第54話 ねえあれ、風魔法よ
「それでは、シュート・ガードを始めてください」
舘林の号令で、二人一組になって十メートルほど離れる。シュート・ガードとは、一方が攻撃魔法を相手に向けて放つと、もう一方がそれを防御魔法で受けるという基本的な練習。野球のキャッチボールみたいなモノだ。
この練習自体はめずらしくはないのだが、ダグラスはゆっくりでいいので、攻撃側は相手の胸部へしっかりと杖の先を向けることを指示していた。そして、魔法が相手に届くまで動かさない――そうすることで、射線のブレが少なくなると教えていたからだ。
そして、防御側は相手の魔法をしっかりと最後まで目で追いかけて、シールドの中央で必ず受けるようにする。いずれも基本なのだが、慣れてくるといい加減な動作になってくるものである。そうなると変なクセが付いて、事故が起きたり、応用ができなくなったりと悪影響が発生する。だがら、ダグラスはその動作をしっかりチェックし、手抜きにはちゃんと注意していた。
逆に言えば、それ以外のところはほとんど何も言わない。なので――
「なんか、私語が多いわね」
ナタリアの生徒同士でそんなことをささやいていた。
「それに笑っている人もいるわ」
確かに隣となにか喋っていたり、魔法とは関係ないムダな動きをしている生徒が多い。ナタリアの生徒はそんなところが気になるようだ。
「ねえあれ、風魔法よ」
美咲を見つけた生徒がそう口にする。
清蓮に『風使い』がいるというウワサはナタリアにも届いていた。それで、風属性の練習を行ったりしていたのだが、実のところまだ競技で使えるレベルには達していない。
こうして、威力ある風属性魔法を目の当たりにすると、その不可視性に驚く。
「そ、それではステップワーク練習を行います」
舘林の号令で、生徒が一列に並んだ。利き腕側の足を前に出し、杖を持った聞き手を軽く突き出す。このとき、前に出した足のつま先を真っすぐ前へ向ける。そのまま、腰を浅く落とした体勢。フェンシングの構えを思い浮かべると想像しやすい。
生徒たちから十メートルほど前方に立った舘林が右手を上げ、手の甲を手前に見せると、生徒たちが姿勢を保ったまますり足で前に進み、手のひらを見せると後退する。これも基本的な練習だ。最初は、前進、後退をリズミカルに繰り返すのだが、途中から切り替えが早くなったり、遅くなったりと意図的にリズムを崩し始める。そうなると、切り替えが遅れたり、動きがぎごちなくなる生徒が続出するようになった。
「あーっ! わかんなくなった!」
そんな声を上げる生徒が出てきて、笑いも起こる。
見学していたナタリアの生徒は互いに顔を見合わせた。(なんて不真面目なの? 真剣味が足りない――)言葉にはしていなかったが、そう思ったはずだ。
その練習は五分ほど続いたが、最後まで舘林の合図に合わせられたのは、三分の一程度の生徒だけだった。




