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一網打尽

 ハヅキの指示に従い港を駆け抜けていくと、何年も前から使われていないという倉庫に案内された。人気は少なく、いかにも悪人がたむろしそうな雰囲気だ。


「あそこがそうか?」


「はい、あの……二人と離れて大丈夫なんですか……?」


「まあ、一人は全然戦えないからな。ついてこない方が、かえって安全だと思う。そうすると、一緒に自警団を呼んできてもらった方が良いと思ってな」


「そうじゃなくて……貴方は一人で大丈夫なんですか?」


「んー……どうだろうな。さっきのみたいなのばっかりなら、何の問題もないと思うが……トロル次第かな?」


 まあ、竜の貴族様より強いって事はないだろう。人間相手に、やりすぎてしまわないかの方が心配だ。


「それより、ハヅキは何で逃げ出せたんだ? 逃げない事は命令に入っていないのか?」


「いえ、主人に敵対しない事が絶対ですから、大きく含めれば逃げる事も敵対に入るでしょう。おそらく、私が神に仕える巫女であった事が関係すると思います」


「どういう事だ?」


「一応、巫女の端くれですから……何かを強制されるような、呪いの類いには抵抗があるんだと思います。」


 ふむ。奴隷も一種の呪い……か。そう考えると抵抗力が高いのも何となく理解はできる。あくまで、呪いなんだったら、だけど。


「実際、私以外に神職はいませんでしたし……他に説明は出来ないんですが……」


 俺が納得していないと思ったのか、困ったように眉を寄せて話すハヅキ。まあ、別に理由は何でも良いんだけどな。


「いや、とりあえず背中から切りつけられるような事じゃなきゃ良いよ……そろそろ、行ってみるか?」


「はい。そんな命令をされても、貴方が避けられる位の時間は抗ってみせます」


 そりゃ頼もしい。俺は『百式のさすまた』を握り直すと、重い雰囲気を感じさせる扉を開け放った。




 倉庫の中には、いかにも荒くれといった感じの連中がウヨウヨいる。よく見ると、鎖を持った奴も何人かいる。鎖を辿っていくと、手錠を掛けられた人間を見つけた。そいつらは全員生気のない顔をしている。奴隷として拉致された連中なんだろう。と、そこまで観察した所で、荒くれの一人が声をかけてきた。


「何だ、兄ちゃん。見ねえ顔だな。しかし……その女は中々上玉だな。俺らの仲間になりてえのか?」


 どうやら、ハヅキを奴隷として連れてきた人間だと勘違いしているらしい。このまま話を通してもいいが、たぶんハヅキが動揺してボロが出るな。ここは、一気に畳み掛けよう。


「ああ、ちょっと奴隷に興味があって……なっ!!」


 言い終わると同時に『百式のさすまた』を突き出す。


「あびゃびゃびゃびゃっ!!!!」


 さすまたはしっかりと荒くれを捕らえると、先端から何かしらの刺激を加えてくれていたようだ。見た感じ、電撃かな?

 攻撃を加えられた荒くれは、それ以上何も言わずに地面に倒れこんでしまった。息は……してるな。よし。


「こりゃいいや」


 軽いし、扱いやすい。剣よりリーチも長いし、中距離武器として戦える。特に、今回みたいに捕物で殺傷したくない時は抜群だな。


「なんだてめぇ!!」


 そう言って荒くれ共は俺に襲いかかってきた。が、奴等の得物はほとんどが短剣、時折、長剣やこん棒を持っている奴がいる程度だ。いずれも近接武器ばかりで、俺に辿り着く前に『百式のさすまた』の餌食になっていった。


「おらよ……っと」


 既に倒した荒くれの数は十を越えている。いずれも一撃で倒せているので、そんなに疲労感はないが……こいつら何人いるんだよ。ワラワラと群れやがって。Gか、Gの類いか? 出てきて嫌な思いをすると言う意味では同じだな。


「こっちだ!! 早く来いっ!!」


 あらかた片付けたと思ったら、奥からまたうじゃうじゃと出てきた。しかも、今度は御丁寧に弓や投石用と思われるパチンコを持っている。流石に、対策を立ててきたか。


「なら、こうだな。『アースミサイル』!!」


 イロリナの提案通り、土魔法を使って応戦する。勿論、威力は控え目だ。こんな事で人殺しになりたくない。右と左の指先から放たれた十個の土塊が荒くれ共に命中し、それぞれの動きを止めていく。


「怯むな! 相手は一人だぞ!!」


 そんな状況にも関わらず、荒くれ共は抵抗を続けてくる。矢や石が飛んでくるが、こんなもの竜のレーザーに比べれば大した物でもない。『百式のさすまた』を振り回し、飛来してきた矢や石を弾き飛ばすと、『アースミサイル』で応戦を繰り返す。


「駄目だ!! あいつ滅茶苦茶強ぇぞ!!」


 お、諦めたかな? それならそろそろ抵抗をやめてくれると、こっちも楽で有り難い。土魔法を繰返し、荒くれ共の数を減らしていると、奥の通路から雰囲気の違う高そうなローブを纏った男が現れた。


