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ドワーフキング

 オッサンの道案内は優秀で、言う通り三分も歩けば、薄暗い洞窟がにわかに明るくなってきた。ドワーフの町が近い証拠だろう。


「もう町の外れに入ってる。そこまで警戒しなくても大丈夫だ」


「ホント? 良かったわ、ちょっと疲れちゃって……」


「助かったよ、イロリナ。ありがとう」


「ん、オッケーよ。クランだからね、助け合わないと」


「では私も……お疲れでしょうし、肩でもお揉みしましょう」


 ハヅキが手をゴキゴキと鳴らしながらイロリナへと近寄っていく。いや、あの腕力でやられたら肩の肉千切れるんじゃない?


「へ? い、いや、大丈夫よ!?」


「まあ、そう言わずに……結構上手なんですよ?」


「だ、大丈夫だってぇー!!」


 ハヅキは逃げようとするイロリナを捕まえ、ゆっくりと肩にその指を食い込ませていく。本人は悪気なくやっているあたり、怒るに怒れないな。


「どうですか……?」


「は……はふぅ…………」


 うんうん、思ったより加減が出来ているようだ。イロリナは恍惚の表情を浮かべてハヅキの指に身を任せ始めている。仲良きは良いことかな……


「この辺ですか……それとも……ここ?」


「あっ……あぁっ!! だ、ダメッ…………」


 っておい!!

 なんて声出してんだ!!

 慌てて二人を引き剥がし、距離を置かせる。イロリナは照れ臭そうにしているが、若干名残惜しそうだ。

 全く……とんだ熟練の技を見せつけられた気がする。あの一瞬で骨抜きにするなんて、どんだけテクニシャンなんだよ。

 見ろ、オッサンなんか前屈みになって動きが止まってるじゃないか。俺だって耐性が高い訳じゃないんだから、程々にしてほしい。


「お、おう……もう良いか……?」


「あ、ああ……なんか、すまなかった」


「い、いや……じゃあ、行くぞ?」


 なんでオッサンとの間にこんな気まずい雰囲気が流れてんのよ……

 ハヅキのマッサージは人がいないとこでやってもらわなきゃダメだな。しかし、そんなに気持ち良いのかな……今度、お願いしてみようかな……





 ハヅキの絶技が炸裂してから、ほんの少し進むと一軒の石造りの小屋が見えてきた。小屋の前には小柄な人物が立っている。ようやく、第一村人発見だな。


「おーす!! 元気かぁー!?」


「ン……? なンだ、お前か。まだ約束の日には早いだろう。何しにきたンだ?」


「いや、それがよ……ここの嬢ちゃんがドワーフのハーフだって話でよ……故郷を見たいってわざわざ訪ねてきたもんだから、俺も一肌脱がざるを得ないというか……」


 いや、オッサン……アンタ、散々渋ってただろ……調子のいい奴だ。

 そんな考えを他所に、オッサンはアンバーレッドを第一村人に紹介している。紹介された村人はおそらくドワーフで間違い無さそうだ。長く蓄えた髭は三つ編みにされており、手には小柄なハンマーを持っている。見るからにドワーフっぽいが、そのハンマーは何に使ってたんだ……?

 一方、アンバーレッドの方は心なしか緊張しているようだ。無理もないか。産まれてから、一度も連絡をとっていなかった故郷だもんな。


「ここにはお前以外連れて来るなと言っていただろうが……大体、ハーフだって……? そんな娘がいる訳が……」


 じろじろと俺達を見回していたドワーフだったが、アンバーレッドを見るとその声を詰まらせた。


「そ、その瞳……その耳……お前さン、名前は!?」


「あ、アンバーレッドです」


 彼女が名を告げた瞬間、ドワーフは手にしたハンマーを放り投げ、地に膝を付いて祈り始めた。


「か、神よ……まさかリトルアンバーの忘れ形見とでも言うのですか!?」


 な、何? リトルアンバー?


「おーい、大丈夫かー?」


 オッサンがドワーフを気遣い肩を貸してやっている。それに支えられてどうにか立ったドワーフだが、その顔色はまだ青白い。よっぽどショックだったようだ。


「す、すまンな……だが、お前さンがほンとにリトルアンバーの子なら、何がなンでも我らが王に会わさねばならン」


「お、王!?」


「うむ。アンバーレッドと言ったな。その仲間達も、兎に角付いてこい」


「ち、ちょっと待ってよ! ボクはただドワーフの暮らしを見たかっただけで……」


「なら尚更付いてくるンだな。王の許可があれば、この町の滞在中は自由にできるだろうよ。許可無しなら、誰も相手にせン」


 ドワーフのオッサンはそう言うと、踵を返して道を進んでいった。たぶん、その先に王とやらがいるんだろう。


 随分と大事になった気がするな。別に会わなくても良いのだけど……流石にこのままだとアンバーレッドが可哀想だな。変な所で切られてしまったし……リトルアンバーって誰よ?

