コンプガチャ
コンプリートフェス、もといコンプガチャに挑戦するに当たって、残りの玉数は重要だ。あと一つでコンプって時に、打ち止めに何てなったら目も当てられない。その重要な玉、すなわち、輝石は残り六十七個だ。ガチャで言えば十三回分。それで十種類をコンプリートしろってのはかなり無理がある。普通ならスルーするのが良策だろう。そう、普通ならな。
だけど、俺には貧乏神様が憑いている。貧乏神様の恩恵を充分に活かせば、この少ない玉数でもコンプリートすることはあり得る筈だ。
「コンプリートフェスの内訳はどんな感じなんだ?」
「今月はこちらの十種類になります」
と、差し出された紙を見ると、色々なアイテムが描かれており、隣にそのアイテムの名前が載っていた。
どれどれ……
嘆きの匕首☆☆☆☆☆☆
黒鉄の十手☆☆☆☆☆
百式さすまた☆☆☆☆
紫電輪☆☆☆☆☆
韋駄天具足☆☆☆☆☆☆
黒頭巾☆☆☆☆
天女のケープ☆☆☆☆☆
魔縄☆☆☆
魔法瓶☆☆☆
術式テント☆☆☆
うん、見事にごちゃ混ぜだな。六ツ星が二つ、五ツ星が三つ、四ツ星が二つ、三ツ星が三つで十種類か。
七ツ星が無いだけ引きやすいのか。それでも、六ツ星が二つはかなり厳しい気がするが……
「これ、ちょっと難しくない? 六ツ星なんてそうそう当たらないって」
案の定、イロリナが苦言を呈している。やっぱり、そうだよなぁ……
「そうかも知れませんけど、今回の報酬は帆船ですから……誰でも揃えれば貰えるとしたら、これくらいの選択になってしまうんです」
と、受付嬢が返答してくる。まあ、ゲームじゃないんだし、何人にも船を持ってかれたら、ギルド側も財政難で破産するよな。
って事は、やっぱり最初から無理ゲーか?
ん、待てよ?
「なあ、船は明日までのフェスでコンプすれば貰えるんだよな? 誰もコンプしなかったらどうなるんだ?」
「その場合は、該当者無しと言うことで、一般的な競りに出されます」
「成程……先に船の内装なんかも見れるのか?」
「勿論、御覧になれます。と言っても、図面と絵で、ですが」
「実物は?」
「ここに持ってくる訳にもいきませんから……港に泊まってると思いますよ?」
ここまで聞いて、何となく理解した。こりゃ宣伝だな。一流の冒険者なら、船の一つも欲しくなるだろう。コンプ達成者が出なくても、商品を知らせる切欠にはなる。本当に欲しい奴なら競りで落とす事まで考えるだろう。いつもは待ち一辺倒の受付嬢が、自分で声をあげて回る訳だ。
「で、どうします? やりますか?」
中々『ガチャ』をするに至らない俺達に痺れを切らしたのか、受付嬢は催促してきた。
とりあえず、明日また来る、と伝えて、冒険者ギルドを離れる事にした。
「ユウゴ君、船が欲しいのなら融資しても構わないよ?」
アンバーレッドからそんな提案が入ったのは、ギルドから出て、町の市場で食材を見繕っていた時だ。
「融資って……トイチとか言わないだろうな?」
「ふふっ、ユウゴ君が望むならそうしても良いけど……先行投資だからね、それなりの額になって返ってきてくれれば良いさ」
「おっかねえな……ま、それは最終手段だな。別に今すぐ必要って訳でもないし。定期船だって有るんだろう? 自由度は低くなるかもしれないけど、別の大陸に行けるんなら、自分の船でなくても大丈夫だ」
そう言いながら、目についた魚を一つずつ吟味する。お、これ鮭っぽいな。他の魚と比べて大ぶりだし、脂がのってそうだ。
「そう? まぁ、必要なら言ってよ。船を買えるくらいの予算はあるから」
実はアンバーレッドを仲間にした一番のメリットは、これだったりしてな。今後も金に困る事はなさそうだ。でも貧乏神様が憑いてるし、下手にアンバーレッドから借金をして、いきなり彼女が破産しても困るからな。本当に最終手段にとっておこう。
「ユウゴ、これなんてどう?」
イロリナはそんな会話に参加せず、せっせと食材を選んでいる。今指差したのは貝だ。大きな殻で覆われていて、鮑を彷彿させる。少し値は張りそうだが、これなら貧乏神様も満足しそうだな。
