第73話 負け犬ほどよく吠える
ナタリア女学院、大講堂――
ここは本日、魔法競技会選手の控えエリアとなっていた。それは、ホームのナタリア女学院生徒も同じである。
手稲アサミはナタリア一年の代表として、今、この場所にいる。ウォーミングアップを終え、三十分後から行われる初戦に向かうところだった。荷物を整理していた時、強い眩暈に襲われ、その場で座り込んでしまう。
「手稲さん、どうしました?」
声をかけてきたのは魔法科主任の今居だった。
「いえ、なんでもありません」と立ち上がろうとするのだが、バランスを崩す。それを今居に支えられ、転倒を免れる。
「少し貧血気味のようですね。これを飲めばすぐに治まるでしょう」
そう言って、普段から『栄養ドリンク』と言われ、飲まされているボトルを渡された。
「ありがとうございます」
アサミはそれを飲んだ。すると、それまでフラフラと揺れていた視界がパッタリと鎮まり、爽快な気分になった。
「どうかね?」
「はい、眩暈が治まりました。もう大丈夫です」
今居はひとつうなずく。
「それはよかった。今日のドリンクは特別製で、魔力増強も期待できるそうですよ」
「魔力増強?」
怪訝そうな表情を見せるアサミだが、今居は別の話題を持ち出す。
「そうそう、手稲朔太郎先生から言伝をもらっていますよ」
「おじいさまから?」
「手稲家の娘として恥じない活躍を期待してる――と、おっしゃっていました」
「そう、ですか――」
アサミは元総理大臣、手稲朔太郎の孫。子供の頃から注目され、魔法の才能を開花した今では、マスコミから何度も取材を受けている。今日の試合にも沢山の報道関係者が押し寄せていた。彼女自身も家族の期待に応えようと、いままで頑張ってきたのである。今日はなんとしても、良い成績を残さなければ――そう意気込んでやってきた。
「そういえば、清蓮学園の馳川亜紀さんとは幼馴染らしいですね」
「えっ?」
突然、亜紀の名前が出てきて面食らう。
「そうですが、なにか?」
「彼女とは今日、なにか話しました?」
なぜ、そんなことを聞くのだろう――そうアサミは思ったが、「いえ、今日は何も――」とだけ答えた。
「――そうですか」
その時、今居のスマホが鳴る。「失礼――」と言って、今居はアサミから離れた。
「もしもし、今居です。ああ、岳田さんですか?」
それは、清蓮学園の岳田からだった。
「先ほどの試合? もちろん見ましたよ。良い試合でしたね――はい、ウチは万全を期しています――そうですね、次の試合を見れば安心すると思いますよ」
そう言って、電話を切った。
「ふん、負け犬ほどよく吠える」