 それに、アンバーレッドの瞳はたしかに綺麗な黄色だが、そこまで珍しい物でもない筈だ。オッサンだって似たような黄色い瞳をしている。それが忘れ形見ってどういう事だ?




 結局、疑問をそのままにしておくのも気持ちが悪いし、仕方なくドワーフに付いていくと、急にばっと開けた場所に出た。洞窟の中だというのに、天井も高い。そのお陰か、先程の様に石造りの小屋が何軒も並んでいる。どれも人間が住める程度の広さはありそうだ。


 家々を見ていると、俺達を連れてきた奴以外のドワーフが目に入った。誰も彼も、顎髭をしっかりと伸ばし、三つ編みにしている。流行ってんのかな……?


 そうしてしばらく辺りを見回すと、女性や子供のドワーフも見つける事が出来た。どうやら、髭が長いのは男性だけのようだ。女性・子供は皆さっぱりとした肌をしている。見分けやすくていいな。全員が全身毛むくじゃらだったら、ぱっと見で判別出来る自信はない。


「あ! あれ!!」


 と、急にイロリナが大声をあげた。

 何か見つけたのかと視線の先を追うと、見慣れた羽根付き帽子の看板が目に飛び込んできた。


「冒険者ギルド……交流がない町でも、残ってたんだな」


「ね、ちょっと寄ってみちゃダメかな……?」


「ドワーフのオッサンが許してくれれば良いけどな」


 ダメ元で聞いてみたら、案の定、そこには何もないから後にしろ、と一蹴された。



 そのままドワーフに促され、俺達は石造りの家の中でも、一際大きな造りをした建物へと案内された。


「王様ー! バルディック様ー!!」


 案内してきたドワーフが大声で叫ぶと、柱の影からのっそりと老人が現れた。顎髭はしっかりと三つ編みだ。


「なンだ……騒々しい……」


「王様!! そちらにいらしたのですか。実は、この者達が珍妙な事を申しておりまして……」


 別に珍妙でもないだろう。少しカチンときて睨んだが、意に介さずドワーフは話を続ける。


「何でもこの娘が我等ドワーフとのハーフだと申すので……」


「ハーフ? そンな話を真に受けて人間族をこの城に入れたのか?」


「で、ですがその瞳にはたしかに面影がありまして……」


「ふン!! 愚か者め! その様な戯言、放っておけば良いものを!!」


「し、しかし……」


 何か、この王様は凄く我が道を行くタイプだな。はっきり言って苦手だ。このまま関わらずに済ませてくれると有り難い。


「そも、儂の知る限り、ハーフなど何十年も産まれておらン!! 大方、その娘もドワーフの技術を取り入れようとしたスパイだろう」


 あ、完全にあったまきた。人の仲間を捕まえておいて、スパイ呼ばわりとはいい根性してるぜ。

 軽く威嚇の一つでもして帰ろうと、指先に魔力を込め始めたとき、予想外にイロリナが叫んだ。


「ちょっと!! さっきから何よその言い方!! アンバーレッドはスパイなんかじゃないわよっ!!」


「そうです! アンバーレッドさんはそんな人じゃありませんっ!!」


 どうやら皆耐えかねていたようだ。一気に不満が爆発している。ドワーフの王とやらも、急に叫ばれたもんだから、面喰らっている。

 ま、これで放っておくか。ある程度意趣返しにはなっただろ。


「待て。今、なンと言った……?」


「くどいな……アンバーレッドはスパイなんかじゃない。俺達の大切な仲間だ……もう良いだろ? 帰るぞ」


「や、やはり……アンバーレッドとやら、前に出るがいい」


 ほんとに人の話を聞かないオッサンだな。いい加減、ぶん殴ってやらなきゃわからないみたいだな。

 そう思い、握り拳を固めた俺を、他ならないアンバーレッドが制止した。


「待って、ユウゴ君。ボクも、しっかりと聞いてみたいんだ」


 む……本人が言うなら仕方ない、か?

