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エルフとドワーフ

 オーウェンの町はそのほとんど全てが木だ。石などの混じり気は見当たらない。

 見渡す限り木、樹、ツリー。

 建築物も木をくりぬいて作るというこだわり様。こんな有様じゃ、火事になった時の延焼が不味いんじゃないだろうか……


「エルフは魔法が得意だからね。火があがればすぐに気付く魔法を使ってるらしいし、ちょっとの火事ならすぐに水魔法で消火すると思うよ」


 火事の心配を口にすると、アンバーレッドがしっかりと解説してくれた。

 しかし、凄いなエルフ。現代の伝承通り、魔法に長けた森の民、って感じだ。ついでに俺にも魔法の使い方を教えてくれないかな。


「まずは冒険者ギルドですね……ところで、アンバーレッドさんは冒険者にならないのですか?」


「ボク……? 戦いには参加できないからね。あくまで、商人としての同行者だよ」


「でも、クランの一員になったら良いじゃない。せっかく名前も決まったんだしさ」


「うん……そうかもしれないけど……冒険者になれないんだよね」


 冒険者になれない? そんな事有るのか?

 疑問に思い、イロリナとハヅキを交互に見るが、二人とも不思議そうな顔をしている。普通じゃないようだ。


「ハーバルタウンの冒険者ギルドでね、一応聞いてみたんだよ。そしたらさ、『君は冒険者になる必要がないから』って断られちゃったんだよね。流石に、クランへの同行は止められなかったけど」


 何でだろうね、と彼女は小声で続ける。

 何でだろうなぁ……考えられるのは七ツ星の商人だから、ってのしか今は思いつかないけど……


「まあ、一緒に行けなくなる訳じゃなかったから、特別何も言わなかったんだけどさ。冒険者登録できないし、ボクはこのまま同行者でいくよ」


「そうでしたか……不思議な事もあるんですね……」


 ハヅキは素直に納得してしまっている。ごねればどうにかなりそうなもんだけど……アンバーレッドは別に不満を唱えている訳でもないし、一先ず保留にしておこう。


「じゃ、冒険者ギルドで情報収集だね。何が聞きたいんだっけ?」


「まずはドワーフの住処だな。あと、できれば魔法を教われる所も……」


「それはないんじゃないかな……」


 アンバーレッドからツッコミが入る。伝承通り、エルフは人嫌いってか? でも、教わりたいんだもん。強い魔法、使えるようになりたいじゃない。


「あ、羽根付き帽子の看板。ここが冒険者ギルドですね……」


 道なりに歩いていくと、ハヅキが冒険者ギルドの看板を見つけた。

 お、そうそう。この看板。どの大陸でも共通なのは良いな。わかりやすい。ハヅキは扉に手を掛けると、ゆっくりと開いていった。



 ギルド内はそれなりに冒険者が集まっているようだ。用意されたテーブルはほとんど埋まっている。席に付いた冒険者は全員エルフのようだ。皆、耳が長く整った顔立ちをしている。受付も混んでいたので、とりあえず空いているテーブルに近寄っていくと、エルフらしかぬゴツイ体格をしたオッサンが絡んできた。


