第63話 甘いわね
一〇一号室に戻った三人は、パソコンを起動させる。亜紀はスマホを操作し、三枚の写真をダグラスのメールアドレスに送った。
「それを表示してみて」
ダグラスは最初の一枚目を表示する。
「これは――」
報告書らしきものが写っていた。タイトルの部分を拡大すると――
「魔法の軍事利用に関する研究……えっ?」
ドキッとするタイトルにメグミは慌ててダグラスを見る。だが、彼の表情に変化はない。(やはりか……)そんなふうにも見えた。
「これが、パパの書斎にあったの」
別のことをしようと父親の書斎にこっそり入ったとき、そんな書類を見つけ、亜紀は写真を撮ったそうだ。
「そしてこれ……」
別の写真を表示すると、その書類を作成した人物が連名で記載されていた。自衛隊や米国軍の将校、国内外有名企業の役員。そういった肩書の人物たちの中に――
「今居壮――アイツか?」
ナタリア女学院魔法科主任、今居の名前だった。
「なぜ、高校の教師がこんな研究に参加しているのよ!?」
メグミの質問に、亜紀は――
「全部、読んだわけじゃないから、思い込みなのかもしれないけど――最後の考察が三枚目の写真よ」
ダグラスがその写真を表示させると……
「……現時点において、日本人女性の有する魔法レベルでは殺傷力に乏しく、軍事力として期待できない。しかし、薬物による魔力強化によって、軍事利用可能なレベルまで引き上げる可能性は残っている――えっ? 薬物」
メグミは驚く。薬物による魔力強化? そんなことができるのだろうか?
「オレがいた世界では、魔力を一時的にブーストする薬物があった。だが……」
ダグラスはそのあとに続く文章を読んで、別の薬物である可能性を疑った。その文章とは――
『魔力量を極限まで向上させるためには、十代からの投与が効果的と思われる――』
これは一時的な効果を期待する、いわゆるポーションではなく、肉体改造を目的とした魔薬。ダグラスの世界でも禁忌とされ、その製法は彼が生まれる前に抹消されたと言われていた。つまり『魔族の魔薬』だ。そんな薬が実在していたのだろうか?
いや、もはやそれを議論するときではない。なぜなら――
「この文章だと、その薬物は既に存在しているように見受けられる。そして、今居の名があるということは――」
「ま、まさかナタリアの生徒にそんな薬物を投与しているかもしれないっていうこと? しかも、軍事目的で?」
今日、見学したナタリアの練習はどことなく軍隊のようだった。もしかしたら自衛隊や米軍がそれに関わっているのかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ってよ。ナタリアって政界、財界の令嬢ばかりなんでしょ? もし、そんなことが保護者にバレたら大変なんじゃ――」
「メグミ、甘いわね」
「えっ?」
亜紀の言葉に、メグミは混乱する。「甘い――」とは?
「政治家や実業家なんて、自分が権力を得るためなら、身内なんて平気で差し出すモノよ」
つまり、保護者も承知で、薬物投与に協力している?
「そ、そんな……」
魔法の軍事利用が現実的になれば、日本や同盟国に大きなアドバンテージが発生する。それによって、政治的圧力を他国へ加えることも可能だろう。そして、それは与党の支持率向上にも貢献するはずだ。
「それだけでないわ。国内の治安と称して、魔力による反政府団体の抑圧だって考えられる」
つまり、魔力の軍事利用は政治家にとってメリットばかりなのである。そこに身内が入り込めれば、なお安心だ。裏切られる心配もないのだから。
「それは実業家も同じ。身内が魔法使いならば、魔法利用を独占できる――」
打算的だが、これ以上に効果的な策はないだろう。
「これを知ってしまって、私はナタリアへの進学が怖くなったの……」
亜紀は母親の反対を押し切って清蓮学園へ進学した。亜紀のことに関心がない父親はそれを止めなかったらしい。しかし、清蓮へ進学後、うしろめたさを感じるようになった。
それは――




