第69話 先生はそれでイイのですね?
「先生はそれでイイのですね?」
「ああ、それが最良というのではあれば、オレはかまわない」
校長室に呼ばれたダグラスは清野蓮からあることを依頼された。
「申し訳ありません。こちらの勝手な都合ばかり押し付けて――」
二人は立ち上がり握手をした。
「それでは、『副担任』として有終の美を飾ってください」
「――そうだな」
ダグラスはそれだけ応えて部屋を出て行った。
*
メグミ、亜紀、美咲の新チーム結成から三週間が経った。ついに明日、運命の競技会である。
実のところ、まだ連携が完全ではないのだが、なんとか戦えるところまではきたな……そういう手ごたえが三人だけでなく、ダグラスも感じていた。
今は、足首の捻挫から復帰したサナエと琴子、それにマナミを加えた即席チームと模擬試合を行っていた。他のクラスメイトも、競技会に向けていろいろと手伝ってくれている。気づけば、クラスの雰囲気もずいぶんと良くなった。
「美咲! 何やってんの! ワンテンポ遅いわよ」
「亜紀さん、ごめんなさい! もう一回、いいですか?」
相変わらず、美咲に厳しい亜紀だが、名前で呼び合う仲になったように、互いの距離感は縮まっている。
魔法競技、「ウィッチシュート」は個人の魔法技術も大事だが、チームの連携も大きな要素だ。攻撃も守備も、連携のバリエーションが豊富なほど有利である。そういう意味では、結成から一ヵ月足らずのメグミたちは他校に比べ不利は否めない。その分をメンバーの特徴と、内容の濃い練習でカバーしなければならなかった。
メグミの魔力量は上級生を含めてもおそらく高校トップクラス。そして、美咲の風魔法は他校にない武器だ。ただし、防御魔法は見劣る。亜紀は他校も含めた出場メンバーの中でも平均的な選手であろう。
メグミをポイントゲッターに、美咲の風魔法で相手をかく乱して、亜紀がそれをサポートする。これが基本的な戦術となる。
実のところ、メグミ頼みのチームというところなのだが、肝心の本人が……
「おい! 大埜! 動きが遅れているぞ!」
ダグラスの叱咤に、メグミも気持ちを入れ替えようとするのだが、どうしても集中できない。と、いうのも、授業が始まる前に西園寺琴子がクラスのみんなに放った言葉――
「競技会の結果に関わらず、ダグラスは今学期で辞めるらしいよ!」
相変わらず、琴子の情報は早い。まだ、職員会議でも話されていないというのに、ダグラスと清野蓮で交わされた会話を入手していたのだ。
(アイツが辞める? そんな……)そのことが頭から離れない。
競技会で勝って、魔法科を存続させる。ダグラスも辞めさせない。そういう気持ちで、この二か月ガンバってきたというのに、琴子の情報で動揺してしまったのだ。
「大埜! ちょっと来い!」
ミスを連発するメグミに耐えかねて、ダグラスは呼んだ。
「おい、体調が悪いのか? それとも、何かあったのか?」
心配する相手に、メグミは――
「ダグラス、本当に――」
そこまで口にして、次の言葉が出てこない。
(辞めるかどうか――それを聞いてどうするの?)
生徒である自分がそれを知ったからって、何も変わらない。どうすることもできない。今は明日の競技会に集中するとき。そんなことに気を取られているわけにはいかない。
心の中で、そう言い聞かせるのだが――
(違う――それを知るのが怖いんだ――)
ダグラスの口から「辞める」という言葉が出てくるのが怖い。だから、聞けないんだ。
「本当に? なんだ?」
ダグラスが訊ねてくるのだが、メグミは「なんでもない。集中します」と言って戻ろうとする。その時、マナミが――
「マグリン、辞めるって本当なの?」
その声で、メグミは動きを止めた。彼女だけではない、全員がダグラスの顔を見た。
「なんだ、もうそんなことまで知っていたのか?」
もう? そんなこと? と、いうことは――
「ああ、オレは副担任を辞めることになった」
本当だった。ダグラスは辞める。辞めさせられる。本人の口から、そう聞かされた。
「ど、どうしてよ! 競技会で優勝すればいいのでしょ!?」
メグミの質問に、「その質問には答えられない」とダグラスは言う。
「今は明日の試合に集中しろ! オレのことなんかを気にする余裕はないぞ!」
そう言って、メグミの背中を押した。