「おう、兄ちゃん……イイ女侍らせてるなあ、一人、二人、三人、俺の酌相手にくれよ」


 えぇ……ここでテンプレよろしく絡んでくるのかよ……しかも、三人って俺以外全員じゃねえか。

 黙ってたら調子づかせるだろうからなぁ……穏便に断っておこう。


「……悪いが、俺の仲間は酌をするために仲間になってるんじゃない。端っこの方で大人しくしてるから、放っておいてくれ」


「そう言うなって……兄ちゃん、人族だろ? 変なのに絡まれると面倒だろうよ。だから、俺の言う事を聞いとけって」


 変なのはお前だ! と言いたくなるのをぐっと堪えて、静かに告げる。


「良いから、放っとけ。捻り上げるぞ」


 オッサンは、ヒューと口笛をあげ、なおも絡んでくる。


「威勢がイイねぇ。でもよ、郷に入っては郷に従えって言うだろ? 酌は冗談だからよ、取りあえず俺の卓に着いとけって」


「君もしつこいね……一体、何があるんだい?」


 無視を決め込んでいた女性陣だったが、しつこいオッサンに耐えかねてアンバーレッドが口を出した。その顔は怒り、というよりも呆れて見える。


「ああ、やっと話を聞いてくれる気になったか。いやな、その空いた卓は、エルフ族の七ツ星冒険者、ヒュンネルの指定席なんだよ。勝手に座ると暴れるからな、止めてんの」


 ヒュンネル? 『エレファン』にはそんなキャラいなかったな……しかし、面倒そうな性格をしてそうだ。勝手に席に着いたら暴れるって……


「だから、適当に話を合わせて、俺の卓に着いとけ……エルフは人族と見ると馬鹿にする連中が多いからな。冒険者ギルドの職員は別としても、他の冒険者は余計に絡んでくるぞ」


 むぅ……既に絡んできているオッサンに言われたくはない。が、既に他のエルフ達からも注目を浴びてしまっている。何人かは俺達を指差して内緒話をしているようだ。こそこそと空いた卓に着いても、別のエルフに絡まれそうだな。


「……俺達は情報収集が目的だ。それが済んだら出ていくからな」


「ああ、構わねえよ。いや、別に人族が絡まれようと別に良いんだけどよ……ヒュンネルの奴は周りにもあたるからよぉ……」


 あぁ……やっぱり面倒な奴なんだな。だったら、長居は無用だな。さっさと情報を仕入れて、別の町へ行こう。アンバーレッドに目配せをすると、彼女は一つ頷いてから切り出した。


「ボク達はドワーフの町へ行きたいんだ。何か知らないかい?」


「へぇ、ドワーフね。お嬢ちゃんの方が詳しいんじゃねえか?」


 オッサンはアンバーレッドを下から上まで眺めるとそう呟いた。彼女がドワーフであるとわかっているのだろう。


「生憎、ボクは混血ハーフだからね。この大陸も初めてだよ」


「へぇ!? ドワーフのハーフとは珍しいな! それで、自分のもう一つの故郷でも見に来たのか?」


「そんなとこかな……それで、知ってるの?」


 オッサンは、その体格に似つかわしくない長耳をこじりながら続ける。


「まあ、な……だが、ドワーフは俺達以上に他者と関わり合わないからなぁ……行っても、町に入れないと思うぜ?」


 む……それは困るな。せっかく妖精族の大陸まで来たのに、何の収穫も無しになってしまう。


「どうして?」


 と問うイロリナ。そうだ、その理由こそ大事だな。種族的な理由じゃなきゃどうにかなりそうだが……


「あいつら職人だからなぁ……馴染みの連中しか町に入れたがらないんだよ」


 あー、めっちゃ普通の理由だった。これなら時間をかければどうにかなるかも。


「では、ゆっくりとお友達になっていけばよろしいのでは?」


「その友達になるのが難しいんだよなぁ……大体が黙りを決めこんでるからよ、取り付くシマもねえ」


「それは……随分と排他的なんだな」


「昔は友好的だったんだけどな……何十年か前から、急に余所者を町へ入れなくなったんだ。今じゃ、ドワーフが益になると判断した者しか交流がないぜ」


「参ったね……」


 アンバーレッドは額に手を当てて考えこんでいる。彼女からしてみれば、初めて他のドワーフと交流できる機会だ。色々と聞きたい事もあったんだろう。出来ることなら叶えてやりたいが……


「ま、異種族が上手く交流するのは難しいと思うぜ? 特に人族はな。力が無い割りに、数がめちゃくちゃ多いからよ。群れなきゃ何も出来ないって馬鹿にされる事がほとんどだ」


 確かに、ゲーム内でも人族は基本ステータスが低かったな。でも、その分Jobが豊富で人気でもあった。そんな設定も反映してるのか。


「でもさ、おじさんは親切じゃない?」


「俺が……? ハッ、よせやい。ケツの穴が痒くならぁ!」


「えぇ……ちゃんと洗ってる……?」


 いやいや、イロリナさん。これはただの例えだろ。頭だってボサボサだし、着ている服は所々穴が空いている。こんな人が実際、洗ってないわけが……ありそうだな……?

