第47話 今からお会いするのが楽しみです
午後七時。都内某所のとある料亭――
座敷に座った二人の男。一人は清蓮学園の教頭、麻村新次郎。もう一人は一学年主任の岳田仁。五分後、もう一人の男が襖を開けて入ってくる。
「今居さん、本日は突然お呼び立てして申し訳ありません」
「いえいえ、私もいろいろとお聞きしたいことがありましたので、こちらからお声かけしようかと考えていたところでした」
それから、三人は雑談を五分ほど続け、運ばれた酒を少しずつ口に運んでいく。
「さて、今日の案件は例の新任先生のことでしょうか?」
今居と呼ばれた男がそう口にする。例の新任――とは、ダグラスのことだと二人もすぐに理解する。
「はい、じ、実は今日、学年対抗の練習試合がありまして……」
岳田が話したのはメグミたちが出場した魔法競技、ウィッチシュートの結果であった。一年生の組が二年生相手に二勝一分け。三年生には全敗したが、それでも僅差まで持ち込んでいた。
魔法の練習を始めてわずか三か月足らずの一年生が、上級生相手にこれほどの結果を残すのは異例のことだ。
「――そうですか。さすが、『大賢者』の指導力というところですかね?」
今居がそう口にすると、岳田は「ただ、運が良かっただけだと思いますが――」と、まだ納得していない表情を見せる。
「いや、侮るのはやめましょう。それでも、私のところの生徒に勝つのはムリだと思いますがね」
ニヤリとする今居。
「それほど、今年のナタリアは良い生徒が入ってきた――ということですか?」
麻村が相手に質問すると――
「まあ、そういうことにしましょう。ですが、やはり一度、マグナマル先生とはお会いしてみたいですね。取り計らってもらえないでしょうか?」
「それは、もちろん」と麻村は即答する。
「各校魔法科の交流は、委員会からも推奨されています。練習視察という名目で許可されるでしょう。ですが、そうなると――」
「清蓮さんからも、同じ申し込みがなされる可能性があるということですね?」
今居がそう返すと、麻村は「そうなります」と答える。
「構いません。むしろ、是非お越し頂きたいと思っています」
余裕を見せる今居に、麻村と岳田は互いの顔を見る。
「し、しかしですよ。御校の手の内を見せて、万が一……万が一ですが、あの異世界人が余計な策を企て、御校に勝ってしまうようなことがあると……」
岳田がそんなことを言うと、今居は今まで見せなかった鋭い視線を彼に送った。岳田はそれにビクッとして、言葉に詰まる。
今居はすぐに薄ら笑みを浮かべて――
「もちろん、油断はいたしませんよ。策は何重にも用意いたします。せっかく、ここまでお膳立てしてきたのです。ムダにすることはできませんからね」
「これは岳田が余計なことを口にして、申し訳ありません」
麻村が岳田を睨むと、その学年主任は萎縮して頭を下げた。
「いえいえ、気になさらず。それにしても、今からお会いするのが楽しみです。その『大賢者』様と――」
今居は岳田から注がれたお酒を半分まで飲み干し、立ち上がる。
「大変申し訳ありませんが、このあともありますので、失礼させてもらいます」
「そうなのですか? それでは玄関までお送りさせてもらいます」
その必要はないと今居は言うのだが、麻村と岳田はそれでもついてきて、結局、タクシーに今居が乗るまで見届けていた。
「やれやれ、腰の低い連中は疲れる」
そんなぼやきのあと――
「それで? いったい、どういうことなんだ? 清蓮の一年はやる気のないクズばかりという報告だったではずでは?」
今居はそんなことを声にする。
独り言? いや違った。彼の隣に人影がある。
「あら、やる気のないクズばかりなのはウソじゃないわよ。ほんの一週間前まではね」
今居のとなりに座る人物がそう応える。若い女性の声だ。
時折、街の灯りに照らされ、その人物の姿が映し出されていた。
金髪の長い髪。その先だけがピンク色に染まっていた。そして制服。清蓮学園のモノだ。
「一週間前? おい、何かあったらすぐに報告しろと言ってあっただろ? 一カ月もまったく連絡もよこさないで何をしていた?」
金髪の女性は、クスッと笑っただけで何も話さない。
「ふん、相変わらず勝手なヤツだ。ダグラスを監視するために貸していたゴーレムはどうした?」
「あれ? あっという間に、ダグラスに見つかって処分されたわよ」
「なんだと⁉ なぜ、それを黙っていた?」
「別に……ゴーレムなんかに頼らなくても、私ひとりで充分だし」
今居はそんなふうに応える相手に「なら、今度からは毎日、ヤツの動きを報告してこい」と強い口調で伝える。
金髪の若い女は「はいはい……」と面倒くさそうに応えると、ちょうど信号待ちで止まったタクシーから降りてどこかに行ってしまった。
数秒後、今居は機嫌が悪そうにつぶやく。
「どいつもこいつも……役立たずばかりだ」