そう。今、俺達は貧乏神様に捧げる食材兼晩飯の食材を選んでいる。『ガチャ』を明日に回したのも、貧乏神様の機嫌をしっかりとってLUKを上げておく為だ。それには、今日の食事が肝を握っている。
「よし、その貝と魚を買っていこう。バターとかはあるのか?」
「バターはシェラが備蓄してるんじゃないかな? 言えば少し位分けてくれると思うよ」
「それなら香草もあるか? 魚の臭み消しみたいな」
「シャケーはそんなに臭みの強い魚じゃなあし、大丈夫だと思うけど……」
あ、そうなんだ。なら香草はいらないな。調味料はまだ残っているし、メインが二品あれば満足してくれるだろう。っていうか、シャケーって言うんだ、あの魚。
選んだ魚と貝を持って、シェラの館へと帰ってきた。ちなみに、貝は高級食材だったらしく、俺達の分も含めて銀貨六枚も持っていかれた。シャケーも合わせて、銀貨七枚の出費だ。
シェラに台所を借りたい旨を伝えると、快く厨房へと案内してくれた。
「よし、じゃあやるか」
フライパンにバターを落として溶かし、貝をを焼く。バターソテーだな。シャケーの方は刺身でいこうと思って、既に店の人間に捌いてもらっている。
ガスコンロは無く、かまどに火を起こすスタイルの厨房だが、火加減の調整にも大分慣れた。『紅蓮の煙管』で火を起こしたら、風の魔法『ウインド』で空気を送って火力を調整する。出来るだけ弱火で火を起こすのがポイントだ。じゃないと、火を弱くするのが大変だからな。
「器用な事するね」
「ん? そうか?」
「風魔法をそういう使い方する人は、見た事ないよ?」
「皆、火力の調整とかしないのか?」
「うーん……お店とかなら何かしてるんだろうけど……外だと『弱火でじっくり』か、『強火で一気に』の二択よ。アンバーレッドの家は?」
「さあ? ご飯は全部召使いが準備してたから……どんな設備かも見た事がないよ」
「マジか。っていうか、調理担当もう少し増やせませんかね? 毎回俺が作るの結構手間なんですけど……」
「だってユウゴの御飯美味しいし」
「ボクは料理出来ないからね……器用貧乏神様、頼んだよ」
にべもなく断られる。こりゃ駄目そうだ……素直にフライパンに向き直って、貝の焼き上がりに、味付けのレーモンを搾る。シェラの好意で頂いた物だが……レモンそっくりな果実があって良かった。いつまでも塩味じゃ味気ない。フランベとかもして反応を見たいところだが、アルコールも無いし、またの機会にしよう。
「ほい、出来上がり」
「おー美味しそう」
「うん、美味しそうだね」
出来上がった二品を持って客室へと戻る。勿論、ちゃんと後始末もしておいた。
「まだ食べちゃ駄目なんだよね?」
「ああ、悪いが先に供えさせてくれ。一番じゃないから、って祟られても困るし」
そう言って、木箱で作った簡易祭壇の前に料理を並べる。
「神様ー、いつも感謝してます。どうぞお納めください」
簡単に祈りを捧げながら食器を前に出すと、瞬時に料理が消えた。
「何、今の……」
「いや、俺も初めて見た。神様、ちゃんと受け取ってくれたみたいだけど、あんなに一瞬で消えるんだな」
「神様もお腹すいてたのかな? で、もう良いの?」
「あ、ああ。大丈夫だと思う。待たせて悪かったな、食べよう」
三人でいただきますをして、魚介を味わった。どちらも好評で、あっという間に胃袋に消えていったが……個人的には醤油が欲しい。でも流石に醤油の正確な作り方まで知らないしなぁ……
次の日、再び冒険者ギルドに向かってステータスを確認したところ、しっかりとLUKは限界突破していた。
三人一部屋なのに、寝る時に何もなかったって?
シェラさんが何処からともなく現れて、給仕用の部屋に案内されたよ。
残念だったな! 俺!!
「ユウゴ君、今日は『ガチャ』するのかい?」
「ああ、当然だ。今日なら何でも、そう……七ツ星も引ける気がする」
「ちょ、ちょっと……今日は七ツ星は入ってないからね!?」
いや、まあそうなんだけどね?
最高ランクって言われたら、やっぱり気になるのが人間じゃない?
