協力要請
シェラの館を出て、冒険者ギルドへと向かう。道中、魚介類を扱っている商店が多いのを見かけると、やはり海が近いのだと認識させられた。そういえば、さっきからやけに体がベタつく。走り回っていたのも関係しているだろうが……潮風の影響も大きいだろうな。今日はゆっくりと汗を流したいものだ。
「ハーバルタウンの冒険者ギルドは……そこね。羽根帽子の看板、あったわよ」
イロリナが冒険者ギルドの看板を見つけたようだ。どこの町でも共通の看板ってのは助かるな。遠慮せず、ギルドへと入っていった。
ギルド内はそこそこ賑わっている。交易都市と言うだけあって、シーボの町と同じ様に人口が多いようだ。とりあえず、仲間を募集していないか確認するところからだな。
「仲間を募集している人を探すときはどうするんだ?」
「えっとね、この間シスイの依頼を探した時みたいに、掲示板があるのよ。そこでお目当ての仲間がいるか探すのが基本かな。居ない場合は、自分でメッセージを残す事も出来るよ」
成程、と掲示板を見てみると、かなりの量のメモ書きが貼り付けられている。これを一つずつ確認するのは大変だが……仕方ない。
三人で手分けして探してみたが、俺たちが求めているような人材は居ない様だった。どうもこの掲示板には、一時的なクエストをこなすための人材募集が多いようだ。クランに加入して、パーティとしてやっていく人間はメモに書かれていない。
「ダメそうだな。他に手はあるのか?」
「うーん……いつもこれで見つけてたから……受付の人に聞いてみる?」
「それが良いと思うよ。というか、始めからそうした方が良かったかもね」
うんざりした表情でアンバーレッドが指摘する。流石に、大量のメモを見て収穫が無かったのは堪えたようだ。まあまあ、と軽く取りなして受付へと向かった。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど、今いいか?」
「おう、大丈夫だぜ。どうしたんだ?」
受付は厳ついおっちゃんだった。外見の割りに、返ってきた言葉は案外気さくで話しやすい。早速、仲間の募集方法を尋ねてみる。
「クランのメンバー募集か。大半は大手のクランに入りたいから、って声をかけてくる奴がほとんどだからなぁ……クラン側から募集するのは珍しいぜ?」
「そうなのか?」
「あぁ。有名どこなら何もしなくても人が集まって来るからな。最初の内は、一時的なメンバー募集から始める所が多いんだよ。それで意気投合してクランに入れるとか、難しいクエストをクリアして名前を売るとか、そうやってでかくなってくもんだ。兄ちゃんもそうしたらどうだ?」
「有難い言葉だけど、俺たちは色んな大陸を旅する予定なんだ。一時的なメンバーだと、別の大陸で置いてきぼりにしたら悪いだろ?」
「あぁ……そりゃそうだなぁ……兄ちゃん、クランの名前は? 良さそうな奴がいたら声かけてやるよ」
「ホントか!? そりゃ助かる!! って、クランの名前、まだ考えてなかったわ……」
「おいおい……頼むぜ、兄ちゃん……」
そういやすっかり忘れてたな。俺一人で決めるのもあれだし、三人で決めるか。
と、後ろの二人に向き直った所で、ガチャガチャと音を立てながら、やけに重装備な男が近寄ってきた。
「すまない。後ろを向いたから、終わったのかと思ったんだが……まだ話の途中だったか? 受付の方と話しても良いか?」
「ジブリールの旦那じゃねえか。この兄ちゃんなら、まだ悩んでる所だからよ。先に話してくれて大丈夫だぜ」
「あぁ、そうだな。少し、仲間たちと相談しなきゃならないこともあるし、先にどうぞ」