 ゆっくりと拳を緩めて、手を挙げて竦めてみせる。その様子にアンバーレッドは微笑を浮かべると


「ボクがアンバーレッドだよ」


 と、一歩前に出て宣言した。相変わらず、凛とした佇まいはそのままだ。


「その瞳……そしてアンバーを冠する名前……ドワーフ方の親の名前はなンという?」


「わかりません……誰も、知らなかったんです。分かっているのは父親はドワーフと言うことと、レディベールという母親の名前だけです」


「レディベール! やはり……となれば、お前はここから帰す訳にはいかンな」


「どういう事だよ? 仲間なんだ。同族だからって、勝手に引き離す権利は無い筈だ」


「ふン……認めよう。この娘は間違いなく、ドワーフのハーフである。お前の言う通り、同族だからとて、仲間を引き離す権利とやらは無い」


「だったら……」


 帰らせてもらう、そう告げようとして、王の言葉に遮られた。


「だが、儂は王だ。加えて、その娘は儂の息子、リトルアンバーの子供である。つまり、儂の直系の孫だ。ドワーフの王族が、人間族と一緒に生活などせンでいい」


 ま、孫?

 しかも王の直系……となるとアンバーレッドってお姫様になるのか?


「孫をここまで連れてきた事に免じて、今回この城に入った事は不問にしてやろう。さあ、さっさと帰るンだな」


「……それで、はい、とでも言うと思うのか? アンバーレッドは大切な仲間だと言っただろ。到底、納得出来るもんじゃない」


「知らンな。儂の決めた事が絶対――そうよ、儂は王だからな」


 ダメだこりゃ……

 どこまでも自分勝手な野郎だな。決めた。一発ぶん殴って言うこと聞かせよう。その上で、知ってることを全部話してもらおうか。ドワーフなんだし、一撃くらい良いのが入っても大丈夫だろう。


 ぐっ、と『紅蓮の煙菅』を握りしめると、その様子が伝わったのか、王からの威圧感が強くなった。


「ほう……歯向かうか、人間。目の前に立つ儂は王ぞ?」


「だから何だ? 俺はドワーフじゃない。人間だ。お前の法律に従う道理もない」


「かはっ、笑わせよるわ! 面白い、やってみよ。もし儂に一太刀浴びせる事があれば、今回の件、考えなおしてやらンでもない」


「言ったな……その言葉、忘れるなっ!!」


 『紅蓮の煙菅』を払い、一息に駆け出す。王までの距離は短い。この間合いなら瞬時に詰められる。駆けた勢いそのままに、首筋目掛けて袈裟に煙菅を振るった。王は反応すらしていない。

 間違いなく、とった……!!


「人間にしては速い、がそンなものよな……」


 首筋を打ち抜く筈だった煙菅は、いつの間にか王の右手に吸い込まれていた。

 ば、ばかな……全く見えなかった……


「つまらン……もう去ね……」


 王が拳を握ると、それに併せて大地が揺れる。偶然……じゃなさそうだ。あれをもらったらヤバい。

 咄嗟に『紅蓮の煙菅』を手放し、後方へ大きく飛び跳ねる。


「遅いわ……ぬぅン!!」


 王の繰り出した拳は、凄まじい衝撃波を伴って俺に襲いかかってきた。直撃こそしなかったものの、踏ん張りが全く効かず吹き飛ばされ、壁に思いっきり打ち付けられた。


「がはっ……」


 反動で地面に倒れこんだが、手足が動かない。うつ伏せに倒れたまま、立ち上がる事が出来なかった。


「ユウゴ!!」


 イロリナの慌てた声に、何とか顔をあげたが、王はイロリナが近付く事さえ許さないようだ。右手に捉えた煙菅を大きく振りかぶって投げ下ろしてきた。


「イロリナさん! 止まって!!」


 イロリナはハヅキの言葉に、身を固め立ち止まった。その足下には『紅蓮の煙菅』が突き刺さっている。その様子を見て、へなへなと腰を下ろすイロリナ。


「もうよい……儂に喧嘩を売ってくるから、どんな猛者かと思えば……つまらンな」


 王から溢れる圧迫感が徐々に収まっていく。こうして見ると、只の年老いたドワーフにしか見えないが……とんだ狸爺め。


「暫くは歯向かう力も出まい……おい! この連中を牢に連れていけ!!」


「はっ!」


 牢だと?

 くそ、処刑なんてされてたまるか。

 ムリクリ立ち上がろうとするが、振り絞った力は霧散し、再度地面を舐める事になった。


「その気概は認めるがな……実力が伴わン内は醜いだけよ。潔く、諦めよ」


 何処からともなく現れたドワーフ達に担がれた辺りで、俺の意識は途切れていった……

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