なので、品名だけでも確認しようと受付嬢に尋ねてみた。
「この町の七ツ星は『イーグルビーク』です」
「イーグル……何だ?」
そんな武器聞いた事もない。
「イーグルビーク。鳥の嘴みたいに鋭く尖った武器ね。あんまり可愛くない」
疑問に思った俺の言葉に、受付嬢が説明用の本を差し出してくれた。一緒になって覗きこんだイロリナが、補足の言葉を加えてくれる。
「これが七ツ星って……なんかちゃちい気もするけど……何かしらあるんだろうな……」
「詳細までは……それで、今日はやられるんですか?」
「ああ、その前に……十回分で何かおまけがついたりしないか?」
「十連、ですね。おまけと言うか……『ガチャ』の像がとってもよく動きますよ」
「え?」
「ですから、よく動くんです。像が」
倒置法で言われてもよくわからない。それに何のメリットがあるのか……そんな顔をしていたのか、受付嬢はさらにこう続ける。
「稀に、ですけど、その動きを見て、何か技を閃く事がある方もいるようです」
「一回無料とかそういうのは……」
「ありません。ギルドが輝石をリサイクルしているとは言っても、一度輝きを失った石を甦らせているんですからね? 私達も、タダ働きしてる訳じゃ無いんですよ?」
怒られてしまった。マジかー、大体どのガチャゲーも十連におまけくらいつけるだろ……
「で、どうするんですか? やるんですか?」
「あ、あぁ……やる。十回な、頼むよ」
「はい、確かに。それでは、これを。では、奥にどうぞ」
受付嬢からは先程のコンプ目的の品が書かれたシートを渡された。スタンプラリーみたいになっているようだ。
その絵をしっかりと持ち、『ガチャ』像が立っている前の剣に足を揃える。
若干、気落ちはしたものの、コンプガチャ自体は生きている。これでコンプすれば良いんだろう?
「いくぞ……おりゃあぁぁぁぁ!!!!」
思いを込めて剣を突き刺した。
像の目からは七色の光が溢れる。同時に、像は機敏に動き始めた。
まずは腕を大きく振ってその場で駆け足、その後に槍を突き出すような動きをしたかと思うと、ひらりと一回転した。
その流れのまま腕を大きく振り回すと、今度は頭を抱えている。
円盤投げでも失敗したか?
そんな感想を抱いている間にも、像の動きは続く。
腕を高く掲げてポーズを決めると、その腕を顔の辺りに持ってきて、もう一度ポーズをとっている……ように見える。最後に、耳の辺りを触ると、腕を後ろ回しに一回転させ、しゃがみこんだ。
そこまでして、漸く像は動きを止めた。
いや、マジで、何コレ。
受付嬢はこれが十連のメリットと言ったが……はっきり言って、キモい。
七色の光を見ていなかったら、きっと今正気ではいられない。
手にしたシートを見ると、『魔法瓶』と『術式テント』以外はしっかりと『済』と押されている。どうやら、二つは違う物のようだ。
景品を持ち抱えて、二人の所に戻っていった。
「ガチャ像ってあんなに動くんだ……」
「いつもより多く動いていたな」
「しれっとまた七ツ星……あたしがやるとほとんど動かないのに……」
イロリナはまた現実逃避しているが……何か気になる事を言ってるな。像はいつも予想外の動きをしてるじゃないか。
あ、もしかして何かの演出なのか?
でも三ツ星でも動く時あったしな……
「で、コンプは出来たのかい?」
「いや……あと三ツ星が二つ残っている。『魔法瓶』と『術式テント』だな」
「何でそっちが残るのよ……普通逆でしょ……」
イロリナががっくり肩を落としているが、俺は普通じゃないからな。だから、この後のガチャで三ツ星が出ない事も想像できる。貧乏神様が加護を緩めたとしても、だ。
「受付のお姉さん。このシートは、クランメンバーが『ガチャ』をしても使えるのか?」
「へ? あ、はい。シートの持ち主の石を使って頂ければ、どなたが行っても構いませんが……」
よし、言質は取った。
「そう言う事だから、イロリナ。後は任せた」
「え、あたし?」
「ああ、俺はもう十分頑張ったからな。たぶん、もう無理だと思う。ここはイロリナのLUKに賭けたい」
本当の所を言うと、逆に良いものを引けてないLUKにだが……あえて言うこともあるまい。
「よ、よーし! あたし、頑張っちゃうよ!!」
そう言うと、イロリナは俺から輝石を十個受け取り、『ガチャ』を行った。
全く像は動かない……が、何かの道具が二つ、像の前に落ちている。
とぼとぼと景品を手にしたイロリナだったが、満点の笑顔でこちらに戻ってきた。
あの様子なら、上手くいったみたいだな。輝石はほとんど吹っ飛んだが、帆船を買ったと思えば安いもんだ。
船も気になるが、現物は港って言っていたな。ここはまず、戦利品の確認といくか。