 妙な沈黙の後、オッサンはゆっくりと絞り出した。


「嬢ちゃん……俺、意外と綺麗好きなんだよ……」


「「「嘘だっ!!」」」


 女性陣から瞬時に突っ込まれるオッサン。

 あ、ショック受けて机に突っ伏してる。まあ、見た目はがさつそうな印象だし、仕方ないっちゃ仕方ない。俺も気を付けよう。


「それは置いといて……オッサン、何で俺達にそんなに親切にする? それに、それだけドワーフに詳しいのは何でだ?」


 オッサンはその言葉に身体を起こすと


「随分昔に人族に世話になったからな。恩返しじゃねえけど……ただ無下にするのはバチが当たるってもんよ」


 と返答してきた。その表情は、さっきまでのへらへらした顔から打って変わって、真剣そのものだ。たぶん、嘘は言っていないと思う。


「では、その恩人様に感謝を……」


 ハヅキは見ず知らずの人間に十字を切っている。よくそこまで出来るな。っていうか、巫女さんはキリスト教なのか? 神道とかじゃないのか? よく知らないが……


「お前さん、信心深いのなぁ……でも、俺の恩人に祈ってくれるのは嬉しいもんだ」


 オッサンは気分良く笑いだした。余程世話になった人間なんだな。お蔭でここまで情報をくれるオッサンに会えたし、俺も感謝をしておこう。


「それで、どうしておじさんはそんなにドワーフに詳しいのかしら?」


「そりゃお前、俺が昔からドワーフと交流があるからだよ。あ……」


 お?

 って事は、オッサン連れてけば万事解決じゃね?


「だ、ダメだぞ!! いくら人族に恩があるからといって、そこまで仲良く出来ねえよ!! そんな事したら、俺がエルフ達から爪弾きになっちまう!!」


「それは……残念だね……ドワーフの町へ案内してくれれば、ボクが酌の一回や二回くらいしてあげたんだけど……」


 アンバーレッドがボソッと呟いた。いや、こんなのに釣られないだろ。


「う……ま、マジか……? いや、でもなあ……」


 あれ? 案外釣れそう?


「それなら、あたしの踊りも付けちゃう。『舞姫』を名乗れるくらいなんだから、ちょっとしたものよ?」


「でしたら、私は貴方に心からの祈祷を……」


 皆ここぞとばかりにアピールしている。いいぞ、もっとやれ。

 じゃない……俺も何か言わないとな、よし。


「じゃあ俺はオッサンをいじめる奴から守ってやる」


 女性陣の言葉にしばらく悩んでいたオッサンだったが、俺のその言葉が余程予想外だったようだ。呆然と俺を見つめている。


「守る……お前が……? 俺を……?」


「おう。一応、六ツ星の冒険者だからな。ちょっとぐらいは戦えるぞ」


 そう伝えると、オッサンはカッ、と小さく笑った。


「そりゃ良いや。困る事があったらお前さんに頼むとしよう」


 これ、信じてないな。まあ別にいいか。実際、あんまり困ってなさそうだし。


「それで、どうなんだい? ボク達を案内してくれるのかい?」


「はぁ……わかったよ。連れてくよ。その代わり、約束通り……ほら!」


 オッサンはそう言うと手元のグラスをこちらに傾けた。それを見て、アンバーレッドは苦笑しながら酒を注ぐ。慣れていない手つきで、いつ溢すんじゃないかとヒヤヒヤするが、オッサンは満足気に笑っているし良いだろう。

 少し、妬けるが……ドワーフに会うためだ。まあ、我慢しよう。これでちゃんと連れていかなかったら……オッサン、覚えとけよ?

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