器用貧乏神
「一応、何でそうなるのか聞いてもいいか?」
「うん? ボクがいれば『鑑定』も『収納』も問題なく出来るだろう? ユウゴ君達にデメリットはない筈だけど……」
「いや、確かに有難い申し出何だけどな……」
そりゃ七ツ星の商人なんてそうそうスカウト出来るもんじゃないし、『鑑定』に困ることも無くなる。良いことしかないけど、旨い話すぎて逆に不安になるんだよな。
「じゃあ、貴女のメリットは何なの?」
放心状態から回復したイロリナが聞きたい事を聞いてくれた。どう切り出そうか悩んでいた所だったから、こうズバッと聞いてくれると助かるな。駆け引きとか考えないイロリナならではなんだろうけど。
「ボクのメリットは……」
ふーむ、と顎に手を当てて考え込んでいる。眉間には皺が寄っていて、とても言いにくそうだ。実は俺に一目惚れしちゃったとか、そんな王道的展開が待ってたり……
「今は無いね」
「いや、無いのかよっ!!」
何だよ! 期待して損した!!
だったら何であんなに言いにくそうにした!?
俺の思い描いていた王道的展開を返せ、こんちくしょう!!
「そんなにがっかりしなくても……ただ単に、今は無いだけだよ? ボクは商人だ。未来を見据えて先行投資ぐらいするさ」
「先行投資……?」
「そう、先行投資。ユウゴ君は七ツ星の装備を手に入れて、まだ日が浅いんだろう? それで竜の貴族を討伐する程の成長度合いだ。このまま順調に成長すれば、もっと『高み』まで行けると思う。その時に、ボクのアンバーレッド商会が後押ししていたとなれば……」
「ごっつ儲けるやろなぁ……」
お、いつの間にかシスイも復活している。しかし、先行投資か……言っている意味はわかるが、賭けの要素がでかくないか?
昨日、今日会ったばかりの男をそんな簡単に信じて良いのだろうか……?
「ふふ、ボクは審美眼に関しては絶対の自信を持っている。初対面ならまだしも、ボクの出したお題を上回る成果を出しているんだ。充分、信頼に値するよ」
訝しんだのが伝わったのか、言葉にせずとも返答がきた。ここまで言ってくれているんだから、無下にする訳にもいかないだろう。どのみち、『鑑定』と『収納』にはこれから先も世話になるだろうしな。
「なら、お願いしよう。こっちとしても優秀な商人は必要な人材だしな。イロリナも構わないだろ?」
「ユウゴが決めた事なら良いけど、アンバーレッドさんって冒険者ギルドに入って無いんでしょ? クランに入れないんじゃない?」
「正式にはクランの一員にはなられへんな。ただ、何処のクランも荷物持ちや『鑑定』の為に、商人を雇うくらいはしとるで」
七ツ星雇うクランなんて見たことナイけどな、とシスイが呟く。
そうか、ギルド員じゃないとクランに入れない。会員じゃないと利用できないサービスと思うと、何となく納得してしまう。日本にもそういうサービスは多かったもんな。
けど、商人なら戦闘以外の役割があるから、ギルド外からの受け入れも容認されている、と。
「しかし、雇う、となると給金とか出すのか? 前みたいに、『鑑定』一回に金貨を何十枚も請求されると困るんだが……」
そうでなくとも貧乏神様のせいで金欠なんだ。出来ることなら安く収めたい。
「心配しなくてもいいよ。『鑑定』も『収納』も無料でやってあげるさ。その代わり、ユウゴ君は手にいれた道具でどんな冒険をしたのか、それを教えて欲しい」
「どんな冒険……?」
「そう、ボクの所には名品から珍品まで色々な物が出回ってくる。その『鑑定』をするのも結構一苦労でね」
最初に高額な料金を要求したのもそれが原因さ、とアンバーレッドは髪をかきあげながら続ける。
まぁ、一日物を眺めているってのはよっぽど好きじゃないと辛いよなぁ……
「小さな頃からそんな生活だったせいで、娯楽はこういった本くらいしかなくてね。その中でも、ボクは主人公が思いっきり活躍するような冒険譚が大好きなんだよ」
そう言いながら、アンバーレッドは手元に寄せた本の表紙を撫でている。その表情は優しく、本当に大切にしている本なのだと見てとれた。
「でも、その言い分だと一緒に冒険にはついて来ないってこと?」
イロリナが不安そうに尋ねる。うん、今の感じだと冒険には連帯しない言い方だったな。
