第70話 オマエたちが喜ぶ顔を見たいから――
「結局、最後まで勝手なヤツよね」
亜紀はムッとした表情でメグミにそう言う。
「そうね……」
やはり上の空のメグミにヤレヤレと思う亜紀。
「しっかりして! 明日、勝たなければ魔法科はなくなるのよ!」
ダグラスの進退はともかく、明日の試合には魔法科存続もかかっている。うだうだと気をもんでいる場合ではないのだ。
「うん、わかっているって――」
そう言って、メグミはコートに戻るのだった。結局、メグミはそのあともミスを連発して、授業は終わった。
その日の夜――メグミはまたダグラスの部屋へ向かった。
(理由なんて聞いても仕方ないのに……)それでも、聞かずにいられなかったのだ。
ドアを叩くと、ダグラスの声が聞こえた。中に入ると――
「明日は朝から試合だ。早く寝ろ」
さっそく、そう言われる。メグミは「わかってるわよ」と応えたあと――
「ねえ、一学期が終わったら、ここも出て行くの?」
思ってもいなかった質問で、ダグラスはメグミの顔を見た。
「なんだ? 出て聞けと言っていたのはオマエだったよな?」
気が付けば、ダグラスは女子寮に二か月居座った。男が女子寮にいるなんて信じられない――最初はそう思っていたのに、今ではここにいるダグラスが当たり前になっていた。
「ここを出て行ったら、どこへ行くの?」
「――さあ、どこへ行くんだろうな」
そうはぐらかす。
「いいから早く寝ろ。そして、明日は勝て」
「――どうして?」
メグミの質問に、ダグラスは顔を上げた。
「どうして、とは?」
「だって、勝っても負けても、ダグラスはここを出て行かなければならないのでしょ? だったら、試合の勝ち負けなんてどうでもいいじゃない」
ダグラスは「いや、本気で勝ってほしいと思っている」と応える。
「だから、どうして――」
「勝って、オマエたちが喜ぶ顔を見たいから――理由なんて、それで充分だ」
「――卑怯な答えね」
「そうか?」
なぜ、その答えが卑怯なのか? という困惑した表情をダグラスは一瞬見せるのだが、また、『なんでも見透かしたような』憎たらしい笑みに戻る。
「それで、どうだ? 勝ちたいという理由としては足りないか?」
「いえ、充分よ。絶対に勝つわ」
勝負なのだから、勝ちたいと思って当然。勝って、みんなで喜びたい。それ以外にどんな理由が必要だというのだ?
もう、うだうだ考えることはよそう――そうメグミはハラをくくる。
そして、試合当日がやってきた。




