第52話 なかなか有名人ですね?
午後、ダグラスは応接室に呼ばれた。ナタリア学園の見学者がやってきたからだ。
「今日はお忙しい中、私たちのお願いをお受けいただきありがとうございます」
ナタリア女学院の引率代表として魔法科主任教師の今居壮がまず挨拶する。その後、同席した学生たちを順番に紹介した。
「――そして一学年、手稲アサミさんです」
手稲と呼ばれた少女が立ち上がり、深々と頭を下げた。
(ほう、別の学校にも有望な人物がいるようだ。まあ、当然か……それにしても、この今居とかいう男――)
「――それでは、こちらの出席者ですが、私が校長をしております清野蓮です。そして……」
やはり順番に紹介が続き、最後に――
「一学年魔法科副担任のダグラス・マグナマル先生です」
ダグラスも見よう見まねで立ち上がり頭を下げた。相手側の生徒が、ヒソヒソと何やらささやき合いながら、ダグラスを見ている。
「なかなか有名人ですね?」
隣に座る舘林がダグラスに耳打ちした。
「――の、ようだな」
こういった反応は、どこの『世界』でも同じようだと彼は考える。もっとも、前の世界は「齢三百歳超えの大魔導士」として。今は「異世界から来た男」と、ささやかれる内容は異なっているが――
(まあ、老いぼれや肥満したカラダの貴族たちが相手だった前の世界より、娘たちにウワサされる今のほうが何倍も心地よいがな……)なんて、つまらないことを考えていた。
「――授業開始は一時十五分からとなっております。それまで、こちらでおくつろぎください」
そう清野蓮がアナウンスすると、一旦解散となった。ダグラスも席を立ち、応接室から出ようとしたところ、呼び止められる。
「マグナマル先生、ぜひお会いしたいと思っていました」
今居と名乗った男である。
「ほう、オレに会いたかったと? それはなぜだ?」
「おい! マグナマル! その言い方はなんだ! 今居先生に失礼だろ!」
そう怒ったのは岳田である。すぐ、今居に頭を下げた。
「すみません、先生。なにぶん、礼儀をわきまえていない男で――」
「いえ、構いません。それどころか、マグナマル先生は異世界で『大賢者』と呼ばれていた人物だとお聞きしております。私のほうこそ不躾にお声かけして申し訳ありません」
そう言って彼も頭を下げてきた。
「――それで、オレになにか用か?」
ダグラスの質問に、今居は「はい」と応える。
「できれば近いうちに、魔法の講義を当校の魔法教師向けに行っていただきたいと考えています」
この世界ではまだ発見されていない魔法について紹介、できれば実演をしてほしい――そう、今居は提案するのだった。
「わかった。そういうことなら考えておく」
今居が「ありがとうございます」とまた頭を下げる。岳田は面白くないのか、舌打ちしてその場を離れた。
「それではまた、のちほど――」
今居も離れようとしたとき、「ひとつ聞いていいか?」と今度はダグラスから引き留める。
「なんでしょう?」
「魔力感知遮断の魔道具はどこで手に入れた?」
「はい? 何のことですか?」
白々しく応える今居に、「いや、オレの勘違いだ。忘れてくれ」と言って、ダグラスは背を向けるのだった。