そう言ってカウンターを譲る。ジブリールと呼ばれた男は、申し訳なさそうに一礼すると、受付のおっちゃんと話し始めた。
邪魔にならないよう、少し離れたスペースで二人とクランの名前について相談を始めたが、これが中々難航している。
イロリナは花を入れたいと言えば、アンバーレッドは宝石を取り入れよう、と提案する。もちろん、俺の提案、E・Dは即却下された。名前をもじっただけじゃダメかぁ……まあ、字面があまりヨロシクないんだけどな。英語を覚えたての中学時代、何人に馬鹿にされたことか。
そんな若かりし頃の苦悩を知る由もない二人と、あーでもない、こーでもない、と話し合っていると、受付の方から先程のジブリールの声が聞こえてきた。
「引き受けにくいお願いだとはわかっている!! だが、違法な奴隷商人たちを撲滅するために、力を貸してくれないか!?」
「お、おい、ジブリールの旦那、もう少し落ち着いてくれよ……」
受付のおっちゃんも困っているようだ。だが、違法な奴隷商人の撲滅、か……
ふ、とイロリナに目をやると、その瞳はキラキラと輝いて見える。あぁ、もう……
「イロリナ……とりあえず、落ち着かせる意味合いも込めて、話を聞いてきてくれ。クランの名前はアンバーレッドと相談しておく」
「ん、いいの? ちょっと、行ってくるね」
そう言って、イロリナはカウンターへと駆けていった。よっぽど奴隷制度が嫌いなんだな……
「良いのかい? まだ、話の途中だったけど」
「まぁ、イロリナも奴隷に対しては強く思う所が有るんだろうさ。クランの名前はゆっくり決めても良い」
「ふふっ、ユウゴ君。案外とリーダーしているじゃないか。実は向いているのかもしれないよ?」
「まさか。愛想尽かされないように必死だよ」
「まあ、ボクは契約を果たしてくれればそれで構わないよ。外に出る切欠にもなったからね」
と、相談とは別の話をしていると、イロリナがジブリールを連れて戻ってきた。
「ただいま! ねぇ、ジブリールさんの話、協力してあげよ!?」
「いや、いきなり言われても……とりあえず説明して貰っても良いか?」
ジブリールは苦笑しながら
「あぁ、勿論だ。いくらなんでも、何の話かも分からないのに協力は出来ないだろう?」
と言ってくれた。
「要約すると、このハーバルタウンに違法な奴隷商人が蔓延っていて、それを根絶するのに協力してほしい、と?」
ジブリールは中々熱い男で、自らの思いを懇切丁寧に伝えてくれたが、いかんせん、話が長かった。ハーバルタウンの歴史から話し始めるとは思わなかったぞ。イロリナの奴、絶対に奴隷商人を退治すると思って、話半分の所で持ってきたな。
簡単に、要点を纏めれば、俺が言った通りの筈だ。時計を見れば、夜七時を回っている。どんだけ話したがりだ。
「あぁ、間違ってない。この町にはあんな奴等は必要ないんだ。大体……」
「と、ストップ。協力自体は考えないでもない。けど、それは方法を聞いてからだな。具体的に、何をして欲しいんだ?」
また脱線しそうだったので、一度話を区切ってから先を促した。こうでもしないと丸一日かかりそうだ。
「う、うむ。具体的にして欲しい事は、難しい事じゃない。町で違法な奴隷商人からは、奴隷を買わないで欲しい。それと、もしそう言った連中を見つけたら、私達自警団に知らせて欲しいのだ」
「それだけか? 一緒に壊滅させるのを手伝えとか言わないのか?」
「ハハッ、そうしてくれれば有難いが、私達を手伝わせてしまって、裏の連中に目をつけさせるのも悪いからな。不買と連絡、それだけ守ってくれれば良いよ」
「わかった。しかし、それくらいなら皆、飲み込みそうなもんだけどな」
そう告げると、ジブリールは困った顔を浮かべた。
あら?
そんなに難しい事かな?
