表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/55

下衆

不快な表現があるかと思います。

苦手な方はご注意ください。

 顔に何か冷たい感覚を覚え、重たい瞼を開いた。目の前には、先ほどハヅキを捕らえていた黒服と、トロルを操っていた気色悪い男がソファーに腰かけていた。

 これで何度目の気絶だったか……ふと倉庫の時計が目に入った。もう十二時になりそうだ。外の様子からは、夜の様だ。まだ、イロリナ達の助けは来ない。

 何度も抗おうと試みたが、俺の手は魔法が使えないようがっちりと縄で組まれ、魔力封じの鎖で縛られている。


「目が覚めたようだな……気分はどうかな?」


「余り良い気分とは言えないな。どうせなら、もっと美人に起こされたかったもんだ」


「まだそんな減らず口が言えるんですねぇ……やりなさい」


「うっす!!」


「あ゛ぁああぁあ゛あ゛っ゛!!!!」


 気色悪い男に指示を受けた荒くれ共は、揃って俺の背中を鞭で打ちすえてくる。既に皮膚は裂け、痛覚は始めに打たれたときよりも、さらに敏感になっている気がする。


「……うるせぇ野郎だ。いい加減、諦めたらどうだ? お前が一言、『装備を言い値で売却します』って言えば、これ以上痛めつけないで解放してやるんだがな?」


「生憎、昔から声だけはでかいって有名だったもんでね……」


「強情だな……まぁ、良い。それなら方法を変えるだけだ。おい!」


 黒服が叫ぶと、荒くれ共は何か別の道具を取りに行ったようだ。


「キヒッ、貴方みたいに打たれ強い人間はねぇ、心をへし折ってあげる方が先なんですよぉ?」


 気色悪い方が何か言っているが……よくわからないな。精神的な拷問、と言う事だろうか。


「連れてきやした!!」


「ご苦労……もう行って良いぞ」


「ですがボス……こいつは……」


「行って良いと言ってるだろう?」


 黒服が手下の荒くれをきつい目で睨む。その胆力は本物だ。怯えきった荒くれは、逃げるように部屋から出ていった。残されたのは、荒くれが連れてきたハヅキだ。手は前方で縛られており、目隠しまでされている。表情の全てを伺う事は出来ないが、間違いなく恐怖を覚えているだろう。


「さて、お前に対する次の拷問だがな……正直言って、飽きた」


「は……?」


「最初は部下達のストレス解消にもなったんだけどな……お前、つまらないんだよ。俺は、もっと怯える表情が見たかったんだがな……」


 この黒服、かなり性格が悪いな。他人の恐怖した顔が見たいって……お化け屋敷でもやってろっての。


「こっちとしてはもう殺してもいいんだが……お前の武器がそうさせてくれない。殺すと星の価値が無くなるからな……出来れば星を生かしたまま、俺達に譲って欲しくて、こうしてお願いしてるんだが……どうも、それで殺されないとナメられてるみたいだからな。趣向を変える事にした」


 そう言うと、黒服はハヅキをソファーに引きずり倒し、その肢体の上に馬乗りになった。


「守ろうとした女が、目の前で成す術もなく、雌豚に堕ちる瞬間でも見ているといい」


 そう言うと、黒服はハヅキの足に手を這わせていく。ハヅキは倒された衝撃で、何をされていたのかわかっていなかったようだが、すぐに気が付くと必死で抵抗を始めた。


「無駄だ。『動くな』」


 その一言で、ハヅキの動きははっきりと鈍くなった。こいつが、奴隷の主人格になってるのか。


「まだ動くか……重ねて命ずる。『動くな』」


 呪いに対する抵抗力の高いハヅキと言えども、命令を重ねられて耐えきれなかったのだろう。次第に抗う力は抜け、黒服の手が自由にハヅキの足を這いずっている。気色悪いだろうに、ハヅキは必死に歯を食い縛り、声をあげずに耐えているようだ。


「おい! やめろ!!」


 そんな俺の言葉を無視して、黒服はニタニタと笑いながら手を動かし続けている。


「この女、中々気丈だな……上玉でこれなら、高値で売れる」


 ハヅキが必死に耐える様子さえ弄ぶこの外道は、徐々にその手を腰の方へとあげていった。流石にそれにはハヅキも体を震わせ、明確に拒絶を示したが、力の入らない体では焼け石に水のようだ。外道は、今度は腰から胸にかけて手を動かそうとして、止めた。


「これが最後だ。今、俺達に協力すれば、これ以上は見せないでおいてやる。この女を奴隷として売るのは変えようがないが……せめて、お前の知らない所で事が済むようにしてやろう。それでも拒否するのなら仕方ない。そこで、救えなかった女の末路でも見てるといい」


 う、うぅ……ハヅキを助けられないのか……?


「わ、私は大丈夫ですから……自分の大切な物を守って下さい……」


 と、震えるハヅキの声が聞こえてきた。それすら嘲笑い、外道が続ける。


「ハハッ、良いじゃないか!! 滾ってきたぜ! お前がどんなに気丈に振る舞おうとな、最後にはこの『魔女の妙薬』で恍惚の表情を浮かべるんだよ!! この薬無しじゃ生きられなくなるぜ? これだけ強い女が、泣いてすがるんだ! 薬をちょうだい、ってなぁ!!」


 …………下衆がっ!!!!

 こいつは絶対に許さん! どうにかしてぶちのめしてやる!!


