実際に足を運んで、裏の情報まで手に入れている。そんなことを彼は平然と言ってのける。
「この試合は、そういった人物たちへお披露目する場にもなっているのだろう。このように魔法の破壊力は向上している――てね」
魔法の軍事利用に向けた研究の進捗状況を示すために、この競技会が利用されている――ということ?
「そんなこと、許されてイイの?」
高校生を軍事目的の研究に利用する。それを、競技会と称して軍事関係者に披露する――まさか、自分たちがそんなことに関わっていたとは……
ショックを受けるメグミの肩に、ダグラスは手を乗せる。
「もちろん、許されることではない。いや、まだ何か隠されているかもしれない」
そう言って、彼は席を立つ。
「どこへ行くの?」
メグミが声をかけると、「少し探ってくる」とダグラスは言う。
「ちょっと、試合はどうするの?」
「大埜と馳川に任せた。勝ってこい!」
「――えっ?」
それだけ言い残すと、ダグラスは姿を消した。メグミと亜紀は顔を見合わせる。
「勝ってこい――て、無責任な……」




