表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/55

入港

 目の前には雄大な緑の森が広がっている。

 妖精、というイメージ通り、自然と共存しているようだ。目の見える範囲には、人族の大陸で見たような町並みはまったく見当たらなかった。

 こういう、自然の多い所に祭壇があっても良いかもしれないな。雰囲気は二重丸だ。


「イロリナ君、ちょっと地図を見せてくれる?」


「ん? はい」


 と、いつの間にか読書を終わらせたアンバーレッドがイロリナから地図を借り受けている。何度か地図と目の前に見える大陸を見比べた後、腕を右にかざした。


「妖精族の大陸の交易都市は向こうだね。舵を切ってもらっていい?」


「おーけー! よーそろー!!」


 イロリナは掛け声をあげると大きく舵を右に切った。ノリノリだな。

 しかし、よく地図と見比べて現在地がわかるもんだ。どう見てもどの辺りなのか見当もつかない。感心した目でアンバーレッドを見ていると、彼女はこちらに振り返り自然と目があった。


「……なに?」


「いや、よくわかるなって……というか、交易都市以外に停泊しちゃ駄目なのか?」


「うん。ちゃんとルールを守らないと……適当に泊めておいたら、それこそ盗賊の餌食になっちゃうよ」


 あ、そうか。船守りがいないと、適当に放置してたら乗り込むわな。でも、それなら交易都市に泊めても一緒なんじゃ……


「交易都市に泊めた船はね、その港で働く人間が責任を持って預かってくれるんだ。当然、お金は取られるけどね。停泊代だと思って割りきるしかないよ」


 そうアンバーレッドは続けてくれた。

 まあ、護衛付きの駐車料金だと思えば良いのかな?


「でも、随分早く着きましたね……」


「それはユウゴ君の風魔法と、イロリナ君の操舵のお蔭だね。ボクも、こんなに早く着くとは思わなかったよ」


「とりあえず交易都市に向かって……その後どうする?」


「取り立てて目標がないしね……そうだ! それなら、一度ドワーフの所へ行ってみても良い?」


「ドワーフ……たしか、アンバーレッドもドワーフだったよな?」


 そう、初対面でそんな事を言っていた気がする。今まで他のドワーフは見たことが無いが、妖精の一種ならこの大陸には多いんだろう。


「そうだよ。正確には、混血ハーフだけどね」


「あ、そうなんだ。ドワーフと何のハーフなの?」


「さあ……? 父親の顔は見たことが無いからね。ボクが幼いころに死んでしまったそうだよ。ボクは赤ん坊の頃にあの町に連れてこられて、それからずっとあそこで暮らしていたんだ」


「そ、それは……なんか、ごめん……」


「いや、気にしなくていいよ? 母親の方も、物心つく頃には亡くなっていたからね。あの屋敷の皆が良くしてくれたから、寂しいとも思わなかったし……」


 相変わらず表情を変えずに話すアンバーレッドだが、相当に重い過去があったんだな……

 その話にあてられ重い空気が漂っていたが、その空気を吹き飛ばそうと明るく振舞ったのはアンバーレッド本人だった。


「いや、だから気にしなくて良いんだって。ボクも覚えていない人の話で暗くなっても困るよ。屋敷の人間にしても、皆ボクよりも年上だからね。ただでさえドワーフは長命だっていうのに、いつまでもボクの面倒を見ている訳にもいかないだろう? ボクが外に出るって言って、内心喜んだんじゃないかな?」


 と、笑顔で話すアンバーレッド。その笑顔は自然ではあったが、何処か後ろ暗いものを感じる。


「無理すんなよ。『内心喜んだ』って言っても、それはお前が世間に出る事を喜んだんだろ。誰も、お前に出ていって欲しかった訳じゃない」


「そ、そうですよ! アンバーレッドさんはとても聡明で……きっと、皆さん悲しんだと思いますよ?」


「可愛い子には旅をさせよ、って言うしね。アンバーレッドが居なくて、今頃寂しがってると思うよ?」


「みんな……うん、そうだね……ありがとう。ごめんね? ちょっと、下に行ってくるよ。少し、目にゴミが入ってね……洗ってくる」


 そう言うと、アンバーレッドは船室の方へ階段を降りていった。





「女泣かし」


 ギョッとして振り返ると、イロリナがジト目で睨んでいる。い、いや、あれは不可抗力だろう?


「まったくもう……どうしてもっとオブラートに包んであげないかな? 直接言い過ぎよ」


「えぇ……? お前らだって援護してたじゃないか……」


「ユウゴが突っ込むからでしょー」


 と、さらにジト目で睨まれる。が、心底怒っているわけではなさそうだ。その証拠に、口が笑っている。


「そういうイロリナこそ……お前のせいであんな話題になったんだからな」


「ユウゴがドワーフって言うからでしょ!!」


「お、お二人とも落ち着いて……」


 からかい返しに煽ってみたら、強い口調で返された。様子を見ていたハヅキが慌てて止めに入るが、それを見て、俺とイロリナはカラカラと笑った。


「え……えぇ……? どうして二人とも笑うんですか? あ、もしかしてからかったんですか? もう!!」


 今度はハヅキがむくれてしまった。程々にしておこう。悪い、と素直に謝り船の行く道を見渡す。もう、交易都市は近いようだ。他の船が出入りしている様子が伺える。


「でも、良い所あるじゃん。アンバーレッドがドワーフだから、最初に妖精族の大陸を選んだんでしょ?」


「いや? 違うぞ?」


「え?」


 イロリナは目を白黒させながら呆然としている。力が抜けたのだろう。腕を下げたのと同時に、舵も一緒になって動かしたもんだから、大きく船が揺れて煽られた。慌ててハヅキが舵を取り、体勢を立て直してくれた。


