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悪漢と巫女

「ゆ、ゆ、ユウゴ!! あたし、やったよ!?」


 イロリナはそう言うと、震える手でコンプガチャ用のシートを差し出してきた。確認してみると、確かに全ての絵に『済』と書かれている。


「流石だな。助かったよ。ありがとう」


「こ、これで船が貰えるんだよね? どっか一つ足りてないとか、ないよね?」


 イロリナの渡してきたシートを再確認するが、どう見てもコンプしている。アンバーレッドにも見てもらい、抜けがない事を三回確認した。間違いないだろう。二人して、イロリナに大きく頷く。


「あわわわ……は、初めてだよ? 『ガチャ』で豪華な景品当てたの。ど、どうしよう……変なのに絡まれたりして……」


「とりあえず、七ツ星を当てた俺に、絡んできているのはお前だけだ。大丈夫だろ」


 な、何よー!! と叫んでいるが、事実なので気にしない。俺も大分図太くなったもんだ。主に貧乏神様の天罰のせいだと思うけどな。


「これで、船は俺達が貰って良いんだよな?」


 と、受付嬢に尋ねる。彼女は大分呆けていたようだが、何拍かおいたあと、我に返ったのだろう。


「は、はい……それでは、シートをお預かり致します」


 と絞り出した。素直にシートを渡すと、穴でも空くんじゃないかってくらい、目を皿のようにして睨めっこをしている。インチキしてないのは、目の前で見ていた彼女自身がよくわかっている筈だ。


「はい、間違いなくコンプリートしています。なので、希望の帆船『レイディソフィア』はたしかに貴方達の物です」


 何度も見返して、何処にも穴がないことを確認すると、漸く帆船が俺達の物と宣言してくれた。これで自由に大陸を行き来出来るな。


「おめでとうございます。こちらが『レイディソフィア』の錨をつなぐ錠の鍵です」


 そう言って、受付嬢は銀光りする鍵を渡してきた。決して無くさないよう、アンバーレッドに『収納』でしまってもらう。彼女がそばにいる限り、そう簡単に盗まれもしない筈だ。


「港のどの辺りに泊まっているんだ?」


「もう、貴方達の物ですから教えても大丈夫ですよね……三番港の辺りにあると伺っています。船体に貴方の星が刻まれている筈ですから、すぐわかると思います」


「わかった。三番港だな」


 港がどれくらいのものか知らないが、案内位出ているだろう。礼を言うと、イロリナ達を連れて港へと向かった。





 三番港は案外近くにあった。ギルドが町の中心部、そこから南に海が広がっている。最初に港として出来たのが、ギルドを出て東側。出来た順に、南側、西側と港が拡がっていき、その順に一番、二番と名付けたそうだ。三番だから西側だな。

 三番港を歩いていると、すぐに『レイディソフィア』は見つかった。船体に俺の星がデカデカと刻まれている。しっかりと船室も備わっていて、客船としても用いられそうだ。


「「でかい…………」」

「……小さいね」


「「「え?」」」


 俺とイロリナは確かにその大きさに感嘆していた筈だ。が、アンバーレッドはどうやら違ったらしい。どう見ても、巨大にしか見えないこの帆船を捕まえて、小さい、と言ってのけたのだ。


「いや、これは大きな船なんじゃないのか?」


「あ、帆船は初めて見るのかな? 一般的に世界を駆ける様な帆船はね、これの倍くらいあるよ。希望の帆船なんて言うから、もっと大きなものを想像していたんだけど……ちょっと期待外れだったかな」


 軽々しく言っているが、生憎、俺は生前だって帆船何て見たことねえよ! 貧乏人馬鹿にしてんのかっ!!

 大体、お前箱入り娘だろ! 船何てどうやって見るんだよ!!