「やれやれ……上手くいっていたというのに……何処にも邪魔する人間と言うのは現れるんですねぇ……」


「先生! お願いします!! あいつ、不思議な武器を持ってやがりまして……」


「えぇ……見ていましたから、よぉーくわかっていますよぉ。どうも、対人間に特化した武器のようですねぇ……ですから、これでどうでしょう?」


 先生と呼ばれた男が、パチン、と指を鳴らすと、後ろから馬鹿でかい音をたてながら、緑色の巨人が現れた。


「トロルかっ!!」


「えぇ、貴方も中々お強いようですが……魔物の相手はどうでしょうかねぇ……」


 キヒヒッ、と気色悪い笑い声をあげながら、男は俺を指差し、反対の手で再度指を鳴らした。


「さぁ、行きなさい!! 貴方の暴力を見せてちょうだい!!」


 トロルはその巨体に似つかわしくない素早さでこちらに駆けてくると、手にしたこん棒を降り下ろしてきた。


「上等だ……」


 後方にステップして一撃をかわすと、手にしたさすまたを『紅蓮の煙管』と持ちかえる。魔物相手なら容赦いらないだろう。思いっきり叩きのめしてやる。


「アォオオオー!!」


 トロルは奇声をあげながら、こん棒を振り回してくる。落ち着いてスウェー、ダッキング……時にはステップを踏みながらこん棒を避け、その太った腹部に『紅蓮の煙管』を叩き込んでやった。


「グフ?」


 だと言うのに、トロルは何食わぬ顔をして再び暴れ始めた。どうもあの腹の脂肪が衝撃を吸収してるようだ。


「あ、あのっ!」


 そう言えばハヅキが静かだな、と思っていたら、倉庫の物陰に隠れていたようだ。急に声を掛けられたが、どうした?


「トロルは頭を叩くんですっ!! お腹は、その、脂肪が……」


 やっぱりか。そういえば、竜の時もそうだったし、頭はどんな敵も急所なんだろうな。


「わかった! そのまま隠れていろ!!」


「は、はいっ……」


 しかし、どうやってあの巨体の頭を狙うか……首までで二メートルはあるぞ、あれ。


「キヒッ、弱点がわかったからといって、どうだと言うのです。貴方に頭を狙う術はないでしょう」


 トロルを操っているらしき男が嫌味を言ってくる。たしかに、今の俺には手も足も出ない様に見えるだろうな。『アクアスピアー』もイロリナのバフ抜きじゃ使えないし……魔法を纏っての攻撃も打撃じゃ効果が薄そうだ。打撃じゃなく斬撃なら効きそうなんだが……


 斬撃……?

 一個閃いたぞ。上手くいくかわからないが、試してみよう。


 俺は、執拗にこん棒での攻撃を繰り返すトロルから一旦距離をとると、『紅蓮の煙管』へと魔力を通わせていく。今回は風の魔力だ。

 煙管の色が徐々に緑色に変わっていき、火皿までしっかりと変色したのを確認してから、吸い口を口に含んだ。


「キヒッ、最後の一服ですか?」


 相変わらず馬鹿にしてくるが、気にせずに煙管へと空気を吐いた。同時に体を揺すり、円を描く。風の魔力が込められた煙管の火皿から、少しずつ魔力の塊が抜け出てきている。ただ不規則に立ち上るだけだったそれは、円を描いたことで一定の位置に噴出され、最終的に円盤状の風の魔力の塊を作り出した。


「な、何を……」


 吸い口から口を離し、出来上がったものを確認する。上手い具合に魔力が凝縮されていそうだ。いけそうだな……


「らぁっ!!」


 いくばくかの気合いと共に駆け出した俺は、トロルの攻撃を避け煙管を振るう。相変わらず、腹にしか届かないが、火皿の上を漂う風の魔力がトロルの腹を真一文字に切り裂いた。


「グフォォオッ!!」


 痛みに耐えきれず、膝をついたトロルの顔は近い。そのこめかみ目掛けて、『紅蓮の煙管』を横殴りに振るった。直撃を免れなかったトロルは、そのまま倒れそれきり動かなかった。


「バ、バカな……」


「これで終わりか? なら、諦めて捕まってくれると有り難いんだが……」


 気色悪い笑い声をした男は、ワナワナと震えている。どうやら、使役している魔物はあいつ一匹だったようだ。


「終わりだ……お前が、だがな……」


 不意に、後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると、ハヅキを捕まえた黒服の男が立っている。


「お前っ!!」


「おっと、動くなよ? 動けば、この女の命はないぞ?」


 そう言い放つと、男はハヅキの首筋に短剣を当てた。白く細い首筋に、うっすらと血が滴る。


「くっ……」


「そう、それで良い。手にした武器も捨ててもらおうか」


 仕方なく、言う通り武器を地面に置く。抵抗の意志がないことを示すよう、両手をあげて様子を伺う事にした。


「ふん……一人でここまでやるとは、大した奴だ。お前、今朝方コンプリートフェスで帆船を当てていた奴か……どうやら、その豪運も尽きたようだな。ここでお前を拷問して、その装備も、船も頂くとしよう」


「装備を頂く? 認証がかかってるんだろう?」


「だから、拷問するんだろう。出来ることなら殺したくはない。死んだら武器の価値が無くなるからな……大人しく差し出せば、命だけは助けてやる」


「そう言われて、素直にあげると思うか?」


「渡したくなるようにしてやるさ……おい、連れてけ!!」


 男はそう叫ぶと、残っていた荒くれ共が俺に近づいてくる。目だけでも抵抗をしていたが、首筋に強烈な痛みを覚えると、意識は遠のいていった。

 俺は薄れゆく意識の中、豪運が尽きた、と言った男の言葉を思い出していた。

 そう言えば、『ガチャ』後に貧乏神様に祈りを捧げていなかった……な……

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