「いやいや、勿論ボクもユウゴ君達と一緒に冒険に出かけるんだけど……その時にどんな思いで、どんな行動をしたのか。特に思いの方を教えて欲しいんだ。どういう気持ちで行動したのか、それを綴ったら、面白い本になると思わないかい?」
「あー、つまり、自伝的な本を作りたいってことなのか?」
「出版したいわけでもないからね。あくまで、日記の延長みたいなものだと思ってくれると助かるかな」
そんなに苦でもなさそうだし、それくらいなら良いかな。何かあった時に思い返せると役立ちそうだし。
「んじゃ、それで契約成立かな。イロリナにも話は聞くのか?」
「うん、できれば皆から聞きたいな。勿論、疲労具合は考慮するけど……」
「あたしも疲れてない時なら全然いいよー」
イロリナも問題無し、と。これで、俺らに商人の仲間が出来たことになるな。これからは『ガチャ』でどんな武具が出ても問題なさそうだ。と考えていると、傍らで佇んでいるシスイが目に入った。どことなく寂しそうだし、戦力にもなるし、誘ってみるか。
「そうだ、折角だしシスイも一緒に来ないか? 仲間は多い方が良いだろ?」
「ウチ? ああ、遠慮するわ」
と、勧誘は一瞬で断られてしまった。
あるぇー……? 気遣いできてた筈なんだけどなぁ……
「大体、ウチは孤影燦然、一人でも輝けるオンナやで? パーティ何か組んだら、かえって動きづらいわ」
あぁ、そう言えばそうでしたね。一人で十二分に働ける方でした。
「それに、アンちゃんを仲間にした七ツ星装備の冒険者や。ゆくゆくライバルになるかも知れへんしな……」
「ライバルって?」
そんなに競い合う仲でもないと思うが。いや、確かに今回は競合したけども。
「それはアンタがもっと『高み』に来たらわかるわ。その時まで、オアズケやな」
シスイはそう言い残し、俺達が入ってきたドアの方へと歩いていく。
「行くのかい?」
「ああ、アンちゃんとの契約はこれで終わりや。竜退治は一段落したし、また流れの傭兵稼業やな。ほな、イロリナ、息災でな」
ヒラヒラと手を振りながら、彼女は立ち去って行った。
いやぁ、あの戦力は惜しいんだけどなぁ……今の俺じゃ相手にもしてもらえないか。シスイの言う『高み』とやらが何なのかわからないけど、それがわかる頃には、もう少し説得できると良いんだけどな。
「さて、それじゃ早速、竜退治の顛末を教えてくれるかな? シスイから簡単に聞いたけど、こういうのはやっぱり本人からじゃないと!」
アンバーレッドは早々に契約を履行しようとしている。俺としては先に『鑑定』をお願いしたいところなんだが、まあ順序はどちらでも良い。今日はもう冒険にも出ないし、しっかりと話をしておこう。
「じゃ、まずはボクと別れてからだね。どんな修行をして、どうやって竜を倒すに至ったのか」
「そっから!?」
「そうだよ。じゃないと、しっかりと知れないじゃない」
ちょっと甘く見てたかもしれない……が、仕方ない。俺はアンバーレッドと別れてからの日をどう過ごしたのか、事細かに説明した。所々、イロリナが補足してくれたり、アンバーレッドから質問が入ったが、概ねスムーズに説明は出来た。一頻り話し終わった所で、アンバーレッドは驚いたようにこう呟いた。
「まさか一つの職を極めたわけじゃ無くて、多職を万遍なく育てて向かうとは思わなかったよ……」
それを受けてイロリナも同意を示している。
「普通は極めようとして頑張るんだけど……ユウゴって凄く成長が早い割に、ある程度まで行くと伸び悩んじゃうんだよね。魔法使いの時も、すぐに魔法が使えるようになった割に、手の平から魔法が出せないしさ。この調子だと、何でもできる反面、一芸特化は出来なさそう」
「凄ーく馬鹿にされてる気がする。良いじゃないか、器用貧乏でも」
「それだっ!!!!!!」
バンッ、と机を叩く激しい音が響いた。
あー、びっくりした。声の主を見ると目を見開いてこっちを見据えている。いや、そんなに見つめられると照れます。
「ボクがユウゴ君を『鑑定』したときに見えなかった部分。何だろう、と考えていたんだけど……今のでわかったよ。君は、器用貧乏……を通り過ごして器用貧乏神なんだ!!」
えーっと……?
ツッコミどころが多すぎてよくわかりかねます。
まず俺を『鑑定』してた?
んで、器用貧乏神?
それ、何ぞ?
