ハーバルタウンへ
竜退治をして、三日が過ぎた。
今、俺達はハーバルタウンへと向かう道中だ。シーボの町からハーバルタウンまではそんなに遠い訳じゃない。が、アンバーレッドの旅の準備には時間が必要だった。
既に三十歳を越えている事もあって、周囲からは特別、反対意見は無かったようだ。『鑑定』の仕事も、今は一段落していたのが簡単に話が進んだ要因だろう。
それでも、箱入り娘を外に出す事に心配はあったようだ。召使い達があれもこれも、と道具を持ってくるものだから、その選別にかなりの時間がかかった。もっとも、『収納』で殆どが手荷物にはならないのだが、明らかに不要な物まで持っていく訳にもいかない。
結局、全ての道具が片付いたのは昨日だ。今日、ようやくハーバルタウンに向けて出発できた事になる。予定では明日の昼頃には到着するはずだ。
アンバーレッドが荷造りしている間、ただ無意に過ごす訳もなく、ギルドで今回の討伐結果を確認したり、この町の様子を眺めたり、勿論忘れずに貧乏神様に祈りを捧げたりしていた。
討伐結果は中々のもので、竜三匹で金貨五十枚と破格のものだった。星も三ツ星から一気に六ツ星にアップしたし、その報奨に輝石も六十個も貰えた。どうやら、星が一つ増える毎に五個ずつ増えるらしい。四ツ星で十五個、五ツ星で二十個、六ツ星で二十五個……あわせて六十個だな。
結果として、今の手持ちは金貨が五十枚、銀貨が星の登録料で三枚引かれて六十一枚、銅貨が三枚、輝石が六十七個とちょっとした小金持ちだ。
勢いでガチャしそうになったが、これから新しい町に行くのに、散財するわけにもいかず、泣く泣く諦めた。
そうそう、転移してから初めてゆっくりする時間があったから、少し勉強もした。
どうも俺の知っている『エレファン』と勝手が違いすぎるんだよな。イロリナ先生に手伝ってもらって、簡単にまとめたのがこのメモだ。今はなだらかな道が続いており、少しくらいなら目を放す余裕がある。確認の意味を込めて、もう一度メモを眺めた。
・大陸は人間族、妖精族、獣人族、竜人族、鬼人族が各々治める五大陸。
・各大陸間で大きな戦争は起こっていないが、異種族差別などの小競り合いはある。
・装備は基本的にガチャ産。個人認証が成され、パーティで同じ武器を使うにはクランを組む必要がある。
・装備やJobのランクは星で示す。最高は今の所、七ツ星まで。
・Jobの解放条件はよくわかってない。ステータスが関係しているらしい。
・各都市には特徴を冠した名前が付いている。
特に、後半の都市の名前は、絶対にゲームでは無かった。シーボの町も商業都市とかって名前があるらしい。ちなみに、今度のハーバルタウンは交易都市だそうだ。
何でも、ハーバルタウンに各大陸から物が集まってくるんだと。シーボの町みたいな商業都市は他にもあるそうだが、交易都市は各大陸に一つしか無いんだとか。大陸間の移動は船が使われているらしいしが、港は多くないようだ。
「ユウゴー、ぼーっとしてると転ぶよー?」
不意に、イロリナから話しかけられた。足の先にはゴツゴツとした石が並んでおり、確かに注意しないと転んでしまう。
「ああ、すまない。助かった。でもさっきまではなだらかな道だったのにな」
そう言いながら、鞄にメモをしまいこむ。今は余所見していると危険だな。転倒、ダメ、いくない。
「この岩場を越えれば、すぐハーバルタウンに着くからね。本来ならここまで険しい道は通らないんだけど……どうせなら冒険者気分を味わいたいじゃないか。近道だし」
アンバーレッドはそんな事を宣う。正直、俺は回り道でも平坦な方が良かったんだけど、初めての外出というのもあって、アンバーレッドの希望に押しきられてしまった。
「でもさ、こんな岩場を歩いてると、ユウゴと初めて会った時を思い出すね」
「ん? そう言えばそうだな。イロリナとは岩場で出会ったんだっけ……あんときは不審者扱いされたしなぁ……」
まだ十日前後しか経ってないのに、思い出話をするかのように語るもんだから、少しからかってみた。しかし、その言葉にイロリナは落ち着いて
「だってホントにヘンテコな踊りだったんだもん。あたしへの、いえ、踊り子界全体への侮辱よ、あれ」
と返される。まぁ、ただ横にステップ踏んでただけだし、反復横跳びと言われても仕方ないレベルだったな。素直に謝っておこう。
「いや、反省してます……でも、何であんな所にイロリナは居たんだ?」
「あの時襲ってきた人達いたでしょ? パーシェスの村からずっと付け回してきてたからさ、ちょっと人気の無い所に誘ってみたのよ」
案の定、ホイホイ釣れたわ、と笑いながら話すイロリナ。
しかし、妙だな……自分から積極的に戦う人間じゃない、ってシスイも言っていたのに。あの連中に関しては自分から攻め入ったのか?