「まぁ、商人だからね。船の構造くらいは知っているさ。荷を積むのに、どうするのが効率が良いのかとか、考えないといけないからね」


 怒りにしっかりと応えるように、返答が返ってきた。凄腕の商人って、こんなに何でも知ってるものなのか……


「アンバーレッドって、やっぱり凄かったんだね……」


 イロリナがボソッと呟く。同感だ。頭脳担当はアンバーレッドに任せよう……




 港からの帰り道、船の説明を受けながらシェラの館へと向かっていると、アンバーレッドが唐突に切り出した。


「ところで、あの船はどうやって動かすつもりなんだい?」


「え? 帆船なんだから、風を受ければ動くんだろう?」


「そりゃ動くけど……マストを張ったり、錨を上げ下ろししたり……一人でやるの?」


「み、皆で、やろうよ……?」


 そう言うか否か、二人から冷たい視線が降り注ぐ。ああ、久々のこの感じ……しかも人数が増えて威力も倍増している。お願いします、やめてください。


「イロリナ、ユウゴ君はこんな細腕の女の子に重労働させようとしているみたいだよ」

「ねー、酷いよねー。サイテー……」


 うぅ……視線だけならまだしも、言葉も振るわれたら、もう無理だ。立っていられない。俺は膝をつき


「お、俺がやります……」


 と、泣く泣く伝えた。っていうか、俺ってクランのリーダーよね? もうちょい協力してくれても……


「まぁ、冗談はさておき……実際、一人じゃ無理があるよ。船の動かし方も知らないボク達が、この人数で航海に繰り出すのは無謀としか思えない」


「そうよねぇ……何か良い案は無いかなぁ……」


 お、ちゃんと考えてくれてるみたいだ。膝の埃を払いながら立ち上がり、二人の会話をもう一度聞きなおす。


「現実的なのは、船乗りを雇うことかな。留守中の船守もしてくれるし、一番手っ取り早いと思うよ」


「それいいな。でも、俺達の冒険についてきてくれる船乗りなんているのか?」


「まあ、ツテがないわけじゃないから……話をしてみる事はできるけど、どうだろうね……」


「ホントに何でも知ってるのね……」


「取りあえず、その方針で行くとしようか。給料は応相談で……他にも必要な物ってあるのか?」


「船を動かすのに必要な物は揃ってるみたいだよ。後は人的な力不足かな。これはちょっと時間がかかるかも……」


「なら、家を探す間に、船乗りも探す形か。しばらく、この町に留まることになりそうだな……」


 結局、今すぐどうこうは出来ないのか。少し残念に思い、気分をリフレッシュしようと伸びをしたら、路地裏から何か聞こえてきた。


「……て…………さ……」


 何だろう、と思い路地裏を覗いてみると、そこには鬼がいた。


 いや、正確には鬼族の巫女『ハヅキ』だ。『エレファン』の世界において、彼女もまた有名な存在だった。

 殴り僧ならぬ殴り巫女。回復もこなしてくれる上に、近接攻撃が他の僧侶よりも速く、重い為、初心者向けのクエストなら十二分に働いてくれる。そんな存在の彼女は、ヒーラー狙いならリセマラ終了でも可、なんて評価が下っていたくらいだ。

 攻撃方法もグーで殴る、と言った単純なエフェクトだった割に、その単純さが逆に可愛い、とコアなファンが相当数いたのも人気の理由だ。かくいう俺も、『エレファン』では彼女狙いにガチャをして一ヵ月をかけてパーティにお迎えした記憶がある。

 その彼女が、いかにも悪役面した男に腕を掴まれている。彼女もその剛腕を振るおうとしているが、何故か彼女の身体は淡く黄色い光に包まれ、本来の拳は出ていかなかった。


「へっ! 無駄な足掻きはやめて、さっさとついてくるんだな!!」


「やめてください!! こんなことをして、神様が黙っていませんよ!!」


「ハッ! 俺が祈る神様なんてのは、金の神様だけだ。きっと、お前を早く売れって叫んでるだろうよ」


 ほう、言ってくれるな。俺にも金の神様が憑いてるぞ? 貧乏神様だけどな!!

『エレファン』で俺のパーティの癒しになってくれていた彼女に、乱暴を振るおうとは不届期千万な野郎だ。話を聞く限り、どう考えても悪い奴だし、ここは一発お見舞いして黙らせておくとしよう。


「おい」


「あぁん!? なんだてめぇ――ゴフッ!?」


 男が振り向き、こちらに絡んでくる前に、鳩尾に一撃加えてやった。男は呻き声をあげながら、ゆっくりと前のめりに倒れていく。人間相手に『紅蓮の煙管』を振り抜くのは、流石に戸惑われたので、火皿の部分で突いてやったのだが、流石六ツ星。加減しても十分な威力だ。