「それで? どうするんだ? 今なら、装備をよこせばお前だけは解放してやるぞ?」


「……条件がある」


「この期に及んで条件だ? お前にある選択肢は、この女の行く末を見るか、見ないか、その二つだけだぜ?」


「いや、どうせその薬を使うんだろう? なら、俺の手で使わせてくれないか?」


 その提案に、下衆は一度きょとんとした顔を浮かべた後、ニターっと、心底反吐が出る笑みを浮かべた。


「何だよお前、そういう趣味だったのか? それなら汲んでやらない訳にはいかないよなぁ。おい、連れてこい」


「キヒヒッ、貴方も悪い人間ですねぇ」


 気色悪い方の男が俺を立たせると、下衆の方へと引っ張っていく。魔力封じの鎖は外されなかったが、手の拘束は自由にされた。


「ほら、これを飲ませるんだ」


 そう言って、下衆は俺に薬を渡してくる。ゆっくりと受けとると、大事な事を確認した。


「この薬、高いんだろ?」


「ん? ああ、金貨で五枚はかかるぜ?」


「そうか……残念だったな」


 そう言うと、しっかりと持っていた筈の薬の瓶が、するりと滑り下衆に向かってこぼれ落ちた。


「て、てめぇ!! 何しやがる!!」


「言ってなかったけどな、俺には神様が憑いてるんだ。ひどく欲張りで、ワガママで、へそ曲がりな、な」


 話しながら、これ以上の狼藉を働かせないように、下衆とハヅキの間に体を入れる。


「だから何だってんだ!!」


 下衆の方は俺への攻撃も忘れ、必死で薬を拭っている。余程効果のある薬のようだ。


「お前、言ってただろう? 俺の運が尽きたって。実際、尽きたんだと思うよ? じゃなきゃ、こんな酷い目に合う筈がないし。でもな、俺の神様は、高い物に目が無いんだよ。神様が満足してないのに、俺が高価な物を使うわけにいかないだろう? だから、今のはきっと天罰だ」


「何をべらべらと分からない事を言ってるんですかねぇ!!」


 気色悪い方が俺に向かって短剣を構えてくる。


「やめとけ。今の俺は、逆の意味で愛され過ぎてる」


 そう言って足を一歩出した瞬間、盛大に転び、気色悪い男の高そうなローブをびりびりに破いた。


「ああぁー!! ローランのローブがぁ!」


 なんか、ブランド物だったのか?

 立ち上がろうとしたが、今度は攻撃しようとしていた下衆の足に縺れて、再び転んだ。追撃されないよう、今度は素早く立ち上がったが、その弾みで下衆の嵌めていた指輪を踏み抜いてしまった。これまた、高そうな宝石がぱっくりと割れている。


「お、お、俺の指環ー!!」


「ああ、そう言えば……悪いな。謝ってなかった。今の俺は、動けば高級品を破壊する。本来なら賠償ものだろうけど……どうせ盗品の類いだろ? お前らも文無しになってくれ」


 そう告げて、また一歩と踏み出す。ガキン、と音がして魔力封じの鎖が壊れた。よくわからんが、これはラッキーかな?


 下衆二人に対して、魔力を込めた指先を向ける。上手く発動すればあいつらにダメージが入る筈だ。


「「ご、ご免なさい!! 許してください!!」」


「そう言って、何人誑かしてきた? 諦めな」


 今込められる全ての魔力を指先に溜め、土の魔法を放つ。

 全力の『アースミサイル』は下衆共には直撃しなかったが、その周囲へと飛び散り、様々な物を破壊した。たぶん、全部高級品なんだと思う。

 よく見ると、飛び散った土塊が頭に当たり、下衆二人も倒れた様だ。うわ言で、『キ、キモチイイ』と呟いている。ほんの僅かしかかからなかったが……自業自得だな、ざまあ。


「ハヅキ! 大丈夫か!?」


「は、はい……どうなったのですか?」


 彼女はまだ目と手を拘束しをされたままだ。早く解放してあけたいが、俺も下手に動けない。

 と、外の方から何やら騒がしい音が聞こえてきた。怒号と剣戟の鳴り響く音も聞こえる。漸く、助けが来たかな?

 部屋の入り口の方を見ていると、扉が木っ端微塵に吹き飛んだ。


「ユウゴ!! 大丈夫!?」


「イロリナか……助かったよ……とりあえず、彼女を解放してあげてくれ。俺より、よっぽど嫌な思いをしてる」


「わかったわ。って!! 背中!! 酷いよ!? 本当に大丈夫!?」


「ああ、まだ余裕がある。先に彼女を頼むよ」


 わかっちゃいたけど、背中の傷も凄まじいみたいだな。だけど、それよりハヅキの方が心配だ。すんでのところだったが……こういうのは体より心に傷が残りやすいからな。少し様子を見ておかないと。イロリナなら、そういうのに向いている。底抜けに明るいし、しばらく彼女についていてもらおう。


「ジブリールは来てるのか?」


「うん。自警団に話が中々通じなくて……遅くなってごめん……」


「いや、ドジった俺も悪い。言いっこ無しにしよう」


「うん、ありがとう……ハヅキ、大丈夫……?」


 イロリナはハヅキの拘束を解くと、ゆっくりと背中に手を回して抱きしめている。


「はい……いえ、怖かった、です……」


 と、ポロポロと涙するハヅキ。それを頑張ったね、と慰めるイロリナ。二人とも金髪だから、まるで姉妹のようだ。


「何にせよ、もう大丈夫だな……あー、長い一日だった……」


 一人じゃ一歩も動けない状態ではあるが……自警団も来たし、これで収拾がつくだろう。ハーバルタウンの違法奴隷も、今回の件で数が減ってくれると良いんだけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