「まぁ、ちょっと事情があってね……あたし、奴隷制度は嫌いなのよ。あの連中は、そこかしこから人さらいをしてる組織に入りたがってた、小悪党らしいのよ」
「その組織は、もしかして『ジャグアヘッズ』かい?」
と、前を行くアンバーレッドから質問が入ってきた。七ツ星の商人らしく、こういった情報にも詳しいのか。奴隷って奴隷商人とセットみたいな所、あるもんな。
「多分ね。周りの話から判断しただけだから、どんな組織かまではわからないけど……」
「なあ、そのジャグラーベッド? って何なんだ?」
「何か凄い聞き間違いね。道化の布団? それはそれで闇組織っぽいけど……」
「『ジャグアヘッズ』、ここ最近、あくどい商売の裏にジャグア有り、なんて噂されるくらい、手広く悪さしてる連中だよ。強請り、恐喝は可愛いもので、イロリナが言った様に強盗や人さらい、果ては人殺しまでやるって噂さ」
「そんな連中、放っておいて良いのか?」
「一応、取り締まって捕まえているみたいだけどね。わからないことが多すぎる。違法な奴隷売買をしている人間を捕まえても、それはほんの末端で、誰も組織の首謀者が誰なのかわかっていない状況なんだ」
アンバーレッドは、大仰に天を仰ぎながら語っている。しかし、そんな組織がこの世界にはあるのか……
「アンバーレッドは奴隷を扱っているの?」
「いや、うちは奴隷を扱っていないよ。情報としては入ってくるけど、お客さんに売ったりはしないね」
ホッとイロリナは一息つくと、髪を梳かしながら岩場を進み始めた。
「あたし、奴隷制度はあんまりいい思い出無いんだ。あ、別にあたしが奴隷だったわけじゃ無いんだけどね? ちょっと知り合いがいてさ……おかげで結構きつい目にあったんだよ」
「まあ、人それぞれ考えはあるよね。ユウゴ君はどう? 奴隷制度、嫌い?」
嫌い、と言うかよくわからないな。人間が人間を買う、って言うのに抵抗感はあるが……
勿論、劣悪な環境で、鞭打ちされながら働かされるなら嫌だ、と思うが……
アンバーレッドの家の召使いみたいに、ある程度整った環境下であればまあ、オッケーかな?
「まあ、召使いはうちにもいたけども……」
そう伝えると、アンバーレッドは渋い顔をして言い淀んでしまった。
「ユウゴの言いたいことはわかるけどね……少なくとも、ユウゴが言ったみたいに、整った環境で働いてる奴隷って少ないのよ」
そうだろうなぁ……イメージはあまり良くないもんな。アンバーレッドには悪い事言ってしまったかな。謝っておこう。
「まあ、奴隷を買うほどの大金持ちでもないし、今は気にしなくて良いんじゃないかな。それより、もうすぐ岩場を抜けられそうだよ。ここを抜けたら、お待ちかねのハーバルタウンが見えてくるよ!」
確かに、今はちょっと小金持ちだが奴隷を買える程でもないと思う。相場がわからんけども、多分。
それよりもハーバルタウンの方が楽しみだ。交易都市、どんな町なんだろうか。
岩場を抜けると、わずかに磯の香りが漂ってきた。同時に、ハーバルタウンの概観も見えてきた。大きな船が何隻も港に泊まっている。建物も一家庭が使うにしては大きいものが多く、交易で来た人間が宿泊できるようなホテルが多そうだ。所々に馬車が走っており、町の賑わいが伺える。流石に詳細な所までは見えないが、人波も多く、歓楽街になっているのだろう。
「うん、予定通り、今日中に到着できたね。とりあえず、まずは宿泊施設を押さえておこうか」
「アンバーレッドは来たことが無いだろう? 何処が良いとか、知ってるのか?」
「使用人たちに聞いておいたからね。ボクの名前を出せば、少しは融通してくれるそうだよ。名前はたしか……シェラの館、かな」
「じゃ、早く行こう!! 海、久々だー!!」
そう言い残すと、イロリナは町へと一目散に走っていった。やたらAGIが高いから追い付けなくなるんだよ……名前がわかってるから合流はできるか。
苦笑するアンバーレッドと一緒にイロリナを追いかけていく。その道中、路地裏に紛れて男達が会話しているのが目に入った。先程、人さらいの組織の話を聞いていたせいか、普通の恰好をしていても怪しく見える。
「ああ、あれは違うと思うよ。でも、ハーバルタウンも大きな町の一つだから、どこかに居るだろうね」
視線に気づいたのか、アンバーレッドが教えてくれた。しかし、人さらいまでして奴隷を扱う裏組織か……
あまり関わりたくは無いな。早々に拠点を構えて、旅路に出るように支度をしないとな。