「大丈夫か?」


「は、はい。ありがとうございます……あの、あなた方は……?」


「あたし達は冒険者ギルドのメンバーよ。通りかかったら変な声が聞こえたからさ。どうしたの?」


「冒険者ギルドの……では、ギルドから何か依頼が出たのですね!?」


「いや、特別依頼は受けてないな。船を手に入れたから、この港までやってきただけだ」


「そうですか……」


「何か訳がありそうだね……それに、さっきの淡い光……もしかして、奴隷落ちしちゃった?」


 アンバーレッドのその言葉に、ハヅキはビクッと身体を震わせた。


「やっぱりか……その感じだと、人さらいに遭って奴隷にされちゃったみたいだね。契約者はこいつ?」


「いえ、この男の人はただの使い走りみたいです……あ、すみません。私、ハヅキと申します。元々は鬼族の大陸で暮らしていたのですが、気付いたらこの町で捕まっていたんです」


「捕まっていたのはキミだけ?」


「いえ、他にも何人か捕まっている人がいたのですが、私だけ隙を見て逃げ出せたんです。ですが、ここで再び捕まってしまって……」


「そうか……じゃあ、まだ隷属契約は解けないんだね……弱ったな……」


「隷属契約って何だ?」


「そのまま、奴隷の縛りを与える契約だよ。奴隷は主人に逆らえない、ただその一点にのみ特化した契約さ」


 そのまま隷属契約を説明してくれたアンバーレッドの言葉を纏めると、奴隷になった時点で主人の命令に絶対服従してしまうらしい。逆らおうとしても、先程の様に不可思議な力が働いて、効果が薄くなってしまうそうだ。さらに、解除するには主人が解放を命じるか、死亡するか、の二点しかないと教えてもらった。


「つまり、その首謀者を捕まえないと隷属契約が解けないってことか?」


「そうなるね」


「ねえ、ハヅキ……こいつらの根城は何処だかわかる?」


「え? ええ……ですが、相手はかなりの人数ですよ? 三人でどうにかなるとは……」


「大丈夫よ! 自警団長のジブリールとも知り合いだし、話せばすぐ来てくれる!!」


 そう言うイロリナだったが、ハヅキは眼を伏せて首を横に振る。


「駄目です。あの人たちの中には魔物遣いがいて、凶暴な魔物を使役しているんです。自警団の人達で戦えるとは思えません……」


「そんなに凶暴な魔物がいるのか?」


「少なくとも、五ツ星の冒険者が討伐対象とするようなトロルがいたのは見えました」


 トロルか。ドラゴンとどっちが強いかな。イメージでは、トロルの方が頭が悪そうだけど。


「魔物相手だったら大丈夫よ。だって、このユウゴは竜だって退治してるんだからね!!」


「りゅ、竜を……」


 いや、あんまり大きく言わないで欲しい。倒したのは事実だが、イロリナのバフがないと無理だっただろう。


「先程も男の人を一撃で倒していましたし……貴方ならもしかして……」


「ユウゴ君、このままだと目覚めが悪いよ。手助けしてあげられないかな?」


「ああ、わかってる。だけど、人間相手に戦うのもな……」


 この世界に来てから、俺が倒したのは魔物だけだ。人間の相手は今まで全くしてきていない。遅れをとるとは思わないが、倒しきれるだろうか。もし、殺してしまったら……


「ユウゴ、大丈夫。さっきもちゃんとセーブできてたし、『紅蓮の煙管』で戦わなくても大丈夫よ?」


 イロリナは俺の悩みに気づいていたようだ。だが、その言葉の意味はよく分からない。


「『紅蓮の煙管』で生身の人間を殴りつけたら、流石に大怪我じゃすまないと思うわ。でも、貴方は魔法も使えるでしょ?」


「まあ、な。だけど魔法なんて使ったらもっと大事になるんじゃないか?」


「土魔法よ。土の塊をぶつけるのなら、威力と目標を調整すれば、やり過ぎちゃうことはないでしょ?」


 う、うん……そう、か?


「それでも心配なら、この『百式のさすまた』と『魔縄』を持っていきなよ。さすまたなら殺傷能力は低いだろうし、『魔縄』は伸縮自在の縄で、縛り付けた相手を無力化する力があるみたい」


「お、それは良いな。ってか、そんなに凄い物なのに三ツ星なのか?」


「自分より強い相手には効かないみたいだよ? そこだけ、気を付けてね?」


 俺はアンバーレッドから『百式のさすまた』と『魔縄』を受け取ると、軽くさすまたを振ってみる。うん、軽くて使いやすい。でも、何が百式なんだろうな……? 気になるが、今は先に隷属契約を解いてやる方が先か。


「じゃ、行くか。イロリナとアンバーレッドは一応、ジブリールの方へ声掛けをしてきてくれ。ハヅキ、道案内、頼んでいいか?」


「ええ、お願いします。私達を、助けてください」

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