第68話 ダグラスって、本当に『大賢者』なのね?
「いきなり押しかけてゴメンね。亜紀に鈴来さんのことを教えたら……って、なんで、マグナマルがいるの? それに大埜さんも?」
琴子が驚いた顔で二人を見た。
三人を中に入れて、事情を聞くと――
「鈴来さんのお母さん、ずっと前から体調が悪いんだって舘林から聞いちゃったのよ。そしたら、亜紀が見舞いに行こって」
そう言うと、亜紀が真っ赤な顔をして――
「な、私はそんなことを言ってないわよ! 琴子が住所を聞いていたから、『見舞いにでも行くつもり?』って言っただけでしょ!」
そう言い訳する亜紀。(結構、カワイイかも……)なんてメグミは考えてしまう。
「それで、なんでマナミもいるの?」
「いや、偶然、話を聞いちゃって――」とマナミは頭を掻く。
マナミとこの二人、いつも口ケンカしかしていないイメージだったのだが、(いつの間に仲良くなったの?)とメグミは不思議に思うのだった。
「なんかうれしいわ。お友達がこんなに沢山いるなんて」
母親が笑顔で言うと、美咲は「だから、友達とかじゃ……」と否定しようとしたところ――
「何を言っているの? 友達じゃなければ、心配して家まで来ないよ」と、マナミは美咲に伝える。
「そうだ! 競技会まで鈴来さんの練習時間を作るために、私達でお母さんの看病を代わるってどお?」
「それは名案ね」と琴子も同意する。
「そ、そんなことまでしてもらうわけには――学校から遠いし……」
美咲は遠慮するのだが、ダグラスが「いや、距離については、なんとかなる」と言い出す。
「なあ、この一畳分、何もモノを置かず、出入りしなくても問題ないか?」
ダグラスは部屋を見渡し、何も使われていない畳の上を指す。美咲と母親は顔を見合わせて――
「ええ、荷物も少ないので、そのくらいはスペースがありますけど……」
いったい、何でそんなことを言うのか? そんな表情を見せる。
すると、ダグラスは畳の四隅に透明なシールを貼り始めた。
「それって、まさか?」
「そう、競技場に貼られていたシールだ」
まだ、大事に持っていたらしい。
「これで結界を作って、オレの部屋と空間をつなぐ」
「――えっ?」
ダグラスの部屋――つまり、寮とここをつなぐということ?
「それって、転移魔法なの!? なんかカッコイイ!」
マナミが興奮する。ダグラスは「まあ、そういうことだ」と作業しながら、素っ気なく応えた。
「ダグラスって、本当に『大賢者』なのね?」
亜紀がいまさらそんなことを言う。
「ねえ、これって私たちも使えるの?」とマナミが聞くと、「ああ、問題ない」とダグラス。
「やったぁ! さっそく、やってみよ!」
「ああ。だが、そのまえに――」
ダグラスは母親の寝る布団の横に座ると、「ちょっと、オナカを触ってもイイかな?」と言う。母親が「構いませんけど」と応えると、彼はオナカに手を当てた。
すると――
「なんか、カラダが温かくなってきました」
そう言って、母親は気持ちよさそうな顔をする。
「ダグラス、なにをやっているの?」
メグミが質問すると、「気の巡りを高めているんだ」と彼は説明した。
「えっ? マグリンって治癒魔法も使えるの?」
「治癒魔法は使えない。ただ、水属性を利用すれば、多少、体調を整える効果はある」
オナカから手を離すと、「体を温める食材を食べれば、少しずつだが元気になるはずだ」と伝えるのだった。
それから、作ったばっかりの結界を利用して、美咲以外は寮へ戻ってくる。
「本当だ! 寮にいる!」
結界に入った途端、突然、ダグラスの部屋となったのだ。そういうものだと聞かされていても、さすがに驚く。
「これは、他の人には絶対に言うなよ」
「ダグラスの言う通りね。それこそ軍事利用されかねないわ」
大賢者様のおかげで、この世界もファンタジーになったなあ――そんなことを考え、物思いにふけるメグミを亜紀がニヤニヤしながら見ていた。
「な、なによ?」
「いつの間にかダグラスなんて呼び捨てにしてるし」
「なっ!」
亜紀に指摘されて、自分でも初めて気づく。
「あ、亜紀がダグラスって言うから、私もつられたのよ!」
「ふーん」とメグミの言い訳に疑いの目を向ける。
「亜紀こそ、ちゃんと先生って言いなさいよ」
「オレは別にいいぞ。そもそも、先生とか師匠とか呼ばれるは好きじゃないんだ」
「だってよ。よかったね」
「よかった――じゃない!」
翌朝、巻き髪を切って色も黒に染めてきた亜紀が教室に現れた。