「奴隷制度自体は容認されている。違法かどうかは奴隷を見るまでわからないことが多いんだ。そして、得てして違法な奴隷商人と言うのは、優秀な奴隷を扱っている事が多い」
「つまり、見たら欲しくなる奴隷が多いと言う事だね」
「そうだ。特に冒険者の人達には、他の大陸から拐われてきた奴隷が人気になっている。自分達にない能力を持っている事が大半だからね」
「あー、仲間を募集してると違法奴隷に引っかかっちゃうのか」
「そういう事だ」
満足したのか、ジブリールは大きく頷いた。それに合わせて、彼の全身鎧がカチャカチャと音をたてている。
「公にはされていないが、そうして仲間を増やし、のしあがっていった冒険者もいると聞いたことがある。ある種、冒険者ギルドと違法奴隷は密接に関わっているのだ」
「少し暴論だとは思うが、言いたい事はわかった」
「まぁ、言い過ぎている自覚はあるよ。容認された奴隷を使うことに、文句はない。だが、拐われてきて奴隷に落とされた人を、強制的に働かせるのは許せない」
「そうよ! だからユウゴ……」
「わかったよ。そもそも、奴隷を買おうとはしていない。家を買ったら文無しだからな。違法な奴隷商人を見つけたら、貴方に声をかければ良いのか?」
「ああ。もし私に会えなくても、自警団の人間に声をかけてくれれば、わかるようにしておく。その代わりと言っては何だが、この町の家探しに協力しよう。治安の良い所、暮らしやすい地区、そう言った事なら何でも聞いてくれ」
「それならこちらにもメリットがあるね。仲介人が、いくつか候補を挙げてくれるだろうから、その中で気になった物件の事を確認させて貰っても良いかな?」
「勿論だ」
「決まり、だな」
俺達はお互いに笑みを浮かべると、ガッシリと握手を交わした。この町の土地勘は全くないし、奴隷にも縁がないからな。どちらかと言えばメリットしかない気もするが、相手も満足してるんだ。構わないだろう。
「では、長々と失礼した」
ジブリールはそう言うと、再び全身鎧をガチャガチャと鳴らしながら、冒険者ギルドから去っていった。夜も少しずつ更けてきている。これから、見回りでもするんだろう。
「しかし、熱い奴だったな」
「ね。しっかり考えてたみたいだし、感心しちゃうわ」
「君の場合、奴隷に反対していればそれだけで感心しそうだけどね」
「えぇっ!? そ、そんな事ないよ!?」
イロリナとアンバーレッドは、二人してじゃれあっているようだ。アンバーレッドの口振りは、少し厳しい言い方をするが、別に嫌味で言っているようではないようだ。単純に、口調の問題だろう。
「まあ、見かけたら教える事にして……時間も遅くなってきたようだし、そろそろ戻るか?」
「そうね。家の事は少し進展したし、仲間は大急ぎでもないしね」
「あ、それじゃあ帰る前に、『ガチャ』ってどんなものか、見ていっても構わないかい? 屋敷から出ていないから、像がどんなものかも見た事がないんだよ」
ああ、そういえば全然確認してなかったな。折角輝石がたくさんあるし、内容は俺も気になる。アンバーレッドの意見に賛成し、『ガチャ』の方へと向かうと、受付嬢が何かを呼びかけているようだ。
「『ガチャ』しませんかー? コンプリートフェス、明日までやってますよー?」
こ、コンプリートフェス……だと……
これは既に名前からして、やべーやつだ。
日本では、射幸性が云々かんぬんで規制された、あれなのか?
報酬次第だが……それ次第では全力を出さざるを得まい。
逸る気持ちを抑え、受付嬢に話しかける。
「なあ、コンプリートフェスって何だ?」
「あ、ハーバルタウンは初めてですかね? コンプリートフェスって言うのは、ギルド側が指定したアイテムを十種類揃える事で、特別な報酬が貰えるイベントですよ」
ハーバルタウンでは月に一回やってます、と丁寧に頻度まで教えてくれた。
けど、やっぱりコンプリートガチャじゃねーか……十種類とか、ほぼ無理ゲーだな。撤退だ、撤退。
イロリナは呑気に、何が当たるの? なんて聞いているが、この石の数で当たるわけが無いんだ。肩を落としながら聞いていると、受付嬢はとんでもない報酬を口にした。
「今回の報酬は帆船『レイディソフィア』です」
って船かよ!!
超豪華報酬じゃねーか!!
前言撤回、全力を出そう。船があれば、ある程度自由に世界が回れるからな。よし、久々に、気合いを入れてガチャしようじゃないか。




