第24話 手本は、こんなモノでいいか?
「次、鈴来!」
ベリーショートの黒髪で小柄な少女、鈴来美咲が「は、はい……」と小声で返事をしてセンターラインまで向かった。
「ちんたら歩いているんじゃないわよ」
亜紀がそう言うと、琴子とサナエがわざと聞こえるように笑う。それで、小走りになる美咲だが、オドオドした感じで、センターラインに立った。
「いいぞ、いつでも魔法を放て」
ダグラスが言うと、美咲は「ハイ……」と慌てて返事をして――
「ファイアボール――」
美咲は持っていた杖を精一杯手前に付き出すと、火の玉が現れ、ゴール方向へ向かう――のだが、一メートルほどで「ボッ――」と消えてしまった。それを見ていた亜紀が「なあにあれ!」と大笑いする。
「ご、ごめんなさい……」
美咲は申し訳なさそうに、急いで生徒たちの列に戻っていく。
「鈴来、謝るところじゃないぞ」とダグラスが言うので、全員が笑った。
そのまま、三十人全員が魔法を放ち終える。
「全員の魔法を見たが、かなり悪いクセが付いてしまっているようだな。もう一度、基本姿勢から練習することにしよう」
「それじゃ、先生! 今度こそ手本を見せてもらえますか?」
亜紀がまた言うので、ダグラスは笑みを浮かべながら「いいだろう」と応える。
「そうだな。オレの魔法レベルを疑っているようだから、ちょっと趣向を凝らそう。杖を持たないでやってみせる」
「――えっ?」
全員、驚く。彼女たち、生徒は入学してすぐに杖の使い方を覚えさせられた。杖を持たずに詠唱してもほとんど魔法が放てないのだ。それだけ、杖というのが大事だと理解していたのだが――
「魔法でもっとも大事なことはイメージだ。そのため、杖を使ったり呪文を唱えたり、そういった媒体を利用してイメージしやすくする。だが、『賢者』と呼ばれるレベルになると、もはやそのような小細工を行う必要はない」
そんなことを説明しながら、センターラインに立つ。そして、自分の顔の前に人差し指を立てた。一瞬で、ピンと張りつめた空気になる。メグミはゴールボードの方向を見つめるダクラスを見てドキッとした。まるで、獲物を狙う猛獣の目だった。
「――バンッ」
それは詠唱ではない。この世界にある拳銃のマネをしただけ。なのに、彼の人差し指から飛び出した火の玉が勢いよくゴールボードに向かっていく。そのままボード中央に命中した!
生徒は誰一人声を発しない。発することができない。驚きを通り越して、思考することも忘れてしまう。
レベルが違い過ぎる――
それまで、自分たちが魔法だと思っていた行動が、ただの遊びのように思えて情けなくなった。
「こういったことができるのも、カラダが基本をしっかり覚えているからだ。馳川?」
突然、自分の名前を呼ばれて、亜紀は我に返る。
「――えっ?」
「手本は、こんなモノでいいか?」
「――そ、そうね」
そう言うのが精一杯だった。正直、魔法自体がスゴすぎて、どんな姿勢で、どんな動作で魔法を放っていたのか、もう誰も覚えていない。




