第56話 それにしてもやることがセコイわね
「いかがでしたか?」
授業が終わり、ナタリアの生徒達は応接室に戻ったのだが、その隣の小部屋で三人の男が集まっていた。麻村と岳田、そして今居である。
「――確かに、一年生には素晴らしい生徒がいます。ウチの生徒と同等かあるいはそれ以上ですね」
今居の言葉で、岳田が慌てる。
「ナタリアさんの生徒より上!? それじゃ、七月の競技会は――」
「ウチもかなり苦戦すると思いますよ」
あっさりと認めるので、麻村と岳田は戸惑う。
「……いかがすれば」そう、麻村が今居に尋ねると――
「本当はこんなことをしたくないですが、まあ、念には念を入れておくべきですね」
そう言って、胸ポケットから封筒を出し、それを岳田に渡した。
「これは?」
「この中にあるシールを一年生が練習するコートのいたるところに貼り付けてください」
「貼り付ける……そうするとどうなるのですか?」
「これには魔術的な仕掛けが組み込まれていて、魔法がジャミングされます」
魔術的な仕掛け? そんなモノがあるのかと、麻村と岳田は驚く。
「ところで、魔法がジャミングされるとどのようなことが起きるのでしょう?」
「それは、やってみればわかります。ただし、マグナマル先生が不在のときにお願いします。あの人には気づかれてしまうことでしょう。そうですね、彼をウチの見学会に招待して、そのときに行うのはいかがでしょうか?」
「わかりました。それではそのときに――」
岳田は封筒を内ポケットにしまう。
「このあとはいかがしますか?」
「すみませんが、今日の報告書を作りたいので、しばらくひとりにしてください」
今居は自分のカバンからノートパソコンを取り出すと、テーブルの上に置いた。
「承知いたしました。それでは私たちはこれで」
麻村と岳田は何度か頭を下げたあと、応接室から出て行った。
「ジャミングね。なぜ、麻村と岳田に? 私に渡せば済むことじゃない?」
今居がひとりだけの応接室に若い女の声がした。
いや、ひとりではなかった。金髪で先がピンクに染まった女子生徒が部屋の隅にいたのだ。
麻村と岳田が気づかなかったのは、気配遮断の魔法が付与されていたからだろう。
「もし、ダグラスがあれに気づいても、ふたりに罪をなすりつけられるだろ?」
今居の説明に「あ、なるほど」と金髪の女子生徒は感心したような表情を見せる。
「それより、やることはわかっているな?」
「はいはい。それにしてもやることがセコイわね。ダグラスが怖いの?」
「ダグラスが怖いだと?」
今居は今まで見せたことのない表情で相手を睨みつけるが、すぐに笑みを見せて「フフ、違うぞ」とささやく。
「ダグラスを徹底的に叩き潰す。そのためのひとつにすぎない」
「徹底的にね……ま、いいわ。私は言われたどおりにやるだけ。話はそれだけ?」
「……あ、そうだ。さっさと行け」
「はいはい」
金髪の女子生徒は応接室を出ると、「はてさて、そこまで恨むほど、何があったのでしょうね」そんなことをつぶやき廊下を歩く。
「あ、サナエ! 何をしていたの? 亜紀が探していたわよ!」
クラスメイトの声がして、その女子生徒は「ちょっと、散歩」ととぼけたように応えるのだった。




