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第46話 ハッキリ言う。馳川にはムリだ

 男子トイレで用を済まし出てくると、そこの亜紀がいた。


「ん? なんだ馳川、男のションベンに興味があるのか?」

「そのセクハラ発言、やめてくんない?」


 亜紀はあからさまに嫌な顔をするのだが、すぐに気を取り直し――


「ねえ、寮で大埜さんに言っていたことは本当なの?」

「――なにが、だ?」

「大埜さん、異常なまでの魔力量を持っている――て」


 ダグラスは(あの時のことか――)と思い出す。


「盗み聞きしていたのか? あまり、褒められることじゃないな」

 そう言って、競技場へ戻ろうとする。


「ちょっと、待ってよ! 私の質問に答えなさいよ!」


 亜紀の声で立ち止まるダグラス――


「――それを知ってどうするんだ?」

「……大埜さん、授業とは別に魔法の指導を受けているのよね?」


 ダグラスは即答しなかった。答え方によっては相手を傷つけてしまう。そう理解していたからだ。先に亜紀から口を開く。


「今日の大埜さんの戦い方を観たら、私とのレベル差があることくらい嫌でも理解できるわよ」


 もちろん、マナミ、リナとの連携も高いレベルだと思う。しかし、それはメグミの魔法があってのことだ。メグミが放つ魔法は他の人と同程度なのだが、他が全力で放っているのに対し、メグミには余裕がある。だから、視線とは違う方向へ魔法を放てるし、次の動作も早い。


「――それで? 馳川はどう思った? 大埜がうらやましいと思ったか? それとも、自分だってあのくらいできると思ったか?」


 うらやましい?

 亜紀は考えた。確かにうらやましいとは思う。同じ魔法科に所属していれば当然だ。だが、今は別の気持ちの方が強い。


「私にも大埜さんと同じ指導をしてくれない?」

「……」


 メグミと同じ魔法の指導。つまり、個別指導を受けたいということである。

 実のところ、ダグラスは放課後、メグミに魔法指導を個別に行っていた。結界を作り、誰にも迷惑をかけないような形にして――そうしなければ、メグミは全力を出し切れないし、他に危険が及ぶかもしれないからだ。

 メグミもコツを掴むのが早く、すぐに魔法のコントロールがある程度できるようになった。ダグラスの目にはまだまだなのだが、この世界の魔法レベルからいえば、もはやメグミはトップクラスの魔法使いになっているはずである。わずか、一週間の指導だけで――


 とはいっても、他の生徒が同じ魔法指導を受けて、同じレベルになれるわけではない。かえって危険なことの方が多いだろう。だから、ダグラスはこう言った。


「訓練をしたら、大埜と同じレベルになれると思ったか? ハッキリ言う。馳川にはムリだ」

「わかっているわよ」


 亜紀は即答した。ダグラスは「それじゃ、なぜ?」そう尋ねると――


「それでも、私は魔法が使えるようにならないといけないの」


 それでも? いけない?


 ダグラスは「どうしてだ?」と質問するのだが、亜紀は「今は言えない」としか答えない。

 ダグラスは考えた。亜紀の表情。言葉のひとつひとつ。それらに、亜紀の悲痛なまでの決心が見えていた。彼女はなにか、魔法を必要とする状況に陥っている。もしくは、迫られている。そういう立場にいるのだと理解する。


 だからといって――


「たとえ魔法を教えたとしても、馳川の望むような結果を得られるとは限らない。むしろ、期待とかけ離れた自分に落胆するかもしれない。それでもいいのか?」

「――私のことを『筋がイイ』、そう言ったよね?」

「――」


 初めて魔法を教えた授業でダグラスは亜紀の魔法を見て、そう伝えた。お世辞でもなんでもない。確かにダグラスは彼女に光るモノを見出していた――ただ、それだけで上達が望めるなんて、魔法はそんな単純なものではない。それでも、彼はこう応えた。


「わかった。教えることにしよう。ただし、条件がいくつかある。それを全て了承しなければ、この話はなしだ」

「――条件って?」

「まず、一つ。オレの指示には必ず従うこと。いっさい、反論も拒否も許さない。二つ目、オレから個別指導を受けていることを誰にも話さない。大埜のこともだ」


 当然、個別指導の内容も口外無用だと言う。


「そして三つ目。気持ちが整理できた時点でイイ。馳川が魔法を覚えなければならない理由をオレに教えること」


 すぐとは言わないが、その理由を必ず教えてほしいと言う。


「どうだ? 守れるか?」

「……ええ、わかったわ」


 亜紀は少し躊躇ったが、それでも承諾するのだった。


「よし、それじゃ今日から走れ!」

「――えっ?」


 それからダグラスは競技場に戻った。

 美咲たちの試合は、ダグラスの予想通り惨敗で終わる。メグミたち、亜紀たちも上級生相手に善戦したが、いずれも一点差で敗れるのだった――

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