「イロリナさん!!」


「ご、ごめん。ユウゴ、どうして妖精族の大陸を選んだの?」


 今度はしっかりと舵を取ってくれている。大丈夫そうだな。


「いや、獣人族ってシスイみたいな連中がわんさかいるんだろ? あんなのに囲まれたら怖いじゃん。鬼人族はハヅキみたいにバカ強い種族だし……竜人族はわからないけど……竜だぞ? やっとの思いで倒したのがあの赤竜なんだから、戦ったら不味いだろう。で、残ったのが妖精族だな」


 何のことは無い、消去法だ。一番戦いになっても対処しやすそうな所を選んだに過ぎない。


「アンバーレッドが故郷に帰れるように選んだわけじゃ……」


「違うな。大体、ドワーフが妖精族の大陸を故郷にしているなんて、今知った」


「そ、そうよね……アナタはそういう人だった……」


 失礼だな、そういう人とはどういう意味だ。ハヅキも困惑したようにイロリナの肩を叩いている。


「ごめんね、ハヅキ……鬼人族の大陸にはまだ帰れなそう……」


「いえ……私は別にすぐ帰ろうとも思っていませんから……」


 あ、そうか……アンバーレッドはともかく、ハヅキは攫われて人間族の大陸に来たんだったな。本来であれば、解放されてすぐ自分の大陸に帰る筈だったのに。順番的に、仲間になったのが早いアンバーレッドの故郷を選んだと思っていたのか。


「その、すまない……イロリナの言い分はよくわかった」


「いえ……私は自分の意思で桔梗五星プラティコドンに入ったのです。気になさらなくて大丈夫ですよ」


 と優しく笑ってくれるハヅキ。悪いことしたな……鬼人族の大陸にはなるべく早く行けるようにしよう。

 ……まだ実力的に不安ではあるけど……



「ユウゴ、あたし達はちゃんと付いていくけど……あんまり蔑ろにしないでよ?」


「ああ、皆に厭きられないよう、気を付けるよ」


「ん、じゃ……船をつけるよー」


イロリナは巧みに船を操ると、交易都市の港へと帆船を寄せていった。周りを行く他の帆船は確かに俺達の『レイディソフィア』よりも大きいが、その分俺達は小回りが利く。

 イロリナが初心者でも巧く操船できるのは、これも大きいんだろうな。『レイディソフィア』はゆっくりと港に入っていくと、桟橋の付近でハヅキが錨を下ろしてくれた。ズシリ、と揺れが伝わり、ゆっくりと船の動きが止まっていく。これで、到着だな。


「ごめん、お待たせ。行こうか?」


 揺れで気付いたのか、下からアンバーレッドが上がってきた。その顔はいつもの様に淡々としている。もう、落ち着いたみたいだ。


 四人で船から降りる。前から長い金髪の人が歩いてきた。中性的な顔立ちで、男女の見分けがつかない。どちらにしても、かなりの美形だ。耳は横にピンと張っている。これは、いわゆるエルフって奴?


「君達が今の船の乗組員かな? おや……君はドワーフか。人間とドワーフ、それに鬼人まで一緒とは……珍しいメンバー構成だね」


「仲良くやっているよ。停泊させてもらうのに、金がかかるんだろう? 受付は貴方か?」


「ああ。君がリーダーかな? 基本的に、停泊時に金貨を二十枚頂いている。嫌なら、素直にこのまま帰るか、交易都市以外に泊めてくれ」


 金貨二十枚!?

 随分とインフレしてるな。俺の全財産のほとんどだぞ。しかし、留守中に賊に襲われても嫌だしな……

 仕方ない、素直に金貨二十枚を渡そう。


「君は……いや、何でもない。ここは交易都市オーウェンだ。冒険者ギルドもある。ゆっくりしていくと良い」


 エルフは金貨の入った袋を受け取ると、港に備え付けられている小屋へと戻っていった。たぶん、あそこが管理人室みたいになってるんだろう。


「随分高いのねぇ……でも、これで妖精族の大陸に到着、ね」


「そうだね……ホントはあんなに高くないと思うんだけど……一般の冒険者で、しかも人間族だから足元見られたのかもしれないね」


「そんな事あるんですか!?」


「一応、表向きは紛争が無いけど……やっぱり、根強く差別は残ってるみたいだよ。あそこで暴れでもしたら、入島拒否されていただろうね」


 おお……案外、素直に払って良かったな……


「流石に、冒険者ギルドは大丈夫よねぇ……?」


「さっきのエルフの様子を見る限り、大丈夫じゃないかな? 彼はユウゴ君の態度に感心したみたいだったから。差別の少ない所を案内してくれたんだと思う」


「そうなのか?」


「たぶん、ね。ギルドも世界規模で設立されている組織だし、大丈夫だと思うよ」


 そうだと良いけどな……

 まあ、取りあえずは冒険者ギルドに向かうか。ドワーフに会うにしても、情報が無い事には動きようがない。ギルドで情報収集するとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