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第30話 先生ヅラしているのが気に食わないだけよ

 早速、開始する。最初は馳川亜紀たちのチームとなった。

 アタッカーを亜紀に、西園寺琴子、盛サナエがガードの位置に入る。三人が防護マスクを被ると――


「それじゃ舘林先生、開始の合図をお願いします」


 ダグラスから頼まれて、舘林が笛を吹いた。


(守備側は一人? しかも防護スーツなし? それって、バカにしてない?)


 アタッカーは本来、守備側三人から攻撃されるので、おいそれと前進できないのだが、相手が一人なら話は別だ。ダグラス一人だけ気を付ければいい。亜紀は全速力で前に出る。


(アイツの攻撃を琴子とサナエが防御をして、そのタイミングで私がゴールボードへ攻撃すればイイだけじゃない!)


 亜紀と一緒に琴子、サナエも前に飛び出す。いつでもマジックシールドを詠唱できる状態で――


(さあ、攻撃してごらんなさい。その時が、こちら側のチャンス!)


 そう亜紀が思った時、ダグラスが亜紀へ向かってくるのが見えた。

「――えっ?」


 相手はゴール前から離れないと思っていたので驚く。思わず立ち止まってしまった。


「立ち止まったら相手の的になるだけだぞ」

「――えっ?」


 ダグラスがそのまま亜紀の前までやってくると、彼女の下半身へ杖を向ける。


「ファイアボール」


 ダグラスの放った魔法が亜紀の太ももに当たった! 防護スーツを着用しているとしても、結構な衝撃だ。亜紀はそのままうずくまる。


 ピーッ!


「馳川さんヒット! 退場です」


 守備側の攻撃がアタッカーのカラダに当たると、アタッカーは退場となる。


「亜紀ゴメン。あれだけ近寄られるとマジックシールドが間に合わなくて……」

 琴子が謝る。


「そうだ、守備側は動かずゴールを守っているだけだと思ってはいけない。こうして、アタッカーに向かってくることもある。そうなれば、相手との距離が狭まり、防御魔法を展開する間隔が取れない」

「それじゃどうすれば……」

「そのまま前進するんだ! 全速力で!」

「――!?」


 もし、守備側が向かってきたら、相手を追い抜いてしまえばイイ。後方から相手を攻撃することは禁止されている。また、ウィッチシュートは相手とカラダの接触も禁止している。接触があった場合、双方がターンオーバーまで退場となるのだが、アタッカーは退場とならない。つまり、守備側だけ退場となるので、大変な不利になる。


「相手の意表を突く前進があると、馳川のように思わず立ち止まってしまうが、それだと相手に攻撃されやすくなってしまう。相手が向かってくる間は構わず前進だ」


 なんか悔しいが、ダグラスの言っていることはわかる。退場となった亜紀はコートの外へ出ようとするが……


「本来、馳川はヒットアウトだが、今日は練習なので、アタッカーを交代して、そのままプレイと続けろ」

「――あ、そう、わかったわ」


 亜紀がコートに戻ると琴子の耳元で囁いた。


「うん、わかった」

 琴子が頷くとセンターラインへ戻る。


「敵がアタッカーに接近した場合、ガードはアタッカーと敵の間にシールドを展開できるだけのスペースが取れない。だけど、ガードはアタッカーを守るだけじゃないんだから」

 そう、亜紀はつぶやいた。


 舘林が試合再開の笛を鳴らすと三人が勢いよく前進する。同じタイミングでダグラスも琴子に向かって走り出した。


「琴子、今よ!」

 亜紀が叫ぶと、琴子は「お願い!」と言って杖を放り投げる。


「これで勝ちだわ!」


 攻撃側はアタッカーだけが杖を持ち、攻撃魔法を使える。その杖をガードに渡せば、ガードが攻撃可能になる。つまり、ガードからゴールボードへ魔法を放てる。試合は守備も三人なので、ガードの前にも敵がいるのだが、この練習ではダグラスただ一人。ガードの亜紀をマークしている敵はいない!


「ほう、それに気づいたか。だが――」


 亜紀が杖を受け取った瞬間、また太ももに衝撃を受ける。


「きゃあ!」


 亜紀の悲鳴と同時に、笛の音が鳴る。


「馳川さん、ヒットアウト!」

「なかなかイイ作戦だったが、馳川の合図がムダだったな」


 亜紀が声を出したことで、杖をパスすると気づいたダグラスは攻撃を亜紀へ切り替えた。杖を受け取る時、隙だらけになってしまうので、ダグラスの攻撃をまともに食らってしまったのだ。

 結局、サナエがアタッカーの番でもポイントが奪えず、亜紀のチームはノーポイントで交代となった。亜紀は悔しそうにダグラスを睨む。


「ねえ、亜紀? なんでムキになっているの? たかが授業なのに」


 サナエに声をかけられ、亜紀はハッとする。そうだ、なぜ自分はこんなに悔しがっているんだ?


「べ、別にムキになってないわよ! ただ、先生ヅラしているのが気に食わないだけよ」

 亜紀がそう言い訳した。

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