第36話 なにもあそこまでしなくてもイイよね?
翌日、午後は再び演習場で魔法競技、『ウィッチシュート』の実習を行う。今日は、生徒同士で対戦すると説明された。
「それでは、攻撃側は馳川さん、盛さん、西園寺さんのチーム。守備側は仁志原さん、鈴来さん、田無さんのチーム」
舘林がそう読み上げると、六人がそれぞれ分かれてコートに入る。
「琴子、サナエ、イイ? 作戦通りね」
亜紀が二人に言うと、「おっけい」という声が返ってきた。
ピーッ!
舘林の笛の合図で、アタッカーに入った琴子が敵陣に入ってすぐに――
「はい、亜紀!」
魔法杖を亜紀に渡す。亜紀はそれを持つと正面にいた鈴来美咲へ向かう。
「えっ?」
慌てる美咲だが、亜紀に向かってファイアボールを唱えた。
「バカ? あんたの魔法じゃ届かないでしょ?」
「えっ?」
亜紀の言う通り、美咲の魔法は亜紀がシールドを展開するまでもなく、途中で消滅してしまう。こうなると、美咲はなす術がない!
「はい、死んだ」
亜紀は、容赦なく美咲に向かってファイアボールを打ち込む。
「きゃあ!」
美咲の悲鳴とともに、ファイアボールの炎が美咲の腹部で飛び散った!
「鈴来さん、ヒットアウト!」
守備側がヒットアウトしてもプレイは続く。亜紀はガラ空きになった前方に走り込んだ。残った守備二人が亜紀に攻撃しようとするのだが、琴子とサナエが相手に体当たりする。
ピーッ!
「西園寺さん、盛さん、仁志原さん、田無さん、退場!」
選手同士の接触が認められないウィッチシュートは、接触があった場合、双方が退場となる。琴子とサナエはそれを狙ったのだ。こうなると、コートにいるのは亜紀一人。亜紀は誰にも邪魔されずにゴールボードを攻撃する。
ピーッ!
「馳川さんポイント!」
「ねえねえ、なにもあそこまでしなくてもイイよね?」
マナミがメグミの耳元でささやくと、メグミもうなずいた。
元々、亜紀たちは美咲をイジメていた。美咲は魔法実習ばかりでなく、どんなことをしても他の生徒より遅れを取ることが多い。そのうえに、内気でクラスに仲の良い友達が少ない。入学早々、亜紀から服装で注意されたとき、美咲がオドオドした態度を取ったので、亜紀はそれ以来、ことあるごとに、美咲をイジメるようになったのだ。
「ちょっと、簡単にやられないでよ」
同じチームの仁志原敏美と田無エリも不満を漏らすと、美咲は「ごめんなさい」と頭を何度も下げる。それを見ていた亜紀もイラっとした表情を見せた。
攻守交替して、改めて六人がコートに入る。美咲は右のガード。亜紀も同じサイドに入る。
笛の音でプレイ再開すると、すぐに亜紀は美咲に向かっていく。
「きゃあ!」
亜紀が思いっきり体当たりして、美咲を吹っ飛ばした。いくら防護スーツを着用しているからといっても美咲が受ける衝撃は大きい。そのままうずくまってしまう。
ピーッ!
「は、馳川さん、鈴来さん、ボディコンタクトで退場です!」
舘林が二人に告げる。
「ちょっと、鈴来さん! アナタがトロいから、私まで退場になったじゃない!」
そんな亜紀の声が演習場に響く。
「ご、ごめんなさい」
美咲は体当たりを食らったお腹を押さえながら謝った。
「ちょっと! 今のは馳川さんがわざと当たったのでしょ!」
マナミが前に出て行こうとする。メグミが「ちょっと、マナミ――」と、止めようとしたのだが、間に合わない。
「何? 藍川さん、文句あるの?」
不穏な空気になるので、舘林が「ちょ、ちょっと……藍川さん、馳川さん」とオドオドしながら近寄るが、どちらも引き下がろうとしなかった。舘林がダグラスを見るのだが、少し離れたところで腕組をしたたままだ。関わろうとしないので、舘林は余計にうろたえてしまう。
「馳川さんこそ謝るべきよ!」
「はあ? なんで私が謝るのよ! 鈴来さんが悪いのでしょ? だから謝ったんでしょ!」
「馳川さんが謝せるように仕向けたんじゃない!」
普段は温和なマナミだが、正義感が強く、悪い行いを見逃さない性格でもある。
「私が仕向けた? 言いがかりは止めてよ! なんで私が!?」
こうなると、二人とも引き下がらない。さて、どうするかとメグミが考えていたとき、また一人、少女がコートへ向かった。
「マナミの言っていることが正しい。今のは亜紀が悪い」
そう言ったのは、首藤リナだった。あまりトラブルに口出ししない彼女が割って入ると、亜紀は「ふんっ」とそっぽを向いて、マナミとリナから離れた。
まだ納得できないという顔のマナミをリナはなだめながら、メグミのところまで戻ってくる。
「リナ、ありがとうね」
メグミがお礼をいうと、「別に……」と素っ気ない応えが返ってきた。