困った顔をしてアンバーレッドを見返していると、彼女は、コホン、とまた一つ咳払いをして
「すまない、また、熱くなってしまった……」
と赤ら顔で俯いてしまった。案外、熱くなりやすい性格なのかもしれない。
「あーっと、まず謝っておこうかな。実はボクはユウゴ君に『鑑定』を仕掛けたことがある。初対面で商人の星をあげるのにいくら払えばいい、なんて言われた時だ。その時はなんだこの人間、と思って『鑑定』したんだけど、いくら見ても見えない部分があったんだ」
んーっと……あ、そう言えば睨まれて凄く寒気を感じた瞬間があったっけな。あの時か。っていうか、人間相手にも『鑑定』ってできるのな。
「少し不快な思いをさせてしまったと思うけど……あれだけ無遠慮に聞いてくる人間にならいいか、と思ってやってしまったんだよね。ごめんね?」
俺が黙っていたのを、遺憾に思っていると感じたのか、再度謝ってくるアンバーレッド。屈みこまれて上目遣いに謝られると何でも許してしまいそうだ。あぞとい、けど可愛いからしょうがないね。許そう。
そして、そんな風に思っているのをばれないよう、気にしなくていい、と手を振り先を促す。
「それで、今、器用貧乏って聞いたのでパッと見えたんだよ。見えない部分が、器用貧乏神って書いてあるんだ」
顔を綻ばせながら語ってくるアンバーレッド。いや、そんな笑顔で言われても、器用貧乏神って何よ。思いつくのは貧乏神様が憑いてることくらいだが……
「説明には、とっても器用貧乏、としか書いてないけど……器用貧乏って何でもできる反面、一芸には秀でていないことでしょ? それが凄いってことは……」
「凄く何でもできるように見えるけど、実は何にもできないって事?」
イロリナがグサリと鋭い言葉のナイフを刺してきた。何かさっきから厳しい意見ばかりじゃないか?
しかも、それって劣化してないか?
案の定、アンバーレッドに、それは流石に……と苦笑されている。
「何て言うか、凄く成長が早いけどそれ以上の伸びが極めて悪いってことなんじゃないかな?」
うーん……言われてみれば、戦士も魔法使いもとんとん拍子に星が上がったな。調べてないけど、魔法戦士も星が結構いい線行ってるのかもしれない。
「そうすると、俺はどちらかと言うと、パーティ内の役割としては遊撃が向いてるのか?」
「メンバーが揃っていればそうなるだろうね。むしろ、遊撃員として動くために、一芸特化型のメンバーを揃えていった方が纏まりやすいかもしれないよ?」
なるほど。そうなると、やっぱりシスイは是が非でも欲しい人員だったなぁ……でももう居ないし……まずは自分が『高み』に昇っていくしかないか。
「それで、今後はどういう展望で動いていくんだい?」
「あ、それ、あたしも気になる。あたしたちのクランはどういう方針なの?」
メンバーに関して考えていると、二人から同時に尋ねられた。方針と言っても、まだ全然決まっていない。とりあえずこの世界を見て回りたい、ってのが最初の方針だったけど、今は貧乏神様に祟られない様に生活する、が一番だな。とすると……
「イロリナ、どこかに安定して祭壇を作れるところはあるか?」
「祭壇? あ、あれ? もしかして、あれを作るのが方針?」
なになに? と言った感じでアンバーレッドはキョロキョロとしている。そう言えば、竜退治には不要な情報だったから貧乏神様の事は端折っていたな。後で説明しよう。
「祭壇を作るのが主目的じゃないけど……世界中を回っていくにも拠点があった方が良いと思うんだ。でっかくなくても良いから、家を持つことから始めたい」
それこそ『収納』が出来れば小箱くらいの祭壇は持ち運べるし。大きな祭壇にするのであれば別の信者が出来そうだな。貧乏神教、うーん、絵面が悪いな。俺は会ったことがあるけど、会ったこと無い人は絶対美少女だなんて信じないだろうし。当面、貧乏神様の信者は俺だけか。次点でイロリナも含めてもいいかもしれないけど、貧乏神、とは伝えてないんだよな……
「家ならこの町でも購入できるし、何ならボクの家を使っても良いけど……世界中を回るのが目的なら港町の方が良いかもしれないね」
「あぁ! 南に行くとハーバルタウンがあったっけ。そこなら世界中に船で行けるよ」
ふむ、それならまずはその港町だな。そこで拠点を持ち、大陸を見て回るとしよう。
ゲーム通りの世界感だったから、今いる人族の大陸の他に、獣人族の大陸、妖精族の大陸、竜人族の大陸、それと鬼人族の大陸の五大陸だったな。
ああ、その前に今回の報酬を確認してからでいいか。もしかしたらまたガチャ出来るかもしれないし、冒険者ギルドに行ってから考えよう。




