第25話 私はナニモノなの?
「それじゃ、藍川からもう一度やってみよう」
「ハ,ハイ!」
慌てて返事をするマナミ。センターラインへ向かう。
「杖を持った手と同じ足を一歩踏み込む。その時、つま先はゴールボードへ向ける。左右の肩の高さを水平に保って、左肩、右肩、標的が一直線になるようにカラダの位置を決める」
「ハイ!」
「よし、イイ構えだ。肩のチカラを抜いて、杖を顔の位置で立てる。顔の向きは真っすぐ前へ。しっかり両目で標的を見ながら、その状態で杖の先を標的に向かって突き出し、詠唱する」
「ファイアボール!」
マナミの放った魔法は真っすぐゴールボードへ向かうが、少し威力が不足して、ゴールボード直前で消滅してしまった。マナミはガッカリした表情を見せたが、ダグラスから「よかったぞ。緊張したために威力がなかったが、練習すれば必ず上達する」という言葉をかけられ、マナミは喜んだ。
順番は進み、亜紀の出番となる。めずらしくダグラスの言う通りに従っていた。ただ、放った魔法は一回目と特段変わったところはなかった。
「馳川は筋がいいな」
体力が伴えば、いい魔法が使えるようになるとダグラスは言う。
「何それ? おだてて、やる気にさせようという魂胆?」
「そんなつもりはない。オレはウソが嫌いだから、本心を言ったまでだ」
笑顔で話す相手に、「フン!」と鼻を鳴らして、亜紀は顔を背けた。
そしてメグミの順番になる。
(なによ……あれが異世界人と私たちのレベル差だというの?)
メグミはダグラスの放った魔法を思い返していた。威力、コントロール――ただのファイアボールなのだが、自分たちのとはまったくの別物だった。
魔法なんてくだらない……そんなふうに思い込んでいた自分が恥ずかしくなる。それと同時に、あんな魔法を今まで隠していたダグラスに対して、ムカついてしまう。
(バ、バカにするのもいい加減にして……)
なんで自分がそんなに怒っているのか良くわからない――が、なんかこのままでは納得がいかなかった。
(――見てなさい)
メグミはセンターラインに立つと、ゴールボードを睨んだ。(絶対、撃ち抜いてやる!)そういう強い感情が湧き立った。
「ファイアボール!」
メグミが杖を突き出した瞬間、炎の塊が現れた。
(――えっ?)
自分の想像をはるかに超える炎が目の前に現れ、メグミは頭の中が真っ白になる。
「どけ!」
ダグラスの声と同時に強い衝撃を感じる。気づいたら尻もちをついていた。
そして、目に入ったのはダグラスの真剣な表情――
バーーーーンッ!!
激しい破裂音が演習場に響き渡り、生徒たちから悲鳴が飛び出した。
何が起きたのかわからない。ただ、大きなトラブルが起きたことはメグミにも理解できた。
しかし、全員がその状況を目撃したというのに、被害らしいモノは発生していない。あんなに大きな音がしたというのに……
「大埜さん! 大丈夫ですか!?」
慌てて近寄ろうとしていた舘林の姿が見えた。その前にダグラスの手が差し伸べられたので、メグミはその手を取る。
「今日の授業はここまでにする。全員、着替えて教室に戻りなさい」
その指示に、わけもわからず生徒全員が従った。
「メグちゃん大丈夫だった?」
マナミが駆け寄ると「う、うん」とメグミは生返事をする。
明らかに、魔法が暴走していた――制御できないほどの大きな炎が現れた。おそらく、そのままだったら何かしら被害が出ていただろう。その時、ダグラスが自分を突き倒して、暴走した炎を抑え込んでいた。その様子を一番近い位置からしっかりと見ている。
(あれは、魔法障壁? それも何重もの障壁を一瞬で展開していた……)
何も被害がなかったのは間違いなくダグラスが防いでくれたからだ。命の恩人――そう思うのが当然な状況なのだが、メグミは彼に『恐怖』の感情を覚えてしまうのだった。
(彼は――ナニモノ?)
いや、恐怖を感じた相手は彼だけでない……
(私は――ナニモノなの?)




